なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
雨と共に落ちぬ()
「ふぅむ、梅雨入り……ねぇ?」
窓の外を眺めれば、天気は生憎の曇り模様。
……なりきり郷の天気は、基本的に外の
そのため、この雨は外でも同じように降っているもの、ということになるはずなのだが……。
それにしては、やけに降り過ぎているような?……という感想が湧いてくる私なのであった。
「それは……そうかもしれませんね。なんだか例年よりも、雨音が大きいような気がします」
「だよねー?まさか天候操作システムがおかしくなった、なんてことはないと思うけど……」
「たーいーへーんーよーキーアちゃーん!!!」
「うわでた」
そんな私の言葉に、マシュが同意の首肯を返してくる。
……例年の雨音、とやらがパッと思い浮かばないので、こちらからの同意は返せないが……どうにも最初の疑問の通り、雨足が強いというのは間違いがないようで。
そうなってくると、予測される原因は天候操作システムの故障か、はたまた外の雨が
なりきり郷の天候操作システムは、『ARIA』におけるそれを模倣した、現行の科学技術での再現をあまり考慮していない──いわゆる特記技術によるものだ。*1
……もう少し雑に説明すると、区分的にはドラえもんのひみつ道具とかあっち方面のやつになるので、それが壊れると言うのはあまり考え辛い。*2
要するに、構成要素だけ見ていくと
無論、外部から破壊工作を施すにしても、それならそれでもっと滅茶苦茶な天候になるはずなので考慮外。
つまりさっきの疑問の答えとしては、端から外の天気がおかしいの一択、ということになるのだけれど……などと思考していると、突然部屋の中に響き渡る女性の声。
それに身構えると同時、いつもの特徴的な音を引き連れ、私の目の前にスキマが開いたのであった。
……うん、どう考えても面倒事の気配なので、こっちの反応が淡白になるのも仕方ないというか?
「なによぅなによぅ、そんなに邪険にしなくても良いでしょー!!」
「はっはっはっ。そんなに邪険にされたくないんだったら、飲みの誘い以外してこなければ良いんじゃない?」
「──それはこの話が終わったら、ってことで」
「あの、まだ本筋の話が始まってもいないうちから終わった時のことを話すのは、フラグになってしまってよろしくないのではないでしょうか……?」
「……さて、お仕事の話なんだけど」
(スルーされました!?八雲さんに問題を華麗にスルーされてしまいましたせんぱい!?)
(あー、言われて初めて気が付いた……みたいな顔してるわねぇゆかりん)
そんなこっちの態度に、露骨に不満げな顔を見せるゆかりんであったが……横合いからマシュに投げられた疑問については考えていなかったのか、はたまた単なるうっかりか。
ともあれ、彼女は先ほどまでの醜態を華麗に無かったことにして、本題の方に移り始めたのであった。……うーむ、相変わらずぐだぐだである。
閑話休題。突然家に現れたゆかりんが持ち込んだのは、やはりトラブルの一報だったようで。
「なりきり郷内の雨足が普段より強い、ってのは気付いていたかしら?」
「うん、丁度さっきからマシュと話してたとこ」
「ホント?じゃあ話は早いわね。──これ、
「異変?」*4
詳しく聞いたところによれば、どうやら外の世界では今、降り止まない雨に大層困らされている……とのこと。
無論単なる長雨であるのならば、既に梅雨入りしているのだからおかしな話ではない……ということになるはずなのだが、なんと今年の大雨、香○県のダムが溢れる程の規模なのだと言う。*5
「香○のダムが決壊するレベル……だと!?」
「いやまぁ、実際に決壊したわけじゃないわよ?ただまぁ、この勢いで降り続けるのなら、県民がうどんを茹でるより早く水が満杯になる方が早そうな感じと言うか……」
いやまぁ、この話に関してはわりと大袈裟な気もするのだが……ともかく。
各地の長雨がこのまま続けば、それぞれの場所にあるダムが溢れてしまうだろう……と予測できるくらいに雨が強い、ということに間違いはない。
ゆえに、お偉いさんからゆかりんへと「これは単なる異常気象か、それともそちらの管轄のモノなのか?」というような確認指示が出たのだそうで。
「で、詳しく調べさせて見たんだけど……どうやら『なりきりパワー』が雨の成分に含まれていたとかで……」
「いやちょっと待った。当たり前みたいな顔して唐突に出てきたけど、『なりきりパワー』isなに?」
「なにって……なりきりする時に発生する特殊なエネルギーだけど?」
「困った、説明が説明になってない」
で、それを受けたゆかりんは、郷内の科学者達に指示。
結果、外の世界で降っている雨の中に、『なりきりパワー』なるエネルギーが含まれていることを確認したのであった。
……唐突な新単語『なりきりパワー』に、皆さん困惑されてあるかと思われるが安心して下さい、私にもわからん()
どうにもなりきり──ひいては『逆憑依』に関わるなにか、ということはわかるのだが……言葉の間抜けな響きが、真面目な考察を悉く邪魔してくるというか……。
「まぁ、お偉いさん方には別の単語で説明してるけど……」
「なにっ、じゃあそれでいいじゃん?!」
「えー、でもそれって『他次元由来奇異現象誘発因子』とかっていう、眼も耳も滑るタイプの単語なんだけど……」
「……うん、『なりきりパワー』でいいや面倒臭い」
「でしょー?」
「お二人とも……っ」
だからと言って、お偉いさん方に説明する時に使われるネーミングの方は、なんというか堅すぎて使い辛い感じ。
……そのため、必要性のない(=非公式の場)では『なりきりパワー』でいっか!……という結論に達したのであった。……マシュが呆れているというか困っているというか、まぁそんな感じの空気を漏らしていたけれど、ここは敢えてのスルーである。
ともかく、この『なりきりパワー』というのは、どうやら『逆憑依』・ないし【顕象】のような存在が起こした現象などに付加される謎エネルギー、ということになるらしい。
これがもっと指向性を持つと呪力だの魔力だの、それぞれの世界観に則したモノに変化していくのだとか。
つまり、この雨に含まれているそのエネルギーは、指向性がまだ定まっていないもの……ということになるのだろうか?……この状況で??
「ああなるほど。今の時点でも一部地域が水没しかねないほどの長雨だというのに、それを引き起こしているのが
「そうそう。これで指向性──願いがないとかなんの冗談だ、みたいな?」
普通、日本全域に雨を降らせ続けるとなれば、それに掛かる労力と言うものは相応に大きくなるはずだ。
なりきり郷の周囲一帯に雨をも降らせるくらいならまぁ、私もそう労を要することなくできるかもしれないが……これが県内全域、地方全域、国全域……といった風に範囲が広がっていけば、必ず何処かでギアを上げなければいけなくなる。
そうなれば、操作する雨の中に含まれるエネルギーは、自然と【虚無】由来のモノに変化していくだろう。
……それだけの広範囲に影響をもたらそうと思ったら、それくらいしなければならないのが普通である。
しかし今回の長雨、聞くところによれば観測できるどの箇所における調査結果も、そこに含まれるエネルギーは『なりきりパワー』──すなわち
……ここに危機感を抱かない人間というのは、そう居ないだろう。
「……あ、だから『異変』って扱いなの?」
「そーいうこと。うちにおける『異変』の基準は、ともすればなりきり郷全域のメンバーを総動員する必要すらある規模のモノのこと。……貴女達の追調査の結果如何では、初の大規模作戦に発展する可能性も否定できないわね」
そうした危惧を語った結果、ゆかりんがこの事態を『異変』と呼んだ理由に思い至ったのであった。