なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・これ一つだけというわけではないので

 はてさて、そのあとも魔球に対しての宿儺さんの挑戦は続いた。

 

 時に殺人的な(というか、元ネタの方は野球ではなく殺人だ、などというツッコミも入っていた)『殺人L字ボール』*1を歯で噛み止めたり、時には時速二千キロにすら達するという、最早色々間違えている『光速球』*2に対し「あの男の相手をするよりはマシだ」と述べて、その速度を零にして見せたり(なお、それができるんなら普通に打てよとツッコまれた)。

 ともかくそんな非常識な対決は続き、都合一時間ほど経過した今……。

 

 

「……ふっ、大義であった。褒めて遣わす」

「ピガガ……ッ勿体ナイ言葉」

「……なにこれ?」

「さあ?」

 

 

 対決を終えた二人には奇妙な友情が芽生えたのか、互いに握手をして健闘を称えあう姿が見られたのであった。

 ……キリトちゃんも言ってるけど、なんなんだろうねこの光景。

 なお、ユッキに関しては素直にこの光景に感動し、涙まで流していた。……っていうか、なんなら顔がどことなく往年の野球漫画みたくなっているというか。暑苦しいともいう。

 

 ともあれ、二人の対決を観戦し終えた私たちは、そのままバッティングセンターを後にすることに。

 ……目的が変わってるとか、キリトちゃんと私に関しては結局バッターボックスに立ってない……とかのツッコミはスルーである。

 

 このまま、恋査さんに挑むだろう他の客の様子を観戦するつもり……というユッキとはここで別れ、そのまま外に出れば空はまだまだ太陽が元気な感じ。

 いやまぁ、お昼の時間にはまだちょっと遠い……って時点で仕方ない話なのだけれど、それでもこれから更に暑くなるなどと言われてしまうと、即刻クーラーの効いた室内に戻りたくなってくるというか。

 

 ……とはいえここでバッティングセンターに出戻りするのもあれなので、暑さを押してそのまま街をぶらり旅敢行である。

 

 

「外よりは涼しいっつーけど……いや、あちーよやっぱり」

「紫外線とかは端からある程度カットしてくれてる……ってのはありがたいけどなー。肌の手入れとかよくわからないし」

「まぁ別にそのままなんの防護もなしに紫外線を浴びても、私ら『逆憑依』だから肌が痛んだりはしないんだけどねー」

 

 

 じりじりと照り付ける太陽に手を翳しながら、ハセヲ君が小さくぼやく。

 ……外の気温は最近熱帯か亜熱帯か……というほどに暑くなっているとの噂だが、それに比べれば郷内は涼しくなるように設定されている、というのも本当の話。

 

 とはいえ、それも精々二・三度程度のこと。

 三十五度が三十二度になると猛暑日が真夏日になるわけだが、そうして名前が変わったからといって、体感温度が劇的に変わるというわけでもなく。

 なのでまぁ、暑いのが苦手な人間にとっては外も内もない、みたいな話になるのであった。

 ……まぁキリトちゃんの言う通り、あくまでも暑さだけが問題なのであって、有害な紫外線などについてはある程度発生しないように考慮されていたりする……なんて部分もあるため、どっちにしろ外よりはマシだったりするのだが。

 

 なお、完全に発生させないようなシステムになっていないのは、人体がビタミンDを生成するのに紫外線が必要だからである。

 一応食事からもビタミンDを補給することは可能らしいが、どちらかといえば日光もとい紫外線に当たる方が早いのだそうで……なんというか人体って面倒だなぁ、などと思ってしまったり。

 ま、私ら『逆憑依』なんで、その辺りはあんまり気にする必要ないんだけどね!……『逆憑依』以外の普通の住人のために必要?それはそう。

 

 そんな感じでぐだぐだと話をしつつ、街を歩く私たち。

 そうして道を行く途中で……、

 

 

「……アイスクリンの屋台、だと……!?」

「え、なにそれ?」

 

 

 懐かしい空気を滲ませる、一つの屋台と出会ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 アイスクリン、という食べ物をご存知だろうか?

