なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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魔法も奇跡も詐術も全部纏めてさようなら

「凄く落ち着きました」

「……確かそれ、落ち着いてない人の台詞だったような?」

「あ、バレちゃいましたか?」

 

 

 あの後散々部屋の中を逃げ回る事になった私とゆかりん。

 無駄に体育館みたいに広い場所だったものだから、お互いに息も切れ切れの死に体である。……なんで同じように動いてたはずの琥珀さんが、ピンピンしていらっしゃるんですかね……?

 

 まぁ、その逃走劇の甲斐あってか、今の彼女は冷静そのもの。本来こちらがしたかった話も、今なら切り出すことは十分可能だろう。

 なので、息を整えるのもほどほどに、彼女の前に進み出る私。

 

 

「それで、詳しく聞きたいんだけど。継ぎ接ぎ(パッチワーク)って、結局なんなの?」

 

 

 元はと言えば、後から人為的に付け加えられるからこそ、驚異的であると思われた継ぎ接ぎ(パッチワーク)という現象。

 ……その認識が微妙に違い、文字通り()()()()()継ぎ足せるという可能性が示唆され、危険度が数倍跳ね上がった感じがあるわけなのだけれど。

 でも、恐らくは一番それ(継ぎ接ぎ)について詳しいと思われる彼女からは、口にした言葉ほどの緊急性は感じ取れない。

 

 つまり、()()()()()()()()()()()()()のだろうが──どちらにせよ、全貌を明らかにしないことにはおちおち郷でゆっくりもしていられない。

 ……みたいなことを告げれば、琥珀さんは頭をぽりぽりと掻いたあと、詳しい説明をし始めるのだった。

 

 

「まぁ、お察しの通り。基本的に継ぎ接ぎ(パッチワーク)というのは、その名前に反してなんでも継ぎ足せる(パッチワークできる)わけではないのです」

「……えっと、被験者と憑依者の性格が近似してなきゃダメ、なんだっけ?」

 

 

 りんちゃんの言葉に、その通りと頷く琥珀さん。

 

 被験者と憑依者。

 二者の近似を前提とするが為に、似ても似つかぬような相手を継ぎ足すことはできないというのが、継ぎ接ぎ(パッチワーク)の制約。

 その為、突飛な性格や行動を取るような相手を、憑依対象に選ぶことはほぼ不可能だと言えた。

 

 ……まぁ、琥珀さんのようにたまーに波長があう、俗にいうトンチキ組が現れることもあるらしいのだけれど。

 そちらに関しても、素直に条件に合うなりきり組が現れるのを待った方が、遥かに時間的な効率が良いらしく。

 結局のところ、あんまりあてにできるものでもない……というのが結論なのだそうだ。

 

 

「その制限というか制約というかは、被験者がなりきり組──既に憑依者が存在する場合でも、特に変わらないみたいですね。……この場合ですと、八雲さんがわかりやすいでしょうか?彼女の場合はちっちゃな八雲紫(同じもの)に、大きな八雲紫(同じもの)()()()()()()()わけですから。それにより単純に出力が上昇、能力規模もアップ!ということだったみたいです。けれど──」

「そのまま使い続けると体調を崩したり、能力使用に障害が出たりしたことから察するに、()()()()()()()では不具合が起きる……というわけか」

Exactly(正解っ)!恐らくですが、逆憑依というのは成立時点で完成品。後付けで補強しても馴染まない──ということなのでしょうね」

 

 

 ……ふむ。ゆかりんの体調不良は、無理な過剰稼働(オーバークロック)による熱暴走(オーバーヒート)みたいなもの、ということか。

 もしくはおっきいゆかりんはオーバードウェポン扱い、みたいな?……いや、それだと不明なユニット扱いになるからちょっと違うかな?*1

 うーん、結局トランザムみたいなもの、というのが一番近いのかなー。*2

 

 

「で、私の場合は──」

「どちらも本来はオリジナルなので親和性はバッチリ、のはずが。……後々に変身後の姿を題材にしたアニメ(独立した一つの作品)が作られてしまったせいで、微妙に本人との食い違いが発生してしまった。その結果が、本人とは違う言動や思考の偏りという形で現れた……ということですね」

「……CP君、君のせいじゃんかこのっ、このっ!」

「むぎゅるぷぎゅるぐにゅる、ちょっと落ち着こうキーア、僕ぬいぐるみとかじゃないんで流石にちょっとアレぷぎゅっ」

 

 

 なんというかこっ恥ずかしい台詞とかになってたのも、元を正せばアニメができてしまったがゆえ。

 キリアという別の存在を、文字通り後から憑依させられた(継ぎ足した)ようなものになってしまったからこそ、私も影響を受けていた……という、言葉にしてみれば実に単純な話だったわけだ。

 

