なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……ええっと、ではミス・ルイズ。次は貴方の番ですよ」
「はいっ」
生真面目な感じの声を先生に返し、私と入れ換わる形で魔方陣の前に立つルイズ。
……入れ換わる途中で笑顔で睨まれた訳なのだけれど、正直ちょっと反省してなくもない……ので許して貰えないかな?ダメ?ですよねー。
いやでもだね?
召喚なんて一大事、やれることやんなきゃ損だとは思わない?……
みたいな感じなのだけれど、ルイズさんからは笑顔の威圧が返ってくるだけなのでしたとさ。
……むぅ、君だって次にやらかす可能性大だろうに、横暴だぞー。
「さて、と。──宇宙の果てのどこかにいるわたしの
(はやっ!!?)
なんて風に、ちょっと楽観的な感じで見ていたのだけれど。
……いや、体面も臆面もなくいきなり直で召喚、というのはどうかと思うのだけれど?!
まさかの過程省略……をせずとも、そもそも原作と違って風のメイジになってるのだから普通に召喚できるはず、なのにも関わらず彼女が唱えたのは、原作と同じである渾身の誓句。
……そんなにサイトに会いたかったのだろうか。
それとも、この世界のサイトがどうなっているのか、早めに確かめたかったのだろうか?
私は彼女ではないので、その辺りの考えとか感情とかはわからないが、少なくとも彼女の目の前の魔方陣が、地面ごと捲れ上がって爆発したのだけは確かだった。
───いや、なんで?
途端に周囲に舞い広がる砂埃と、中心点に向かうように吹き荒れる暴風。
原作のそれより意味不明なことになっているそれに、皆が阿鼻叫喚の地獄絵図となる中、当のルイズはポカンとした顔で、自分の起こした現象を眺めていた。
「え、えっと。……ちょっと失敗したかしら?」
「ちょっとぉっ!?これの何処がちょっとなのよ、このバカルイズーっ!!」
「なっ、ばばばばバカとは何よバカとは!私だってこんなことになるとか思ってなかったわよーっ!!」
「流石はルイズ、私にはできないことをやってみせる。そこに痺れる憧れる」
「タバサ姉さまはいつも通りですね……」
騎士然としたマシュに庇われつつ、三人娘を見やる私。
……まぁ、なんというか。ツッコミお疲れ様キュルケさん、が一番の感想だろうか?
原作だと常識人枠のはずのタバサまでこんな感じだし、ルイズもルイズでわりとはっちゃけキャラだし、負担が凄いのは彼女に間違いないだろう。
……ビジューちゃんもトラブルメイカー側っぽいみたいだし、この世界の安寧は彼女の双肩に掛かっているようだ。
頑張れキュルケ、負けるなキュルケ。君がやらなきゃ誰がやる?……万丈だ。*1
「誰よバンジョーって!?というかキーア!貴方も大概なんですからねーっ!!?」*2
「ははは聞こえませんねキュルケ姉さん。私は良い子ですので」
「嘘付けーっ!!」
いよいよもってエグい勢いの風になってきたのを、近くの大岩に捕まりながら耐えているキュルケと、いつの間にやらその後ろに隠れているタバサ。
……私はほら、マシュがとってもがっしりしているので大丈夫。
召喚されてからこの方、ずっと表情が堅いのが気になるけども、それを抜きにすれば頼りになる後輩なのは間違いなし、というわけだ。……藤丸くんちゃん達も、こんな感じで守られてたのかねぇ?
なお、何故かルイズは平気そうだった。
魔法で逸らしているとかではなく、純粋に彼女には影響がない、みたいな感じだ。……召喚者保護でも発生してたりするのだろうか?
なんて風に観察していたら、砂を巻き込みもはや竜巻と化していた中心部が、突然虹色の輝きに包まれた。
そして辺りの風が三本の輪となり、そのまま中心に爆縮される。──って、三本線に虹?
「──ヒラガサイトォ?誰それ?」*3
ごうごうと唸る風の中心部、そこに一つの黒い影が見える。
……声はまぁ、平賀才人その人のそれと変わりはないのだけれど。……台詞!台詞が不穏!!
状況がわかっていないキュルケやタバサはともかく、なりきり組である私やルイズなんかは、この台詞の時点で警戒度MAXである。
いや、確かに
……この場で、しかもこのタイミングで呼ばれるのは、なんというか本当に嫌がらせ以外の何者でも……なにものでも……?
……んん?
「……
「う、うそでしょ……っ!!」
「本気で言ってるんですかこれ」
徐々に風が晴れ始め、シルエットが段々と明確になる。
その背丈、そのガタイのよさは、サイトでもベクターでもなく。
巨大な大砲を手に、仁王立ちするその姿には威風すら感じられる。
逆光でその顔は見えないが──不敵に微笑んでいるのは確かだろう。
砲を持ち上げ、地面に打ち鳴らす。
それだけで、残っていた風も散り散りになり、いよいよその姿が鮮明となる。
そこに、居たのは。
「平賀=
「オレが! ここに! いるぜ!」
「顔ーっ!!!?」
……なにそれっ!!?
