なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……はい?私の話……ですか?」
キョトンとした顔の私の後輩──マシュに、こちらは大袈裟に頷きを返す。
このなりきり郷に来てはや何ヵ月。
お互いに色々とやっている為、案外相手の行動とかやってる仕事とか、知らない部分が結構ある。
なので、たまには親睦を深める意味も込めて、相手の話を聞くのもありではないか──そう思ったのだ。
「親睦、ですか?……いえでも、せんぱいと私は普通に仲の良い間柄だと思いますし、今更そこを確かめるのも……」
「甘いぞマシュ!将来はアイコンタクトで戦闘、炊飯、掃除、談話ができる間柄になることを目標にしているー*1、とかみたいなことを言っていたけれど!でもやっぱり重要なことは、言葉にしないと伝わらないんだよ!」*2
「え、そのそれは、あくまで私ではない私の台詞でですね?というかせんぱい、何かごまかそうとしていませんか!?」
「してないぞー、決してちょっと最近後輩のことがわからなくて怖いとか、そんなことはこれっぽっちも思ってないぞー」
「それはほぼ答えを言っているようなものなのでは!?」
なんて感じに会話をしながら、マシュの一日を追う物語が始まるのでしたとさ☆
──月曜日。
週の始まりであるこの曜日ですが、私達は所属が所属のため、他の曜日との大きな差はそれほど存在していません。
元の
月曜日は……基本的には戦闘訓練を熟していることが多いですね。
先日の魔王信長の顕現、神霊達の跳梁跋扈、襲いくるハロウィンの魔の手……。
戦闘を行えるなりきり組の皆さんは、暇をうまくやりくりして、体を動かす習慣を付けようとされていますが……その理由の大半は、最近になってどことなく周囲が騒がしくなってきたから、なのだと思います。
私は……その、以前から
「マシュと戦うのは、これで何度目かしら?」
「はい?……えっと、すみません。戦闘行動を数える、というような習慣はなくて……」
その日は確か……同じレベル5である、シャナさんとの訓練でしたね。
せんぱいと戦っていた時と違って、最終決戦近くまでの戦闘技能を完全にモノにしたらしい彼女は、名実問わずなりきり郷の最強の剣とも呼べる存在へと変貌を遂げていました。
このことを彼女に言うと、「その最強の剣、全部防いじゃうじゃない貴方」と苦笑を返されてしまうのですが。
……そこは、その。せんぱいの頼れる後輩として、譲れない部分だと申しますかっ。
「ああ、別に何か悪いとかじゃなくて。……所詮は模擬戦なんだけど、こうして真正の盾使いと戦うって経験が殆どないから、ね?」
「あ、はい。私も、今のところは自分以外の盾使いにお会いしたことはありませんので、盾持ちとの戦闘機会というもの、それ自体が希少なものであるとは理解しています」
戦闘終わりには、こうしてお茶をご一緒することがあるのですが。
シャナさんはなんというのか……そう、
「……なにそれ?私は普通にしているだけなのだけれど」
「物語の終わりを迎えた
「考えすぎよ。……第一、私も
不満げ……というよりは淋しげ、というべきでしょうか。
なりきりである以上、本人そのものではない私達ですが──同時に、元の繋がりを恋しく思ってしまうのも事実。
この辺りは虞美人さんが顕著ですね、この間も『ミュウツーの逆襲』をご覧になりながら「項羽様っ!!?項羽様がかくも愛らしい姿にっ!!?」みたいなことを仰られながら爆砕していましたし。*4
……一緒に鑑賞していらっしゃったココアさんが、「んもー、ぐっちゃんってばまた興奮してー」みたいなことを仰っていたのですが、あれはなにかしら注意を促すべきだったのでしょうか……?
