なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「唐突なバーサスが始まった件」
「うーん、例の人に打たれたのがそんなにショックだったのかなー。実際、その人以外に打てたって人、聞いた覚えがないし」
「大人げねぇな?!っていうか最早知性が宿ってないこれ!?」
というわけで、唐突なバッティング勝負である。
挑んでくるのはバッティングマシーン・恋査さんで、対するのはちょっと本気を出した宿儺さん。
……変則的過ぎる勝負だが、二人の気迫は十二分である。っていうか、恋査さん半ば【顕象】と化してない?大丈夫?
なんというかこう、ロボットらしからぬ性質が顔を覗かせている感が凄いというか、ね?
まぁ、調査とか調整とかは琥珀さんがやっているのだろうから、一応は安心の……はず……。
……よくよく考えたらなんにも安心できねぇな?(つい最近『星女神』様から明かされたあれこれを思い出しながら)
ううむ、以前は琥珀さんにやらせておけばある程度安心、みたいな話のはずだったのだが……今となってはちょっと不安が残る感じというか。
いやまぁ、今でも大半の技術者より遥かに信頼性やら信憑性やらがある、というのも確かなんだけどね?
でもほら、今の科学だとどうしても感知ができないものがある、と知れた状態だと……ねぇ?
とりあえず、今度『星女神』様に見て貰うか、彼女から貰ったデータで(胃を痛めながら)バージョンアップを図ったであろう琥珀さんに見直して貰うかすることにして。
一先ず、この世紀の?対戦の行く末を見守ることにする私である。
「では一つ、宣言でもしておこうか。俺は十球以内に必ずホームランを打つ」
「……ピーガガッ、ソレハ 不可能 デス。私ハ アナタヲ 打チ取リマス」
「……ケヒッ、吼えるではないか。そうでなくてはなぁ……」
「……なぁ、あれ大丈夫なのか?やべぇ方の側面出てない?」
「いやまぁ、ここの宿儺さんだし大丈夫だよ……多分。それより、私はやっぱり恋査さんが、こっちの思った以上に感情を出してきてるのが気になるかなぁ……」
「……ああ、一応は単なる機械なんだっけか、アイツ。……なんか唐突に喋り始めたけど」
「一応、最初からスピーカーは付いてたみたいだよ?まぁ、私もあそこまで色々喋ってるのは始めて見たけど」
「……あー、そこの一団。聞こえてるからな?」
「おおっとこれは失礼」
小声でひそひそ話してたのだけれど、どうやら本人にも届いていたらしい。
恋査さんは相変わらず突っ立ってるだけだが、宿儺さんの方はほんのりやる気を削がれてしまったようだ。
なので一時タイムを挟み、やる気を再度充填しなおしてからバッターボックスに立った宿儺さんである。
そうして再度の一球目、飛んできたのは……。
「速っ!?」
「うわ何キロ今の!?」
「ええと……百八十?!」
スピードメーターが捉えた先程の球の速度は、なんと驚きの時速百八十キロ。
メジャーリーグにおける最速が百七十前後であることを思えば、実にそこから十キロ上の速さ、ということになる。
いやまぁ、一部には軽い球を使ったとはいえ百九十近くの速度を出していた人もいるらしいが。*1
ともあれ、こんなところで初球の様子見みたいに飛んでくる速度ではない、というのは確かな話。
無論、戦闘系の漫画やアニメのキャラなら、このくらいの速度は見慣れていてもおかしくはないが……。
「……速いな。それもこれが全力というわけではないように見える」
「マジで!?」
「あーうん、確かに。後ろのバットが変形してないってことは、魔球でもなんでもない単なる普通の球、ってことだし」
「そういえば恋査さんだから、原作の彼女の背後にある編み棒に対応してるんだっけ、あれ」
宿儺さんが言うには、先ほどの球は本当に単なる様子見でしかないのだという。
その後のユッキの言葉で思い出したが、そういえばあの恋査さんは原作と同じく、背後にある特殊なユニット──原作のそれが編み棒と呼ばれる赤く咲く華であるのに対し、彼女のそれはラッシュデュエルの『球児皇ホーム』のそれに例えられるような、木製バットの翼──を組み換えることにより、あらゆる魔球の噴出点を自身の手元に出現させる……みたいな存在だったはず。
……あらゆる魔球の噴出点ってなんだよ、とツッコミたいところだがここは我慢。*2
ともあれ、彼女があらゆる魔球の再現者である、ということに間違いはない。
しかし先ほど、彼女の背中の翼は微動だにしていなかった。
それはつまり、純粋なバッティングマシーンとしてのスペックのみで発射されたのが先ほどの球、ということ。
……最初に見せた『
だがそうなると、これから彼女の球を彼が打つのは難しい、ということになりそうだが……?
