なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
ふざけた見た目の雪泉であったが、そのスペックはなるほど目を見張るモノがあった。
……正義繋がりで相性が良かった、というのが多分にあるのだろうが……ともかく、氷系の技能を使えないという穴を埋めるだけの身体能力の上昇、という補助効果をもたらしたそれにより、彼女はかよう達の追跡をなんなく振り切って行ったのであった。
それを力なく見送りつつ、かようは先送りにしていた問題に、逸らしていた視線を向けることとなる。
……先ほど雪泉が振り撒いた謎の液体。
それを危険なものと察知した二人だが、完全に不意打ちで真上から降ってきたそれに対処するだけの余裕はかようにはなく、結果として先んじてそれに反応できたコナンが、彼女を突き飛ばす形で回避させることとなり。
そうして、代わりにその液体を浴びたコナンはと言うと。
「
「うわぁ……」
この状況は、オルタが小さくなったのを見て油断したことも遠因ともなっていた。
「
「や、止めてコナン君……すごく気が抜ける……」
「……
真剣な顔でばぶばぶ言ってる赤ん坊のコナン、という絵面自体がわりと放送事故だが、とはいえここで笑っているような暇はない。
一応、意志疎通に関してはなんとかなっているようだが……
現状はまともな思考を保てているが、それが赤子のそれに変貌してしまう可能性はとても高い。……というか、そうでないとあの場で『若返りの薬』を使った意味がない。
確かに、コナンの持つベルトは驚異的である。
だがしかし、それはこちら側にもある程度の枷を強いるもの。……つまり、
こちらへの被害を最小限に・かつ相手への損害は可能な限り大きく──。
その判断をするためには、コナン自身の知識や閃きはどうしても必要なものだと言えるだろう。
そうでなくとも、彼はブレインとして有能なのだ。
……であるならば、向こうがその頭脳を封じる策を講じてくるのも、なんらおかしなことではない。
「……
「……そ、そうだね……」
思えば、雪泉がかようを狙ったのも作戦の内、だったのだろう。
火力と頭脳、この場面で優先すべきは火力。
無論、頭脳で相手を引っ掻き回せるほどに司令塔が優秀であるのなら、多少の火力減少は甘んじて受けるべきだったが……。
この場合の『火力』に当たるかようは、現状全ての参加者の中でトップクラスの火力を持っていると言える。──多少の小細工なら、上から踏み潰せるといっても過言ではないだろう。
それゆえに、あのタイミングで優先すべきはコナンではなく、かようの方だった。
彼自身、その事実を素早く認識したからこそ彼女を庇ったわけだが……こうして薬の効果が明らかになるに従い、端から狙いは自分の方だったのだと自覚したのだ。
無論、かようがそのまま薬を被るのであれば、現状他の追随を許さぬ彼女の火力がほぼ無に帰す、という点で致命的であることは間違いない。
……間違いないからこそ、
そして、薬の効果が若返りである以上、知識デバフとしてはこれ以上あるまい。
今現在は若返りの進行と精神状態のずれがあるが、これもしばらくすれば次第に体の方に合わさっていくことだろう。
……先にこれを使ったとおぼしきオルタが
勿論、効果が永続するわけもない。
……だが、効果の途切れが試合時間内に収まる保証は一切ない。
つまり、コナンはこれから頭脳担当としては完全に役立たず──事実上の脱落に当たる、というわけだ。
絵面はギャグめいているものの、これほど絶望的な状況もないだろう。
「
「……ど、どうしたのコナン君?」
せめてあれが若返りの薬だと事前に知れれば、迂闊に庇ってそれを浴びる……なんて失態を犯さずに済んだのに……と後悔するものの、まさに後の祭りである。
……と、そうして一人反省会を行っていたコナンは、自身の変化に如実に気が付いた。
単刀直入に言えば、すごく眠いのである。
これはつまり、薬効が思考にまで追い付いてきたということ。
……これから彼は、しばらくの間無垢な赤子と変わらなくなる。
泣いても笑っても、ここから先の試合展開に影響を与えることはできなくなる、ということだ。
