なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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魔法少女も戦隊モノも追加戦士は敵側からというのがある種のお約束

「私は屈しません!!どうにかしたいというのなら、いっそここで殺して下さいっ!!」

 

 

 ……という、あまりにも頑な過ぎる態度をはるかさんが取り始めてから、はや一時間。

 現代に蘇りし見事過ぎる女騎士ムーブに、魔王を気取ったせいでクリティカルヒットした(白い目で見られた)りと、正直散々な目にあった感じのする私なのだが。

 

 

「いやまぁ、流石に今回はなんにもなしに帰すわけには、ねぇ?」

「まぁ、そうねぇ……」

 

 

 ゆかりんと一緒に、小さくため息。

 ……前回とは違い、今回のはるかさんは継ぎ接ぎ(パッチワーク)と、私というオリジナル勢についての情報を得てしまっている。

 言ってしまえばどっちも劇物なので、口止めもせずに帰すのはありえない……わけなのだけど。

 うーむ、とりあえずこっちの話を聞いてくれる状態にしないことには、どうにもならないと言うか。

 ……理由とかをちゃんと説明したお陰で、マシュ達からの白い目は解消されてはいるけれども。このままにはしておけない、というのも確かなわけで。

 

 はてさて、どうしたものか……なんて悩む内にも、時間は刻一刻と過ぎていく。

 ……うーん。一応、彼女に効くであろう手段は一つ、ないこともないわけだけれども。

 いやー、でもなー?それを使うとなると、さっきの白い目が誤解じゃなくなるだろうってのがなー?

 

 

「むむむむ……」

「でも、それくらいしか思いつかないんでしょう?……いえ、内容を私は知らないから、あんまり偉そうなことは言えないのだけれど」

「……そうなんだよなー、それしかないのも確かなんだよなー、でもなー。……こうさー、一回魔王ムーブ止めた後にもっかいやれって言うのは、なんというか心理的な負担がねー……」

「……いや、貴方なにしようとしてるのよ?」

「え?……脅迫、かな?」

「は?」

 

 

 ──まぁ、仕方なし。

 私ってば魔王だし、謂れなき……いや、この場合は謂れはあるか。

 とにかく、悪評を被るのは本来魔王であれば当たり前のこと。

 一々嫌だと駄々をこねるのもらしくない、精々悪役らしく振る舞うとしましょう。

 

 

「ちょっとーっ!?あんまり酷いことはしないように……って、なにその笑い方!?今まで見たことない悪人面なんだけどっ!?」

「ははは。……イテキマース☆」*1

「いやホントに無茶しないでよーっ!?」

 

 

 ははは。

 慌てるゆかりんはそのままに、彼女が室内に用意し(スキマで取り出し)た隔離室の戸を叩く私。

 ……いやまぁ、返事なんて返って来るわけないんだけど、一応礼儀として、ね?

 

 見張り役の翼さんに目配せをして扉を開けて貰い、中で椅子に座ったまま微動だにしないはるかさんの前に、自身も近くにあった椅子を引っ張ってきて座り、努めて和やかに声を掛ける。

 

 彼女はこちらの知られたくないことを知っているけれど。

 こっちもまた、相手の知られたくないことを知ってるわけで、ね?

 

 この辺りはまぁ、わりと実直的な面のある彼女の活かし方みたいなものを、向こうの上司さんが考えた結果なんじゃないかなー、というか。

 ……お涙頂戴な話が──()()()()()()()()()()()()()今の仕事をしているだなんて話が、嘘偽りのない真実だとか。……そんな話をされて()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 なんともまぁ、悪質なトラップである。

 何が酷いって、彼女の話それ自体は本当のことなのが始末に悪い。

 彼女の妹が失踪したのは事実、それを探すために()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のも事実。

 問題があるとすれば、はるかさんの性格を知っているがゆえに、事情を()()()()()()()と指示した上司さんにこそあるだろう。

 

 ……TRPGでの心理学の避け方、みたいなものである。*2

 はるかさん本人には、なんの悪意もない。

 ただ、それを聞かせる事により──()()()()()()()()()、相手に反応を強制さ(憐れみか疑念を湧か)せることができる。

 

 いやまぁ、仮にも向こうの派閥の人間として、彼女も頑張っているのだろうけど。……見る人が見れば、全然向いてないのはすぐわかる。この場で『くっ殺』が選択肢に上がる時点でわかる。

 時々すごく理知的というか、一種の閃きみたいなものを見せるときもあるけれど、それはあくまでも勘が鋭いとかの話であって、他者を騙すための才能かと問われればNOなわけである。

 そんな彼女から、妹さんの話を聞いたのだとしたら。……人が良ければ可哀想にと憐憫を抱き、人が悪ければそれは本当かと猜疑の念を抱く。

 

 どちらにしても、話を聞いた相手側に、心理的な負担を掛けるのは容易。

 あとはまぁ、はるかさんが普通に仕事をして(妹のために頑張って)くれれば、それだけで相手側への牽制になる(の足を引っ張れる)

 

 ──かーっ!!いやらしいっ!!人の使い方がいやらしいっ!!