「……はっ、どこに目を付けているんだお前は。よくよく状況を見るんだな」
「はぁ?なにを言って……はっ!?こ、これは!」
「あー!?宿儺君ちゃんと振り切ってる!?」
「なるほど、球の速さに気を取られ過ぎてたってことか……」
「バットに跡がある、ってことは当ててたのか、あの球に」
そこで宿儺さんは、こちらに不敵な笑みを向けてくる。
その言葉に改めて彼を見直してみれば……これがビックリ、先ほどはなにもできずに球を見逃したように見えていたが、その実素早くバットを振って素早く元の体勢に戻った、というだけの話だったのだ!
……いや、なにその無駄に高等で無駄なスイング技術?
とはいえこれで無謀な挑戦である、などと言われることがなくなったのは事実。
なにせハセヲ君が今述べたように、彼のバットには球が掠めたことを示す跡が付いていたのだから。……焦げたような痕跡になってる辺り、余程の高速で振ったということか。
ただまぁ、なんとなく自身のスペックに振り回されている感がある、というのも事実。
先ほどの時もそうだが、球に掠めているというのは素直に凄いのだが、同時に
……あれだ、パワーは十分だけど狙いが定まってない感じがある、みたいな?
「まさかバットを振る時に目を瞑っている、とかでもなかろうし……」
「あれだ、宿儺特有の煽り癖が出てるとかじゃないか?なんかの作品で打てる球をわざと空振りする時は球の上だか下だかを通す、みたいなのを見たことがある気がする」
「……本当かそれ?」
「なんの作品で見たのか忘れたけど、そういう描写をどっかで見たのは本当だぜ!」
「へー」
「…………」
そんな彼の様子を見ながら、好き勝手なことを話す私たち。
幸い、バッターボックスの宿儺さんは特に怒ることもなく、ピッチャーもとい恋査さんと向き合っていたが……んん?
なんかこう、私の気のせいでなければ彼の耳が赤い気が……あ゛。
「……とりあえず、打球の邪魔になるし一回黙ろうかっ。恋査さんも私たちが黙るの待ってるっぽいしっ」
「ん?あ、ああ……(なんだいきなり?)」
とんでもない()事実に気付いた私は、さりげなくみんなに黙るように指示。
……いきなりなにを仕切っているのかという話だが、指摘そのものは真っ当であったため、皆は素直に従ってくれたのであった。
はてさて、そんなこんなで第二球。
バットを構え、真剣な眼差しで
「……ゲェーッ!!?魔の秘球!?」
「なに!?知っているのか雷電!?」*3
「誰が雷電じゃい!!……おほん。『魔の秘球』はかつて週刊少年マガジンにて連載されていた野球漫画『黒い秘密兵器』という作品に登場する魔球の一つなのだ」
「『黒い秘密兵器』……?」*4
飛んでくる球が
……といっても、有名な野球漫画である『巨人の星』に影響を与えたとされる作品の内の一つだとされる*5、として紹介されているのを見たというだけで、そこまで詳しいわけでもないのだが。
ともあれ、件の作品──『黒い秘密兵器』には総計六つの魔球(作中では『秘球』と呼ばれる)が存在し、その中でも最後から二番目に当たるタイミングで登場したのが『魔の秘球』だ。
この魔球は原理は全く不明ながら、バッターから見た時にその球の軌道が大きな一つの球に見えるように
……正直口で説明されても分かりにくいと思うが、とにかく普通に投げられる球ではない、というのは間違いあるまい。
一つの球を中心にして、その周囲を飛んでいるだけ……とでも言われた方がまだわかるというか。
そしてこの魔球、なんとなく想像が付くかも知れないが……非常に危なっかしい。
最終的にはミットにたどり着くように投げるとはいえ、少しでもミスすれば到達点がずれた上、バッターにぶつかってしまう危険性が他の球よりも遥かに高いのだ。
……ピッチャー側から見たら、ストライクゾーンの周りをぐるぐる回っているようなものなのだから、そりゃそうだとしか言えないわけだが。
ともかく、いきなり飛んでくる球種としてはあまりに奇っ怪、かつ危険な一球。
こんなもの打てるのか、などと思わず心配してしまった私だったのだが……。
「……ぜいっ!!」
「縦に、」
「斬った!?」
「……いや斬るなよ!?」
「……はっ!?つい迎撃をしてしまった!?」
なんと宿儺さん、これを粛々と叩き落とした。……術式で。
もろに体に当たるタイプの球だったせいか、攻撃と勘違いしたらしい。
……いやまぁ、怪我をしなくて良かったけど……お互いにこれがバッティング勝負だってこと、忘れてません?
「いやー、いいもの見れたよー!まさか『魔の秘球』とはねー!でもまぁ、大リーグボールとか投げられるんだから、三号の元ネタっぽいのに関わりのあるやつにも触れてても当然、だよね!」
なお、ユッキだけはリアルな魔球が見られてご満悦でしたとさ。
うーんこのリアルやきうのお姉さん……。