なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「えっと、確かに私はゆかりん*1とも呼ばれますが、どこかでお会いしたことありましたか……?」
「ああごめんなさいごめんなさい!さっきまで一緒に居た人が「ゆかり」っていう名前だったもので!つい!」
「ああ、八雲さんのお客さんだったんですね。それはそれは」
困惑した表情を浮かべていたゆかりさんに頭を下げて謝罪。
……うむ、ニュートラルな感じのゆかりさん*2でよかった、これではっちゃけ系だったら目も当てられないことになっていた所だった……。*3
ひそかに胸を撫で下ろしつつ、改めて対面のゆかりさんを眺めてみる。……パッケージの彼女がそのまま現実になったような姿だった。うーむ、ゆかりさん可愛い。*4
「あら、ありがとうございます。世辞*5だとしても、嬉しいものですね」
「世辞じゃないですよー。……いやまぁ、ゆかりさんなら言われ慣れてるでしょうけど」*6
「ふふふ、お上手ですね」
「いえいえ」*7
そんな感じで話をしていたら、袖を引かれる*8感覚。……なんじゃらほい*9、と視線を横に向ければ、
「むー……」
(や、焼きマシュマロ*10、だと……っ!?)
楯がこちらの袖を引いて、小さく膨れっ面を見せていたのだ。……まさかの焼きもちマシュである。レアショットなのでは?*11っていうか楯の自意識ホントにどっか行ってるなこれ?
「その、楯さんも私と同じく、せんぱいが自分を放っておいてお話ししているのは、ちょっと気になるみたいではありますが!」
「え、楯も焼きもち焼いてるの?……マシュに引っ張られてないそれ?」
「知りません!」
「ありゃ」
……むぅ、まさかゆかりさんと話してたら楯がそっぽを向くとは……。せんぱい、バッジが足りなかったか?*12
って違う違う、ちょっと目の前の光景に現実逃避してたけど、そうじゃなくて。
「ふふ、仲が宜しいんですね」
「……あー、一応それなりに長い付き合いだったよね?」
「……せんぱいと楯さんの事でしたら、その通りですね。中学時代からの先輩後輩の関係であった、と言う記憶が私の中に存在しています」
「へぇ、そりゃ長い付き合いだねぇ」
……一つ違いの同性の知り合いだったので、昔からよくつるんでたってのは確かだけども。……なんだろう、なんか話が変な方向に行きそうな気がするから、別の話に切り替えなくては。
「と、ところでゆかりさんは、ここにどのようなご用事で?」
「ごまかし方が下手ですね、キーアさん。お食事処ですることなんて、決まっているじゃありませんか」
「……そういやここ飯屋だった」
完全に自爆*13である。
くすくす*14笑うゆかりさんと、なんとも言えずに沈黙する俺、そしてその横でちょっと拗ねてる楯と、ニヤニヤしてる五条さん。
……微妙に居たたまれないこの空気は、ゆかりさんが頼んだ料理がテーブルに運ばれてくるまで続くのだった。*15
「なるほど、案内の途中で八雲さんが用事に呼ばれてしまったと。それは災難でしたね」
「なんかもう結構長居してる気がする*16けど、俺達今日ここに来たばかりなんですよね。なので中に何があるのかとか全然わからなくて」
「……そうですね。この建物、通称『なりきり郷』ですが、八雲さんを筆頭とした空間拡張技能*17持ちの方々の協力により、外観よりも遥かに広い敷地面積を有しています。迂闊に歩き回ると迷う*18、というのはあながち間違いとも言いきれませんね」
「やっぱり……」
ゆかりんに最初に連れてこられた社長室っぽいのは、窓があって普通に外が見えたけど、見た感じに普通のビルの一室、といった感じの部屋だった。
対してこの料理屋街、どう見ても地下街の規模だった。
……流石に梅田*19とか新宿*20レベルじゃないだろうけど、それでもまぁ、一般的な政令指定都市*21の地下街くらいの広さはあるように思えたので、多分空間弄ってるんだろうな、とは思っていたのだ。
……ゆかりん以外にもそういうことできる人が複数居るみたいなのが、ちょっとだけ不穏にも思えるのだけど。いや、規模どんだけさこの組織……?
