なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
突然の『星女神』様との会話から早数分。
とりあえず問題を先送りして遊ぶことにした私たちは、現在阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。
『速い速い!マコラテイオー驚くほどの速さだ!誰も追い付けない追い付かせない!!』
「レースの最初から最後までずっとトップで逃げ切るとか、そんなんチートやチート!!」
「……まさかとは思うが、魔虚羅の能力も混じっているのかこいつ……?」*1
……主にまこーらが強すぎるせいで。
いやねぇ、まさかこんなに強いとは思わないじゃない?
このゲームの主題である障害物競争は言うに及ばず、ダート・芝といった基本的なレース場から、水辺・岩場のような普通走るのには向かないような場所まで。
ありとあらゆる場所に適正ありどころか最高級ランクの適正、だなんてそんなのチーター以外の何者でもないというか?
それもこれも恐らくこのまこーら、魔虚羅としての適応能力がしっかり働いていると思われるからで……。
『……もしかして、やりすぎましたでしょうか?』
(´´^`)「やりすぎっていうか……もはや我を妨げるものなし、って感じだし……」*2
(´・ヮ・)「完全に出禁の流れですなー」
『そんなぁ』
本人としてはあんなに軽い感じだが、やっぱりオリキャラとはいえたぬきはたぬき、走れないのは嫌な様子。
……ううむ、実質【顕象】なのだから、筐体の外に連れ出すのは無理ではないだろうが……連れ出したあとも色々苦労しそうだと思うと、どうにも楽観視もしていられないというか。
「……まぁいいかぁ!宜しくなぁ!」*3
「あ、諦めたぞこいつ」
「もしくはキャパオーバーだな。いっつもそんな感じだが」
後ろの二人うるさい。
私は単に、できれば悲しいことになる人が少なければいいなー、って思っているだけなのだから。
だからこう、これから遊ぶ度になにかしらの問題の発生が認められる状況だとしても、とりあえず気にしないことにしたんだよ!
「はぁ?」
「さっきの星神の台詞か。
「そういうことでーす!いつもより【顕象】発生の条件付けが緩い代わりに、【鏡像】になる確率は下がってるみたいだから、もうそれでいいんじゃないんですかね!!」
彼女──『星女神』様自体は『逆憑依』関連の元凶ではないものの、彼女の存在自体が【兆し】の起きやすい環境を作ってしまう、というのも確かな話。
……彼女が戻るまで続く話だと言うのなら、最早抗ったり難しく考えたりするだけ無駄である。ストレスがキャパオーバーしただけともいう。
そんなわけなので、なんかそこら中から色々悲鳴があがってるような気がするのは気にしてはいけない。いいね?
「なにもよくねーよ!?」
「ですよねー」
……そうも行かないのが現実。
というわけで、周囲で起こっているトラブル解決のため、走り回ることになる私たちなのでしたとさ。
「……そんな終わり方だったから、この後リザルトに移ると思ったでしょ。まだだよ!!」
「誰になにを言ってるんだお前は……」
はてさて、周囲で起こった様々なトラブルを解決した私たちは、ゲーセンから外へと飛び出していた。
……なお、別にあのままあそこにいたら更なるトラブルが襲い掛かって来そうだったので逃げた、みたいなことではない。ないったらない。
で、そのトラブルの先陣を切ったマコラテイオー、彼女はそのまま宿儺さんに付いて行きたそうにしていたのだが。
流石に発生直後の【顕象】をそのまま連れ歩くのは……ということで、例の琥珀さんとこの新人さんにお任せすることになった。
……いやまぁ、彼には大変申し訳ないことに、あのあと発生した他のトラブルも一応片付けたあと後処理全部任せ、みたいな形になってもいるのだが。
まぁ、特に問題が見付かったりしなければ、その内宿儺さんのところのお店の看板たぬきとして活躍することでしょう、多分。
「そういうわけで(?)、私たちはご飯を食べるために近くの料理屋に向かっていたのであります」
「だから、なんなんだよさっきからその説明台詞は……」
「後からゆかりんに提出する報告書に、添付する予定の映像を合わせて撮ってるんで、その関係?」
「いつの間に……」
で、一先ずさっきまでのトラブルのことは頭から追い出して。
現在私たちが向かっているのは、最近なりきり郷内に新規店舗がオープンしたとあるステーキ店である。
……え?いきなり?さわやか?そんな有名店ではないよ……。*4
「聞いたことのない名前のステーキ屋だったな……確か、GHN……だったか?」
「イヤーナンノ略ナンデショウネー」
「……その片言、まさかなにかの原作持ちということか?」
「ハッハッハッナンノコトヤラ。……いやまぁ、ステーキ屋って時点で違うだろうから安心して良いと思いますよ?」
件のお店は『GHN』というのだが、無論単なる当て字であることは明白。*5
……とはいえ、元ネタと思われるお店はそもそも定食屋、さらにはステーキと言っても店の形式通りの定食タイプなのだが。
え?元ネタのやつは明らかに定食って感じじゃない?そもそも個室?*6
……と、ともかく。
件の作品のファンが作った店だろう、というのが大方の予想である。
よもや
「いらっしぇーい!!」
「……独特な挨拶だな」
意気揚々と店内に入った私たちは、中を一通り見回してみる。
昼時ということもあり、店内は活気に包まれていた。……よく見ると、席が全部埋まっているような?
