なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・意外な人と一緒に歩く

「幾らここが見た目とか服装に頓着しないっつっても、限度ってものがあるだろ?それにほら、普段の俺だと喧嘩とかになる可能性も滅茶苦茶あるし」

「だからって、まさか虎杖君状態で来るとは思わないわよ……」

 

 

 あれから一息吐いて落ち着いた私たち。

 改めて視線を向ければ、そこに立っていたのは見慣れない青年──虎杖悠仁の姿をした宿儺さん。

 

 そう、今回同行する最後の一人とは、なにを隠そうこの宿儺さんだったのです。

 まぁ、まさかこの人がTPOを弁えたような格好をしてくるとは、夢にも思わなかったわけなんだけども。

 

 ……でもまぁ、本人の言うことも一理ある。

 なにせ本来の彼の姿といえば、一応人間であると言われているにも関わらず、あからさまに人外の様相。

 その姿が伝説に語られた飛騨の大鬼神・両面宿儺のそれに近似しているからこそ、彼はその名で呼ばれるようになったわけなのだから……そりゃまぁ、普通の人は怖がるに決まっているというか。

 

 そういうわけなので、余計なトラブルを避けるために姿形を整える……というのは、ある種当たり前の行為だと言えるのであった。

 ……まぁ、それをやっているのがかの『両面宿儺』でなければ、と注釈が付くだろうが。

 

 

「まぁ、否定はしない。俺ってば普通の宿儺ってわけでもないから、こうして今の俺(悠仁)を取り繕うのも全然苦じゃないけど……本来の俺だったら絶対やらないっていうか、寧ろ怖がる奴ら全員膾切りにしながら嗤ってるだろうなぁというか……」

「ですよねー」

 

 

 今しがた本人が述べたように、本来の『両面宿儺』と言えば、女子供をこそ好んで甚振って遊ぶような存在。

 ……そういうキャラに有りがちな小物ではない、というのが面倒臭いポイントである。*1

 なにせ、現状判明している範囲の能力の時点で最強クラス、隠しているものやら後に得たものまでカウントすれば、ほぼほぼ無敵と言い換えてよいラインの存在なのだから。

 

 ……ついでに、弱者相手には傲慢だが強者相手には慎重……という、戦う上で厄介この上ない性質まで持ち合わせているのだから質が悪い。

 趣味の一点だけマイナスで、それ以外は強者として普通に箔や格がある……となれば、そりゃまぁ作者から贔屓でもされてるのか、なんてツッコミも出てこようと言うものである。

 

 まぁ、強者としての魅力をマイナスに叩き込むくらい、弱者に対してのあれこれが小物臭すぎるのも本当なのだが。

 

 

「それを俺に言われてもなぁ……性格悪いほど強い、ってのが呪術師の基本なんだし、そりゃまぁ作中最強格ともなれば趣味の悪さの一つや二つくらい……みたいなもんなんじゃねーの?」

「うーん……これを宿儺本人が言ってる、というのがやっぱりおかしいと言うか……」

 

 

 なお、何度も言うがあくまでもこれらの批評は()()()()()()()である。

 

 ここにいる宿儺さんは、恐らく原作の彼と比べると遥かに弱いだろう。……代わりに、ある程度取っつき易くもなっているのであった。

 ……っていうか、取っつき易くなってないと例え滅茶苦茶ランチが美味しいとはいえ、彼の店に客が来る……なんてこと自体がないだろう。

 自分に作るのならまだしも、他人に対して飯を作る……なんて、絶対にしそうにないし。

 

 

「そういう意味じゃあ、声の影響力は凄い……ってことになるのかな。この声で料理人……とだけ条件付けをすると、大層な数の人間が該当するからな

「エミヤん以外にも、店主さんとか葉山くんとかもいるからねぇ」*2

 

 

 そうした変化のきっかけを作ったのが、いわゆる中の人であるというのは興味深い。

 

