なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、五条さんを見付けるのはとても難しい……という、元も子もないような話をしてから、およそ一時間ほど。
私たちは他の面々と出会いそれを手伝ったりしながら、各地を回っていたわけなのだけれど……。
「……この暑い中を、あちこち走り回らせる五条のやつは鬼畜なのでは?」
「言えてるー……」
こうして、相手を見付けられないまま走り回ることに、次第に疲労感が蓄積されていたのであった。
……いやホント、全然見当たらないんだけどあの人?
確かに、前回語った通りに彼の発見は難しい……というのは本当のことである。
徘徊タイプの伝説ポケモン*1みたいなもので、こっちの接近を察知して他の場所に移動する……なんてことが延々と繰り返されている可能性は言うまでもなく、そもそも相手のスペック的にはそれより遥かに遠くへひょい、っと逃げている可能性も否定できないわけで。
……それらを総合すると、確かにその足取りを追うのは至難の技だと言える。
言えるんだけど、それにしたってなんの情報もないのはおかしすぎるというか。
そもそもの話、なにか目的があって外に出たのなら、その目的から遠く離れてしまうのは余り宜しくないはず……というのも問題だ。
今回の脱走事件は、
自身の過去・家族のこと・恋人のこと……内容に差はあるだろうが、基本的には自分の中に燻る疑問に解を求めるため、ということで概ね一致している。
そこにはある種の焦燥感があり、それは裏を返せば例え誰かに──この場合は郷や互助会から派遣された、ある意味での追っ手に──追われる形になったとしても、早々諦めきれないモノでもあった。
というか、諦められる話なら後々めんどくさいことになる『脱走』なんて端からするはずがない、というか?
そういうわけなので、脱走した人はそもそも
自分が捕まることよりも、自分の中の疑問に決着を付けることを優先してしまっている……というか?
また、それゆえなのか基本脱走した人は
今のキャラクターを演じるよりも、本来の自分自身を優先してしまうような隙のある人物が脱走している率が高い……という感じか。
まぁ、あくまで比率的にそっちの方が多いというだけで、五条さんを始めわりと再現度の高い人物にも脱走者は出ているのだが。
……そこら辺は、『星女神』様から聞いたことがその人にとってよっぽど衝撃的だったのかも、と推測することはできなくもない。
無論、詳しいことを聞きたいのなら『星女神』様か本人に当たる必要性があり、前者は無理なので実質的に無意味な設問と化していたりするのだが。
なんでかって?個人の事情に必要以上に踏み込む気がないのと、それでもなお敢えて踏み込むというのなら、それは『脱走者が何処に向かったのかを推測するため』に情報として知りたい……という動機にしかならないからですね……。
「相手の行き先を尋ねるために、本人に理由を尋ねる必要がある……などという、本末転倒なことに陥っているというわけだな」
「相手にそれを聞ける状態にあるのなら、そんなことするより前に相手を捕まえた方が早いからね……」
雑に言えば、相手の場所を推測するために相手に脱走した理由を聞くようなもの。
……それを尋ねられるような近距離にいるのなら、わざわざ尋ねる前にさっさと捕まえるべき、というわけである。
基本的にみんな携帯端末の電源落としてるから、遠方から尋ねるってこともできないしね!
