なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「そのまま寝込んでしまった……」
「お労しや琥珀上……」
我らが『星女神』様から告げられた言葉がショッキング過ぎたのか、そのまま寝込んでしまった琥珀さんを布団に寝かしつつ、改めて彼女から話を聞くことにした私たち。
そこで語られた話は、私たちに新たな驚きをもたらしたのでした。
「……まさか本当にステッキ側が本体だとは……」
「人としての姿が再現されたもの、だなんてねぇ……」
「例のなりきりパワー?ってやつで構成された体だったとは……」
元の『幻想殺し』じゃなくてよかった、と胸を撫で下ろす上条さんである。
……さっき崩れ落ちた琥珀さんを咄嗟に
そう、『星女神』様の語るところによれば、どうやら琥珀さんの本体のように見えている体は、その実『まどマギ』の魔法少女達の体、というのが近いようで。
……まぁ、流石にあれほど悪趣味、というわけではないようだが。
「人間の自意識を、杖などという生き物でもなんでもない物質にいきなり突っ込んだりしたら、それこそ自我の崩壊を招いてもおかしくない……っていうのは、言われてみればそうよねぇって感じの話ね」
「そういうもんかー、で納得してたからね」
いやまぁ、研究が進めばどこかで気付いていてもおかしくない話ではあったのだが。
……そう、本来人の精神を宿すに値しないモノ──脳皮質的な観点で──である獣や人外の者達よりもなお、人の精神を留めるに値しないモノ。
それが、無機物という存在なのである。
そもそもに『考える』という行為を行う器官がないし、例えなんらかの手段で意識を保つことができたとしても、今度は動かせない体という障害が付き纏う。
……なにを当たり前のことを、と思われるかも知れないが、これが彼女の場合はとても重要な話だったのだ。
「創作世界において、無機物に転生する……みたいな話はそれなりに存在している。剣に転生して人に使われてみたりだとか、はたまた自販機に転生してバリア張ってみたりだとか、ね。*1……でもそれは、あくまでも
拷問の一つに、『ホワイトトーチャー』と呼ばれるモノがある。
直訳すると『白い拷問』とかそんな感じの意味となるこの拷問は、簡潔に説明すると
視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚。それらの五感を様々な器具を使って奪い、外界からの刺激を全て遮断するこの拷問は、一説によれば一時間以上耐えられる人間は居ない、とまで噂されるものだ。
それは何故か?答えは単純、自己の境界線が揺らぐどころか破壊されかけるから、である。
──人というのは、存外色んなモノを絶えず感じているもの。そしてそれを指標に生きているから、五感が一つ奪われる度に指標が一つ失われていく……ということね──
「最終的には自己のみが残るけど、それも周囲に刺激がないのであれば
無論、それだけが理由というわけでもないだろう。
だがしかし、自己の発露・他者の認識を封じられた結果、徐々に精神の均衡を欠くようになる……ということは間違いない。
……さて、これを踏まえて無機物に対しての転生、というものを真面目に考えると。
「……感覚器官なんてなに一つ付いてないんだから、自動的に五感を封じられた状態になる、ってわけか」
「更に体を動かすこともできないから、動いて打開策を探ろう……なんてこともできないわね」
……うん、普通に発狂するよね、というか。
無論、自己に埋没する……という形で回避はできるでしょう。
好きなことを考えたり、嫌なことを考えたり、はたまた脳内でストーリーでも紡いだり……。
けれどそれも、続けて行えるのは二・三日のこと。
五感の制限・行動の制限などが付随している場合、どうしてもふとした時に
そうなればもうおしまい。なにを考えていても
不安を煽る疑問が脳内を巡り出せば、思考はそれに囚われ固定化し、やがて変えられない現状に絶望し発狂する……というわけである。
いやできるでしょ、と思っている人は触覚とかを甘く見ている人なので、その辺りを封鎖した状態で体感してみてからもう一度考えて貰いたい。
……いやホント、ふとした時に自分に対して自分で刺激を与えていること、結構多いからね?