「ドラえもんなんかも居ますしね。……まぁ、想像通りのものかどうかは、ちょっと返答致しかねますが」
「え、なんなんですかその言い渋り、やべー系なんすかまさか?」
「さあ?私の口からは、なんとも」
「うっわ聞きたくないような聞いといた方がいいような……」
ドラえもんでやべー系……ちょっとシモが入ってるくらい*22ならいいけど、もしネズミ撲滅系に動く*23ようなのだったら……。
い、いや!そういうのは再現力足りないからひみつ道具も制限掛かってるはず!はず……。掛かってるといいなぁ……?
「せんぱい、心配のし過ぎは宜しくないかと」
「……せやね」
楯に言われて小さく息を吐く。
正直原因も分かってない内に被害者みたいな人達を疑っても仕方ない。
今はまぁ、これからどう動くかを考えることにしよう。
「……そういえば、ここ場所的には何階になるんです?」
「そうですね、地下三十八階ですよ」
「ぶふっ!?」
あぶね、危うくゆかりさんに水ぶっかけるところだった……。
というか、思っていたより遥かに地下やんけ!?なんやねん地下三十八階って?!
「地下の特定階に住みたい!……って方がそれなりに多かったそうで、結構な深さまであるみたいですよ?無論、空間拡張を使っているので、本当に地下にあるわけでもありませんが」*24
「ああ、隠しダンジョンの裏ボス勢……」*25
なんとかと煙は高いところが好きと言うけど、逆に裏ボス達は深いところに居るのが好き……みたいなのがあるのだろうか?
わからんけど、あんまり好き勝手出歩くとエンカウント*26するなこれ、というのは理解できた。……地図とかないんだろうかここ……。
「ふむ、案内人が欲しい、ということでしょうか?」
「あ、はい。ゆかり……八雲さんが戻ってくるまでここで待つというのもあれですし」
「確かに。何時までも何も頼まずに居座るとか、飲食店からすれば営業妨害以外の何者でもないですしね」*27
「……はい、その通りです……」
ゆかりさんの言葉に小さく頷く。
……流石にまーだ大丈夫みたいだけど、あんまり長居するといい顔はされないだろう。
おあいそ*28をさっさと済ませて、外に出るべきだとは思っている。居るのだけど……ダンジョンに装備無しで放り込まれるのは勘弁願いたいというか*29……、せめてどっかで主神様とか紹介して貰えねーですかね?*30
「主神様のあてはありませんが、案内人のあてならありますよ?」
「なんと、あなたが神か」
「拝まないでください、ここそこら辺緩いので、いつの間にかゆかり神とかに奉り上げられかねませんので」*31
「それはまた、なんと言うか……」
時空の歪みが神性*32まで付与できるようになったというのか!?
……いや、別に宣言したら取れたりするし言うほどでもないのか……?*33
神との戦いを続けていた記憶がある*34からか、微妙な表情を浮かべている楯を横目に、ゆかりさんに案内人の紹介を頼み込む私。
ゆかりさんは快く了承してくれたあと、スマホを操作して何処かへと連絡を取り始めた。……端から聞くぶんには、快諾を貰えたようで。相手はすぐにこちらに来る、とのことだった。
そして、相手を待つことさらに五分ほど。
「んも~、ゆかりおねいさんってば、熱烈なラ・ブ・コールなんだからぁ~」
「はい、お久しぶりですねしんちゃん。まぁ今日の私はこれでさよなら、なんですけど」
「おお、おひさしぶり~。……それと、相変わらずゆかりおねいさんはクールだゾ……」
「しんちゃんにはこのくらいが丁度いいんですよ。そもそも、私以外にも粉かけてるでしょう、貴方」
「ゆかりおねいさん酷いゾ!オラ、いつだってしんけんなのに!らんすろーのおじさんも、『美しい女性に優しく声を掛けるのは紳士の役目』だって言ってたゾ!」
「『らんすろー』……?」
「マシュスト……いや違うギャラハッド*35分ストップ、落ち着けマジで落ち着け」
