なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……というか、なんでこんなタイミングでこの話を?」
「誰も彼もが飛び出してたのならわかりやすかったんだろうけど……出ていったのって数人だったのよね……」
後手後手過ぎるでしょう、というこちらの言葉に頭を抱えるゆかりんである。
……なりきり郷の所属メンバーはおよそ数十万から数百万人ほど。
その内の三桁にすら満たない人数の脱走者……などと言われてもすぐに把握できるモノではなかった、ということになるらしい。
一応、『星女神』様に
そしてそれを尋ねられるほどにこちらが元気になったタイミングでは、既に『星女神』様は御自身の居城に引きこもったあと、という……。
なんというか、悉くタイミングが悪いというか?
そんなわけで、こちらとしては後手に回りまくって半ばお手上げですという、なんとも言えない状態に陥ってしまっていたのでしたとさ。
……唯一救いがあるとすれば、外部協力者として互助会の面々の手を借りることはできる、ということだろうか?
「例の説明会の時、モモンガさんの独断で情報をシャットアウトしてたみたいだからね……」
「まぁ仮に彼がやらなくても、私の方から止めといた方がいいって助言はしてただろうけどね?」
私の言葉に、キリアがうんうんと頷いている。
……そう、今回の騒動には互助会──向こうの組織は一切関わっていないのである。
それもそのはず、向こうの面々は『星女神』様による説明会があった、ということ自体を知らない……という人がほとんどなのである。
それが何故かと問われれば、向こうの構成メンバーにその秘密があった。
……そう、ある程度是正されて来たとはいえ、向こうはまだまだ『自分を転生者だと思っている』者が多い場所。
そんな彼らに過去のことを教えたとして、ろくなことにならないだろうなというのは両方にとって共通認識だったのである。
比較的落ち着いている人物の多かった
……というか、仮に過去のこと以外について尋ねたパターンだったとしても、そこから別種のトラブルの火種が発生しそうな気がするので、余計のこと『星女神』様と互助会は引き合わせるべきではないというか?
まぁ、そんなわけで。
向こうの人はこっちでなにかがあった、ということくらいは把握しているものの、それがどういう内容なのかまでは知り得ていない。
そしてそれゆえに、今回の捜索においては特に問題もなく手を借りることができている……というわけなのであった。
……え?そもそも彼らの手を借りなければならない理由?
それはほら、こっちの面々もわりと手が足りてないというか……。
「……脱走騒ぎを起こしたのは数十から百人未満くらいだけど。それ以外の、『星女神』様の言葉であれこれと考える羽目になった人物を含めると……わりと機能停止状態に近いのよね、今のなりきり郷って……」
「特に対象を絞ったりしてなかったから、端から伝えられない面々を除いてほぼ全員がなにかしらの知識を得た、みたいなことになっているものね……」
……ぶっちゃけてしまうと、結果として脱走しなかっただけで現状仕事ができるような精神状態ではない……という人物が過半数を締めてしまっているのである、現在のなりきり郷は。
確かに、彼女に聞くことによって一番大きな影響を発生させるだろう物事は、前述するように『自身の過去について尋ねる』ことだろう。
だが、誰も彼もがそれを選んだわけではない。多かった質問として挙げられていた『自身の想い人』関連の質問や、それ以外の質問というのも普通に存在はしていたし、それによって発生した影響、というのも決して軽微ではない。
あのジェレミアさんでさえ、尋ねた内容まではわからないものの、その質問によって動きに精彩を欠くようになったというのだから、その影響範囲の広さは決して甘く見て良いものではないだろう。
……まぁ、あくまでもちょっとボーッとしてるなー、くらいの影響であって、死亡事故とかに繋がるほどの問題……ってわけでもないのが、今回の問題の対処が遅れる理由にもなっているため、正直一長一短な気もするのだが。
ともあれ、郷内の仕事を任せるのならともかく、外に出て捜索やらを任せようとするとボロが出そう、というのは間違いなく。
そういう意味で、精神状態に問題のない外部の手を頼るのが一番であることもまた間違いではない……というのが、今の私たちの置かれた状況ということになるのだろうか?