 やだやだ全く、これだから権力闘争とか裏で糸引くとかの話が嫌いになるんですよ全くっ!!

 ……まぁ、つまりだ。私が何を言いたいのかと言うと。

 

 

「もしわしのみかたになれば、せかいのはんぶんをおまえにやろう。──妹さんの所在、知りたくない?」*3

「…………はっ?」

 

 

 そんな前提(妹のための仕事)は根本から崩して、こちら側に引き込んでしまえばいい──ということだ。

 

 

 

 

 

 

「あ、悪魔だ、悪魔がいる……」

「失礼な、これでも魔王なんですけど」

「いえせんぱい、そこで胸を張られてもですね?」

 

 

 隔離室からはるかさんと共に出てきた私を見て、ゆかりんとマシュがなんとも言えない表情を向けてくる。

 

 ……むぅ、失礼な。

 別に相手の嫌がるようなことは、一切やってないのだけれど?誓って殺しはやって……あ、いや。これだと堂島の龍か。*4

 

 まぁとにかく。相手の望むものをちらつかせて(与えて)、ちょっと便宜を図って貰っ(取引をし)ただけなので問題はないでーす。

 ……いや、はるかさんの反応があまりにもテンプレ(誘惑に耐える騎士)的なものだったから、ちょっと調子に乗ったというのも否めなくはないけども。

 でも私は混沌・悪なので後悔しませーん。寧ろしてやったりでーす。

 

 

質悪(たちわる)っ」

「にゃ、にゃはは……うん、今後キーアさんを敵に回すようなことは、絶対にしないようにするよ……」

「……いや、何がどうなればあんな台詞が飛び出してくるのか、正直不思議でならないのだが……」

「魔王を名乗るだけのことはある、ということかしら?……っていうか、最終的に世界と妹のどっちを取るのか……みたいな話にまで発展させるのは、鬼畜以外の何物でもないんじゃない?」

「魔王ですが、なにか?」*5

「せんぱい、それ多分自慢気に言うことではないです」

 

 

 んもー、みんな文句ばっか言うんだから。

 別にいいでしょー、仮に恨まれるとしても私だけ。責任を取るのも私だけ。

 はるかさんは妹に出会えるし、みんなは余計な厄介事に巻き込まれずにハッピー。……良いこと尽くめじゃんね?

 

 

「やり口が悪徳業者過ぎるんですよ。なんですか電話口での向こうの上司さんとのやり取り、聞いてて鳥肌立ちましたよ私?」

「えー?だって急進派って、みんなあんな感じなんでしょ?今の内に叩き折っといた方が、後々変なちょっかい掛けられずに済むじゃん。一応向こうの顔も立ててあげたしさー」

 

 

 まぁ、その流れの中で、はるかさんをこっちに引き込むのに、向こうの上司さんとちょっとお話(電話)をすることになったわけなのだけれども。……お話だけで済んだんだから、かなり穏便じゃんね?

 

 というか正直、度々穏やかじゃない話になりそうになるのを、『そういうの良くないと思うなー』って軌道修正掛けまくったのはこっちなんですけど。

 その上で向こうにある程度の便宜まで図ったのに、これで文句を言おうものなら……ねぇ?

 こっちもちょっと対応考えなきゃなー、みたいな態度は取るよね、というか?

 

 

「……悪魔に魂を売るって、こういう感じなんでしょうか」

「もー、今さらくよくよするのなしなーし。はるかさんは妹さんに会いたくて、これまで頑張って来たんでしょ?じゃあその頑張りは報われないと。……ね?」

「……すみません部長、私はダメな部下です……っ」

「おかしいわねー、今回魔法少女案件だからもっと希望とか未来とか、そんな感じの明るい話題に終始できるはずだったんだけど……」

「CP君が居る時点でわかってた話では?」

「……うーんダーク系魔法少女……」

 

 

 ゆかりんが頭痛を堪えるように額に手をやるのを見ながら、にっこりと笑う私。

 

 ……うん、なんか久しぶりにすっきりしたかな!!

