なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・やっぱり貴方は貴方だった()

 はてさて。

 酒は飲んでも呑まれるな、という言葉がある。*1

 麻薬ほどではないとはいえ、容易く前後不覚を引き起こす酒というのは、古今東西様々な場所でトラブルの種になってきた、というのは皆さん既にご存知かと思われる。

 

 ──ところで。

 ここ・なりきり郷にいる人のほとんどは、『逆憑依』と呼ばれる特異な存在である、というのも皆さんご存知の通り。

 そして彼らに付き纏う縁とでも呼ぶべきものも、これまた皆さんご存知の通り。

 

 そう、彼らの元となった『原作』。

 そこで描かれた展開というのは、彼らの身に()()()()()()()()()()もの。

 再びの困難に辟易するも、再度乗り越えようとするもその人次第。

 

 ……とはいえ、何度体験しても慣れぬこと、というのは往々にして存在するものでございまして。

 これはまぁ、そういう話。

 一人の男の、喜劇染みた悲劇の話なのでございました。

 

 

 

 

 

 

「……いってぇ」

 

 

 寝起きと同時、脳内に響く痛みに男──坂田銀時は顔をしかめた。

 

 その痛みはよく彼を襲うものであったため、すぐにその理由に思い至ることができた。……そう、二日酔いである。

 

 

「……あー、久しぶりに潰れるまで呑んだんだったか……」

 

 

 確か、酒の呑める同年代の人物が新しくここに加わったため、親睦も兼ねて居酒屋に誘ったのだったか。

 

 流石にかつての互助会のように、己を転生者であると勘違いするようなものはこの場所には多くないものの、それでも少なからず発生するモノである、というのも事実。

 ゆえに、その辺りの説明も兼ねてのこの場所の案内、というものが彼の営むよろず屋に回ってくることもある。

 

 まぁ、難しい理屈は抜きに、そういう仕事の場合飲食代が経費で落ちるというのが一番の理由なのだが。

 

 

(……んん?経費?)

 

 

 そこまで考えて、彼は小さな違和感に突き当たった。

 いや、そもそもこの場所──なりきり郷内においては、特定の人物(逆憑依)の飲食に掛かる代金は、()()()()無料だったはず。

 

 それなのに今、経費云々のことが脳裏を過ったのは……。

 

 

「……あー、そういや久しぶりに外仕事、だったんだっけか」

 

 

 現状の自分は、郷の外へと出てきているということ。

 件の案内も、どちらかと言えばここが単なる現実であることを示すためのものであり、郷内の案内はこれから帰ってもう一度やるのだ、ということを思い出したのであった。

 これをもう一回酒が呑める、と考えるやつはダメな大人である。無論彼はそう考えた()

 

 

「……にしても、潰れるまで呑んで()()()()()()()()で済ませて貰える辺り、やっぱすげぇなこのバッジ」

 

 

 ぼさぼさの頭を掻きながら、彼は小さくあくびをする。

 襟元に付けられたバッジは、彼が『坂田銀時である』ことをごまかす、特別なもの。

 本人の意識の有無を問わぬその隠蔽性能は、それゆえに彼を単なる酔っぱらいとして処理し、このホテルへのチェックインを可能としていたのであった。

 

 その事実に感謝をしつつ、流石に外で潰れるまで呑むのはよくねぇよなぁ、と小さく反省をする銀時。

 

 ……と、そこまで考えて再度の違和感。

 

 

(……いや、流石の俺もそこまで考えなしじゃねーよ???)

 

 

 そう、確かに銀時はやる時はやる……裏を返せば平時はちゃらんぽらんな人物であるが、同時にちゃんとTPOを気にする方でもある。

 特に今回は、外で発生した『逆憑依』仲間を迎えに行くための、わりと真面目な仕事。

 

 幾ら相手方と意気投合したからといって、前後不覚になるほど呑みまくるようなことはしない……はずだ。

 そこで断言できない逃れ悲しいところだが……ともあれ、確率としては一対九でまず起きないこと、というのは間違いあるまい。

 

 

(……ってことは、()()()()()()()()()()()?)

 

 

 ゆえに、可能性として浮上するのが、今回の仕事が()()()()()()()()()()()()()()、というパターンだ。

 

 例えばゴジハムが一緒に来ているとでもなれば、彼に後を任せて羽目を外す、なんてことと十分に考えられるだろう。

 まぁ、ゴジハムの場合はごまかしの許容範囲を越えてしまう──正確には、ごまかし先が大型の哺乳類(例・熊など)になり、結果として別種の違和感を生み出してしまうというのが正解──ため、今回みたいな人の集まる場所への同行は叶わないのであるが。

 

 

(となると、一緒に来ていたのは……桃香か?)

