なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「さてじゃあ改めて、ここの科学者が培養肉のために出した結論について、だけど……」
買ってきた食材を眺め、その中から一つの食品トレーを手にとって皆に見せる私。
選んだのは、『豚肉』と表記されたお肉の入ったトレー。……無論これも、件の培養肉であったりするわけなのだが。
まぁ、見た目に関しては普通のバラ肉なんだけどね?
「培養肉を人工的に分裂させようとすると、どうしても問題が残る。だから一つの細胞片を
「そのままやろうとすると、質量保存の法則に引っ掛かる?」
「そういうこと。だから研究者達は『いっそ』と開き直った。
……ってね」
「あー、それってつまり……?」
「そ。なりきり郷だからこそできること──『創作由来の技術』の有効活用に舵を切ったってわけ」
具体的に挙げるのならば、複製系のスキルとかが代表だろうか。
ビッグライトそのものは現状作れなくとも、例えば細胞一片でも残っていれば
そして、それらの様々なスキルを解析・複合し、改良に改良を重ねた結果出来上がったのが……。
「ここに書いてある『拡大複製機』ってわけ」
「生産者の名前ェ……」
豚肉の値札シールに併記されている、生産者の名前。
……そこにはとても人の名前だとは思えない、『拡大複製機』という漢字が記されていた。
無論『カクダィ・フクセ・イ・キ』みたいな意味不明の名前*1ではなく、文字通りの単なる(?)機械である。
なりきり郷の誇る異界技術の粋を結集したこの機械、方向性的にはフエールミラーのような複製系の道具に近い。
それらと明確に違うのは、
「それも、さっきビッグライトで出た諸般の問題を、華麗に回避した形でね」
「ビッグライトの問題と言うと……」
「細胞の増加だと必要となるエネルギーその他諸々の問題が、細胞の拡大だとそれを受ける側のスケール差による問題が、ってやつだね。この機械は複製したものに、それらの問題を回避する性質を付与するものってわけ」
雑に言うのなら、増え方の原理的にはスケールの拡大だが、それを受け取る側には細胞の増加に近い状態でモノを与えられる……みたいな感じか。
これは、一種の概念付与によるところが大きい。
同一の細胞には同じ管理ナンバーを割り振り、管理ナンバーが同じ細胞は
「管理ナンバー?」
「例えが難しいんだけど……個体・液体・気体は確かに個別の元素を持つものだけど、基本的には大枠の状態で管理される……みたいな?」
酸素とかがわかりやすいだろうか?
酸素は化学式でO2──酸素原子が二つくっついたモノであるが、基本的にその酸素分子を一つだけ取り扱う、ということはほとんどない。
大抵、ある程度の体積を持つガスの状態で扱われるのがほとんどだろう。
それはつまり、『酸素分子の集まり』という形で酸素を管理している、と考えてそう間違いではあるまい。
ただそれは、その酸素の塊から『酸素分子』を取り出すことはできない、ということを示すモノではない。
……うん、自分で言っててなんだけど、あんまり例えとしては上手くないなこれ?
まぁ、豚肉は『豚の肉』である限り『豚肉』であることに違いはないけど、その実部位とかで肉の種類をわけることはできる……みたいな感じでいいかな?
「説明雑か?」
「ははは……まぁ、とりあえず同種として括れるものとして扱うことで、概念的に一個のものと扱っているってことで……」
その辺りの原理を詳しく説明しろ、と言われても困るので『そういうもの』なんだと納得して頂きたい。
ともあれ、こうして一つの種類を『一個』として扱うとどうなるのか。
それはなんと、概念的に纏めることで質量周りの話をごまかすことができるようになるのだ。
「……んん?」
「酸素分子が無数にある、じゃなく
「……よくわからないんでもう少し簡潔にまとめてくれ」
「んー……内容量を正確に測れなくした、みたいな?」
「はい?」
モノの重さを知ろうとする場合、直接測るのが一番簡単だろう。
しかし空気のような気体の場合、それを測るのは難しい。液体や個体と違って纏まりがなく、容器などに納めることが難しいためである。
そういう時に便利なのが、特定の範囲内にどれくらい原子・分子が含まれているのか、と計算することだ。
これにより、原子・分子一つ分の重さがわかっていさえすれば、おおよその重さを推測することができるようになる。
──先の質量周りのごまかしとは、その物質の中にどれくらいそれを構成する素材が含まれているのか、ということを測れなくするモノだと考えるのがわかりやすい。
そこに
……またもや分かりにくい説明だが、まぁそんな感じ。
総質量を推測できないようにすることで、それが実際には質量保存の法則などの物理法則に反していたとしても、それを認知させないというわけだ。
……まさに頓知、もしくは屁理屈の結晶というか。
「……いや、幾らなんでもあやふやすぎやしないか?ってか、そんな技術で作られたものを食べても大丈夫なのか……?」
「そこら辺はまぁ、『俺の宇宙では音が聞こえるんだよ』理論ってことで……」
「最後の最後に力業過ぎる!?」
まぁ、無理なものを実際には無理なまま、色々ごまかして成立させているものなので説明できなくても仕方ないというか?
そんなことを宣いながら、私は件の豚肉を買い物袋の中に戻すのでしたとさ。
「ストレス発散も十分だろう。足りてないならあとで飯でも食いに来い」
……そんなことを述べながら、買ったものを抱えて自身の料理屋に戻っていく宿儺さんを見送った私たち。
暫くして手を振るのを止め、残ったメンバーで顔を見合わせることになったのだけれど……。
「うーん、宿儺さんもああ言ってたけど、実際あれこれしてたらもうこれで今日は終わりでいいかなー、みたいな気分になってきたんだよねー」
「じゃあ、ここで解散するか?」
「でもそれだと銀ちゃんが可哀想というか……」
「あー、確かに。俺達は朝から動いてるけど、銀時はさっき追い出されたばっかりだもんなー」
「……おいこら、人聞きの悪いこと言ってんじゃねーよ」
確かに私はまぁ、わりと満足した感じはあるけど。
さっき合流したばっかりの銀ちゃんに関しては、ここで解散となると家を追い出されたばかりなのに即出戻り、みたいなことになってしまうわけで。
……それはなんというかこう、哀れというか?
いやまぁ、本人にそれを言ったらスッゴい嫌な顔をされたわけだが。追い出されたわけじゃねーし、自分からジャンプ買いに出てきただけだしって言われたわけだが。
……ところで、今日って何曜日だっけ?
「あん?そりゃ勿論火曜日……あ゛」
「語るに落ちた、ってやつだな……」
あのジャンプ狂いの銀ちゃんが。
月曜の早朝……深夜?にコンビニに突撃し、入荷されたばっかのジャンプを手に取ることを密かに楽しみにしている銀ちゃんが。
よもやよもや、
それは彼自身がよく知っていることであり、それゆえに彼の発言には嘘しかなく。
「清姫の『逆憑依』とか居なくて良かったね?もしいたら確実に鐘に閉じ込められて焼かれてたよ?」
「……ソウダネヨカッタネー」
視線を逸らす銀ちゃんの様子に、私たち三人は思わず苦笑を浮かべてしまうのであったとさ。