なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
(どどどど、どうするどうする!?これやべーんじゃねーの?!俺死んだんじゃないの!!!?)*1
前門のマシュ、後門のキーアとでも言うべき状況に、銀時の焦りは最高潮。
なにせ覚えはないとはいえ、状況証拠だけはバリバリに揃っている。
この状況をなんの対処もなくマシュに見せたとして、その後自分が五体満足な姿で立っている状況が想像できない。
まず間違いなく、彼の体は無惨にバラバラにされ、そのま各異聞帯に封印されることだろう。──坂田銀時聖杯戦争の始まりである(?)*2
(いやいや待て待て落ち着け落ち着くんだ俺、こういう時は素数、素数を数えるんだ……素数は一と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字。俺に勇気を与えてくれる……)*3
「……?坂田さーん?まだ寝ていらっしゃいますかー?でしたら少し確認するだけですので、ちょっと開けさせて頂きますねー?」
「おおおおおお起きてまーす!!ちょっと今俺ってば着替え中だからさー!!待っててくんねーかなぁぁぁぁ!!?」
「おおっと、それは失礼致しました。では、私は外で待っていますので、着替えが終わりましたらすぐに呼んで下さいね」
混乱する頭でなにかできることはないか?と思考するものの、表のマシュはすぐにでも部屋に押し入る気満々のため、やむを得ず着替え中だと嘘を付く羽目に。
……ここに
ともあれ、流石に着替え中の男性の部屋に、無理矢理押し入るようなはしたない真似はしないようで。
それにより扉の外のマシュは一旦離れ、しばらくの余裕ができたことになるわけなのだが……それも長くは持たないだろう。
(つーか、なんで頑なに入ろうとしてくるんだ?まるでここにキーアが居ると確信しているような……?)
いや、それなら有無を言わさず入ってきて、今頃銀時は粉々になっていることだろう。
あの盾で殴られた日には、銀時の人生で積み重ねて来た大小様々な罪が爆発のように溢れ出すこと受け合いである。……え?それは
……ともかく、ああして素直に離れていった以上、確信を持っているにしろいないにしろ、こちらに猶予を与えたということだけは事実。
ゆえに銀時は、この短い間になんとか起死回生の策を見付け出すしかないのだが……。
(いやどうしろと!?)
ベッドの上にキーアがいる、ということは紛れもない事実。なんなら素っ裸である。
いやまぁ、なんか色々あって一緒にベッドの上で眠る羽目になった、みたいな状況に陥る可能性が万に一つも無いと言えないわけだが。
それが素っ裸になる可能性にまで限定すると、それこそ億に一つとか兆に一つとか、大体そのレベルにまで落ち込んでしまうというか。
この人寝る時実は裸族なんですよー、みたいなトンでも設定が唐突に飛んでくるとかでもない限り、必然的に脱がしたの
(仮にもしそうだったとした場合、仮にそれ以外なんにもヤってなかったとしても俺の命が
──なるほどなるほど。坂田さんはせんぱいの玉の如き肌に素手で・無断で・断りもなく触れてしまったのですね。とりあえず落としますが、文句はありませんね──?
(何故私だけがこんなぁぁぁあっ!!!???)*7
想像される最悪の結末に、銀時の背に嫌な汗が流れ始める。
そもそもさっきのマシュとの会話から何分経った?
男の着替えなんてそう時間の掛かるモノでもないのだから、あまりに長引けばそれだけ不審に思われる可能性も高くなる。
そうなってしまえば、先ほどの様子からしてマシュが中に突撃してくる可能性はとても高い。
その結果、ベッドの上のキーアを見られればアウトである……。
(……いや待て、待て待て。なんかすっげぇ嫌な予感がするんだけど……?)
そこまで思考して、銀時はつい目を逸らしていた、もう一つの問題に行き当たった。
確かに、ベッドの上のキーア(素っ裸)は問題である。あるのだが……彼女、なにかを抱いていなかっただろうか?