──とはいえ、それでは面白くない。
まんまとしてやられたまま、というのは名探偵の名が廃る。
「……おい、みみかせ」
「あ、喋れるんだ」
「ちゃかすなよ、わりとぎりぎりなんだ。……いいか、いちどしかいわないからよくきけよ」
ゆえに彼は、一つの策を残されるかように託したのであった。
「上手く行った、みたいだけど……」
「その割には、あんまり嬉しそうじゃないな?」
簡易的な視界弾きの結界を張り、内部で『涅槃寂浄』による偵察を行っていた私は、雪泉さんが仕事を完遂したのを確認していたのだけれど。
その時の状況を見て、これはやらかしたかなぁと頬を掻いていたのであった。
言葉とは裏腹にやべぇ、みたいな空気を醸し出している私に、傍らのクラインさんが不思議そうな顔をしているが……。
「単純な話だよ。──
「納得できる負け方ぁ?……いや、んなもん存在しなくねぇか?」
私の出した問い掛けに、彼は不思議そうな顔を更に不思議そうにしながら首を傾げている。
……私達【星の欠片】なら、『勝者が確りと糧を得られるような負け方』と言うのだろうが……それは【星の欠片】が端から勝利を目的としていないからこそ出てくる感想。
「うん、その通り。大抵の場合、負けたらどうしたって悔いやらなにやらが残り、納得なんて早々できないのが普通。……いやまぁ、そのあとちゃんと勝負の内容を振り返って、反省会した後に『ありゃ負けて当然だ』みたいな心境になることはあるかもしれないけど……少なくとも、
「その話が、今のあれこれと関係あんのか?」
「大有りだよ。負けた時の後悔ってのは、
では、敗者の『納得できない』という感情は、一体どこから生まれるのだろう?
答えは単純、勝者側への『ずるい』という感情から、である。
この『ずるい』という感情はとても多岐に渡り、『自分は全力を出せなかったのに向こうは出せていた』とか、はたまた『相手側がこちらにできないようなことをした』だとか、とかく簡単に飛び出してくるものである。
特に、試合のような環境下において、人とは基本興奮しているもの。……アドレナリンの過剰分泌は思考を攻撃的な方向に縛り、結果として他者への攻撃性として発露する。
試合直後にもそれは続いている以上、自身の敗因を正確に認識することは普通できないだろう。
それを即座にさせるためには、相手の頭に登った血を速やかに下ろすことが必要となる。
それは、人によっては圧倒的な実力の差であったり、はたまたゆっくりとした試合運びであったりするわけだが……ともかく、負けと同時に負けを認めさせられるというのは、意外と高等技術であるのは間違いない。
……とはいえ、ある程度簡単にそれらの感情を緩和する手段、というものがないわけでもない。
それが、
「……さっきと言ってることが矛盾してねぇか?」
「圧倒的な上位者に捩じ伏せられる、ってのは確かに敗因を認めるに足る事象ではあるけど、同時にそれは相手を無理矢理押さえ付けるものでもある。……拮抗した勝負で得られる
言い換えれば、親に怒鳴られて渋々決まりを守るのと、誰か友達とかと決まりに沿って遊ぶのの違い……みたいな感じか。
自発的か他発的かの違いは、それに対して抱く感情の質を左右する。……負か正かというのは、意外と大きな要因であるという感じか。
ともあれ、できる限り爽やかに負けを認めさせようと思う場合、両者の実力が拮抗している方が良い、というのは間違いではない。
そこを踏まえるに、先の雪泉さんとコナン君達のそれは、結果として
……こちらとしては、彼女の原作的性質によりちょっと服が破れる、くらいのマイナスが発生することを期待していた*2のだが……どうもロム・ストール成分が雪泉さんと噛み合いすぎてしまった、というか。
「てぇと、つまり……?」
「手負いの狼こそ恐ろしい……みたいな感じかな?ほら」
「おおっとぉ!これは短期間に状況が目まぐるしく変わるぅ!!幼児化によりコナン選手がリタイアしましたが、それを為した雪泉選手も何者かの攻撃によってダウンしたー!!」
──それこそ死に物狂いで、相手は帳尻を合わせようとしてくるだろう。
イタチの最後っ屁、というには少々重い展開に、思わず天を仰ぐ私なのであった──。