なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「例の説明会、大好評で終わって良かったわねぇ」
「まぁ、色々と疑問が解消したって人も多いみたいだからねぇ」
無論、この世界出身の人物でない場合に過去のことを知らせて貰えなかったりとか、みんながみんな望んだものを手に入れられた……というわけではないみたいだが。
それでも、大多数の人にとって満足のいくものだった、ということは間違いないだろう。
……まぁ、だからこそ新しい問題が発生したりしてもいるわけなのだが。
そういうわけで、件の説明会から一週間、場所はゆかりんルームからお送り致しまーす。
部屋の中を見渡せば、そこにいる面々は前回の説明会に参加していたメンバーの内、マシュと『星女神』様を除いた面々が揃っていた。
……え?その二人はどうしたのかって?
単にマシュは別件の仕事をやってるのと、『星女神』様は相変わらず御自身の居城に引きこもってるだけというか。
……まぁ、『星女神』様に関しては単に引きこもっているだけ、というには色々と問題があるのだが……今回は取り敢えずスルーしても構わないだろう。
なにせ、問題はそっちではなくこっち……なりきり郷で起こっているわけなのだし。
「いやー、まさか脱走者?が発生するとはねー……」
「まぁ、可能性としてなくもない……という話ではあったのよね。当人の過去がどれほど重要なものだったのか、というのはそれこそ人によって違うでしょうけど……」
「
うーむ、と皆で唸るわけだが……問題としてはそう難しいモノではなく、数名のなりきり郷所属メンバーが、密かにここを出て元の家に戻ってしまった……というだけの話である。
無論、無断で許可も得ずに外へ出ているということが問題、というのもそうなのだが……それぞれの動機が掴めないのもまた、微妙にこちらの頭を悩ませる部分だったり。
どういうことかというと。
彼らが脱走した理由、というものは恐らく『星女神』様に自分の過去を聞いたから……で一致しているはずなのだが。
問題は、そこから『脱走をする必要性』について話を進めると、途端に個人個人でてんでバラバラな理由に分岐してしまう……という状況に陥ってしまうのである。
例えば、単に自分の家族の顔が懐かしくなって会いに行った……みたいなのであれば、対応優先度としては限りなく低くなるだろう。
無論、相手方の家族さんは驚くことになるだろうが……それでもいきなり居なくなった家族が戻ってきたとなれば、感覚としては『嬉しいなぁ』というのが大きいはずで、そこまでややこしいことには……あー、なるかもしれないけどそれも他のに比べれば可愛いもの、みたいな?
「家族の姿が変わってしまった……みたいな話については、国から予め伝えられてるはずですもの。最初は困惑するかもしれないけれど、最終的には受け入れられるんじゃないかと私は考えているわ」
「まぁ、うちもそんな感じだったしねー」
思い起こすのは、私が家に帰った時のこと。
……
いやまぁ、本来互いが再度出会う……なんてパターン自体、この騒動が何事もなく終わって元に戻れた時、くらいの想定なので、その辺りを語るのはちょっとあれなのだが。
どういうことなのか、というのを語ろうとすると長くなるのだが……今回は必要なのでしっかり語っていこうと思う。
ではまず、なりきり郷に所属することになった場合に行われる、一連の処理についてだけど。
まず、『逆憑依』になった時の状況によって、早々に二パターンに別れることになる。
その二パターンというのが、直前の記憶を
……記憶のある人は持ち物に過去の自分を示すモノがほんのり残っている、もしくはがっつり残っているため、そこから現在の私達にたどり着けないように・もしくはたどり着いても問題のないように処理が施されることとなる。
私やマシュ・キリトちゃんやハセヲ君なんかがこのパターンで、過去の電話番号などはそのまま現在の端末に引き継がれているものの、そこから本来の家族についての情報を得ることができるために、向こうの家族には『電話しても繋がらない、もしくは電話を取ることができる状態にない』というような説明がされることとなる。