 つまり悪いのはCP君!Q.E.D.だド外道ーッ!!*3

 ……みたいな気分で彼女をぐにぐに捏ねまくる私。

 こちらは一時死まで覚悟した(その背水の陣は責任転嫁では?)のだから、これくらい軽い罰である。大人しく捏ねくりまわされてるんだな、みたいな気分でぐるぐるぐる。

 まぁ、本当に彼女だけに責任があるとは思っていないので、半分じゃれてるようなものだけれど。

 

 

「まぁ、そんな感じですかね。さっきは【複合憑依】の再現もー、みたいな大口を叩きましたが。正直無理なんじゃないかなー、というのもおわかりいただけるのではないかと?」

「両者の近似が大前提、だもんね。……正直【複合憑依】の前例二人も、近似してるかって聞かれると微妙な感じだし」

 

 

 琥珀さんの言葉に、思い浮かべるのは前例である二人。

 要素要素を抜き出すと確かに近い存在にも思えるけれど、実際は根本的なところで水と油なものが混じっている西博士と。

 そもそも構成要素の内の一匹が、どう見ても他の二者とは近似にならないであろうCP君。

 

 ……うん、この二人を制約の多い継ぎ接ぎ(パッチワーク)で再現できるかと聞かれると、ちょっと首を捻ってしまう。

 普通の人に継ぎ接ぎ(パッチワーク)するのと違って、近似しなきゃいけないのは憑依者と憑依者になるようだから、なりきり組に施すのなら成功確率はまだ高そうな気もするけれど。

 私の思考と言葉の引っ張られ方から見るに、多分成功してもろくなことにならなさそうだ(暴走するだろうなってのが目に見える)

 

 

「で、ね。……ゆかりん、ちょっと私から謝罪があります」

「え?なによ藪から棒に。……というか、このタイミングで謝罪?なんの?」

「いやね、継ぎ接ぎ(パッチワーク)の仔細を聞いて、ちょっと気付いたことがあるというかなんというか……」

「……はっきりしないわね、一体なによ?」

 

 

 で、今度はちょっと()()()()()()、というか。

 ……魔法少女関連の話の間、結構な頻度で()()()()()アレ、どうやらまだあるみたい、というか、ね?

 微妙に後ろめたい為、どうにも口ごもってしまうのだけれど。……いやまぁ、なんとなーく気付いてしまった以上、口に出さないわけにもいかなくてですね?

 

 ……自己弁護してても仕方ないので、思いきってその事を話題にあげる。

 

 

「えっと……ほら、五条さん。なんかさ、いきなり元気になったじゃない?」

「え?ええ、貴方が()()()()()()から、疲れ目が直っ……()()?」

 

 

 ゆかりんも気付いたようなので、申し訳なさから思わず顔を覆う私。

 いや、その。継ぎ接ぎ(パッチワーク)なんてものがあるとか知らなかったから、わざとでは全然ないんだけどもさ?

 ……ゆかりんのパターン(自分に自分を重ねるの)がアリなら、そりゃ()だってそうなるよね、というか。

 

 

「……大人の(目隠し)五条さんに学生の(グラサン)五条さんを被せた(パッチワークした)扱いになってるんじゃないかなー、なんて思うわけでですね?」

「それって……」

「……はい、その。……また私が何かやってました……」

 

 

 原因探しをすると私が原因だったの法則、ここに再び。

 ……私行動しない方がいいのでは?みたいな懸念がちょっと立ち込めてる感あるなぁ、なんて風にちょっと悲しくなる私なのでした。

 

 

 

 

 

 

「まぁ、とにかく。そんなにポンポン継いで接ぐこともできませんので、あんまり警戒しないで頂けると……」

「ああ、はい。こちらとしても大人になると何故能力利用が上手くなるのか、その理由を知ることができましたし。()()()()の話として纏めてしまう、というのが最良でしょうね」

 

 

 自主的に正座して『わたしはダメな魔王です』の石版を持ってる私と、その前でこの話は大事にしないようにしよう、みたいなことを言いあう二人。

 まぁ、正直宜しくない方向にしか進まなさそうな話だし、ここで互いの胸に秘めておく、というのも悪くはないだろう。

 

 え、なにが危ないのかって?

 継ぎ接ぎ(パッチワーク)って、曲がりなりにも逆憑依を人為的に起こせるようになったものでしょう?

 ってことは、だ。……()()()()()()()、使い捨ての兵力として運用することも可能かも、ということでね?

