なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……なんか、外観よりも遥かに広くないここ?」
「人外共が挙って集まって来てるんだ、空間ぐらい歪むってものだろ?」
「うーん否定できない……」
群がってくる天使に悪魔、その他スケルトンを盛大に吹っ飛ばしつつ、建物の内部を駆け上がっていく私達。
一応チェイテ城・ピラミッド・姫路城という基本的な構成要素に変化はないみたいだけど……、なんというか、階段までの距離が長い……ような気がする……?
こう、明確に絶対的に広い、という感じではなく。
ふと気がつくと「あれ?なんか結構な距離を走らされているような?」みたいな気分になるというか……。
……んん?そういえば距離に関係する力を持った人で、ハロウィン……というか、
なんてことを思ったのがキーだったのか、私達の前に突然黒い靄が現れる。
「んおっ!?なんだこりゃ、影……か?」
「シャドウサーヴァントっぽいわね、これ。……っていうことは中ボス?とことんイベントじゃない」*1
「それエリちゃんが言うの?……しかしまぁ、信仰や畏敬から形作られるってのは本当だったみたいだね」
「……ん、ってことはアレか、
「ああ、うん。
私達が見る前で、件の影はその形を徐々に整えていく。
ただの黒い塊だったのが、球体の頭と棒の肢体を持つ姿になり、そこから肉が付き・服が生え・武器を創生し──。
一分にも満たない時間で、ただの黒いシミだったそれは、しっかりとした人の姿へと変化していた。
もっとも、どれだけ姿を変えようとも影は影。
色のないその姿は、その外観のみで自分が何者であるのかを主張していた。
「小野塚小町。『距離を操る程度の能力』を持った、歴とした死神だよ」*2
波打つ大鎌を携えた、三途の川の船頭。
その影を写し取ったモノが、私達の前に立ち塞がっていたのだった。
FA T A L B A T T LE
1/1
「……?!
「いや、なにをわけわかんないこと言ってるのよ子ネコ……」
明確に戦闘に入る前に何か見えた気がしたけど、そこらへんはどうやらメタい話だったようで。
……どうでもいいけどFGOのハロウィン戦闘曲はどれもいいよね、個人的には『超極☆大かぼちゃ村』の時の『鮮血魔嬢』アレンジが一番好きだけど。*3
まぁ、その辺りは個人の好みなので置いておくとして。
目の前にいるのは、東方のキャラクターである小野塚小町を写し取ったと思われる影。……さっきまでの距離感の狂いが彼女の仕業だとするなら、これは結構な難敵かも知れない。
「影だが技能は同じかも、ってわけか!じゃあ仕方ない、キーア、ギントキ、エリザ!ここは俺に任せて先に行きな!」
「……はっ?いやいやなんでそんな
下手に長期戦になるとヤバいかも、みたいな感じで攻略法を考えていたのだけれど、唐突にダンテ君が
いや、ダンテ君が言ってる時点で死亡フラグも何もあったもんじゃないわけだけど、それでもまぁびっくりするのは仕方ないわけで。
だから私が思わず聞き返してしまうのも、ある意味既定路線なのだった。
「なに、そもそも時間が勝負だっていうなら、中ボスに全員で掛かるよりも、元凶に一発ぶちかまして終わらせた方が早いだろう?……生憎相手のお嬢さんは、すんなり通してはくれなさそうだ。だったら一人置いて残りは先に進む、ってのは理に適ってるだろ?」
「うーん、理屈としては間違ってはないんだけども……まぁ、ダンテ君が負けるとも思えないし、ここは任せちゃおっかみんな?」
「まぁ、時間経過がヤバいってんなら吝かでもねぇっつーか、そもそもこいつがくたばってる姿を想像できないっつーか?」
「おっと?……おいおい、随分熱いラブコールだなギントキ。実は俺のファンだったか?」
「はぁーっ!!?違いますぅーっ!!調子に乗らないでくれますかぁーっ!?」
「……これ、照れ隠しなのよねきっと?」
「しーっ、おっさんのツンデレって扱い難しいんだから、安易に触っちゃダメ」
「はぁい」
「ちょっとォ女子ぃーッ!!?勝手に俺のことツンデレ扱いすんのやめて貰えますぅーッ!!?こちとら生まれてこの方、甘いもん一筋なんですけどォーッ!!?」
そうして聞き返した上で戻ってきたのは、ほぼほぼこちらが考えていたものをそのまま発展させたもの。
……まぁ、どこもかしこも異常ばかり、根本から断たないとどっちにしろダメだろうというのは、難しく考えずとも分かる話だ。
というか、幾ら血の気が多い組がそこらで頑張ってると言っても、対処できる数には限りがある。
討ち漏らしが出ると後々禍根になりかねないのだから、全部綺麗に終わらせるしかないのだ。
なのでここは彼に任せて、小回りの効く私達はさっさと次に向かおう、ということになったのだけれど。
……水と油というか、寧ろ一周回って相性がいいのか。
からかわれてる銀ちゃんというのは、なんかちょっと面白いというか?
