なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……まさか、運転見合せ中の地域があるとは」
「ぴっかちゅー、ぴかぴか」*1
ホームで黄昏ながら、電光掲示板を眺める私たち。
……地下鉄で線路が水浸しになる、というのはごく稀に見たことがあるが、地上部分で線路が水没している……という事態にはあまり出会したことがない身としては、なんというか「マジかー」みたいな気分でいっぱいなわけでして。
それだけ大規模な大雨、ということはわかるのだが、電車が止まるレベルなのは中々に衝撃的というか。
とまぁ、こうして私たちが立ち往生している時点でわかるとは思うが、現在線路上の一部地域が水没中とのことで、安全確認のため現在運行見合せ中とのことであった。
「……そういえば気になってたんだけど」
「ん?なんだい
「……アンタのその呼び方についても色々言いたいことはあるけど、それはおいといて。電車ってほら、線路にも電気が流れてるって言うじゃない?」
「ああうん、そうだね。……それで?」
「あれって、水没とかしたら周囲が感電する……みたいなことはないのかしら?」
「ふむ……」
で、手持ち無沙汰になったので、とりあえず駄弁ってるか……みたいなことになった結果、
日本の電車で基本的に使われているのは、『架空電車線方式』と呼ばれるものである。
……『架空』?と思う人もいるかもしれないが、これは『空想上の』という意味の『架空』ではなく、『空に架け渡す』という意味の『架空』である。
まぁ要するに、一般的に『電車』と言われて思い浮かべる形……電車の上に電線が走っているタイプのことだと思えばよい。
このタイプの電車の場合、電車を動かすための電力を頭上の送電線から引っ張ってきている形になるのだが。
その時、電車内でモーターや電灯・冷暖房などに使われた後の電流の逃げ道となっているのが、いわゆる線路になるわけである。
「……なんで逃げ道なんて必要なのよ?」
「電気ってのは回路……要するに装置が一巡してないと流れないモノだからね。逃げ道──正確には変電所への戻り道を作っとかないと、電車が動かないってわけ」*2
プラス側だけ繋いでも、その反対にマイナス側だけ繋いでも回路は動かないわけで。
プラスからマイナスへ、電気の流れやすい道を作ることで、電気というのは初めて電流になるのである。
……まぁ、その辺りの詳しい話はそれぞれ確認して貰うとして。
改めて、水没した際に周囲が感電しないのか、という話になるのだけれど。
「わかりやすく言うと、線路ってマイナス側なのよ、電極の」
「……マイナス側?」
「そ。正確には電圧の低い側、って言うべきなのかもだけれど……使い終わった後の電流の帰り道、ってことからわかる通り、線路側の電気は電圧がとても低いのよね」
具体的には、接地しているため電圧はほぼゼロみたいなもの、というか。
なので、仮に片足で線路を踏んで、もう片方を地面に触れさせていたとしても、人間に対して電気が流れることはないのだとか。
ただまぁ、電車が通ったばかりだったりすると、この電圧が少しばかり上がって感電する……みたいなこともあるみたいだが。
ただ、これに関しては感電するのは人ではなく犬や猫のような小型動物に限られるようで、人間にとっては気にするようなものではない、ということは変わらないらしい。
ついでに言うと、感電と言っても死亡事故に繋がるほどの重篤なモノではなく、人間で言うのなら『ジョークグッズの電気を流すタイプのもの』みたいな感じで、理由がわからない動物だからこそ嫌がる……というような感じになるらしいのだが。
あと、一応この使った後の電気──いわゆる帰線電流以外にも、信号や踏み切りを制御するための軌道回路と呼ばれるものに流れる電気もあるそうだが、こちらはそもそも電車の位置を知らせることを主としたモノであるため、端から電圧は大きくないとのこと。
「ただまぁ、こっちに関しては大きくは無くともしっかり電気が流れてるわけだから、水没したりすると短絡を起こしたりするみたいでねー」
「ぴっか、ぴかぴかちゅー」*3
「……ってことはつまり、感電はしないってこと?」