「虞美人……アイツもアイツで割と謎よね。所構わず爆砕するし、封印処置とかされそうなものだけど」
「あ、それに関しては八雲さんが『ぐっちゃんを縛るのとかムリムリ。なんだか知らないけど封時系なーんにも効かないもの』と仰っていましたよ」
「……いや、バグかなにかなのアイツ……?」
そんな感じに楽しくお話をして、大体お昼になる前くらいには戦闘訓練の類は終わっていることがほとんどです。
それから、ラットハウスに向かって……。
「ん、キミはいつも通り、時間ピッタリにやって来るね。今日の賄いは端肉で作ったハンバーグだ、すぐできるから座って待っているといい」
「はい、いつもありがとうございます」
「なに、気にすることはない。私も半分くらいは趣味だからね」
お昼時の開店前に店内に入って、早めの昼食をライネスさんと会話しながら摂り、そのまま食器の片付け・店内清掃・豆類の準備などを済ませ、正午丁度にラットハウスは開店を迎えます。
朝のうちに店を開けないのは、その時間に店にいる人間がライネスさんしかいないからだそうです。
「もしバイトというか、他のメンバーが増えたら考えるよ」
とはライネスさんの弁ですが……ココアさん、
「いや、ウッドロウ。君、私の代わりに返事するのはどうかと思うのだがね?」
「なに、気にすることはない。この喋り方自体、君とは然程変わらないわけなのだからね」*5
「流石に声色でわかると思うのだけれど?!」
「ウッドロウさんも、いつの間にか増えていらっしゃいましたよね……」
先ほどから、厨房でフライパンを握っていたのは、ライネスさんではない別の方。
先日……せんぱいが出張に出掛けた後くらいに、ラットハウスにふらっとやって来た彼の名は、ウッドロウ・ケルヴィン。*6
本来であれば王位継承者である彼が、一つの店でフライパンを奮っているというのは、なりきりというものの不思議を感じざるを得ません。
……まぁ、代替が起きるという、ここ特有の現象を念頭に置いてみれば、何のことはない
「旅の途中では身分もなにもない。私も時折料理を皆に振る舞っていたものだが……こうして役立っているのをみると、昔取った杵柄というのも、あながち馬鹿に出来たものではないな」
「だからいつの間にかマーボーカレーが名物メニューだよ、良いのか悪いのかは別としてね」*7
そんな会話を交えながら、ついに開店。
お昼時と言うこともあり、開店と同時にそれなりの人数のお客さんが、店内に入ってきます。
これも、以前とは違う部分。
以前は軽食と言っても提供できるのはサンドイッチ程度、基本的にはコーヒーを楽しむためのお店であったラットハウスですが、料理人としてウッドロウさんが加わって下さったことにより、提供できる料理の数が増加。
特にマーボーカレーについては本場のようなものなので、あっという間に人気メニューになってしまいました。
結果として、客足も相応に増え、それなりの繁盛店として周囲に認知されるようになったのです。
「やれやれ、ほとんど道楽のようなモノ、だったはずなのだけれどね」
「でも、楽しいです。来て下さったお客さん達が、笑顔で食事を楽しんで下さるのは」
「……ふっ、料理人冥利に尽きるというものだな。……一番テーブルのスパゲッティだ、頼むよ」
「あ、はい!マシュ・キリエライト、頑張って配膳致しますっ」
そんな感じに正午から始まり、私が勤務するのは大体五時頃まで。
それ以降は元になったラビットハウスと同じように、夜のバーになるのだそうです。
……え?ココアさんがいらっしゃらなかった、ですか?……えっと、その日はですね?
「うわーん!寝坊したよーっ!!」
「だから早く寝なさいって言ったのに……」
「だって、お姉ちゃんと遊びたかったんだもんっ!!」
「ふぐぅっ!!?」
「……あの二人は最近ずっとアレだねぇ」
「ははは、姉妹の仲が良いというのはよいことだ、気にすることはない」
「……まぁ、別に遅刻したからなんだ、と言うこともないけども」
……というような感じで、最近はちょっとココアさんが浮かれ気味と言いますか……。
実際、ココアさん自体が原作からしてお姉ちゃんっ子だったこともあいまって、ちょっと箍が外れているところがなくもない、と言いますか……。
まぁ、その辺りはココアさん本人も気にされているようで、「ううーっ、お、お姉ちゃん離れをぉ~」などとおっしゃいながら、どうにか頑張っているようではあるのですが。
正直、成果が出ているとは言い辛いのでは?と思うマシュ・キリエライトです……。
そんな感じに仕事を終え、こうしてせんぱいとお話をしている……というわけなのでした。
「あとは曜日によって、ちょっと別の用事が入ったりする感じですね。ですが基本的には、戦闘訓練とラットハウスでの接客業、この二つが基本的な私の行動パターンではないかと……ひゃっ!?せ、せせせせんぱいっ!!?」
マシュの話を聞いた私は、思わず彼女の両手をがっしりと握ってしまっていた。
いや、だって、だってさ!?
「今度の休み、遊びに行こうっ!!」
「へっ!?せ、せんぱいいきなり何をっ!?」
この子、仕事&仕事、ワーカーホリック一歩手前なんだもの!聞いてるこっちがびっくりしたわっ!!
何が質が悪いって、この子自分がやりたくてやってるって認識だから、それが世間一般的に働き過ぎ、に分類されるってことに全然気付いてないってことだ!
そんなとこまでマシュに似ずともよいわっ!!
「いいいいいえでもですねっ?!」
「でももヘチマもあるかいっ!今度の休みは遊び倒すっ!先輩命令です、オーケー?!」*8
「は、はい、おーけーでしゅ……」
おし言質取ったっ!
この働き詰め後輩を休ませるのは我が使命、しっかり休むと言うことについて教え込まなければ!
……なーんて風に張り切っていた私なのですが。
この時の私は知らなかったのです、まさかこの選択が、後々ヤバいフラグに繋がっていくだなんてことを。
そんなことは露知らず、彼女をどこに連れて行ってやろうかとウキウキ気分で考えている、間抜けな私なのでした。