そんな感じで若干の緊張を解しつつ、改めて次の動きのタメに入る。
「はっはっ。……まぁ、そんだけ元気なら、俺の手伝いはいらないよな?」
「へっ、言ってろ。お前がアイツを倒す前に、こっちは全部終わらせてやらァ」
「いい啖呵だ。……じゃあ、行きなっ!!」
「へいよー、ヘイ銀ちゃんっ」
「お?おおっ!!?いやちょっと待って飛ぶの?俺を抱えて飛ぶのっ!!?」
「そっちのが早いからねえ」
「まままままままてまて心の準備があああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「最後まで締まんねぇ奴だなアイツ……さて、待たせたなお嬢さん。
高速でかっ飛ぶ私達と、背後から響く剣撃と銃撃の音。
このお祭り騒ぎも、そろそろ終わりが見えてきたようだ、なんてことを呟きながら、
「……アレッ!!?さっきまでの地道な道のりはッ!?」
「え、気付いてなかったの銀ちゃん?貴方に合わせてたんだよみんな」
「なん……だと……っ!?」
いや、だって三人とも飛べるし。*4
みたいなことは口にはしなかったけど、なんとなく察したらしい銀ちゃんは大声でこう叫んだのでしたとさ。
「俺完全にハンデかなんかじゃねぇかァァァァッ!!!?」
「で、チェイテのライダー・小野塚小町、ピラミッドのランサー・聖帝サウザー、姫路城のセイバー武蔵ちゃんという三人の配下を打倒し、ついに天守閣で今回の黒幕が……」*5
「いやその、ちょっと待ってくださいせんぱい。整理、整理しますのでっ」
ハロウィン騒動も終わり、周囲の喧騒も随分と落ち着いてきたある日のこと。
マシュに「私は前線にいませんでしたので、詳しい状況を知らないのですが、あの日は一体何があったのでしょう?突然の爆発に、咄嗟に宝具を開放した事は覚えているのですが……」と聞かれた私は。
マシュに宝具を使わせてしまうほどに、切羽詰まった状況を引き起こしてしまった負い目から、あの日のことを仔細に語っていたわけなのだけれど。
……その、マシュさんや。
これ中盤も中盤なんで、ここで混乱してると後が辛いよ?みたいな気分になっている。
「え、ここからまだ何かあるのですか?というか、今せんぱいは黒幕が現れたとか仰っていたような……?」
「甘いなマシュ、黒幕が現れたからそれを倒して終わり、とか。……そんな簡単に終わってくれるわけないじゃんか。ハロウィンなんだぜ?」
「せ、せんぱい!目が?!目が据わっています!!?」
ははは。よーく聞くんだマシュ。
ハロウィンを理解すること、それはすなわち世界を──ひいては宇宙を理解することにも繋がる、とてつもない大偉業なんだ。
そう、ハロウィンとはつまりは宇宙、世界を構成し世界を創造し世界を破壊し世界を輪廻させる万能にして唯一絶対の真理これこそが宇宙の心つまりはヒイロってことはツインバスターライフルブッパだこれにより全ては光に包まれるえそれはおかしいだろうって何を言っているんだハロウィンの重力に引き摺られてイデが発動しかけたんだぞまさかハロウィン中に世界を救うような戦いをしなければいけないとは思わなかったよっていうかなんでイデとエリザ粒子が互いに拮抗してんのまさかのエリザ粒子は滅びようとする力すなわち負の無限力だったとかくけけけけけけけけけ
「落ち着いて、下さいっ!!」
「ぬわーっ!!?」
……はっ!?私は一体何を!?
なんか、凄まじく悪い夢を見ていたような気がする……。
いやそんなまさかな、世界の真実がハロウィンだったとかありえないありえない。
…………………。
「ハロウィン最高!ハロウィン最高!お前もハロウィン最高と叫びなさい!」*6
「せんぱいいい加減に目を覚まして下さい!!」
「ふぐらばぁっ!!?」
……今日のマシュはアタリが強いなぁ。……がくっ。
「……やはりハロウィンは封印してしまった方がいいのではないでしょうか……?」
「さてなぁ、閉じ込めてもいつかは出てくる……ってのもお約束だと俺は思うんだがね」
「おいこら怖ぇこと言ってんじゃねーよダンテ、折角無事に終わったってのに、またあんな目にあうのとかゴメンだぞ俺は……」
「まさか私も、全人類の意思を前に大ライブを開催できるとは思ってもいなかったわ……」
「え、エリザベートさんのライブがなければ、少なくとも銀河が一つ蒸発していたと聞いたのですが。その、それは本当のことなのでしょうか……?」
「第六文明人*7、だったかしら?実際にはイズモの時のそれが、消えずに残ったままだったから成長したもの、らしいけど。……本家のそれより遥かに弱いって話だったけど、あの時は
今日も今日とて、ラットハウスは盛況だ。
一つのイベントを無事に終えた戦士たちは、次の戦いに向けて束の間の安息に身を委ねている。
そんな俄に騒がしい店内のテーブルの一つに、祝賀会と称して集う男女の姿があった。
今回の一番の功労者と目される彼らは、思い思いに話し、飲み、騒いでいる。
「
「でもでも、実際そんな感じだったのよ?私一人じゃ、アレだけのエリザ粒子を完全に掌握するとかムリムリ!」
「アレに関しちゃ、こいつの力添えもあったような気がするがな」
「そうだよそういやそうだった、お前何ちゃっかり新しい武器とか手に入れてんだよ、しかも綺麗な姉ちゃんに変身するだぁ?そんなんチートやチーターや!」*11
「そりゃまぁ、ダンスの正当な報酬ってもんだ。ギントキだって何か貰ったんだろ?」
「『腰だめに構えて突撃すると、相手の足に絶対刺さるナイフ』とか、俺にどうしろっつーんだこんなもんっ」*12
男の発言に、皆が笑みを浮かべて楽しげに食事を摂る。
一人足りないのは──まぁ、彼女も疲れを取る時間が必要だ、ということで。
そんな喧騒を耳にしつつ、
「おや、トリムマウはもうお休みかい?じゃあまぁ、良い夢を。ハロウィンも終わったんだ、ゆっくりする時間は幾らでもあるだろうからね」
主人よ、そういうのフラグっていうんだぜ、とは答えず。
ただ一言「ぴか」とだけ呟いて、俺は目蓋を閉じるのだった。
──なりきり郷の夜は、長い。*13