「乾電池を水没させても人は感電しないでしょ?……いやまぁ、水の中で電気が漏電してるのは間違いないんだろうけど、人間の皮膚の電気抵抗を抜けないんだから結局は変わらないというか?」
今ピカチュウが補足してくれたように、電車が大雨で止まるのは、基本的に信号や踏み切りが動かなくなったり、はたまた本来線路を伝って変電所に帰るはずの電気が、周囲の地面に分散してしまうという、いわゆる地絡や地気の状態になったことで変電所からの送電が(安全のため)ストップしてしまうから、というところが大きい。
逆を言うと、そういうことを気にしないでもいい蒸気機関車の時代は、多少の水没なら気にせず運行していたこともあったとかなんとか。
……まぁ、電気関連以外のトラブル──線路のある場所の崩落だとかの危険性もあって、その時より遥かに基準が厳しくなっていることは確かだろうが。
ともかく、大雨になって水没しているからといって、線路の近くにいると感電する……なんてことはないので安心して欲しい。
……まぁ、これはあくまでも地上の路線の話、ということになるのだが。
「……その言い方だと、地下鉄だと違うの?」
「地下鉄の場合、架空電車線方式じゃなくて第三軌条方式*4ってのになってることが多いんだけど、こっちは線路の隣に送電線相当の線路が走る形になってるのよね。……無論、こっちも水没したら短絡状態になるわけだから変電所からの送電がストップするわけだけど……」
「ぴっかぴか、ぴかちゅーぴか」*5
「むぅ……創作とかではよく地下鉄の奥の隠された駅、みたいなのよく見るけど……実際は早々降りられないってわけね」
残念、と呟く
「あのまま待ってても、運行再開の目処は立ちそうになかったから外に出てきたけど……」
「ぴかぴっか、ぴかっちゅ」*6
そもそもこの大雨、止む気配が一切無いのだから待ってても無意味なんじゃね?
……的な気付きにより、とりあえず水没している現場とやらに行ってみるかー、と軽い気持ちで外に出た私たち。
そうして目にしたのは、先程よりも雨足が強くなったせいで、帰れなくなる前にさっさと家に戻ろうとする人々のひっちゃかめっちゃかな往来なのであった。
……エンジンルームまで水没しなけりゃなんとかなる、とばかりに水溜まりをバシャバシャ跳ねながら走っていく乗用車に、とにかく濡れないようにと重武装した歩行者などなど、かなり混沌としていると言えるだろう。
「……私たちはひみつ道具あって良かったね……」
「って言っても、あんまり便利なのはないみたいだけど」
そんな人々の波を逆行するように、私たちは道を歩き続けている。
無論、雨に関してある程度対策ができているからこそできる行動だが……実のところ、その辺りの対策は結構難航していた。
なにせ、基本的には再現しやすく使いやすい……みたいな感じであるひみつ道具が、そういう時に限って微妙に汎用性の低いモノが多かったのだ。
効果として一番高いのは『カサイラズ』*7……一吹きすれば一日の間水を寄せ付けない、という効果を持つガスなのだろうが……このひみつ道具、なんと対象が雨に限定されていないため、飲み水まで弾いてしまうのである。
流石に炎天下以外の環境で、一日そこらで脱水症状になることはないと思うが……扱いにくい、というのは間違いあるまい。
この他のひみつ道具も、大抵は
結果、見た目的に微妙な感じのある『雨そうじ機』*10が今回の持ち出し道具に選ばれることになったのであった。……見た目まんま掃除機なので、周囲の目をごまかすために別のひみつ道具の併用が必要なのは問題点だろうか。
とはいえ、これしかないのも事実なので、仕方なくカッパと併用しながら使うことになったのでしたとさ。
……え?無理せずひみつ道具を使わずとも、カッパだけていいんじゃないのかって?
「……そうすると前が全然見えなくなるんだよねぇ……」
「ぴっかちゅ、ぴかぴか」*11
うん、半透明のツバの部分に雨が容赦なく降り込んでくるから、前が見えねーんですよこれが。
視界確保の面からしても、単純にカッパだけ着た状態ではろくに動けないのは間違いなく。
こうして、ピカチュウの背負った雨そうじ機が雨を吸うのを感じつつ、私たちは現場へと急いだのでしたとさ……。