なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「一種の例外処理、ということですか」
「そういうこと。……で、それが是だとすると、さっきの手紙についてもある程度説明が付くのよね」
「さっきの?」
これまでの話を踏まえた上で、『ソシャゲの主人公』のようなキャラクターが『逆憑依』になろうとする場合、『アニメや漫画での同名キャラクター』を使えばいいのでは?……という話になるわけだが。
これには一つ、明確な落とし穴が存在する。
そう、彼らは『ソシャゲの主人公』そのものではなく、見た目や名前が同じ『そっくりさん』だ、ということだ。
……なにを当たり前のことを、と思うかも知れないが。
これがもたらす
例えば、『A』というソシャゲがあるとする。
このソシャゲのアニメ版が『B』、漫画版が『C』であるとし、それぞれ描いている時期やタイミング・エピソードが違うと仮定するとしよう。
ソシャゲは『終わりのないマラソン』*1というように、それが続く限り絶えず新しい要素を付け加え続けなければならない。
そのため、『B』の時期の一番人気のキャラと、『C』の時期の一番人気のキャラ。
それから、『A』における現時点での一番人気のキャラが全て違う、みたいなことは容易に発生する事態である。
……もっと分かりやすく言うと、『B』でのヒロインと『C』でのヒロイン、それから『A』における(暫定の)ヒロインが全部別人、みたいなことになるわけだ。
で、それを踏まえた上で『B』の主人公が『逆憑依』になったとする。
その場合、彼にとってのヒロインは『B』の時の彼女だろう。ゆえに彼はその彼女とこちらでも仲良くなる……のだが。
それをこちらに存在する『A』や『C』のヒロインが見ればどうなるだろうか?
……そう、『浮気者』という感想を抱くに違いない。
実際のところは別人なのだが、名前と見た目と性格は同一であるため、その辺りの判別に支障が出るというわけだ。
で、さっきの手紙。
……最後の方に『そいつ誰』みたいなことが書かれていたように、件の彼女は恐らく『逆憑依』になった彼を既に見付けている。
見付けているが、同名の別人であるという事実に耐えきれず、『あれはなにかの見間違いだよね?』と問い掛けてきている……というわけだ。
「なんで、対応を間違えるとカナシミノーとか中に誰も居ませんよとかになりかねないんで、ちょっと慎重にならざるを得ないというか、やっぱり見なかったことにしてスルーしたくなるというか……」*2
「……スルーした場合、矛先がぜっったいこっちに向くわよ?」
「だよねぇ……」
……まぁうん、他人の恋路に迂闊に触れるべからず、ということで……。
「まぁ、さっきのに関しては実際にそれの番が回ってきた時に考えるとして……次に多いのはこれね」
ちょっと暗い話になってしまったが、気を取り直して。
次に多いメールについての話に移る私たち。……なのだけれど。
これはこれで、なんとも微妙な気分にならざるを得ない私たちなのであった。
なんでかって?それはねー……。
「『逆憑依』前の自分について知りたい、ねぇ」
「ほんのりと思い出せたりするけど、基本的には抜けてるモノ……という感じですものねぇ」
そう、『逆憑依』になる前の自分についての情報。
それらが得られないか?……というメールなのであった。
一般的な『逆憑依』は、自分が
なりきりという導線から今の姿に変化したわけだが、その記憶が自身の中に残っているからだ。
……分かりやすく言うと、文字通り『逆憑依』されたような状態、というわけだが。
それゆえにそこに起こる問題というのも、『憑依』のそれと似たようなモノとなっている。
それが、前の人格の記憶を思い出すことに支障がある、というもの。『逆憑依』が起きた時点で人格の優先度は今のキャラクターのそれが高くなっており、ゆえに思い出せる記憶もそちらのそれが基本となってしまっている、というわけだ。
一般的な『憑依』が起こった際、以前の人格を塗り潰してしまう……というのと似ているか。
まぁ、基本的には今の人格側で物事を考えたりしているため、前の記憶が思い出せないことが深刻な被害をもたらす、なんてことはないものの……。
「まぁ、喉に骨が引っ掛かってるような、スッキリしない感じは残るよね」
「あとはまぁ、過去の自分に関係のある
頭の隅で、ずっと主張している……みたいな感じになるので、ふとした時に気になってしまう……とのこと。
それで済めばまぁ、単に気になるねー……くらいの話で済むのだけど。
何人か、過去のことを思い出せている人物がいることが、彼らにこの質問を投げ掛けることを選択させた、ということになるらしい。
「まぁ、私とマシュのことなんだけど」
「あとはココアさんなどが有名ですね。……意外と目立つ人物ばかりなので、周囲の方への請求力は中々のモノなのではないかと」
そう、それは私たち。
……ことあるごとに話題になることもあってか、私たちが過去のことを覚えている、ということが周囲に知れ渡っているようで。
その結果、私たちの姿を見るたびに、先ほどの衝動がどんどんと強くなる……みたいな感じのようだ。
まぁ、衝動と言ってもさっきから言ってるように『気になるなー』くらいのものでしかなく、今回答えが得られそうなので質問してみた……くらいの軽いノリが多いみたいだが。
実際、メールの内容は深刻さを感じさせるものではないわけだし。
……ただ、ねぇ?
