なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……何ヵ所か回ってみたけど、元凶らしきものには出会えないねぇ」
「アイツじゃなきゃなんでもいいんだけど……全然出てこないわね」
それからも、あちこちに救援を施しつつ、元凶が飛び出して来ないかなーどうかなー、みたいな気持ちと共に歩き続けたわけだけど。
……ううむ、ここまでお膳立てしているにも関わらず、一向に
というか、なんならカイオーガもウェザー・ドーパントも雲の王国も出てくる気配がない。……最後のに関してはちょっと違うか?*1
ともかく、元凶の気配が一切ない、ということに変わりはない。
なりきり郷から出てくる前に伝え聞いた通り、この雨には
……いやまぁ、一つだけ気になることがあったりはしたわけだが。
「なによ、気になることって」
「いやね、この雨
「ぴかぴ?」*2
その気になることというのが、この雨粒が普通のそれに比べて綺麗である、ということ。
本来、雲と言うのは海水が蒸発し、上昇気流によって上空に運ばれたのち、それが冷えて水になる……という形で生まれるモノ。
ただ、この水蒸気が冷えて水になり、それが集まり雲になる……という過程には、もう一つ重要な条件が存在している。
そう、集まった水が雨になるための『核』の存在だ。
「……核?」
「雲核とか雲凝結核なんて呼ばれたりするものなんだけど……簡単に言うと空気中の埃とかだね」
エアロゾル、などとも呼ばれる空気中の微細な物体に、冷やされた水蒸気は吸着し、雨粒となる。
で、実は驚くべきことに、空気中に核となるエアロゾルが存在しないような環境下においては、水蒸気は雨粒にならず水蒸気のまま漂う……などということが起こりえるのだという。*3
実際には、海水の蒸発の際一緒に巻き上げられた塩の粒なども核となりうるため、そのような環境はほとんど発生しないらしいが……仮にそういった微細な埃が一切ないような環境下の場合、水蒸気による湿度は百パーセントを越えることもあるのだとか。
これは、裏を返すと雨粒は
「まぁ汚いって言っても核が塩の場合があるように、より正確に言えば
雨雲ができる場所というのは、基本海の上である。
そのため、核として用意されるものの多くは塩の粒。
……ゆえに普通の雨は塩が溶けたモノとなり、また降雨の最中に二酸化炭素が溶け込むこともあって、原則的には酸性のものとなる。*4
酸性雨の場合はそれよりさらに酸性が高いというわけでもないが……ともあれ中性ではない水を普通の水、ましてや純水とは呼ばないだろう。
「つまり、この雨のおかしいところは──」
「ぴかぴっか?」*5
「そういうこと~」
そう、この雨のおかしなところは、本来少なからず酸性を持つはずなのにも関わらず、雨水の性質が中性を示していること。
そしてそれゆえに、微細な塵すら含まれていないことにあるのであった。
「……雨として降ってくる以上、絶対に埃や二酸化炭素を取り込むはずだから、この雨水の中になにも──噂の指向性のないエネルギー以外のなにも含まれていない、なんてことがあるはずがない」
「なるほどねぇ……ん?ってことは、もしかしてこの雨……」
「うん、こっちの思っている以上におかしいのかも」
それらの原因が、雨に溶け込んだエネルギーにあるのであれば。
……もしかしたら、この異変はこちらが思っている以上に大きなモノなのかもしれない。
そんなことを思いながら、変わらず雨を落とし続ける曇天を見上げる私たちなのであった。
「なるほど……謎のエネルギーが含まれている、って部分に着目し過ぎて、他の部分の怪しな点を見逃していた……ってことか」
『まぁ、そういうことになるのかも……っていう予想みたいなものだけどね』
そもそも、そこまでして隠れる意味がよくわからないし……と告げ、キーアは通信を打ち切った。
その余韻を暫し眺めたのち、紫は通信機の電源を落とす。
それから、背もたれに体を預け、天井に視線を移した。
「──ってわけなのだけれど。さっきの話、どう思う?」