こりゃーしばらく待たされるかもなぁ、などと思いながらカウンターに近付く私である。……このお店、席に付く前に料理を頼む形式なのだ。
「ご注文はー?」
「ステーキ定食でー」
こちらの注文に、ぴくりと反応を見せる店主。
……まぁうん、この店の元ネタが
などと薄笑いを浮かべながら、返ってきた『焼き加減は?』の言葉に『弱火でじっくり』と返す私である。
いやー、まさかこのやりとりができる店があるとはなー。
……などとニコニコしている私と、流石にここまでお膳立てされるとここがどういう店なのか、ということを察したらしい他の面々。
そんな三人にいい店でしょー、と声を掛けようとして。
「お客さーん、奥の席へどうぞー」
「はっはっはっ……あれ?」
店内は満席だと思っていたのだが、何故か奥の方に案内されることに。
……あれー?単なるファンの溜まり場、的なものだと思ってたんだけどなーおかしいなー?
などと首を捻るも、流石に店主に睨まれては行動せざるを得ず。
仕方ないのでみんなを引き連れ、奥の席へと歩いていく私。
で、閉ざされていた扉を開くと……。
「……わーぉ」
「わーぉ、じゃねぇよ。わかってて頼んだんじゃねーのかお前は」
思わず漏れた声と、返ってくる頭部への衝撃。
……ハセヲ君のツッコミが入ったわけだが、こっちとしては痛いとか言ってる場合ではなかったり。
なにせ目の前に鎮座するのは、大人数で座ることを前提としているかのような大きなテーブルと、そのテーブルに嵌め込まれている大きな鉄板網。*7
熱せられたその鉄の板の上では、既に大きな牛肉がじゅうじゅうと音を立てており、鉄板のない木目の部分には白米の盛り付けられた茶碗が人数分。
……ええ、ぶっちゃけて言いますと、『HUNTER×HUNTER』の第二百八十七回ハンター試験会場へのエレベーターである個室が、そのまま存在しているわけでして。
いやまぁ、単に気分を盛り上げるために、原作そのままを再現した……ってだけだとは思うんですけどね?
でもほら、さっき『星女神』様にご忠告を頂きました通り、現在本来なら起きないようなことがとても起こりやすい環境、というものになっているわけでございまして。
そうなるとこの状況が、私が勘違いしているだけでいつぞやかのハルケギニア紀行のように、いつの間にか異世界へと転移させられているという可能性も決して零ではないわけでして。
……いや、普通に宣伝とかされてたし、普通のお店だとは思うんだけどね?でもこう、ここまでお膳立てされるとちょっと自信がなくな……やべぇ動いてる!地下に向けて下降してるよこの部屋!!?
地下百階まで降りていくとされるこのエレベーター、それ相応に時間も掛かるため、手持ち無沙汰になる……ので、その隙間を埋めるために食事が付いてくる、みたいな感じでいいのだろうか?
なので仕方なく、私たち四人は席に座っていい匂いのするステーキに手を付け始めたのだった。
そして、それを食べ終えたくらいのタイミングで、周囲から鳴り響いていた駆動音が消え。
同時、目の前の壁が左右へと開いていき、そこに現れた光景は──。
「……最近そういうとこ行かなかったから忘れてたけど、そういえばそういうシステムあったね……」
「うちは導入してないから、まったく気付かなかったぞ」
「食後の運動に原作っぽいものを、ってことなのかなー」
「そうだとするなら、ちょっと趣味が悪い気がするがな」
……あー、個人ダンジョン……そんなのもあったねー……。