なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「水──正確には純水が、電気を通さないってのは知ってる?」
「ああうん、有名よねその話」
さて、装置を片付けたあとは説明タイムである。
純水が電気を通さない、というのはサブカル方面ではわりと有名な話*1であり、またこれは電子機械系の工場などでは、実際に実感する形で関わってくるモノでもあったりする。
「そうなのか?」
「精密機械の埃なんかを取る時に、純水で洗い流す……みたいなことをする場合があるからね」
水には電気が通る、という一般的な常識からすると奇妙なことではあるが、純水が電気を通さないということを知っていれば、ある意味納得できる使い方ではあるだろう。
それが、精密機器の掃除の際に『純水で洗い流す』という行程である。*2
無論、そのまま放置するのは良くないので、しっかりと乾かす必要性はあるが……クリーンルーム*3などの埃の舞わない環境であれば、その場で乾かしておくというのでも一応問題なかったりする。
……ともかく、純水が電気を通さないという性質を持つことにより、色んな場所で活用されているということは間違いあるまい。
「……ん?じゃあ今の危ないやつはなんだったわけ?」
「その説明をする前に、今の宇宙の状況を理解する必要がある。長くなるぞ?」
「いや、唐突になんの話してんのよ?」
ただそうなると、さっきの実験になんの意味があったのか?……というところが疑問点となってくる。
なにせ、今回降ってきている雨が純水であることは、先の検査結果から既に周知の事実。
このままでは単に、その検査の結果を確定させた……くらいの意味合いしかないということになってしまう。
そこで必要となってくるのが、今の宇宙の状況……もとい、
「……しんくうかのでんきていこう?」
「なんで棒読み……ええとね、真空状態の時の電気抵抗って、ほぼ電気が通らないくらいに強いのよね」*4
「……そうなの?」
「まぁ、そもそも
真空というのは、文字通りそこになにもない空間のこと。
電気の流れ方については以前述べた通り、物質内の電子が押し出されることによって起こるもの。
すなわち、押し出される先も押し出した後もない真空というのは、そもそも電気が
「ところで、
「え?なのです?」*5
「……なんでそっちに行ったし」
「ちょっとした冗談よ……ええとあれでしょ、電気の凄いやつ」
「かなりふわふわとした返答!」
さて話は移って、プラズマについて。
これは物質の第四の状態とも呼ばれるモノであり、言ってしまえば空気よりもさらに拡散した状態、みたいなモノのことである。
この状態になると本来原子に紐付いている電子が分離し、電荷を帯びた粒子が無秩序に飛び回るようになるのだが……この状態に物質を変化させるためには非常に高い温度を加えるか、はたまた
「……ふむ?」
「こう聞くとなんかややこしいモノに思えるかもだけど……例えば蛍光灯だとか、あとはプラズマテレビなんかにも使われている、とても身近な存在なんだよね」
「……あ、あのテレビって本当にプラズマ使ってたのね?」
……なんかさっきから
ともあれこのプラズマ、温度を上げて作るのは難しくとも、高い電圧を掛けて作り出す分には、意外となんとかなるモノだったりする。
それを可能とするのが、
「……んん?真空放電??あれ、ちょっと待ちなさいよ、真空って絶縁体だから、電気って流れないんじゃないの?」
「確かに、真空中には
「はぁ?」
先ほど真空は絶縁体であり、通電はしないと述べたが……真空の特徴というものをもう一度思い浮かべて欲しい。
──そう、真空とは『なにもない』場所。……それは裏を返せば、
「……???」
「放電っていうのは、
正確には、低気圧下の気体内を放電させることを『真空放電』と言うそうだが……その辺りの解説は今は省くとして。
ともかく、気圧の低い環境下においては放電が起きやすい、というのは事実であり、それを様々な物事に利用できるようにしたのが『真空放電』である。
この
なにせ、自然界に存在するプラズマ──雷は、空気中を絶縁破壊しながら進むために
とはいえ、その辺りの細かい話は今回の部分には関係ない。
ここで重要なのは、
「……なるほど。つまりはこういうことかな?例え純水という絶縁体であったとしても、
「そういうこと。アニメのピカ様が地面タイプに電気を通してて文句言われたことがあるけど、実際雷級の電圧を掛けられて完全に電気を遮断できる物質、なんてのは存在しないようなものだからね」*7
そう、どんなに電気抵抗率の高い物質であれど、それには限度と言うものがある。
いやまぁ、今の人類がそれを見付けられていないだけ、という可能性も無いではないが……少なくとも、人の見付けた物質の中で、どれ程の電圧を掛けられても絶対に電気を通さないもの、等というものは存在しないのだ。
無論、純水の電気抵抗が優れていることは間違いない。
だが、純水を絶縁体として使おうとすると諸々の問題がある、というのもまた事実である。
「ええ……まだなにかあるの……」
「あるよー。さっき真空はなにもないところ、って言ったけど。
「……はぁー?いやおかしいでしょそれは?」
その問題と言うのが、純粋な水と言うものがある意味真空に近いものである、という点。
無論、これは
だがしかし、その疑問は『水』というものの性質をよく知らないからこそ出てくる疑問である、という風に返すことができてしまう。
「水の性質……?」
「炭酸水とかあるでしょ?あれには二酸化炭素が溶け込んでる、ってことになるわけだけど……それ、どれくらいだと思う?」
「え?えーと……半分くらい……だと多そうだから、四分の一くらい?」
「残念、正解は炭酸水の容量の二倍以上でーす」
「……はぁ?」
「まぁ、二酸化炭素が水に溶けやすいから、ってこともあるんだろうけど……コーラとかだと二酸化炭素の他にも砂糖とかも溶けてるってことになるわけだから、あのペットボトルの中にどれだけのものが溶けてるのか、って話になるよね」
そう、水の持つ性質というのは、水の中に様々な物を溶け込ませる力が強い、ということ。
純水とは不純物の含まれないモノであるために、この『物を溶け込ませる』力が普通の水よりも遥かに強いのである。
つまり、例えば純水をそのまま普通の環境に放置している場合、ただでさえ水に溶けやすい二酸化炭素などが自然と溶け込んで行ってしまうのだ。
そしてそれゆえに純水は純水ではなくなり、結果として絶縁体としての力を失う……と。
また、例え電気を通さないとは言っても、電荷の掛かっている状況下では水面において空気との反応が起きていたりする。
そこから電気の通る道が出来上がる……なんてことは普通に予想の範囲内。
つまり、どこぞの作品のように、純水を纏い電気を防ぐ……みたいなことは現実的には不可能だ、ということになるのだ。
ではそれらの情報を総合した上で、先ほどの実験について改めて見てみよう。
一千万ボルトという臆面をそのまま信じるとしても、現実世界の雷の電圧の十分の一であり、絶縁破壊を起こせる可能性は十分にある。
また演出面からしてみても、空気中を放電しているということは本来雷と同程度の電圧を保っている、と考えてもおかしくはない。……まぁ、これに関しては空想科学めいているため、参考程度の話だが。
ともかく、先のピカチュウの必殺技が純水の電気抵抗を貫通するに足る電圧であった、と見なすことは十分に可能。
だが結果はどうだろうか?先の装置は結果として明かりが灯らず、電気が通っていないことを如実に示していた。
つまり、これらが示すことはただ一つ。
「この水、単なる純水じゃないってことよ」
「な、なんですってー!!」
この水は、本当の意味での絶縁体だ、ということだ。