なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「なに?どうしたのよ黙っちゃって」
「あ、いえ。なんでもないんですルイズ。ちょっと朝から元気だなって、そう思っただけなので」
再び自身の意思とは無関係に動いた口に、現状についての確信を得る。
前の時の
……まぁ、なってしまったモノは仕方ないので、これからどうするかを考える方にシフトするけど。切り換え大事よね。
とはいえ、思い出せる直近の場面がマシュに膝枕していたところである以上、正直現状で私にできることなんて、なんにもないわけなんだけども。
だって……ねぇ?
まさか
姿形が
……さっきのやりとりを思い返すに、今って朝なんでしょ?それも七時とか八時とか、その辺り。
よもや膝枕してから丸一日の間、呑気に寝てた……なんてこともあるまい、流石にそれはどこかで起きます。
なら、あの場面から今の場面へとシームレスに飛ばされた、と考えた方がまだ理解ができる。……それが納得できるかは別として。
……とはいえ、ここでぐだぐだ言ってても仕方ないというのも確かな話。
目の前に居るのが
ってことは、そこで寝ていた今の私は学生……だったりするのだろうか?
……えーっと、ルイズ達って何歳だっけ?
確か……使い魔の召喚が二年生の春の話、だったような?
サイトが高校生だったような気がするのと、ルイズが年齢のわりに発育が悪い、みたいな当て擦りを受けていたような気がするから……大体15から17歳くらい?*2
……うーむ、いかんな。
ゼロの使い魔そのものを読んでた&流行ってたのが結構前なのもあって、いまいち記憶が曖昧というか……。*3
そもそも、私のポジションってどこになっているのだろうか?
さっき彼女にキーアって呼ばれてたし、名前に大きな違いはないのだろうけど、それが現状認識に役立つのかと言われればノーだし。……そもそも原作には私みたいなキャラは居なかったはずだし。
みたいな感じにうんうん唸っていたら、目の前のルイズが小さく首を傾げていた。
……さっきも思ったのだけれど、原作の彼女ってわりと癇癪玉みたいな性格の人物だったはずで、こんな風にこちらを心配そうに見詰めているというのは、なんだかイメージと違うような?*4
なんてことを思っていたのが伝わったのか、彼女は「あっ」と声を漏らしながら、ぽんっと手を打った。
「もしかして、なんだけど。
「……えっと、思い出したって、何を?」
……んん?なんか一気に変な空気になってきたような?
具体的には『真剣に悩んでやんのコイツwww』みたいな、ちょっと(私が)空回ってた感じの空気というか。
そんなこちらの微妙な変化を目敏く認識したルイズは、「やっぱり」と息を吐いた。
「あーもう、やっとね?やっとなのね?……あー、良かった。やっとちゃんと話せる人が来てくれたわ……」
「えっと、その……?」
「あ、ごめんなさい。一方的にこっちだけが話してもわかんないわよね。えっとね、
「……あー、あー。うん、
彼女の口からその言葉が紡ぎ出された途端、さっきまで薄膜を張っていたような感じだった自身の感覚が、途端にクリアなものへと変化した。
……現状を正しく認識することにより、体と精神の繋がりが正常に戻った、みたいな?いや、現状が正常なものなのかと問われると、それはそれで首を傾げてしまうのだけれども。
とりあえずキーアとしては万全に戻った、みたいな感じだ。
そんな風に纏う空気の変わった私を見て、ルイズは満面の笑みを浮かべている。
──見知らぬ場所に一人放り出され孤独に震えていた時に、ようやっと仲間を見付けることができたかのような、そんな安堵に染まりきった笑顔だった。
こっちにはそんな笑顔を向けられる理由がわからないので、思わず困惑してしまう。
「あーホントに良かった……こんな状況に放り込まれてはや何ヵ月。やっと対策とか対処とか、一緒になって練ってくれそうな人に出会えたわ……」
「ええと、聞きたいことは幾つかあるんだけど、とりあえず一つだけ。──ルイズ、貴方ってなりきり勢なの?」
「おっと、そういえば自己紹介がまだだったわね。……まぁ、仔細はともかく、大枠は知ってるみたいだけど。……こほん」
そんな笑みを浮かべる彼女に、恐る恐る声を掛ければ。
彼女は居住まいを正した後に、人好きのする可愛らしい笑顔を浮かべながら、恭しく此方に挨拶を返してくるのでした。
「私はルイズ、ただのルイズ。よろしくね、余所の世界の魔法使いさん♪」
「──色んなルイズの集合体ぃ?」
「はっきりそうだ、って言えるわけじゃないんだけど。……まぁ、知識とかの証拠は幾つかあるから、そう間違ってはいないと思う」