そこに現れた人物と、ゆかりさんが仲良さげに会話をしている。……圧倒的コミュ力の塊*36だし、そこはわからないでもない。
なんかいつの間にかどこぞの湖の騎士*37と仲良くなってるのも、まぁ、彼ならわからんでもない。……だから落ち着け楯の上のマシュの中のギャラハッド、ここで話をややこしくしようとするんじゃあない。……いやそもそもここでギャラハッド出てること自体がすでにややこしいわけだが。
ややこし過ぎる話はとりあえず置いておいて、改めて呼ばれてやってきた人物に視線を向ける。
こちらの視線に気付いた彼は、軽く右手を上にあげて、こちらに挨拶をしてくるのだった。
「オラ、野原しんのすけ!おねいさん達は、なんてお名前?」*38
……案内程度に
思わず襲ってきためまいを抑えつつ、俺は彼に笑みを返すのだった。
「ほうほう、ごじょーおにいさんに、マシュちゃんに、キーアおねいさんね。じゃ、こんごともよろしく~」
「ああ、うん。宜しくね。……ねぇキーアさん?なんでそんなカッチカチなの?」
「宜しくね、しんちゃん。野原しんのすけって言ったら、春日部のセイヴァーのあだ名すらあるやべーやつなんだよ、なんで五条さんは寧ろ知らないのさ?」
「は、はい!よろしくお願いします、しんちゃんさん。そ、それほどまでに高名な方なのですか?人は見掛けに寄らない、と言うことなのでしょうか……?」
ちゃうんやマシュ、日本人ならわりと一般教養なんや……。
……憑依元の知識の閲覧可能域がわからねぇ、どうなっとんのや一体。
いやと言うか、わりと普通にしんちゃんとか呼ばれるとは思ってなかったというか。
案内っていうから、もうちょっと普通の人が来ると思うじゃん?……いや、しんちゃん案内なら色々あっても最終的にはどうにかなるだろうけどさぁ……?
そんな感じに三人でひそひそと話していたのだけれど。ふと、視線を五条さんの後ろに向けたら、その後ろに、しーっ、とこちらに指を立ててジェスチャーをしてくるしんちゃんが居て。
……ああ、クロスオーバーお決まりの、風間くんポジ……。*40
「ん?どこ見てるのキーアさ「ふーっ……」あひぃっ」
「おお、もう……」
……普通の五条さんなら絶対出さない声。
逆憑依で無下限術式がちゃんと使えてないからこそ、起こりえたある種の奇跡。……いやまぁ、しんちゃんが五条さんの耳に息を吹き掛けただけなんだけど。*41
「何してるのかな君は……っ!?」
「んもー、人を待たせてるのにひそひそ話とか、オラぷんぷんだゾ!」
間抜けな声を出してしまった羞恥で口元をひくひくさせる五条さんと、両手を頭の後ろで組んで「オラ、不満です」と全身で示すしんちゃん。
……うん、これに関しちゃこっちが悪い。素直に謝ろう。
「ごめんね、しんちゃん。ちょっと俺達、色々テンパっててさ」
「なーんだ、そーゆーことは最初に言ってよねー。キーアおねいさんが『レーダー』なんでしょ?」
「えっと、『リーダー』?」
「おおっ、そーともゆー」
……うーん、完全なしんちゃん節。*42
何故かおねいさん扱いされていることに疑問がなくはないけど、なんというか安心してしまうやりとりだった。
「えっと、せんぱいは一応このようなお姿ですが、精神的には男性にあたる方です。おねいさん、と言うのは……」
「んもぅ、マシュちゃんはお堅いゾ。オラ、こーゆー人*43とはお付き合いがいっぱいあるから、対応には『吉日の豹』があるんだゾ!」
「……えっと、『一日の長』*44?」
「おおっ、それそれ~。ごじょーおにいさんも、なかなかやりますな~」
……いやこれ、どっちかと言うとマシュが『マシュおねいさん』じゃないほうが重要だな?*45
そんなことを言い合いながら、外に出る俺達。
昼を少し過ぎたくらいなので、人通りは並みくらい。……しんちゃんの背を見失うようなことは、多分ないだろう。
「じゃあ、おねがいできる?」
「ブ・ラジャー!みんな、オラについてきて~」
こうして、私達は天下無敵の五歳児の背を追いかけ、建物内を探索することになったのだった。