なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「えーとなになに……『この世界にドラゴンボールのような願望器があるのかを知りたいです』……うちって天草居たっけ?」
「さぁ?居たかもしれないし、別のそういうのを求めてる人がダメ元で応募してきた、とかかもしれないわよ?」
「なるほど、じゃあこう返すしかないね。『貴方様の更なる躍進を応援しております』……と」
「なんでお祈りメール風……?」
人数的に終わりそうもないので、私たち三人もマシュ達を手伝うことになったわけなのだが。
応募文を見ていると、まだまだ会ったことのない人とか居るんだなぁ、と驚かされてしまう私である。
さっきのはどことなく天草四郎──救済に邁進する聖人の空気を感じたが、それ以外にも特定の人物を想起させるメールは複数存在した。
「わりと多いのがこれですね。『私の運命の人はここに居ますか?』という類いのもの」
「あー、恋愛系の作品のキャラとか?」
「恋愛ものに絞らずとも、作中で恋人関係の方がいらっしゃる場合は、相手がなりきり郷内・更に広げて日本国内に居るのか?……と気にしていらっしゃる方も多いようです」
「……ねぇ、あからさまにスルーするの止めない?」
「……いやだって、ねぇ?」
その中でも、特に酷似した内容のモノが複数送られてきており、その内容が自分の『相棒/パートナー/恋人』などの相手が、今現在この世界に存在しているのか?……というもの。
以前どこかで述べたように、ソシャゲの主人公の類いは『逆憑依』し辛く、それが先述の間柄に入っている人については御愁傷様、という感じなのだが……。
それでも諦めきれない、みたいな人は結構多いらしい。
そのため、そんな彼ら彼女らの送ってきたメールに関しては、目に見えるほどの……怨念?執念?のようなものが立ち上っているのであった。
……これ、物理的な便箋でも電子的なメールでも構わず立ち込めているものだから、みんな思わずスルーしてしまったんだよねー。
それをゆかりんに見咎められたものだから、渋々一つ便箋を手にとってみたのだけれど……。
「うわこっわ!!」
「え、なになにいきなりなに!?」
「敵襲ですか?!マシュ・キリエライト、直ちにオルテナウスに換装を……」
「ああいやいや、違う違う。書いてある文字と込められた念にビックリしただけ」
指先から伝わるおぞましい気配に、思わず便箋を放り投げてしまった私である。
……大分大袈裟な反応だったため、周囲に要らぬ心配をさせてしまったが……いやでも、これに関しては仕方がないんじゃねーかなー、と私は思ったり。
……怪訝そうに首を捻る一同に、私は放り投げた便箋を再度掴むと、それを彼女達に広げて見せるのであった。曰く、
『拝啓、初夏も終わり盛夏に近付こうかと言う今日。
先方様に付きましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
さて、突然話題を変更してしまって申し訳ないのですが、此度はやんごとなきお方が御忍びでこの地にいらっしゃった、とのこと。
聞けばそのお方は、あらゆるものに精通する至上のお方。
あらゆる問いに答えるその姿は、まさに一種の夢のようなもの、と拝聴致しました。
付きましては、一つ確認して頂きたいことがございます。ええ、
彼は私の愛しい人、分け難き半身。それと離されること、幾星霜。
私は、そろそろ堪忍袋の緒が切れそうにございます。
つきましては、先方のお手を取らせることに幾ばくかの躊躇を感じるものの……
誰誰誰誰誰誰誰私とあろうものがありながら何故誰とも知れぬ人間と笑いあって憎憎憎憎憎憎憎──』
「ひいっ!!?」
「ま、まるで清姫さんのような凄まじい気配です……!!」
はい。……はいじゃないが?
まぁともかく、文面からすら漂ってくるおぞましさに、思わず私が手を離したのも仕方ない……みたいな?
なおこれ、適当に選んだ便箋だったわけだけど……他のスルーしていたものに関しても、同じような気配が漂っている辺り恐らく中身は似たような内容だろう。
……こういうのを見ていると、さっきの話にも抜け道がありそうというか。
「はい?」
「ソシャゲの主人公は、基本的には『逆憑依』にならない……ってやつ。複数のキャラクターに等しく敬愛や恋慕を抱かれる、みたいなのが主人公には多いけど、それって冷静に考えるとおかしな話じゃない?」
「だけど今は違う!」<ギュッ
「……多分
話に出すのは、『逆憑依』としてのソシャゲ主人公の成立の難しさ。
……時には数百に及ぶ相手から、等しく敬愛や恋慕を抱かれる人物像……と言われて、普通はどんな人間を思い浮かべるだろうか?