まぁともかく。
結構見掛ける感じの無機物転生だが、その実わりと発狂するパターンがすぐ間近に控えている危ない橋、というのは確かなわけで。
だが、創作世界の人々は、それらをわりとひょいっと乗り越えていたりする。……時々乗り越えられていない人もいるけど、ここでは割愛。
ここで重要なのは、
それを可能にしているのが、今回の場合は『逆憑依』というシステムである、ということだ。
「……端的に言っちゃうと、中途半端な【継ぎ接ぎ】でマジカルルビーになる、なんて
「ルビーちゃんはわりと動き回る方だけど、それでも人が杖になっても大丈夫……ってことを保証してるわけじゃないからね」
そもそもルビーちゃんの中身って
……そう精霊。すなわち
杖に精霊を封じ込め、まるでAIのように扱っている……というのが正解であり、それはいわば
ゆえに、喋って動き回るからといってその杖に人の精神を突っ込んでも大丈夫、などということにはならない。
そもそも杖のような体の動かし方、などというものが人の知識にはないのだから、結局四肢を縛られているのと同じようなもの。
周囲の認識の仕方も同じようなもの。……なんとなくできる可能性はあるが、同じように
それらを総合するに、真っ当な『逆憑依』ならともかく、後天的に・類似性があるというだけの理由で・一部分のみの【継ぎ接ぎ】が上手く行く、などという可能性はほぼゼロなのである。
……少なくとも、相手が無機物である限りは。
とは言っても、実際にはこうして琥珀さんはマジカルルビーの【継ぎ接ぎ】として成立しているわけで。
……ならば、そこには成立するに足る理由があった、と考えるべきだろう。
そうして思考して行った時に答えとして浮かび上がるのが、
「まさか『ソウルジェム』の考え方が応用されてるとはねぇ……」
「現状を成立させるために必要な要素だけを使ってるから、【継ぎ接ぎ】としては検出されてなかったのねぇ……」
そう、『ソウルジェム』はその名の通り
人の肉体から魂を抜き取り、それを加工するという技術なわけなのだが……それを元にした技術が使われていたのだ。
何度も言うように、『逆憑依』は核となる人物を守護するための鎧のようなモノでもある。
本来の人を創作の人物という殻で包み込み、外界からの干渉より護る……。
そのあり方は、見様を変えればソウルジェムのそれに似ていると言えないだろうか?
「魂を核となった人、ソウルジェム自体を被っている創作人物達……って考えるわけだな」
「そういうこと。……ソウルジェムと違うのは、本来残される体ごと核として内部に納める、ということだけど……」
改めて、魘されている琥珀さんを見る一同。
……彼女は『逆憑依』としては失敗例であり、実験としては成功例であるという触れ込みであった。
それは、彼女のそれが完全にキャラクターを被るモノではなく、部分的にキャラクターを顕現させる形であったがため。
そして他の例はそもそもその地点にまで辿り着かず、ゆえに彼女は完成こそしていないものの、ある程度の結果は出ていると判断された。
──その判断が間違っていた、と言うのが今回の話。
魔法少女システムを参考にして、活動用の体と本体である杖……という形式で紐付けられていたとすれば、これは立派な成功例ということになる。
まぁ、参考にしただけであって、実際にはルビーちゃんの中にちゃんと琥珀さん本来の体は入っているようだが。
「……無理矢理やろうとしたことと、彼女自身の相性。それから、対象のキャラクターという要素が揃って始めて起きた成功例、もしくは事故……ってことなのかしら?」
「悪魔合体で事故った、みたいな?」
「……まぁ、間違ってないかも?」
結論。
琥珀さんは自身のキャラクター・憑依させようとした人物・そしてそのやり方などがたまたま合致、かつ事故ったために
そしてその際、通常の成功ではなく偶然・偶発的な成功であったため、そのまま成立させると実質的に失敗──具体的には発狂するため、成立の過程で【兆し】が必要な要素を検索。
結果、見付け出した『魔法少女システム』を利用し、成功時の混乱に乗じて活動体としての琥珀さんを作った。
これは、杖の体では持て余す身体操作技能を活用するためのものであり、同時に偶発的な成功による歪みを是正するためのもの。
それゆえ、極力違和感を生じさせないように調整されており、それを気付くには『星女神』様級の視点が必要だった……と。
世界を騙す必要のあるモノであるため、隠蔽もかなり高度であったということか。
ではそれを誰がやったのか、というと。
「……上条さんの腕を作った人と同じ人、ってことになるよねぇ」
「あーなるほど、ここで繋がるのか……」
琥珀さんが来る前に話していた、本来の話題の中心。
偽物の右手を持つ、上条当麻。そんな彼をこの場に送り込んだ、まだ見ぬ誰かということになるのであった。