 

 

 それらの事情を思い出したのち、こういう仕事に同行する際に一番問題が無さそうな人物を思い浮かべた銀時。

 

 テンションと扱いやすさ的にはモモ──モモタロスがゴジハムの次点に付けるのだが、彼女は基本的に銀時達とは別行動のことが多い。

 ……仮にタイミングよく戻っていたとしても、見た目的にはそこらの少女でしかないので、こういう仕事に連れていくには問題しかないのも大きい。

 

 ごまかしバッジがごまかすのは見た目の違和感だけであり、三十近くの男と十代そこらの少女が並んで歩く光景、というものを軽減はしてくれないのである。

 

 

(下手すると取っ捕まるわな……)

 

 

 万に一つとはいえ、警察にしょっぴかれるような危険を発生させる相手を選ぶことはないだろう。

 そういうわけで、モモは選択肢から外れる。

 

 似たような理由で、Xも考慮外だ。

 彼女の場合は見た目云々的には良くても、ストッパー役にならない時点でダメである。

 

 

(俺が呑んでたらぜっったい『あー!銀時君ずるいです!私も呑みますよー!とりあえず大ジョッキ一つ!』とかなんとか言ってただろうからな……)

 

 

 彼女の場合、XX(ダブルエックス)のOL成分に引っ張られているのか、滅茶苦茶酒を呑む。

 ごまかした際の見た目は金髪の外人のねーちゃんであるため、違和感などは発生しないだろうが……その代わり、彼女はともすれば銀時よりも大量に呑む。

 ()()()()と一緒に飲みに行った時には、銀時がひたすら振り回される羽目になったというのだから、そのテンションは推し量れるというものだろう。

 

 そういうわけで、見た目的なウケは良くても後に続かない、的な意味でXもまた同行者としては失格である。

 

 

(となると、やっぱ安牌なのは桃香なんだよなぁ)

 

 

 そうして消去法的に同行者を推理していくと、最後に余るのが桃香──もとい、劉備玄徳その人ということになる。

 

 新生よろず屋におけるポジションが新八であることもあり、彼女はあのメンバーの纏め役として認識されている。

 ……いや、本来ならばツッコミ役というべきなのだろうが、その辺りの感覚の違いが彼女の役割を微妙に変化させている、というか。

 

 ともあれ、彼女が財布を握っているようなものであり、その流れで纏め役にも収まっているのも事実。

 ゆえに、外の仕事に連れていくのならば彼女以外考えられない、という話になるのであった。

 

 

(……いや、でも待てよ?)

 

 

 と、そこまで考えて再三の違和感。

 確かに、よろず屋メンバーで同行者を見繕うのであれば、該当するのは桃香のはずなのだが。

 だとすれば寧ろ、今の銀時の状況に説明が付かなくなる。

 

 なにせ、彼女は纏め役──言い方を変えると()()()役。

 仲間達の健康に一家言あるタイプ、という方がわかりやすいだろうか?

 

 つまり、彼女を仕事のパートナーとして連れ出している場合、逆に銀時が酔い潰れるなどという状況に繋がらなくなるのである。

 なにせ、彼女が一緒にいるのなら、まず間違いなく『ぎーんーとーきーさーんー?』などと言いながら、彼の暴飲暴食を止めるはずなのだから。

 

 これが意味することは、すなわち今回の相方は桃香ではない、ということ。

 

 

(……ってことは、よろず屋以外の誰かと一緒に出てきた、ってことか……って、ん?)

 

 

 まだぼやけている脳をぐるぐると回し、誰と一緒に来たのかを思い出そうとする銀時。

 ……と、そこで左手に違和感。

 具体的には、自分が身を起こすベッドの上──上布団の、自分の左側部分に()()()()()()ような感触がしたような気がした、と言うべきか。

 

 携帯かなにかか?と思いながら、そっと布団を捲って。

 

 

「……っ!?」

 

 

 思わず、バッとそれを元に戻す。

 気のせいでなければ、そこにあったのは携帯ではなかった。

 ではなんなのかと問われれば……。

 

 

(て、てっててててて、手だよな今の……?!)

 

 

 それはあからさまに『手』であった。

 とはいえ、成人のそれではなく、生後一月程度の赤子の手だったわけなのだが。

 ……とはいえ、そんなものが自分の横にある、という状況に心当たりのない銀時としては、思わず現実逃避をしてしまうような衝撃であったこともまた事実。

 

 ゆえに彼は慌ててベッドから飛び退き、地面に這いつくばるように逃げ出し──そこで、更なる違和感を覚えることとなった。

 

 そう、視線が低くなったこと──具体的にはベッドの高さと水平になったことで、布団の盛り上りが()()()()()()ことに気付いたのだ。

 それは赤子のそれより遥かに大きく、別の誰かがそこにいることを如実に示している。

 

 銀時は思わず喉をごくりと鳴らし、恐る恐るその塊に近付いていくことに。

 そうして、彼が『どうか違いますように』と願いながら布団を捲った先にあったのは。

 

 

「………」<zzz

「oh……」

 

 

 一糸纏わぬ姿で、赤子を抱くように眠る()()()()姿()

 銀時は思わず天井を仰ぎ、どうなってんだこりゃとどうにか昨日のことを思い出そうとして──、

 

 

「すみませーん。坂田さーん、こちらに先輩がお邪魔していませんかー?」

(あっ、俺死んだ)

 

 

 出入り口方面から聞こえてきた声──マシュ・キリエライトのそれを耳にすることで、自分の命の灯火がここまでであることを悟ったのであった。

 ……次回、銀時死す!

 

 

*1
ことわざの一つ。酒には『酔い』というものがあり、それによって意識が飛ぶ、ということもある。世の中には酔って前後不覚になった挙げ句、四肢を切断する羽目になった人もいるので、酒の飲み過ぎには気を付けましょう

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