このパターンの場合、誰が誰の家族だったのか?……というデータを確りと把握しておくことができるため、後々なにかしらの問題が起きた時に確認を取りやすい……という利点があるものの、同時に相手側の家族へのケアをしっかりと行っておく必要性が発生するため、わりと一長一短でもあったり。
対し、本人に記憶のないパターンについてだが。
このパターンの場合、その人の過去を示すような手がかりが一切ない、ということも少なくない。
言ってしまえば着の身着のままそこにいるようなもので、相手方の家族だの親友だのの情報はまったくない、という状態になってしまっているのだ。
こうなるとケアもなにもなく、取り敢えず本人を保護することを最優先にされることになるが……一応、保護した場所の付近で行方不明者の捜索願が出ていないか、というようなことの確認はしているらしい。
無論、情報がなにもないのでそれが当人のことなのか、という確認はできないわけだが……最近は捜索されている人物が普通の行方不明なのか、それとも『逆憑依』に関わるモノなのかの判別ができる機械ができた(以前触れた『なりきりパワー』がその辺りの技術を発展させたのだとか)そうで、一応の安心を届けるくらいはできるようになったとのこと。
……まぁ、それはそれで普通の行方不明者にはなんの慰めにもならない、という別種の問題を発生させたりもしているわけだが、それに関しては警察さんに頑張って貰うということで……。
ともかく、対象の『逆憑依』に記憶があるかないかで対処が変わる、ということだけ覚えておけばよい。
で、この記憶のあるなしだけど、基本的には『ない』人の方が多いのは、ここまでの話を聞いていればなんとなくわかると思う。……じゃなきゃわざわざ『星女神』様に尋ねよう、なんてことにならないわけだし。
ここで問題なのは、『知らない』側の家族については、なりきり郷側も把握しきれていないということ。
一応、『逆憑依』関連の行方不明者の家族なのだろうな、というリストは存在するものの、それがどの『逆憑依』者に関連する人物達なのか、ということまではまったく把握できていないのである。
これは記憶という繋がりが、『逆憑依』の際に一回途切れてしまっているため。
その途切れ方もかなり雑であるために、どの切れ端がどの切れ端に合うのか、ということさえ容易に判別できなくなっているためである。
それゆえ、『逆憑依』関連だろうという予測は付けられても、それが誰の家族なのかまでは一切判別ができない……ということになってしまう。
そうなるとどうなるのか?……なりきり郷から飛び出した『逆憑依』達の足取りを辿るのが非常に難しくなる、ということである。
「どれがどれに紐付くものなのかわからないから、今のままだと全国津々浦々を片っ端から探すしかない、なんてことになりかねないのよねー……」
「まぁ、それに関しては最悪私がなんとかできるからいいけど……問題、それだけじゃないんでしょう?」
「そーなのよねー……」
……とはいえ、単に探す対象が多い、というだけならばそこまで問題ではない。
こっちには人海戦術において最強クラスのキリアがいるし、なんなら私もある程度なら手伝いはできる。
ゆえに、散らばった『逆憑依』を探す、という面に関してだけならば、そこまで大きな問題にはなりえないのだ。
となれば、問題はそこ以外。
誰が何処に行ったのか、ということよりも問題になることというと……。
「記憶なし組の家庭環境とか、過去の人間関係がまったくわからないことの方……ということですよね?」
「そーいうことー……」
そう、先ほどから何度も触れているように、『記憶なし』組の過去についてはわからないことが多い。
……わからないことが多いと言うことは、説明会の前にも触れていた問題──家族や恋人・信頼できる人……
つまり、彼らが飛び出した理由が、
そしてもし仮に、この懸念が事実だった場合……。
「早急に止めに行かないとヤバい……んだけど」
「説明会からもう一週間経過してるんだよねー……」
なにがあれって、もう例の説明会から一週間経ってるんだよねー。
……手遅れでは?そんな言葉が脳裏に閃く今日この頃なのでありましたとさ。
いや、笑い事ではないんだけどね?