 恐らくはだが、元々なりきりをやっていた時に元の宿儺のままではいろいろと不都合があったため、取っつき易い面を探した結果……ということになるのだろう。

 そのお陰というかなんというか、こちらは彼との対峙をすることなく、こうして友人として触れ合えるわけで……キャスティング様様、というわけである。

 

 

「キャラ付け、ねぇ。……俺なんかはそのまんま話が進めば精神的に成長するが、宿儺は暫定ラスボスってこともあって変化は望み辛ぇもんなぁ」

「最初のうちはナルトと九喇嘛みたく、憎まれ口叩き合いながら仲良くなったりするのかなー、なんて思ってたもんだけど……」

結果はあれ(体の引っ越し)、だからねぇ。……ちょくちょく提示されてはいたけど、本当に相容れないタイプだったんだなぁというか……」

「……いや、俺に視線を向けられても困るんだけど?」

 

 

 そんな話を聞いて、しみじみと語り始める周囲の面々である。

 ……ハセヲ君も初見は取っ付きにくいタイプだが、それは作中の出来事によってある意味歪められた状態。

 問題を解決する度に人間として成長していった彼は、最終的にはとても頼れる人物になった。

 

 その事実がある以上、彼は周囲から遠巻きにされる、なんてことはもうあり得ない。

 例え今、彼の再現度が低くぶっきらぼうであったとしても、やがて至る場所を知る人達は多少の悪態で離れるようなことはしないだろう。

 

 対して宿儺さんは……実際本当にラスボスになるのかは不明だが、ともあれ現状一番の壁であることも事実。

 ハッピーエンドを掴むには必ず打倒しなければならない相手である上、最早和解の道なんて欠片もあるように思えない以上、宿儺という存在の心象が良くなるなんてことはまずあり得まい。

 仮にあったとしても、それは悪役としてのカッコ良さなどの方面であって、味方になるとかならないとか、そういう話では決してないはずだ。

 

 ……似たようなポジションの九尾の狐(九喇嘛)と違い、軌道修正は望むべくもないだろう。

 

 そう考えると……なんというかまぁ、本当に原作そのままの彼でなくて良かった、と思わざるを得ない私たちなのでありましたとさ。

 

 

 

 

 

 

「ついでだから聞くけど……やっぱり、そのまんまのキャラでやるのは無理があった感じ?」

「んー、例えば俺と(悠仁)の二人でやる、とかならまだなんとかなったのかもだけど……」

「だけど?」

「掛け合い禁止だったんだよね、そのスレ」

「あー……」

 

 

 そのまま、流れでスレ時代の話に移行する私たち。

 私たちの話は結構知られているため、ここはやはりあんまり外に出てこない宿儺さんの話、ということになったのだが……。

 そこで出てきた発言は、私たちに一つの納得をもたらしたのであった。

 

 さっきも少し触れたが、原作で傍若無人だったり自分勝手だったりするキャラをなりきりする、というのは中々に難しい話であったりする。

 いやまぁ、単純にキャラクター同士を話し合わせたりするのであれば、そこまで問題ではないのだ。

 ……いや、実際には問題あるけども。キャラの発言と中の人の発言はイコールではない、みたいな擦り合わせが結構必要になるけども。

 それでも、名無し達との会話に比べれば、キャラ同士の会話なんて遥かに簡単であるのは間違いあるまい。

 

 それは何故か?

 ……名無しを呼んできて行うなりきり、というのは少なからず客をもてなしているようなものである、という部分があるからである。

 

 

「単純になりきって遊ぶって言っても、それこそ子供の頃のごっこ遊びのようなモノもあれば、演劇のように他人に見せることを目的としたモノもあるからなー」

 

 

 キリトちゃんの言う通り。

 一口になりきりと言っても、それがどういう性質のモノなのか、というのには結構な違いがある。

 その中でも大きなモノの一つが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というやつだろう。

 

 子供のやるなりきり──ごっこ遊びは、つまるところ()()()()()()()()である。

 憧れのキャラクターになりきり、自分もいつかそうなりたいと願ったり。はたまた、人気のキャラになりきって注目を集めたり。

 その根底にあるのは、それらのキャラになりきって自分が楽しく・気持ち良くなりたいという思い。

 ……他人に見せるためのモノにそれが一切ない、などと言うつもりはないが、逆に自分のためのモノに他者の介在する余地があるかと言われれば、それは微妙なところだろう。

 

