なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……なんだろう、なんか背筋に悪寒が」
「ぴか、ぴかぴーか?」*1
「いや、大丈夫。そもそも私、風邪とか引かないからね!」
「それってそんな自慢げに主張するもんなのかしらね……」
そろそろお昼だし……ってこともあって、近くの喫茶店に駆け込んだ私たち。
比較的雨の影響が少ない地域であったためか、普通に営業していて助かったが……流石に雨の日に外に出掛ける人はそう多くないということなのか、店内に客の姿はほとんどないのであった。
まぁ、こっちとしては普通に営業しているってことの方が重要なので、気にせず注文をしたわけなのだが。
そうして運ばれてきたハンバーグランチに舌鼓を打ちつつ、午後の予定を話し合う私たちである。
「一応、引き続き周辺地域の救助を行うわけだけど……元凶の捜索も大事だから、もっと大きく移動してもいいかもしれないねぇ」
「ぴかぴーか、ぴっかぴか」*2
「……思ったんだけど、アンタのパワーであの雲を吹き飛ばす……ってのはダメなの?」
「それで私以外の【星の欠片】が出て来てもいいんなら」
「ダメね、却下だわ。アンタみたいなのはアンタだけで十分よ」
まず一つめは、このまま周辺地域の救助を続けるルート。
元凶を捜索するにしても、それが何処に居るのかも何処にあるのかもわからないこの状況、闇雲に探し回るにも限度がある。……油断しているとあっという間に暗くなりそうだし。
なので、一先ずは周辺地域の安全を確保することを優先する……という、至極当たり前の行動方針だ。
欠点があるとすれば、かなり受け身のやり方なので、元凶側の気が変わったり事情が変わったりした場合、こちらの対応が遅れて甚大な被害を被る可能性がある……というところだろうか?
まぁ、これに関してはどのパターンでも起こりうる危険ではあるのだが。
次に、この地を離れて別の地域に移動するルート。
捜索に関してはまだ一日目であり、全ての場所を回りきったとは言い辛いところはあるが……同時に、ここが平野である以上見ておくべき場所はそう多くない、というのも事実。
平野部は川が氾濫した時に全域が水没しやすい、という欠点こそあるものの、それは裏を返せば、川の部分の治水がしっかりしていれば、注意するところはそう多くない……ということでもある。
川の氾濫しやすい場所、というのは基本的にはカーブ部分。*3
ゆえに、この辺りに重点的な見張りを設置し、かつ水量をどうにかできるのであればわりとそれで事足りるのである。
まぁ、言うは易し行うは難し……というやつで、氾濫しかけているくらいの水量を何処に逃がすのか、という問題があるわけなのだが。
そこに関してはちょっとズルをして、カーブ部分に海へと繋がるワープゲートを用意しておけばよい。
常に放出してると違和感が目立つので、ヤバそうな時かその手前くらいに使用を制限しておくとなおよいだろう。
さらに、現場判断による大幅放出ができるように細工をしておけば、こちらの事情を知る一般の職員さんにスイッチを投げる、みたいなこともできる。
……まぁ、流石に生身の人に現場で待機させるわけにもいかないので、その場合は定点観測モニターでもついでに設置していく形になるが。
このルートの欠点は、以降ここでなにかあった場合に戻ってくるのに時間が掛かる……ということだろうか?
あと、後を任せた人になにかあった場合が怖い……みたいな。
この大雨である、不測の事態など想定しても想定しきれまい。
で、最後。案とも言えない案として
確かに、今回の異変は長雨そのものに問題があるのだから、それを吹き飛ばしてしまうというのは、単純ながらとても大きな見返りのある手段だと言える。
……言えるのだが、様々な点から見て『実際には選べない選択肢』になっているのも確かなのであった。
まず、雨雲を吹き飛ばすと単純に言うが、それをするために必要な技の規模が大きすぎるという点。
雲そのものを操って何処かに散らす、という手もないでもないが……その場合、この雲は直接【虚無】なりなんなり、『指向性のある力』を浴びる形となる。
そのあとはまぁ、お察しの通り。
下手すると他の【顕象】や【星の欠片】が湧いてくる……などという大問題を引き起こす可能性が大である。
いやまぁ、これに関しては放置していても起こりうる可能性ではあるのだが、それを早めてしまう……というのがどう転ぶかわからない、みたいな?