そう、彼女はその胸に、一人の赤子を抱いていた。
そしてその赤子の顔──正確には頭の上半分──は、
顔付きも、髪の色も見えなかったという状況に、銀時は改めてドッと冷や汗を掻いた。
自身の記憶の中に、この状況に近いものを見出だしたためである。
と言っても、別にキーアとゴニョゴニョした記憶、とかではない。
単にこの状況に当てはまるだろう、
(いやー、まさかまさか。……ないない。有り得ない有り得ない。ねーってそんなの……)
あれこれと言い訳染みた言葉を脳内で垂れ流しながら、一度被せ直した布団を剥いでいく銀時。
無論、罷り間違って途中でマシュが入ってきた時に勘違いされないように、キーアの体が欠片でも視界に入らないように慎重に慎重を期し、彼女とは反対側の布団を捲って、である。
その結果、露になった赤子の姿。
……とは言っても、キーアの腕が邪魔なので、顔の上半分が見えないのだが。
その強固なバリア(最初全然動かなかった。銀時は起きてるのかと思ったが、キーアは普通に寝てた)をどうにか解除し、そうして現れた赤子の顔に、彼は天井を仰ぎ見ることになったのであった。
(……マージかー。まさかのシルバー・J・フォックス二世かー……)*8
そこに居た赤子の顔は、まるで銀時のそれを赤子にしたかのようにふてぶてしく。
そしてその髪の色は、
(あーうん、ないない。これで逆に確信したわ、これはなにかの不幸な行き違い、以上)
赤子の姿を見たことで、銀時は逆に冷静になっていた。
赤子の見た目は確かに銀時とキーアの特徴を併せ持っているように見えるが、だからこそ
なにせ、彼とキーアの間に
精々がたまに仕事で一緒になる、くらいの間柄であり、そんな機会は一切ない。
ゆえに、仮にそういう機会があるのであれば、それは今回──前後不覚でなにも覚えていない昨日のこと、ということになるが。
だとすれば、そこにいる赤子は昨日出来て昨日生まれた、ということになってしまう。
(ないない。んなわきゃーない)
流石にそれはおかしいどころの話ではない。
それに、このパターンの話に覚えがある、というのも彼の結論を後押ししていた。
いわゆる隠し子騒動である『ミルクは人肌の温度で』と、六股疑惑を受けた『忘年会でも忘れちゃいけないものがある』の二つだ。*9
これらは今の銀時の状況に完璧に合致している。
なんで同時に起きているんだ、という疑問こそあれ、今の状況がこれらをなぞったものである、というのはまず間違いあるまい。
大方このあと、マシュやら桃香やらXやらを巻き込んだ結果、酒の飲みすぎで前後不覚になるようなバカなことはしちゃダメだぞ、みたいな教訓を得ることになるのだ。
ならばマシュがあれほど中に入ろうとして来た、ということの説明も付く。
あっさり引いたのも合わせて、彼女は仕掛人その一でしかないのだろう。
……ここまでわかれば、銀時としても一安心である。
突然ドッキリを仕掛けて来たことには、色々と思うところもあるが……酒の飲みすぎが悪かったこともまた事実。
ゆえに、ここは素直に引っ掛かっておくかぁ、と頭を掻いたところで。
──ふと、違和感が頭を過った。
(……いやまぁ、これが色々なぞった結果、ってのが確かだとして。──マシュがこの状況を承知するのか?あの先輩至上主義のあのマシュが??)
その違和感は多岐に渡る。
例えドッキリと言えど、先輩と慕う相手の裸を男に見せようと思うか?
いやまぁ、ポジション的にお登勢役に合うのがキーアだった、と言われれば納得できなくもないが、だからと言ってあのマシュが納得するとはどうにも思えない。
それだけではない、そもそもこの赤子はなんなのか?
いやまぁ、実は橋田勘七郎*10の『逆憑依』です、とか言われてもおかしくはないかもしれないが、それはそれであまりにもピンポイント過ぎて、今までの常識的にはこっちにやって来れるキャラだとは思えないというか。
……そもそも髪の色が変化している辺り、厳密には色々と違うのだろうし。
最後に、子供の生まれるスピードである。
さっきは『ないない』と自分を納得させた銀時だが、そもそも普通の人間とは違うルールで生きているという【星の欠片】に、人の常識が通用するモノだろうか?
下手すると、【星の欠片】関連で生まれる子供は猛スピードで出て来て育つ……なんてパターンも有り得るかも……?
(……困った、大丈夫だと思ってたのになに一つ確証が取れねぇ……!?)
多分これは、たまにある原作の再現だろう、と一度は胸を撫で下ろした銀時だが。
その実、その考えは楽観以外の何物でもないことに気が付いた彼は、生唾を飲み込んだ。
──要するに、危機はなに一つ去っていない、ってコト?
そんな言葉が脳裏に響く中。
「……ん、んん」
(げぇーっ!!?起きたぁっ!?)
問題の人物──キーアが目蓋を擦りながら、周囲を見回している。
見付かっては不味い、と銀時が身を隠すよりも早く、彼女は自身の腕の中にいた赤子に視線を移し。
「……にへへ」
(あ、俺死んだ)
……次回、坂田銀時死す!デュエルスタンバイ!