なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

634 / 1297
君は君より強くあれ

 さて、束さんが見事に撃沈したのを見送った私たちは、そのまま夕食の続きに移行したわけなのだけれど……。

 

 

「あ、キーアお姉さんこんばんわー」

「はいこんばんわ、かようちゃん。……そっちは今から夜ご飯?」

「そうなん。うちらさっきまで練習してたん」

 

 

 そうして夕食のカレーに口を付けようとしたところ、食堂内に入ってきたのは次の対戦相手である、かようちゃん達の『お子さま帝国チーム』。

 どうやら彼女達、この時間帯までせっせと自主練に励んでいたらしい。

 

 

「わぁ……す、凄い気合いですね……!」

「これは目に見えてわかる強敵……ということでしょうか?」

「あー……そこのそいつらより純粋なアンタ達。騙されてんじゃないわよ、そういうんじゃないわよソイツら」

「はい?」

「と、言いますと?」

 

 

 そんな熱心な姿に、ルリアちゃんと雪泉さんの二人が感心したように声を挙げるが……そこに待ったを掛けるのは、ひねくれものの()である。

 ……え?今すぐその無駄口を閉じないと、手を突っ込んで奥歯をガタガタ言わすぞだって?*1

 ふふん、それくらいで私が怯むと思うてか!!

 

 いばるんじゃないわよ、と脳天に投げられた小さな槍を抜きつつ*2、心底呆れたというような様子を見せる()の言葉を待つ私である。

 ……いやまぁ、これから彼女がなにを言うのか、実はわかってたりするんだけどね?

 

 

「ガキって夜遅くに出歩くな、って言われてるでしょう?」

「え?えーと……そういえば、私も深夜帯になる前に寝泊まりしてるところに帰るように、と言われていたような……」

「……ああ、そういえばルリアさんは年齢不詳なので、公的な扱いは未成年ということになっているのでしたね……」

 

 

 そこでぬが話題に出したのは、未成年の深夜帯外出自粛令。

 なりきり郷でも外の世界と同じ様に、深夜帯に()()()()()()()()()()()()()()()()()()の外出は自粛するように、という風に言い含められている。

 ……まぁ流石に?外の世界に比べれば危険の少ないなりきり郷だが、だからといってまったく危険がないかと言われればノーである。

 寧ろ、外の世界に横たわる危険さとは、これまた別口の危険さが溢れているというか。

 

 例えば、火炎系の異能を持ち・かつそれをコントロールできていない者達が集う魔境『熔地庵(ようじあん)』だとか。

 例えば、あさひさんの本体であるミラルーツのような、迂闊に接触すれば命が幾つあっても足りないような怪物の跋扈する階層だとか。

 このなりきり郷には、そんな感じの()()()()()()()()()というものが幾つも存在している。

 

 そしてそれらは、日の出ている昼間こそそこまでの危険度を発揮はしていないものの……。

 人々の寝静まった夜、己の中の戦闘本能だの破壊衝動だのの抑えを全て開放し、気の向くまま思いの向くまま、周囲への破壊行為だの殴りあいだのを繰り返したりしているのだ。

 無論、近くに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が居る場合は自重するように、とも言い含められているわけなのだが……。

 

 

「まぁ、何人が守ってくれてるやら、みたいな感じでねー」

「私も『竜の魔女』というスキルを持っていますが、アレでどうにかなるほど甘くないのも事実。……というか、下手に操ろうとすると明らかに逆鱗に触れるのは目に見えてるってやつで、今の私では自殺行為にしかならない……ってのも決して間違いじゃないのよ。おわかり?」*3

「は、はぁ……」

 

 

 うん、彼らの感覚的には『大酒飲んで殴りあいの喧嘩をする』位のものでしかないので、こっちの注意がどれほど理解できているものやら、みたいな話になるのである。

 

 そもそもの話、あさひさん達みたくこっちの言語を話せる竜種、というのがそこまで多くないのだし。

 ……いやまぁ、()の区分まで行けば相互理解もそれなりに可能になるんだけどね?