で、この辺りの話を纏めると、五条さんの足取りが
そう、脱走者の目的が『誰かに会う』ことであるのなら、その痕跡は必ず特定の場所に集中する。
例えやって来るのが誰なのか、ということを個別に判断できなくても、『逆憑依』の反応が特定の場所に集中しているのなら、とりあえずそこに近付けば誰かしらは取っ捕まえられる……というわけだ。
いやまぁ、正確には『逆憑依』そのものを察知するというよりは、変な噂などが集中している場所を探す……みたいな感じだけど、どっちにしろ『探しモノ』という目的地がある以上、最悪そっちを判別できれば罠を張るようなノリで待ち伏せが成立するわけだ。
……なのだが、当の五条さんは全く足取りを掴めていない。
これがなにを意味するのかと言うと、彼は脱走者でありながらなにかを探しているようには見えない、ということになる。
目的があってそこに向かおうとしているのではなく、特に意味もなくあちこちを回っているだけに見える、というわけだ。
「モノにしろ人にしろ、目的があるのなら……そしてそれが脱走の理由であるのなら、その周辺に痕跡が残るのが普通……ということじゃの」
「実際、他の人達はそのやり方で捕まえられてるからね」
他の脱走者達は、例え一度こちらに追われて離脱したとしても、暫くすれば隙を見て目的地に近付こうとする。
まるで帰巣本能みたいな感じだが……ともあれ、どれが誰に対応するのかわからずとも、『逆憑依』関係者の親類や親しい人物だと目される存在達のリストがこちらにある以上、大まかに警戒すべき場所というのは判別できる。
それらを合わせれば、相手を待ち伏せするのは決して難しいことではないのだ。
……まぁ、待ち伏せした結果相手を捕まえられるか、というのはまた別の話なのだけれど。
なにせ彼らは腐っても『逆憑依』、なにかしらの特殊能力を持つもの。
その能力如何によっては、待ち伏せした人員では対処しきれない、みたいなことが普通に起こりうるわけだし。
「それを助けるのが、遊撃役であるわしらの仕事じゃしのぅ」
「助ける必要がないのが一番だけど、そう上手くいく話でもないしねー」
そういう時に、近くにいる私たちのような遊撃役が手伝いをする……というわけだ。
これで待ち伏せの成功率は大幅にアップ、相手の確保率も大幅アップでこれで昇進確定だ、みたいな?いやまぁ、私は昇進とか
ともかく、これで五条さんのおかしさはなんとなくわかったことだろう。
他の脱走者が明確な目的を持ち、例え邪魔をされても猪突猛進的に目的への邁進を止めないのに対し、当の五条さんは
これでは、待ち伏せも推測も不可能である。……っていうか、そもそも痕跡を察知できてないので推測もなにもないというか?
そんなわけなので、私たちの五条さん捜索は早々に暗礁に乗り上げていたのが、更に潮が暫く満ちそうにもないので動けない……みたいな感じに陥ってしまっていたのであった。
そりゃもう、深々としたため息だって漏れてしまうというもの。
そもそも炎天下の中西へ東へ大忙しだったのだから、相応に疲労が溜まるのが当たり前というか。
……と、言うわけで、私たちは早々に休憩へと移行。
冷たい店内の中で、再びメニュー表と向き合っていたというわけである。
「いやもう、経費で落とすにも限度はあるけど……暑いし見付からないし暑いし見付からないし忙しいしで、休憩しないわけにもいかないと言うかっ」
「気持ちはわかるが、一先ず落ち着け」
グラスが割れる、というサウザーさんのツッコミを聞き、小さくため息を吐いたあと中の飲み物をがーっと飲み干す私であった。
……いやね、なにがあれって私冬生まれだから夏の暑さ大嫌いなのがね……(完全な私情)。
ついでに言うと、このままの流れだとまず間違いなく五条さんは最後まで見付からず、それに伴い私たちの仕事も終わらないということになるわけで。
……そりゃね、ちょっとずつイライラゲージも貯まってくるというもの……って、ん?
「どうした、キーア?」
「……いや、気のせいかも」
店の側面、道路側にあるガラス張りの窓の向こうに、見覚えのあるあんちくしょうの姿がスッ、と見えたような気がした私は、暫くそれを探すように視線を動かすものの……ううむ、やはり気のせいだったのか奴の姿はない。
暑さで幻覚が見えたのかも……と頭を振って、とりあえずおかわりを淹れるためにドリンクバーへ向かう。……って、ん?
「おっとやべ、退散退散……」
「……えっ!?ちょっ、はっ!??!?」
「ぬわっ?!なんだキーアどうした!?」
気のせい……じゃねぇ!
今明らかにドリンクバーの前に居たんだけどあの
咄嗟に駆け寄るも、その姿はまるで空気に溶けるように消えて行く。……そして、私の手はさっきまで彼が居たはずの場所を、虚しく空振りした。
……あ、あいつ……まさかとは思うけど、こっちをからかうために脱走しやがった……?!
脳裏に閃いたその言葉は、驚くほどにしっくりとくる理由だった。
なにかを探しているのなら、痕跡が一つも残らないのは不可解。だがしかし、相手が『かくれんぼ』をしているようなノリだとすればどうだろう?
……うん、痕跡は隠すのが普通だよね。それから、あんまりにも見付けて貰えないと鬼役をからかいたくなる、ってのもわからないでもない。
…………うん、…………………うん。
「殺す……」
「ぬぉわ!?キーア顔怖っ!!?」
「お、落ち着いてキーアちゃん!ここ人前!人前!」
「うおーっ止めてくれるなアイツは絶対殺すー!!」
……愉快犯じゃねぇか!!ふざけやがって!!!
思わず殺気を漏らす私に、他のみんなが慌てて近寄ってくるのであった……。