 無論、他人に称賛されるほどになりきれるんだ、みたいな感じのモノもあるだろうが……それでも、それらの報酬系は自己の中で完結するもの。

 言い方を変えれば、自己満足で終われるものなのである。

 言いたいことだけを言って、やりたいことだけをやるようななりきりは、まさにこの系譜のモノだと言えるだろう。

 

 対して他者に見せることを前提としたなりきり──いわゆる演劇や芝居のようなものは、必ず他者の批評を介在する必要がある。

 最終的には自分に返ってくるとはいえ、その過程の中で必ず他者にもなにかを与えることになるのがこの系譜の特徴だ。

 そしてそれゆえに、最終的に満足だけが残るとは限らない。

 自身の演技が拙いなどの理由があれば、他者から得られるモノは批判というマイナスのものだけ、ということになる場合も少なくはないはずだ。

 だからこそ、もし他者からプラスの評価を得られた時は──自己の充足は一人で満たすそれを遥かに上回ることだろう。

 

 それを得るにはまず、独り善がりのなりきりを捨てる必要がある。

 自分だけが楽しい、自分だけが面白い……というようなものは、基本的に他者には面白いとも楽しいとも思われないものだ。

 稀に、自身の面白いを他者に波及できる者も存在したりするが……そういうのは一握りの人間だけ、というのが相場。

 

 少なくとも、趣味でなりきりをしているだけの人間に求めるのは、中々に酷なモノのはずだ。

 なにせ彼らは素人。……他者に見せることを想定していなかった、想定していたとしても見通しの甘かった者が大半なのだ。

 そういう意味で、なりきりという遊びは意外と奥の深いものだと言えるのだ。

 

 ……話がずれてきた気がするので軌道修正。

 ともかく、名無しという客を呼んでくるタイプのものが先の話の後者──他者に見せることを意識するものである、ということは間違いあるまい。

 それを前提にすると──当たりの強いキャラというのは、それだけで不利になるのである。

 それは何故か?……好き好んで悪態を付かれたいと思う人間は、普通は特殊な部類になるからだ。

 

 

「喧嘩腰の相手に話し掛けたいとは思わないように。上から目線の相手にも、できれば近付きたくないと思うのはある意味当然のこと。……そういう意味で、原作そのままの宿儺とか、会話になる気が全くしないもんね」

「掲示板上だからそんなことはできないけど……もしリアルに対峙したら、まず間違いなく嗤いながら切り殺されるもんな……」

「ネット上の人間とか、まず間違いなく宿儺からしてみれば弱くてつまらないものでしかないしな……」

 

 

 悪役として魅力があるというのは、得てして()()()()()()()()()()()()みたいな評価が隠れているもの。

 ……場合によってはキャラ一人のみ、他全て客である名無しのみ……みたいなことがままある質雑型において、宿儺のようなタイプは本気で向いてないのである。

 一応、注意書きなどでそこら辺をごまかす手もなくはないが……自身の返答のみでその辺りを無視できるくらいでないのならば、その内スレが崩壊するのは目に見えているというか。

 

 それでも、なりきりをしてみたいという欲は消せないだろう。

 そういう時に役に立つのが、声繋がりのネタなどを使うというものであり。

 そしてそれを上手く使った結果が、ここにいる宿儺さんになる、というわけなのであった。

 

 

*1
わりと珍しいタイプ。弱者を甚振って遊ぶ、という絵面がカッコ悪いこともあり、それなりの強さならともかく作中最強格でこのタイプなのは、それこそ不倶戴天の敵、みたいなモノくらいにしか見られない。……その時点で和解の線はなかった、とも言う

*2
それぞれ『fateシリーズ』『異世界食堂』『食戟のソーマ』のキャラクター。分かりやすく料理に関わりのあるキャラクター繋がり

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