 アイスクリームではなく、かといってかき氷でもない……かつての夏の風物詩。

 ……とは言っても、それが風物詩として全国規模を誇っていたのは、恐らく昭和の頃までの話だと思われるのだが。

 まぁ、一部の地域では観光名所的なものとして残っていたりもするのだが。私の知識はそっち由来である。

 

 あとはまぁ、コンビニとかスーパーで『懐かしのアイスクリン』みたいなネーミングで売られているのを見たことがある、みたいな人もいるだろうか?

 ……ともあれ、このアイスクリンという氷菓はアイスクリームやかき氷とは別物の存在である。ではなにが違うのかというと。

 

 

「アイスクリームとは違って、乳成分がほとんど入ってないんだよね」

「へぇ、じゃあなにが使われてるんだ?」

「鶏卵と脱脂粉乳とかかな。そのお陰でアイスクリームより遥かに安い、みたいな特徴があったみたいだよ。……まぁ、アイスクリームも卵を使うレシピはあるっていうか、そっちの方が一般的だけど」

「ふーん?」

 

 

 鶏卵は物価の優等生、などと呼ばれる食材である。

 ……まぁ、最近は色んな要因によってちょっと値上がりしてしまっているが、昔は単純に牛乳よりも安いものであった、ということは間違いあるまい。

 なので、それを主に使い・尚且つアイスクリームよりも行程も手順も少ないアイスクリンというのは、全体的に掛かるコストが低いのである。

 なにせ、クリームにする行程とかが入るアイスクリームと違って、アイスクリンの方はほぼ材料混ぜて冷やして固めるだけだからね!

 

 なお、その製造方法的にもどっちかといえばかき氷の仲間に近く、食感もシャーベット状・かつ味はミルクセーキのそれに似る……みたいな感じのモノになるそうで。

 だからというわけではないが、嫌いな人が少ない類いの氷菓、ということになるのではないだろうか。

 まぁ、卵がダメな人には無理だろうけど。

 

 と、アイスクリンの説明はその辺にして。

 この炎天下の中、折角屋台と出会ったのだから買わなければ損、ということで人数分のアイスクリン(と、それを乗せるコーン)を購入した私たち。

 大きいカップに入ったアイスクリンを掬ってコーンに乗せれば、気分は幼い時の夏の日である。

 

 

「実際に買ったことはねーけど……なんかこう、懐かしい気分になるな」

「味もなんかこう、懐かしって感じ?」

「……ふむ。デザートに採用するのもありかもしれんな」

「こんなところで仕事の話をするんじゃありませんっ」

「いてっ」

 

 

 冷たいもの食べてる時に仕事のこと思い出してるんじゃないわよ……とツッコミを入れつつ、しばしの休憩。

 近くの木陰に腰を下ろし、人々の往来を眺めながらアイスクリンを齧る私たちである。

 

 炎天下の空の下を、人々が左右に歩いている。

 少しでも涼しくなるように、とばかりに霧が飛ぶ中を進むひとや、手持ちの扇風機で束の間の涼を得ながら歩く人。

 それから、私たちのように冷たいものを食べながら、友達らしき人と一緒にどこかへと向かう一団……。

 

 戯れに向けた視線だが、中々に興味深い光景が左右に流れていき、それを肴に冷たいアイスクリンを口に運ぶ。

 

 ──そうして暫く経って、残ったコーンの欠片を口の中に放り込み。

 

 

「ん、休憩終了!おっちゃんごちそーさまー」

「馳走になった。また近くに来たら寄らせて貰うぞ」

「熱中症で倒れないように、水分補給とかしっかりなー」

「直射日光が当たり辛いところに移動とかしとけよ」

 

 

 屋台のおじさんに挨拶を投げながら、私たちはその場を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

「いやー、美味しかったねぇ」

「意外と色んなフレーバーがあるのな、アイスクリン」

「製法的に簡単だから、匂い付けもわりと簡単なんだよねぇ」

 

 

 さっき食べたアイスクリンの感想を言い合いながら、次の目的地を目指して歩き続ける私たち。

 ……まぁ、目的地と言ってもそれが決まったのはついさっき、アイスクリンを食べている最中だったのだが。

 