では大規模火力で無理矢理吹き飛ばす、というパターンだが……そもそもの話、雨雲とは凝結した水達が浮遊し集まった塊、である。
なにを当たり前のことを、と思われるかもしれないが……ここで重要なのは、基本的に
要するに、雲を高熱で吹き飛ばしてたとしても、水という原子がそこから消えてなくなるというわけではない、という点である。
単純な火力で雲を散らしたところで、そこにあった雨達は水蒸気となって四散するだけであり、やがて再び集まって雲を形成するだろう、ということでもある。
また、仮に原子ごと吹き飛ばす方法を取るとしても……その際に必要なエネルギー量というのは、実はとんでもない桁になるのである。
「……そうなの?」
「雨雲単体のエネルギー換算の数値が思い出せないから、変わりに台風の話するけど……大きい台風だと大地震に相当するくらいのエネルギーを持っている……なんて風に試算されていたりするからね。で、それを単純な火力のみで消し去ろうとする場合、必要なエネルギーってそれより大きなモノ、ってことになるわけ。台風ならある程度範囲が絞れるかもしれないけど、これがこと梅雨時の雨雲になると日本全土が範囲、ってことになるでしょ?──地震相当のエネルギーを、日本全土の上空に向けて放射……とか、それって日本を叩き割ろうとしてるのとなにが違うの?……みたいな?」*4
「うへぇ……」
エネルギーと質量は等価である、みたいな話をしたことがあると思うが。
要するに、大規模質量を扱う自然現象というのは、ただそれだけで凄まじいエネルギーを使用していることになってしまうのである。
ゆえに、それを力ずくでどうにかしようとすると、頭の悪いことになっていくと。
で、今は単純に火力面について述べたが、本来ならば無理矢理に梅雨を無くす、ということ自体に掛かる問題というのもある。
「……と、言うと?」
「この長雨は違うけど……単なる梅雨の場合、それによって夏の水源を確保する……っていう性質もあるからね。無闇に雨雲を無くせてしまうと、夏場に水不足に喘ぐ羽目になるってわけ」
「あー、それは確かに……」
そう、日本の四季において、梅雨の後に来るのは夏である。
夏場は暑いもの、ゆえに水は蒸発してしまうものでもある。
それはつまり、夏になる前に水を確保していないと酷いことになる、ということでもあるわけで。
特に日本は水に深く関わりのある国である。
稲作のためには豊富な水源が不可欠であるし、世界一安全な水道水にしても、元となる水源が枯れていれば維持は不可能である。
それらを解消するため、日本には各地にダムが建設されているが……これらもあまりに猛暑であれば干からびてしまうことがある。
それを避けるため、梅雨の時期にはある程度の降雨を期待する、ということになるのだが……まぁ、これが中々。
「降ってほしいところには降らなくて、降らなくていいところには降る……みたいなのも多いからねぇ」
「ぴっか、ぴかちゅー」*5
例え梅雨の時期になろうが、雨が降りにくい地域にはやっぱり降らない……ということはよくあること。
わかりやすいのは例のうどんの県だろう。
あの辺りはそもそも気候的に雨が降り辛く、そもそもあそこは一年の晴れの期間が日本一の場所である。
そこにうどんのために水をよく使う、という話が合わさって、夏場にはよく水が足りない、と言っていることがある印象というか。
……いやまぁ、イメージで語っているところが強いので、実際に水不足がうどんのせいなのかはわからないのだが。
ともかく、こうして水不足に喘ぐ場所がある一方で、場所によっては梅雨の度に辺りが水没する……みたいな被害を受ける場所というのも少なからず存在している。
地名に『水』に関わる名前が含まれる場所は、そこが昔から水に纏わるなにかに悩まされたりしてきた過去がある……なんて話は既に有名だと思われるが、ともあれ水害に巻き込まれやすい場所がある、というのは事実。
そこら辺、上手いことどうにかできればいいのだろうが……自然現象を人の手でどうにかしよう、というのが割りと傲慢な話なのでなんとも。
「……ま、とりあえずだけど、午後はこの辺りを軽く見て回って、そのあと別の地域に移動する……って形にしようか?」
「ぴっかぴかちゅー」*6
「……はぁ。憂鬱ね、アイツが出てこない分には何でもいいけど、この分だと出てこないなら出てこないで面倒臭そうだし」
「言えてるー」
そんな感じで駄弁りながら、昼食を終えた私たちはというと。
さっくりと勘定を済ませ、周辺地域の軽い見回りをし。
川の決壊しそうな場所に補強を済ませ、なにかあったら連絡して欲しいと街の担当者に話を付け。
そうして、次の地域へと移動するために電車に乗り込んだのであった。