簡単な挨拶を受けたのち、改めて話をしようとのことで、部屋の中に備え付けられた丸い机と、その傍らに鎮座する椅子に座りなおした私達二人。
彼女──ただのルイズと名乗った少女から語られたのは、ここがハルケギニアの
「なんて言えばいいのかな?基本系のゼロのルイズに、泉こなたみたいな性格のルイズ。深窓の令嬢みたいなルイズに、傭兵とかやっちゃってるルイズ。……みたいな感じに、色んな経験が混ざってる感じ、かな?まぁ、正反対のモノとかも多いから、それらが打ち消しあった結果として、ここにいる私は大分フラットな性格のルイズみたいなんだけど。……あーでも、原作みたいにツンデレるのは無理、かな?」*5
「なにそのルイズの皮を被った何者か、みたいなの」
「なりきりなんてそんなものでしょ?……というのは置いといて、たぶん知名度補正的なモノも混じってるんじゃないかしら?」
ルイズの姿形をしているものの、その実随分とフランクな様子の彼女は。
さっきまでの慌てぶりはどこへやら、落ち着いた大人の女性のような優雅な佇まいで、呑気に紅茶を嗜んでいた。
……というか、さっきまで遅刻がどうのとか言ってたような気がするけど、それは構わないのだろうか?というこちらの疑問を察して、彼女がまた口を開く。
「ああ、そこに関しては大丈夫。ここはハルケギニアのようでいて、その実全く違う場所。……なんて言えばいいのかな?『ゼロの使い魔』の再現の為に産み出された箱庭……みたいな感じ?」
「いや、感じ?とか聞かれても、私の認識の上だとまだ一日目なんですけど?」
「あれ?おかしいわね、今までの経験からすると、現実のことを思い出したのなら、同時にこっちでの設定も閲覧できるようになってるはずなんだけど……」
「ふむ?ふーむ……」
こっちでの設定、ねぇ?
ルイズの言葉に、顎に手を置いてふむと考え込む私。
今までの状況とかを前提に考えるのなら、多分『ルイズの同級生』みたいなポジションなのだろうけれど……ってうわ。
「わー!わー!?なにこれめっちゃ記憶が流れてく!!走馬灯!?」*6
「お、おう……それはまたなんともファンキーな思い出し方ね……でもまぁ、
突然に視界が映像の奔流にジャックされ、思わず間抜けな声を上げる私。
走馬灯と勘違いしたそれは、ある意味では
それが一気に駆け抜けたのだ、ちょっと気分が悪くなっても仕方ないと思う。……具体的には酔いました、3D酔いみたいなものですね……。
まぁ、その体調不良も一瞬のこと。
頭を振れば吐き気は消え失せ、思考ははっきりクリアなモノへと変わる。
「私は──キーア。『キーア・ビジュー・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ』。……ん?
そうして、脳裏に閃いた名前を口にしたのだけれど、だけれど……。
……んん?その名字はあれですね?私のポジションあれですね?
思わず困惑しつつ視線をルイズに向ければ、彼女はにっこりと笑って私の頭に手を置いた。
そしてそのまま、彼女は手を左右に動かしているわけなのだけれど……えっと、その、つまり?頭を撫でられているわけでですね?
「ちいねえさまのフォンティーヌ領に流れ着いた幼子。可哀想に思った彼女が、自分の養子として引き取った桃色の髪の少女。美しく育った彼女は、病弱な義母に外での話を届けるため、この学院に在籍している──うん、如何にもオリキャラって感じの造形よね?」*7
「……その、こうして頭を撫でていらっしゃるのは……」
「ここでの貴方はタバサと同い年。……妹みたいな子がいる、っていうのはちょっと新鮮な体験だったわ、基本的には私が末っ子だから。……いやまぁ、二次創作にはたまーにタバサを妹みたいに扱ってるものもあったけど、ここではそうではなかったしね?」
oh……。
キリアは大きくなってたけど、ここのキーアちゃんは幼いのか……。
それとポジション的には義理の妹とか姪っ子ポジションだから、ルイズからは可愛がられていた、と。
……駆け抜けた記憶から察するに、こうして私が割り込む前はわりと甘えん坊だった彼女に、思わず頭を抱える私。
いや、だってさぁ?
「……
「甘えたい時にはルイズ
──ブリミルは死んだっ!!*8
キリアの時も大概だったけど、こっちもこっちで大概じゃねーかっ!?
ああくっそこの
原作と違って精神的に余裕でもあるのか、基本的に笑顔しか浮かべてないぞぅっ!!
「ふふふ、まぁここにいる
「そういう問題じゃない……っ」
朗らかな彼女の様子に、また羞恥プレイかよ……みたいな気分で机に轟沈する私なのであった。