なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「──で、件の【兆し】が周囲の情報を収集した結果成立したのがこの子、ってわけ」
「ああなるほど……確かに俺とアンタの子、って風にも言えなくはないか……」
キーアが説明を終えた時、銀時は納得したように小さく頷いた。
この赤子、どうにも成立時に近くにいたキーアと銀時の情報を収集した結果生まれたもの、ということになるらしい。
なのでまぁ、確かに二人の子供と言ってもおかしくはないのであった。
……まぁ、あくまでも『そういう風にも言える』というだけであって、本当に二人の子供かと言われると微妙なところもあるのだが。
「というか、まず間違いなく私は子供とか作れないだろうし、仮に作れたとしたらその子は【星の欠片】なのか?……みたいなツッコミもあるだろうから、あんまり考えたくはないところなのよねー」
「ふーん……ってか、やっぱそういうのダメなのか?」
「ダメというか……その辺りの設定を考えたことがなかったというか……」
「あー……」
なお、キーアは微妙な顔でそう言ったが、【星の欠片】の設定を作ったのは中学生の頃。
……言ってしまえばそういう下ネタ的なモノを知らない時に作ったモノでもあるため、改めて大人になって見返してみると、人間の生態的に『あれ?』となる部分もあったようで。
その一つが、【星の欠片】に子供って作れるのだろうか?……という、ある意味当たり前の疑問なのであった。
で、そこに関しては後々考えてみたところ『無☆理』という話になった。
なにせ基本的に【星の欠片】は『
この無限は原則『前の状態を後の状態で押し流す』という流れを永遠に繰り返すモノであるため、仮に子供が出来たとしてもその次の瞬間には
そのため、まず真っ当な手段で子供を作ることはできない、という話になるのであった。
……え?専門用語が多過ぎてよくわからない?ならまぁ、普通に男女のそういう行為を行っても意味はない、とだけ。
「……こういう話をアンタにさせた、ってバレた時点で死にそうな気がするんだが俺」
「ははは。……内緒の話だね、銀ちゃん♡」
「なんか今回のアンタちょっと変じゃねぇ!?」
なお、銀時はこの辺りの話を余りしたくなくて仕方のない様子であった。
まぁ、罷り間違ってマシュに聞かれた日には、八つ裂きにされること請け合いなので仕方がないのだが。
その辺りがわかっているからか、キーアは若干楽しげである。
「……あれ?じゃあなんではだ……げふんげふん。お召し物を身に纏っていらっしゃらなかったのでしょうか?」
「なにその言い方……別に真っ裸って言えばよくない?」
「バカお前、そんなこと俺の口から言わせんなよっ!?」
「んー、なんか変な話になってるような……まぁいいか。で、なんで服着て無かったかだっけ?それに関しては簡単、この子が服を嫌がったってだけよ」
「……だから赤ん坊の方も素っ裸だったのか……」
で、彼女が一糸纏わぬ姿だった理由だが。
それに関しては、赤子の方も裸だったことに理由があった。……簡単に言えば、寝る時にとてもぐずったのである。
まぁ、汚れは取ったとはいえゲロの掛かった服だったので仕方がないと言えば仕方がないのだが。
「え?ゲロ?」
「覚えてなーい?銀ちゃんってばあの後動き回ったのが原因で、思いっきりリバースしたんだけど。私に向かって」
「す、すすすすんませんしたぁーっ!!?」
「おお、綺麗なフライング土下座」
なおそのゲロ、飲みまくった後に激しい運動をしたため銀時がリバースした時のモノである。
赤子を掴んだ直後、耐えきれなくなったのが空に虹を描いたその内容物は、近くにいたキーアの服に盛大に降り掛かったのであった。
彼女が起きる前に部屋の中にある洗面所を覗けば、そこでハンガーに吊られていた服を発見することができただろう。
……まぁ、銀時は後ろを向いていたため、彼女が自身の服を取りに行く瞬間を見ることはできなかったのだが。
とまれ、この世に生まれ落ちた赤子が初めて目にしたのは、自分に向かって飛んでくるゲロの波だったわけで。
そりゃまぁ、泣き叫んで止まらないのも仕方ないというもの。
それを落ち着かせるため、彼女は人肌で赤子をあやしていた……というわけである。
なお、起きてすぐに微笑んでいた理由だが、単に赤ん坊が可愛かっただけである。……精神女性化し過ぎじゃない?大丈夫?