 

 ただまぁ、理解したつもりが次の瞬間背中を攻撃される、なんてことは日常茶飯事な彼らにとって、口約束がどれほどの効力を持つものなのか?……ってな話なわけですよ。

 そこら辺どうにかできそうな『竜の魔女』スキル持ちの()も、この間加減を間違えて危うく黒焦げになり掛けてたし。

 ……モンハン系の竜・龍種には操作系の技能は地雷?そりゃごもっとも。*4

 

 まぁそういうわけで、夜に出歩くのを推奨されないのが子供達、ということになるのだ。

 

 

「……あれ?じゃあなんで制限じゃなくて、自粛要請なんですか?一律禁止にしてしまった方が簡単のような気がしますけど……」

「その疑問についての明確な答えってやつが、現在アンタの目の前に鎮座してるわよ?」

「目の前に、」

「鎮座?」

 

 

 ただまぁ、ここまでの説明だと疑問点が残る、というのも確かな話。

 そこに気付いたルリアちゃんが口にしたのは、()()()()()()()()?……というもの。

 

 子供達が気軽に出歩けるような場所ではない……と言うのならば、一律で立ち入りを禁止してしまう方が簡単なのでは?……というそれは、確かにもっともらしく聞こえてくる理屈である。

 ……が、そこには一つ大きな問題点があった。それを簡潔に理解させ得るものがいる、と()は告げながら、こちらに視線を向けてくるわけだが……。

 

 

「さっき言ってたでしょ?()()()()()()()()()って。……『逆憑依』において、外見年齢があてにならないってのは本当の話。ただこれって、内面年齢もあてにならないって話にもなるのよね」

「……あ、あー!なるほど、キーアさんって見た目は完全に子供ですもんね!?」

「つまり、『外見年齢で立ち入り箇所を完全に制限する』という方針を取る場合、一番そういうものに対する心配の無いはずのキーアさんまで対象になってしまう……ということですか?」

「まぁ、そういうこと」

 

 

 このなりきり郷に跋扈する『逆憑依』達というのは、中身と外見という二つの要素が別々になっている存在である。

 わかりやすいのはココアちゃんとかだろうか?彼女の外見は『保登心愛』のそれであり、絵柄の幼さに目を瞑ればそれは高校生相応、ということになる。

 

 高校生、となるとある程度自分で考えて動けて当然であり、社会の方もそれ前提に動いている面が少なからずあるだろう。

 無論、完全な大人というわけではないので、ある程度の線引きは存在するが……例えば夜の八時辺りに電車に乗っていたりしても、単に『部活やバイトの帰りかな』程度に感じて気にも止めない、ということはままあることのはずだ。

 

 ところが、このココアちゃんの『中身』は小学生である。

 例えば小学生の子が八時過ぎに電車に乗っていたとして、それに首を傾げてしまうのは別に変ではないだろう。

 ……いやまぁ、最近の子は塾やらなにやらでそのくらいの時間帯に電車に乗ってることもある、みたいな反論もわからんでもないけど、あくまで一般論として……というやつだ。

 

 まぁつまり、外見年齢で判断してしまうと、ココアちゃんは夜中に動き回っていても問題ない、ということになってしまうのだ。……中身の年齢的には非推奨なのにも関わらず、だ。

 

 それから、中身が成人済みでも外見が子供だと、夜間の行動を自粛するように言われるのは……大抵の場合、外見年齢に引っ張られた思考形態になってしまう、というのがその理由である。

 

 こっちの具体例は……しんちゃんとかになるだろうか?