「……えっと、つまりはなりきり組なのね、貴方」
「まぁ、そういうことになるか。一応ナポレオンをやってたはずなんだが、ここにこうしてやって来た時に、どうにも要素を混ぜられたようでな。サイト少年の役割に当てはめられた結果、こんなことになっちまったようだ」
あれからまたコルベール先生にタイムを申し入れ、
原作ルイズポジションなビジューちゃんはともかく、一応まっとうに風のメイジであるはずのルイズが人を──しかもちゃんと……ちゃんと?……ええっと、サイトと思わしい人物を召喚したことは、なんというか強制力的なものが働いたのか、はたまた彼女の無茶苦茶な詠唱のせいなのか、どうにも判別が付かずに困っている感じである。
っていうか、やっぱり騒動起こしてるじゃんルイズ、はた迷惑じゃんルイズ。
「うるさいうるさいうるさい!私だってこんなことになるとは思ってなかったわよっ!」
「……あー、なんつーか。そいつを聞いてるとどうにも調子が狂うな。刀とか持ってないだろうなアンタ?」
「………」
「お持ちでいらっしゃるみたいですね、これは……」
「だ、だって声繋がり二次創作とか、誰でも思い付く定番中の定番だし……」
シャナめいたルイズとか、まぁ見たことなくもないしなぁ……。
なにがアレって、そっちはそっちで悠二君とサイトの声一緒なんだよね。
ヒロインと主人公で声優被りしてるものだから、わりと目立ってたなぁ。
……ところで。
その、マッシヴボディなのにも関わらず、顔だけ
めっちゃモテたい感じというか、ムワッとしてパーンとしそうというか。*5
「ああ、そいつはすまないな。オレも気にはしているんだが……どうにも、見た目に関してはサイトを成長させた、みたいな扱いになっているらしい。中身は無論、ナポレオンことオレなわけだが」
「成長したっていうなら顔もちゃんと成長しなさいよ!どう考えてもヤバい奴じゃないのアンタ!」
「お、おいおい
わやわや言い始めた二人は放っておいて、こちらはこちらで確認を取るために、マシュに向き直る私。
……さっきまでの彼女と違い、今の彼女は普段通りの彼女のように見える。と、言うことは、だ。
こちらの視線に、マシュは小さく頷き、口を開いた。
「せんぱいが予想されている通りかと思いますが、一応確認のため、発言させて頂きますね。……ここ、仮称『ハルケギニア』においては、そこに在る者全てに役割が付与されるようです。結果として、元々役割を被っている私達は、俗に言う『
「やっぱり?……で、周囲になりきり組以外の人が居ない時、それらは効力を失う、と」
「はい。私も先ほどまで、『異界より召喚されし騎士の少女』の役割を強制されていました。……こうして他の皆さんから離れることで、その縛りも和らいではいるようですが……」
マシュからの話を聞き、改めて現状についての考察を回す。
……このハルケギニアが、物語の舞台として用意されたもの、というのは半ば確定的であり、そこに立っている限り『役』を割り振られるというのも、ほぼ間違いではない。
ただ、他の人から離れると役割の強制力が弱まる、というのはちょっとよくわからない。
……普通の人とほぼ変わりのない行動を取る彼等彼女等だけど、本質的には運営側の存在ということなのか、はたまた他に何かからくりでもあるのか。
……うーん、わからん。
そもそもこっちに来て一日も経っていないのである、調べるにしろ何にしろ、情報が足りてないとかってレベルではないのだ。
「……そういえばマシュ?召喚される前の記憶って、どこまで覚えてる?」
「はい?……えっと、そうですね……っ!」
「あ、うん。わかったからいいよ」
「は、はい。しゅみません……」
……私と彼女が覚えている記憶の最終日が違ったら、そこから何か確かめられるのではないだろうかと思ったのだけれど。
このマシュの反応からするに、あの午睡からここに繋がっているというのは変わらないようだ。
ふーむ、となると……当初の予定通り『ゼロの使い魔』を進めるしかない、のかな。
『ゼロの使い魔』の二次創作における大きな山場といえば、この後暫くするとやって来る決闘騒ぎと、宝物庫の騒ぎ、それからアルビオン行きだろう。
これらのうちの、どれかを終えた時点でエタるというのが『ゼロの使い魔』二次創作における、お約束みたいなものだったりしたものだ。
いやまぁ、ここにいる私達は外身はどうあれ中身は無関係、エタるエタらないの前に、帰還条件満たせるようなら途中でドロップアウトするんですけどね。
「ふむ、確かにいつまでも他所の世界に迷惑を掛けるわけにもいかぬ。早々に立ち去れるのであれば、我々は立ち去ることを第一目標に動くべきじゃな」
「……はい?え、今の声はどこから?」
なんてことを話していたら、突然どこからか聞こえてくる老人の声。
いったいなんだ?と周囲を探してみれば、すぐ近くの木の枝に止まる、赤い体毛の小鳥が居ることに気が付いた。
……誰かの使い魔、だろうか?
「ふぉっふぉっ。目敏い目敏い。──
その小鳥から老人の声が溢れているが、それはどうやらこの小鳥の主の声を、感覚共有を利用して届けているもののようだ。
フォークスと呼ばれた小鳥は、こちらを先導するように中空に飛び立った。
マシュと顔を見合わせ、未だに話を続けていたルイズとサイト……ええと、サイトでいいか一応。
二人を呼んで、小鳥の後を追い掛ける私達。
コルベール先生は最初こちらを呼び止めようとしていたけれど、私達を先導するのが赤い小鳥であることに気付くと、小さく頭を掻いて生徒達への指示に戻っていった。
ってことは、これは学院長の使い魔、ということでほぼ間違いないだろう。
……おかしいなー。オールド・オスマンの使い魔ってネズミだったような気がするんだけどなー?
それとこの小鳥。『フォークス』っていうらしいんだけど、それもどこかで聞いたことあるような気がするなー?
……不安しかないんだけど。
でもお偉いさんからの呼び出しには逆らえず、ホイホイついていく私達なのであったとさ。