 後先考えなければせっちゃん幼少期*4みたいな少年兵大量生産、みたいなこともできかねないわけでね?……少年兵系のキャラ、創作には結構居るしなぁ。

 何がアレってそういう少年兵みたいなキャラ、基本的に似通った性格しているから()()()()()()()()()()()()のがねー……。*5

 

 日本はそういうのあんまりないけど、罷り間違って他所のお国に知られたりしたら、やーもう嫌なことにしかならないよねー、というか。

 

 ……うーん黒い黒い。

 まぁ、その辺りは責任者二人はよーくわかっているらしく、口に出さずとも理解し合っているみたいだから心配は要らないみたいだけど。というかこの話の早さだと、失敗作として必要以上に喧伝してたりするのかも?

 ……普通に頭回りそうな感じだしなぁ、琥珀さん。さっきの波長云々も、実際は()()()()()()()()かも知れないし。

 魔法少女の研究はしたいけど、争いごととかは勘弁……みたいな感じなのだろう。そういう人が研究のトップで良かった、と言うか。

 

 なーのーでー。

 ……ここで私が気にしなければいけないのは、たった一つなわけで、ね?

 

 

「そーいうことなのでー。……そこでいつの間にか空気に同化しているはるかさん」

「っ、は、はい?なんですかキーアさん。私に何か……」

「お話、しよっか?」

「……っ」

 

 

 ()()()()()()部屋の出口付近まで移動していたはるかさんに、にっこりと笑みを浮かべながら話しかける私。

 ……うん、まぁ彼女の本来の所属(急進派)的に、継ぎ接ぎ(パッチワーク)なんて案件はお誂え向き過ぎるわな……みたいなことを考えていた為、その動きには結構気を使っていたわけなのだけれど。

 これ、そっと抜け出して上司の判断を仰ごうとしてた、とかかなー。職務に忠実なのね、嫌いじゃないわ!*6

 

 

 ──まぁ、そんなの神が許しても魔王()が許さないのですが。

 

 

 ……ふふふのふ。

 この数ヶ月、はるかさんについてわりとあれこれ(こっそりと)考えていたのだ、丁度いいからここで全部片付けてしまうのもいいなぁ……?

 

 

「知らなかったのか……?大魔王からは逃げられない……!!!」*7

「……くっ、殺せっ!!」*8

 

 

 そんな感じに彼女へ声を掛けて、掛けて……?

 ……んん?あれおかしいな、さっきまでシリアスだった気がするのに、なんかいきなりギャグ臭が……?

 

 追い詰められたはるかさんから飛び出した言葉に、思わず魔王な雰囲気が霧散する私。

 状況の掴めていない三人娘と、マシュから白い目で見詰められ。

 ……その弁明を私がする間も、はるかさんは至って真面目に?『くっ殺』し続けていたのでしたとさ。

 

 

*1
『アーマード・コアⅤ』における、武器のカテゴリーの一種。規格外の弩級武装、ロマンの塊。多大なデメリットを持つが、『全てを焼き尽くす』とまで例えられる圧倒的な火力はプレイヤーの心を揺さぶってやまない。使う時は『不明なユニットが接続されました』などの警告が発生するうえ、外部(OW)からのハッキングまで発生するのだが、その一連の流れすらある種のロマンを感じさせる

*2
『機動戦士ガンダム00』より、『TRANS-AM』システム。動力源である『GNドライブ』にブラックボックスとして組み込まれていたもの。一定時間出力を三倍にする、制限付きのパワーアップ機能。『赤くて三倍』なので、初代ガンダムのライバルである『シャア・アズナブル』を思い出した人も居るとか

*3
『Q.E.D.』はラテン語『Quod Erat Demonstrandum』の頭文字を並べたもの、頭字語。意味は『かく示された(証明おわり)』であり、数学などの証明式の後に記される。同名の探偵漫画が存在する。『これでゲームオーバーだド外道ーッ』は『機動戦士ガンダムF91』漫画版より、シーブック・アノーの台詞。漫画版(主にコミックボンボン掲載)のガンダム主人公達は、アニメ本編とはちょっとキャラが違っているので、これもそのうちの一つと言える(『機動戦士Vガンダム』漫画版のウッソ・エヴィンの台詞、『きさまは電子レンジにいれられたダイナマイトだ!』とか)

*4
『機動戦士ガンダム00』主人公、刹那・F・セイエイのこと。少年兵としての類似キャラには『鉄血のオルフェンズ』の三日月・オーガスなどが存在する

*5
少年兵系のキャラは、大体()()()()()思想教育が施されている

*6
『仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ』より、ルナ・ドーパント/泉京水の台詞。良いと思ったモノに使われる、汎用性の高い台詞

*7
『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』より、大魔王バーンの台詞。ゲーム的な仕様(ボス戦での逃走不可)を上手く活かした名言

*8
女騎士がよく言うもの、ネットミームの一種。正確な元ネタは不明ながら、あまりに有名になり過ぎたため逆張りネタもある。騎士道精神的な台詞(生き恥を晒すくらいなら)、と考えるとそこまでおかしい台詞でもないのだが……


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