 最近ずっとストレス溜まってたしね、たまには発散しないとね!

 みたいな気分で、わりと上機嫌なのでしたとさ。

 

 

 

 

 

 

 まぁ、そんな感じに色々ありまして。

 

 ラットハウスに入っていくはるかさんを遠くから眺めながら、近くの自販機で買ったコーヒーのプルタブを開ける私。

 ……中に入らずとも、感極まった彼女の嗚咽が微かに聞こえてくるのだから、まぁ無茶苦茶やった甲斐はあったというか。

 

 

「達成感、って言うべきかい?」

「ん、ライネス。……中に入んなくていいの?」

「流石に今は、ね。姉妹水入らず、積もる話もあるだろうさ」

 

 

 そんな風に壁に寄り掛かってぼけーっと建物を見ていたら、いつの間にやら隣に来ていたライネスに声を掛けられた。

 ……てっきり中でいつものように、コーヒーミルで豆を挽いているのかと思っていたのだけれど、流石に自重したらしい。

 ふーん、みたいな感じに声を返して、そのままコーヒーの消費に戻る私。

 

 

「……仮にもコーヒーを自慢にしている店の前で、堂々と缶コーヒーを楽しむのはどうかと思うのだけど?」

「口寂しさにちょっと買っただけだし、大目に見てよ」

「……はぁ。()()()()ブラックを飲んでるのは、自罰行為の代わりかい?」

「う゛っ。……いや、別に、全然そんなことないし……」

「……嘘はバレないように吐くべきだよ、キーア」

 

 

 そうして突っ立っていたら、ライネスから軽い抗議が飛んできて。……ちょっと言い訳を溢したら、核心の方を突かれて。

 ……むぅ。なんというか、鋭いなぁ……なんて呻きが思わず漏れた。

 

 ……自分からやったことだから、本来()()()()()もよろしくないんだけど。

 まぁ、()()()()()だからなぁ、()

 

 

「……損な性格をしているね」

「私の損でどうにかなるなら安いもん、ってやつよ。……まぁ、やった後に一人でくよくよするのもお約束なんだけど」

「……はぁ。いやホント、君って奴はアレだな、馬鹿なんだな?」

「言わないで、わかってても変えらんないんだから」

 

 

 こちらに呆れたような視線を向けてくるライネスに苦笑を返しつつ、ふっと天井に目を向ける。

 

 ──夜空は暗く、されど星は瞬き。

 そこにある星々が偽物であれ、その輝きは偽りではなく。

 ……なんて感傷を抱きつつ、缶に残ったコーヒーを胃に流し込むのだった。

 

 

*1
『行ってきまーす』の空耳。有名なのは『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』の表遊戯のものか

*2
クトゥルフ神話TRPGでの技能『心理学』の対処法の一つ。『心理学』は相手に対して判定を行い、その時に対象が何を考えているかとか、嘘を吐いてないかなどを調べるための技能だが、相手の思考を読むわけではない為、場合によっては『心理学』を使うことで不利になることもある。そのうちの一つが、『心理学』の対象者が真相について知らない=裏に糸を引く人物がいるパターンである。『心理学』はあくまで対象者の心理を考察するモノなので、真実を知らない相手に使っても考察の上での余計なノイズにしかならない……なんてことになる可能性もある

*3
初代『ドラゴンクエスト』より、りゅうおうの台詞。魔王が言う台詞として、今日でも形を変え様々な場所で使われている。無論、そんな甘い話があるわけが──ある時もあるのが、創作というものの懐の広さである。まぁ大体はろくな目に合わないのだが

*4
『龍が如く0』における主人公、桐生一馬の台詞『俺は誓って殺しはやってません』から。台詞そのものに変な部分はないが、このゲームは敵対者の頭を電子レンジに突っ込んで、温め一丁とばかりにコンビニ店員にスイッチを押させたり、刃物を相手に突き刺し柄を蹴って貫通させたりなど、寧ろ死なないほうがおかしいだろ、みたいな技ばかりなので『本当に殺ってないのか?』とプレイヤーにシリアスな笑いを提供した。なお『堂島の龍』は、桐生一馬の異名

*5
小説作品『蜘蛛ですが、なにか?』から。馬場翁氏の作品でタイトル通り、蜘蛛のモンスターに転生してしまった女子高生の物語が中心になっている




五章もこれにてお終い。
次回、ハロウィン(幕間)。次もキーアと一緒に、地獄に付き合ってもらう。

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