「……っていうか、個人的にはジェレミアさんが尋ねたいことがあったってこともそうだけど、ゆかりんが特になにも尋ねなかったのもわりと不思議なんだけど?」
「それはまぁ、私も自分のことについては覚えてる側だってのと、それ以外で特に尋ねてみたいことも無かったって言うのが大きいんじゃないかしらね」
そうして会話をする中で、ふと思ったことを口にする私。
内容は『ゆかりんなにも尋ねなかったんだね?』という軽いモノだが……実際、聞き方に反してわりと不思議に思っていたりする私である。
だって、ねぇ?
八雲紫としてはともかく、
……という私の疑問は、彼女の『私も記憶はあるタイプだし』という言葉によって解消……されないわけだが。
確かに、過去のことを知っているのなら、わざわざ『星女神』様に尋ねる必要のあること、というのはそう多くない。
そもそも『星女神』様への質問で過去のことを尋ねる者が多かったのは、それが先述した通り現在から辿ることが難しいモノであるがゆえ。
……私たちのように覚えているのならともかく、覚えていない組の過去を辿るのならば、それこそサイコメトリーのような過去視が必須となる。*1
しかも、単なる過去視だと
だが、裏を返せば彼女の協力が必要なのって、
例の質問──『自身の想い人』については、最悪自分で調べるなり調べ事が得意な人に任せるなりで賄えるし、それ以外の質問に関しても絶対に『星女神』様の手助けが必要か、と問われれば答えはノーだろう。
……そう、道が途切れているせいで辿ることができない『自身の過去』以外の疑問は、時間と人員さえ掛ければ到達は不可能ではないのだ。
だから、それについて知っている面々──私やマシュなんかが質問がない、と辞退するのはそうおかしい話ではない。
……話ではないが、同時にそれはゆかりんにとっては微妙な話となるだろう。
何故かって?それは勿論、私たちと彼女には明確な違いがあるからである。そう、
自分一人のために使うのであれば、それこそ自身の過去を知ろうとする以外では勿体ない……というのも間違いではないだろう。
だがしかし、自分一人のためだけではなく、この組織の行く末を案じる目的で使うのなら──『星女神』様への質問権というのは、中々得難いものだと言えてしまうはずだ。
彼女の目ならば、これから起こるトラブルを事前に書き記して貰う……なんてことも普通にできてしまうわけだし。
だが、ゆかりんはここまでの話を聞いてなお、首を横に振った。
不思議に思って尋ねると、『それは良くない』という答えが返ってくることに。
「そもそも、貴方も言っていたでしょうに。【星の欠片】に頼りすぎるべきではない……って」
「……あー」
その答えは、色々と失念していた私の頭をガツンと殴り付けるのであった。
……あー、なるほど。個人個人相手にあれこれするのならともかく、ゆかりんの立場として尋ねるのは最早
言われてみればそりゃそうだわ。自分が【星の欠片】だから完全に失念してたわ、マジで。
……ということは、ゆかりんは個人で聞くこともなく、かといって責任者としては端から尋ねる気はなかった……ってことか。
ううむ、私が思っている以上に指導者としてしっかりしてる……?
「寧ろ、貴方がちょっと抜けてるだけだと思うんだけど?」
「言ったなこやつめ」
ははは、と笑い合う私たちである。
……え?なんか周囲が引いてる?気のせいじゃないかなー。
ともかく。
細かい疑問を投げるのはここまで。
ここからは、さっさと脱走した面々を探しに行くことを優先した方がいいだろう。
残りの話はこの件が解決してから、ということで。
そういうわけで、私はキリアをゆかりんの補助に置いて行くことにして、そのままゆかりんルームを飛び出したのでしたとさ。