「……『逆憑依』の真の目的を思うと、知らせてもいいものなのか微妙な気がするというか……」
「あー、ココアちゃんとかの話から、なんとなーく目的については割れてきてるんだったわね……」
この『逆憑依』に込められた願いというか意味を思うと、彼らにそれを伝えるのははたして正解なのか?……という疑問が湧いてくるというか。
……私の予測する『逆憑依』の本来の意味は、なにかしらの理由で
しかも、この世界においてそんな目に合っている人だけを対象としているのではなく、他の世界からも該当者を引っ張ってきている気がする、というか。
これは、なりきり郷内の人間の数が五十万人を越えているにも関わらず、表の方で同量の行方不明者についての報道がない……というのが大きな決め手となっている。
日本国内の人間の数はおよそ一億人だが、そこから考えると五十万人というのはおよそ二百分の一。
……これは見方を変えると、二百人も人がいれば一人は該当する、というもの。
つまり、行方不明者が全てこの世界から出ている場合、話題にならない方がおかしい……ということになるのだ。
だって一都市で考えると二千五百人居なくなってる、ってことになるからね。
ゆえに、話はこの世界だけに留まらないわけだが。
これもまた、過去のことを伝えていいのか悩むポイントになるわけで。
「……貴方はこの世界の人間ではありません、なんて突然言われても困りますよね」
「キャラクターとしてなら『そういうこともある』って割り切れるだろうけど、恐らく一般人である以前の自分達が納得できるか、というとそんなことないってなりそうだよね」
そう、キャラクターとしてならば、他の世界に呼び出された……みたいな状況にもある程度折り合いを付けられるだろう。
だが、そういった特別な事情のない、普通の人間が突然『お前はこの世界の人間ではない』と伝えられて、はたして全うな判断ができるのか?……みたいな問題があるのだ。
いやまぁ、過去のことを思い出したとしても、人格の主体は『逆憑依』したキャラクターの方なので、いきなり取り乱したりすることはないだろうけど……。
「余計な心労になる、という点ではあんまり褒められたことではないわよねぇ」
「だねぇ」
今のそれは『気になるなー』程度のものだが、知らせた結果『疎外感』に発展する可能性があるのなら、知らせないのも一つの選択なのでは?……みたいな気分になるというか。
あと、最初に言っていた『命を失うようななにか』からの避難としてここに来た、というタイプの人の場合はそれに加えてさらに、『自分が命を失うような状況にいた』という心労を負う羽目にもなりかねないというか。
「……そう考えると、ココアちゃんって逞しいよねー」
「自慢の妹ですから。……というのは別として、自惚れになりますが私が常に傍に居る……というのも一種のセラピーのように効果を発揮している、のかもしれませんね」
「なるほど?」
それらの話を統括すると、『知っている』方に区分される人物で、かつ『命を失うような状態にあった』ことを覚えていながら、普通に元気に暮らしているココアちゃんって凄いなぁ、と思ってしまう次第。
……それを告げたところ、はるかさんからはちょっと自慢気な空気が漂ってきたが……ふむ。
「仮に知らせるのなら、こっちの人だけに限る……ってことになりそうだね」
「?それは何故?」
「ココアちゃんとはるかさんみたいに、親族に一緒に居てもらうのが一番だろうから、ってこと」
「なるほど……」
心身の安定を願うのなら、それを補助する支柱を用意するべき──。
そのようなことを述べたところ、ゆかりんからは納得の頷きが返ってきたのでしたとさ。