 なにせ、ろくに目的も定めずに始まった珍道中である。

 一応はストレス発散、という主目的があるが……それにしたってさっきのアイスクリンでわりと解消された感があるというか。

 いやまぁ、今現在は夏の暑さに対するストレスが溜まり始めているため、さっさとどこか涼しい屋内に入りたくて仕方なくもあるのだが。

 

 そういうわけで、次に向かったのはゲームセンターなのでありましたとさ。

 ……ゲーマー二人からのリクエスト、というやつである。

 

 

「なんつーかこう、久しぶりに格ゲーとか協力ゲーとかがしたい」

「……『tri-qualia』じゃダメなので?」

「あれだとフルダイブゲーになるだろ?たまには単に画面に向きあってゲームしたい時もあるのっ」

「そういうもんかねー?」

 

 

 キリトちゃんの主張に首を傾げながら、四人いるから丁度いい……とエクバの筐体に向かう私たちである。

 

 エクバ……もとい『機動戦士ガンダム EXTREME VS.』は、その名前の通りガンダムをモチーフにした協力型対戦アクションである。

 二対二という形式と、様々なガンダム機体が使えるのが特徴であるのだが……もう一つ、この作品を象徴するモノがある。それが、

 

 

「シャア!そこはちゃんとカットしろシャア!」

「……ええい、これでは道化だよ!」

「倍返しだー!!」

「シロー、無駄弾は控えてください」

はい……

 

「うーん、外に比べりゃ遥かにマナーはいいけど……やっぱりうるさいねー」

「カミーユのなりきりとかだと、寧ろ積極的に殴りに行ったりするけどな」

「……前言撤回、やっぱり動物園だわ」

 

 

 対戦相手や相方相手への罵詈雑言飛び交う空気、通称『ガンダム動物園』だろう。

 時にプレイヤーを猿、などと例えることすらあるこのゲーム。その対戦風景は、初心者が足を踏み入れることを躊躇させて余りあると言える。

 

 ……チーム対戦型のゲームにはままあることだが、勝った時には自分のお陰、負けた時には味方のせい……みたいな思考になる人がそれなりに多い。

 それが行きすぎた結果が動物園と揶揄されるような環境、というわけだ。

 まぁ、そこに目を瞑れるのなら、原作再現も豊富でガンダムを自由に動かせるゲーム、ということでとても魅力的な作品だったりするのだが。

 

 なお、なりきり郷のそれは『逆憑依』達がやってることも多く(ロボは持ち込めないことが多いため)、結果としてある程度のマナーを周囲に浸透させるのに一役買ってたりするとかなんとか。

 まぁ、血の気の多いキャラとかだと普通に手が出たりすることもあるみたいだが。

 ……でもそういうのって一種のファンサービス的なあれでもあるので、それはそれで問題にはなってなかったり?

 

 ともあれ、軽く一戦ほどやっていく?

 みたいな感じで筐体に近付いた私たちは。

 

 

「ふははは雑魚乙!!私のエクシアに敵うもんですか!!」

「……なにやってるのクリス?」

どぅわぁキーアぁっ!!?

 

 

 滅茶苦茶勝鬨挙げてる見覚えのある人物を発見し、思わず声を掛けていたのであった。

 ……いや、マジでなにやってるし。

 

 

*1
作画・中島徳博氏、原作・遠崎史朗氏の作品『アストロ球団』に登場する魔球の一つ。単なるスローボールに見えるが、その実凄まじい回転が掛かっており、迂闊にバットで触れるとそれを伝って打者の額ないし頭部にぶつかる……という特徴を持つ。物騒な名前だが、作中では実際に触れてしまった相手を本当に殺してしまった。なお、投げた時点でのバッターボックスに合わせた回転が掛かっており、それによって打者に飛ぶという原理であるため、投げられた後に反対側のバッターボックスに移動すると対処できる。無論本来なら反則だが、殺人ボールとか投げてくる相手に遠慮はいるまい

*2
松田一輝氏により『週刊プレイボーイ』にて1984~1986年に連載された『愛星団徒(あせんだんと)』に登場する魔球(?)。はてなマークが付いているのは、あくまでも早すぎる球でしかないため。とはいえ初期状態で時速200km/h、最終段階では時速2000km/h以上というその速度は最早兵器のレベルである。なお、この作品は連載誌からわかるようにエログロ有りのタイプのため、見る際には注意が必要

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