ゆかりんが口走ったように、今なら恋太郎君を思い浮かべるという人も居るだろうが……一昔前、そのポジションとして該当しそうな属性というと、実のところそう多くはない。
恐らく、なにかしらの宗教の教祖……みたいなモノを思い浮かべることだろう。
わかりやすいのは──円堂守だろうか?いやまぁ、彼を『教祖』と言うのはネットの悪ノリの延長線上でしかないわけだが。*1
……円堂守は、初代『イナズマイレブン』シリーズの主役を努めたゴールキーパーである。
サッカー大好き、愛すべきサッカーバカ……と言った感じの彼は、作中においてライバル達とぶつかり合い、その度に絆を紡いできた。
これは、『イナズマイレブン』がソシャゲではないものの、ある意味ではそれに近しい性質を持っていたから、というところが大きい。
どういうことかというと、このゲームは『サッカーRPG』なのだが、それに加え選手の収集要素も持ち合わせているのである。
初代が千人、最新作として予定されているものに関しては四千五百人近くというそのキャラクター数は、そのそれぞれにしっかりとしたキャラクター性を持たせている、という点で恐るべきものだ。*2
……そんなイナズマイレブンだが、先ほども言ったように
ゲームでは単純なスカウトシステムだが、これがアニメ化される時に拡大解釈?されたのだ。
そう、同じサッカーを愛する者同士、俺達は仲間だ──みたいなノリに。
ホビーアニメ特有の『そのホビーが世界の命運すら左右する』というものが合わさり、彼らは『サッカー』という宗教の元に集った同士となった、というわけである。まさにサッカー万能論。
……まぁ勿論、あくまでもネットの悪ノリなわけだが。
とはいえサッカーがあればなんでもできる、みたいなノリであることは事実。
ゆえに、数多の人間達を纏めるのに『サッカー』という偶像を使っている、という風にも見えてしまうわけだ。
実際には、円堂守自体に焼かれている人もいるような気がするが、そこは置いておいて。
ともかく。
個性の違う、性別も違うような人間達を──数十人ならともかく、数百人規模で纏めあげようとすると、それを可能とする『なにか』が必要になる、というのは事実。
これが『FGO』なら冠位指定・グランドオーダーについてだし、『アークナイツ』ならドクターやロドス・あの世界の環境によるもの、みたいな感じになっていくわけである。
では、その辺りを踏まえて『ソシャゲの主人公』というキャラを改めて見返してみると……人物像が一つに纏まらない、という事実に辿り着く。
悪人から善人、普通の人から人ではないモノなど、『ソシャゲの主人公』というのは多種多様な存在との交流を強いられるもの。
……そして、それらの交流の結果というのは、基本的にプレイヤー側には『良いもの』しか開示されないのである。
具体的には、『隙あらばこちらを殺そうとしている相手が、最後までそれを邪魔され続ける』のような。
仲間として使える以上、それがプレイヤー──主人公に牙を剥くなど以てのほかだが、それが描写をねじ曲げてしまっている……というわけだ。
この問題は、敵キャラがプレイヤー側で使えるようになった時に発生しやすいが、少ないながらも主人公に協力的な相手でも発生することがある。
そう、敵対している人物同士が主人公の元に集う場合だ。
互いにどちらかが悪……という関係でない場合、その関係性に口を出すのは明らかに過干渉となる。
そしてその場合でも、主人公は上手く立ち回っているということが多い……顔を付き合わせれば殺しあいになるような相手に対して、である。
その辺り、各作品があれこれと理由を付けているわけだが……それが余計に主人公の人物像を見えなくしてしまう、というわけだ。
それらの問題ゆえ、『主人公という幻想を世界に投影できない』みたいな感じで、『ソシャゲの主人公』は『逆憑依』になり辛いわけだが……。
「最近の主人公って、わりとその辺り割り切った描写をしていることも増えたでしょう?」
「私の先輩や、グラブルの主人公さんなどが顕著ですね。アニメになると、どうしてもある程度のキャラ付けが必要になりますし……」
最近の作品は、それでは困るとばかりに主役を描写することも増えてきた。
……わかりやすいのはアニメの『恋姫夢想』*3だが、あの作品はルートによって描かれるキャラが違う、そして主人公との関わり方も違う……ということで、思いきって主人公の存在を消してしまった作品である。
その結果、謎の百合アニメのようなことになってしまったが……ファンからの反応は散々であった。
主人公に自己投影をするプレイヤーだけではなくなった、ということだろうか?
ともあれ、主人公を描写しない、というのにも問題がある。
そこで生み出されたのが、『アニメの主人公は別物』という、ある種割り切った描き方なのであり。
そしてそれこそが、『ソシャゲ主人公』達の抜け道となるのではないか、と私は考えているのであった。