 彼の中身は高校生くらいだというが、『野原しんのすけ』というキャラクターそのものは紛れもなく幼稚園児である。

 身体能力もそれに準拠……準拠?しているので、例えば長距離を歩き続けるだとかは、スタミナ的な面で非推奨となるだろう。

 その他、体自体が小さいからこそできないこと、というのも頻発するし、なによりキャラクターの性格に引っ張られてしまうため、思慮深い行動などが取り辛くなってしまっている。

 

 それらを総合した時、外見が子供の場合も夜間の外出は控えた方がいい、ということになるのだ。

 

 ……で、これがあくまでも『その方がいい』──すなわち自粛要請に留まっているのは、中身が成人・ないしそれに準拠するような年齢であり、尚且つ外見の身体能力などが基準値を上回っているような場合、禁止する意味が薄いから……というところが大きい。

 

 これのわかりやすい例は……こっちを見ている()の様子からわかるように、私ということになるだろう。

 私の見た目年齢は丸っきり小学生である。なので、この背格好の人間が夜間ちょろちょろしていれば、真っ当な感覚の持ち主ならばまず呼び止めるはずだ。

 相手が警察みたいな公僕の類いなら倍率ドン、というやつである。

 

 どっこい、私という存在を僅かでも知っている人間ならば、わざわざ私を呼び止めるなどという無駄なことはしないはずだ。

 なにせ、大抵の問題は対処できてしまう。

 ……いやまぁ、【星の欠片】の原理的には対処してるんじゃなくて、全部自爆特効で無理矢理乗り越えてるだけなのだが……。

 そこら辺を説明しても、単にわかり辛くなるだけなので、ここでは『大抵の難所は実力で乗り越えられる』という風に思って貰えればいい。

 

 ともかく、外見年齢のみを判断基準にすると、私みたいにまったく問題ない人間まで引っ掛かってしまう。

 そのゆえ、確認のためのワンクッションを挟む意味も込めて()()()()という形になっているというわけなのだった。

 

 ……なお、自粛要請ではあるものの、それに対して明白な反論を返せない場合は家まで強制連行される、という面もあったりする。

 夜間の場合は迷ってるってパターンもあるからね、仕方ないね(以前なんやかんやあって夜道に迷ったヘスティア様が、そこの警備の人に送って貰っていたのを思い出しながら)。

 

 

「ともかく、ここまで言えばわかると思いますけど……そこの一団は、そのチーム名からわかる通り子供組の集まり。……つまり、この時間までは普通外出なんてできないのよ」

「あはは……練習してる分には怒られないからね。ちょっと張り切っちゃったかも」

 

 

 まぁ、そういうわけで。

 かようちゃん達がこの時間帯まで練習していたのは、勿論サバゲーに精を出しているという面も少なからずあるだろうが……なにより大きいのは、夜更かししてても怒られないからというちょっとした冒険気分から来るものだった、と()は推理してみせ。

 それを受けたかようちゃんは、少し照れたように後頭部を掻いていたのだった。

 ……うーむ、ちょっと悪い子、みたいな?

 

 

*1
『ケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたろかい』。元ネタは1960年代に放送されたコメディ番組『てなもんや三度笠』のキャラクター・『あんかけの時次郎』の決め台詞である『耳の穴から指突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたる』であり、それを吉本新喜劇の看板役者・岡八郎氏がパロディにして使ったモノ。そこから、関西弁キャラクターの脅し文句として定着したとか。なお、『名探偵コナン』のキャラクター・西の名探偵服部平次も脅し文句を言うことがあるのだが、流石に少年誌的に『ケツ~』は宜しくなかったのか、はたまたオリジナルへのリスペクトなのか、彼が述べたのは『耳の穴から~』の方だったのだとか

*2
邪ンぬのEXアタックから。相手の頭上に出現させた槍で相手を次々に貫く

*3
聖人達が竜を沈めた逸話を持つことから、それを反転させたようなスキル。竜達に対してのカリスマであり、ある程度竜を操ることができる。スキルの元が元だからなのか、普通のジャンヌも似たようなことができる疑惑があるとか(メディア・リリィの幕間より)

*4
『モンスターハンター』シリーズにおける裏設定の一つ・竜機兵(イコール・ドラゴン・ウェポン)のこと。正確には没設定の類い。かつて人が犯した禁忌。黒き災いはその暴挙を以て、世界を焼き尽くすことを決めた……のかもしれない。直訳すると『龍に等しき兵器』。なお『モンスターライダー』達はまた別の話である

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。