「まぁそこは置いといて……とりあえず、この子を連れて帰らなきゃいけないわけだけど……大丈夫だと思う?」
「……大丈夫、とは?」
そうして困ったように笑いながら、彼女は銀時に問い掛けた。
対する銀時は、その言葉に冷や汗を流しながら答える。……目を逸らしていた問題に、再び対面したためである。
そう、この赤子。
見た目の特徴が、完璧に両者のそれを引き継いでいるため、一目見ただけでは確実に二人の子供、と勘違いされる可能性がとても高いのだ。
いやまぁ、先ほどキーアも言ったように、見ようによってはそれは間違いというわけでもないのだが……。
「その場合、銀ちゃんが真っ黒にされたあと粉々になる可能性が……」
「真っ黒になって粉々?……ゲェーッ!?BB!?」*1
それをそのまま見せた場合、起きるのはまず間違いなく銀時の処刑だろう。
キーア側の後輩達によるそれも恐ろしいところだが、銀時側の面々によるそれもまた恐ろしいところか。
……城で潰されたあと粉々にされて槍で真っ二つにされて最後は炎に焼かれる……というのは、下手なアヴェンジャーの攻撃より刺激的だと言えるだろう。
──オルタが嬉々として観察すること請け合いである。
「じゃねぇよ!?俺まだ死にたくないんだけど!??」
「とは言ってもねぇ。既に生まれた命、まさかここで間引こうなんてことは言わないでしょう?」
「……ま、間引く?唐突に恐ろしいこと言うの止めない??」
そんなキーアの言葉に、銀時は叫びに近い声を挙げる。
流石にまだ死にたくはない銀時だったが、そんな彼の様子を見たキーアは、これまた恐ろしいことを言い始めた。
その口調の軽さとは裏腹に、とても重たい提案が飛んできたことに銀時は驚くが……その様子を見てもなお、キーアの様子は軽いもののままであった。
とはいえ、それも仕方のないこと。
ここにいる赤子は、赤子の姿をしているとはいえ結局は【顕象】──すなわち中身のない存在である。
命や意思のあるように振る舞っているものの、その実それらは作り物──いや、真似をしているだけのもの。
核となるモノを内に持つ『逆憑依』と比べれば、その命に幾ばくの価値があろうと言うものか。
「……おい、流石にその言い口は良かねぇんじゃねぇのか?」
「あれ?おかしいなぁ。だって銀ちゃん、嫌なんでしょ?だったらほら、その負債は誰かに押し付けないと。──世界の幸福の最大値は決まってる。誰かが不幸になる代わりに、誰かが幸せになるのが当たり前なんだから、貴方が幸せになりたいのなら誰かに不幸を押し付けないと」
そんなキーアの言葉に、銀時は違和感を覚える。
彼女は時々厳しいことを言うこともあるが、だからといってここまで薄情者であっただろうか?
ゆえに彼は怪訝な──ともすれば剣呑な目を彼女に向け。
そこで、彼女の様子がおかしいことに気が付いたのだった。
「……おい、アンタの耳ってそんなに大きかったか?」
「なにを言ってるの銀ちゃん。私はみんなの言葉を聞き逃さないようにしてるんだよ?」
始まりは耳。
彼女のそれは普通の人間のそれのはずだったが、今の彼女のそれはまるでエルフかなにかのそれのようになっていた。
「……アンタの目ってそんなに大きかったか?」
「なにを言ってるの銀ちゃん。私はみんなの一挙手一投足を見逃さないようにしてるんだよ?」
次は瞳。
いつの間にかそれは大きく見開かれ、まるで大きな穴のように変化していた。
「アンタの口って、そんなに大きかったか……?」
「──バカだなぁ、銀ちゃん。私の口はね」
最後は口。
それはいつの間にか大きな裂け目のように変化し、まるで奈落を覗くかのような深淵を形作っていて──、
「君達を、決して逃さないようになっているんだよ」
そして彼らは、その闇の中に呑み込まれて行くのであった──。*2
「…………」
はて、布団から上半身を起こした銀時は、周囲を一瞥したのちに、深々とため息を吐いた上で、こう呟いたのであった。
「……再現は再現でも
どこからか響くBGM*3に、その確信を深める銀時。
微妙にイラッとするその音楽は、恐らくいつぞやか彼の仲間が枕元で口ずさんでいたもの。
要するに、今回のこれはホラーはホラーでも真っ当なホラーの方のパロ回だった、ということになるらしい。
いやまぁ、悪夢らしい支離滅裂さだったため、微妙と言えば微妙なのだが。
そんなことを思いながら、改めて周囲を見渡す銀時。
そして彼は、
「……あれ?」
自分の隣の部分の布団が、ほんのり膨らんでいることに気付き───。
「夢というものは、とかく不可思議なもの。
脳のデフラグの結果生み出されるものだとか、色々な研究がありますが……。
脳の中で起きていることを、実際に外に持ち出すことができない以上、それはある意味別の世界のようなもの。
そこでなにが起きているかなど、私達には知り得ないこと。
つまり、これが本当に夢なのか、はたまた現実なのか。
私達にはその判別方法がない、ということなのです。
はてさて、彼はこの無限構造から、抜け出すことができるのでしょうか?
それは私達にとっては、遠い遠い世界の出来事なのです……」*4