「そうですね……単純に考えるのならば、雨粒内の不純物を件のエネルギーが消し去ってしまった、ということになるのでしょうが……」
「でしょうが?」
そのまま、傍らに控える従者──ジェレミア・ゴットバルトに所感を尋ねてみる。
キーアの観察眼を疑うわけではないが、だからといって多角的な視点からの観察を否定するべきではない。
……まぁ、単に『うちの従者だって凄いしー』みたいな対抗心がないわけでもないが……ともあれ、そうした主人の言葉を受け、ジェレミアは率直な自分の意見を告げた。
本来、雨粒は弱度の酸性を示し、なおかつある程度の不純物を含んでいるはず……。
無論、降り始めのモノならばいざ知らず、ある程度降り続いた雨粒はほとんど不純物を含まなくなる……という常識を加えても、やはり『中性の雨である』という違和感を払拭するものではあるまい。
ならば、その違和感をもたらしたのが、あの雨粒に含まれるもう一つの要素──『指向性のないエネルギー』だと見なすのは、ごく自然なことだと言える。
言えるのだが……そこにジェレミアはもう一つ、疑問の種を差し込んでいく。
「……そんなことをする理由?」
「もしくは、それが単なる副作用であるのか……でしょうか。雨粒の中から不純物を取り除く必要があったのだとすれば、それはなんのためなのか。そうではなく、雨粒にあのエネルギーを込めた結果起きた副作用に過ぎないのであれば……」
「なんでそんなエネルギーを込める必要があったのか……ってことね。前者なら純水を各地に流す必要があった、ってことだし」
「後者ならば、エネルギーを込めた水を流す必要があった、ということになりますね」
無論、この異変の裏に誰かの思惑があるのであれば、ですが。
そんなことを告げる己の従者に、紫はフムと一つため息を吐く。
確かに、『指向性のないエネルギー』などというものを扱える存在というものは、早々存在しない。
単純なエネルギー、という意味では存在してもおかしくはないが、それが
……不自然ではあるが、同時にそんなことをできる相手に見当が付かないことと、それからこの異変が大きな【兆し】であるとすれば説明が付くこと。
それらの二点により、彼女はこの異変の裏にはなにも居ない、と考えていたが。
「……どうなのかしらねぇ。これはこっちの案件なのか、彼女の案件なのか。……少なくとも、彼女に教えて貰ったものの中に、そんな感じのモノはなかったはずだけど」
もし仮に、これが彼女──キーア関連の事件……すなわち【星の欠片】に関わるモノであるのならば、彼らが裏にいると仮定することで説明ができてしまう。
指向性のないエネルギーとはいうものの、それはあくまでも現行科学で調べた結果出てきたもの。
……現行科学では見ることのできない、極小世界をその由来とする【星の欠片】ならば、こちらに感知させない形でこの異変を起こすことだって可能だろう。
実際、先のジェレミアの言葉は、その可能性を考慮した上でのものであった。
だがしかし、紫はその言葉を聞いた上で判別しきれずにいた。
その理由は、一連の事件を受けて彼女からある程度の説明を既に受けていたから、というところが大きい。
今のところ、【星の欠片】は彼女の考えた設定に沿ったものだけがこの世界に現れている。
最近話題をかっさらったユゥイとやらは、少しばかり趣を異にしているが……それでも、設定としては確かに存在していたものを使っている、という時点で大差はないとも言える。
ゆえに、今回の異変──広範囲に降り続ける雨、というものが彼らの仕業である、とは紫には思えなかったのだ。
なにせ、不思議なことに……彼女の考える【星の欠片】の中に、
だからこそ、彼女はこの異変がどういうものなのか、ということを測りかねていた。
なにが起こるのか、なにが起きるのか、なにを起こそうとしているのか……その全てが、見透かせないまま進んでいる。
(……できれば、素直に姉が出て来て欲しいものね。いやまぁ、あれもあれで大概ではあるのだけれど)
のちに起こる問題の大きさを思い、彼女は再びため息を吐き出したのであった。