なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「ほっほっ。ようこそ、学院長室へ。わしはダンブルドア。まぁ、知っておる者も多いかの?」*1
「…………」
「せ、せんぱい?……し、死んでる……」
小鳥に案内されるままにホイホイ付いていった先で、こちらを待ち受けていたのはなんと、まさかのダンブルドアでした。
……あかん、
というか魔王とダンブルドアとか、水と油みたいなモノなのでは……っ!!?
に、逃げねばっ!ここは逃げねばならぬっ!!
「落ち着きなさいってのキーア。……ちょっと前に
「え、そうなんです?」
そうして、内心部屋の隅でガタガタふるえて命ごい*2をしそうなテンションになっていた私なのだけれども、横から呆れたように投げ入れられたルイズの言葉に、思わず学院長──ダンブルドアへと視線を向ける。
彼は、人好きのする朗らかな笑みを浮かべて、こちらに頷きを返してきた。
「うむ、いかにも。ダンブルドアがわしの正確な名ではあるが、
──なるほど。
ハリー・ポッターという作品が世に生まれてから、そこに登場したキャラクター達の造形というものは、魔法使いを扱う作品に少なくない影響を与えたと思う。
オールド・オスマンという
……いや、そこをもっと深掘りするのなら『
基本的に人というものは『自分が最初に知ったもの』を基準に置くため、『指輪物語』と『ハリー・ポッター』のどちらを先に履修したかによって、どっちの要素を強く感じるかは違ってくるだろうから、まぁわりと詮なきことでもある。
ともあれ、そういった老魔術師の流れを汲むオールド・オスマンという立場であるからこそ、ダンブルドアという人物であってもそこまで肩肘張らずに過ごせる……ということなのかもしれない。どっちも最高責任者だしね。
「……だからといって初見で『ディテクトマジック』と『開心術』を一辺に掛けてくるのはどうかと思いますが」*4
「ほっほっ。ちょっとしたお茶目じゃよ。──弾かれるのは、見えておったしの?」
「えっ!?い、いつの間に……」
……まぁ、それはそれとしてこっちを探ろうとしてくる辺り、やっぱりダンブルドアはダンブルドア、だったんだけどね!
この人やっぱり怖いよ、舌の根の乾かぬうちにこっちに探り入れてくるんだもん……、いやまぁ、彼のキャラクター的に言えば、ホントにただのお茶目だったんだろうけども。
本気で探りを入れるつもりなら、話さないし・悟らせないし・匂わせないだろうから。……なんだそのヤバい人は?
マシュとか今のサイトみたいに対魔力がデフォならいいけど、そうじゃないビジューちゃんだと対処が遅れるので、できればやめてほしいところである。
「……ん?オールド・オスマンと言えば、ちょっとスケベなお爺さん……みたいなキャラだったような気も?」
「そこは年長者の意地じゃよ、ミス・フォンティーヌ。わしがうつつを抜かすのは、今やレモン・キャンデーくらいのもの。……あ、いや。年若い金髪の、鳥のような髪型の青年……には、ちょっとばかり興味がそそられるかも知れんの?」*5
「……それ、わかる人いるんですか?」
「わかる者がいたから語った。……そういうことじゃよ」
う、うーむ食えない人だ……。
ほっほっと笑うダンブルドアに、なんとも言えない表情を向けてしまう私。
……世間で好き勝手言われていることを察しつつ、それでもなおお茶目に言葉を返してくる……というのは、紛れもなくダンブルドアの気質だが。
同時に、相手に何かを察することを許さない鉄壁ぶりもまた、彼らしいと言えばらしい……のかもしれない。
いやでも、
──つまり、わからない人には全くわからない状況なのにも関わらず、その上で
……敵じゃなくてよかった、という言葉しか浮かんでこないんだけど、どうしたらいいかな?
なんて風に暫し困惑していると、ダンブルドアはまた朗らかな笑みを浮かべ、こちらに告げる。
「そう気にせずともよい。わしに取ってのこの場所での暮らしは、先
「……失礼しました、ダンブルドア先生。貴方の寛大なご厚意に感謝を」
……むぅ、いかんな。
必要以上に警戒しすぎた、ということらしい。
所詮はなりきりであるし、所詮は物語の余白である……というような言葉まで積まれてしまえば、こちらの方が悪いのは明白だ。
自身の性質が、他者に不要な不安を抱かせることを、きちんと知っているからこその言葉に、私は素直に頭を下げる。
「よいよい。……して、本題に移るとするかの」
「本題?」
「情報交換、というべきかな?
自身の髭を撫でながら、その瞳を輝かせるダンブルドア。
それはまるで、新しいおもちゃを見付けた子供のような、きらきらと輝くもので。
そうして始まったのは、不可思議なこの世界『ハルケギニア』についてのお話。
……まぁ、出るわ出るわ、原作と違うことのオンパレード。
ダンブルドアが語る度、皆で驚き、笑い、涙し、怒り──つまりは喜怒哀楽を持ってこの世界に触れ、なんとなくすべきことも見えてきたところで……。
「ふむ、実に有意義な時間じゃった。皆も情報の奔流に頭を焼いておることじゃろう、そのままアルヴィーズの食堂に向かいなさい」
料理長には、あらかじめ話を通してあるからの──。
という彼の言葉を背に、学院長室から外に出た私達。
時刻は夕方をとうに過ぎ、生徒達は既に各々の部屋に戻ってしまっているようだ。
暗い廊下には松明が灯っているが、その内消灯されてしまうのだろう。
そうなる前に、さっさと夕食を食べて部屋に戻らなければ。
「……というか、午後の授業はよかったのかな」
「先生のことだから、そこら辺は既に手回し済みでしょ。それよりもほら、早く行かないとマルトーおじさまに叱られちゃう」
「ふむ?なるほど、じゃあやるか、マシュ?」
「え?……ああ、なるほど。では、失礼しますねせんぱい」
「へ?え、その、え?」
「えっちょっ、なになになにっ!?」
とはいえ、今の私達が居るのは本塔の最上階。
作中の描写的にこの塔の一階にある、アルヴィーズの食堂まで歩いて戻る……となると、結構な時間が掛かりそうだ。
まっすぐ単純な直線というわけでもなし、急いで階段を下りるというのもちょっと大変そうだなぁ。
なんてことを思いながら階段を見詰めていると、ルイズの言葉を受けてサイトがマシュに声を掛け、それによって何かを思い付いたのか、唐突にマシュが私を抱え上げた。
……いや、なんでお姫様抱っこなんです!?
後輩の突然の行動に思わず困惑していると、視線を向けた先のルイズも、サイトにお姫様抱っこをされていた。
……絵面だけ見ると、わりといい感じの光景なんだけども。
なんでかな、サイトとマシュの視線が窓の方に向いてる……というのが、凄く嫌な予感をびしびし伝えてくるのだけれど?
いやその、まさか、やらないよね!?やらないよね!?
なんて、私の内心の叫びは届かず。ばっ、と最上階にある窓を開け放つサイト。
……そこまで来て、ルイズも彼等が何をしようとしているのか気付いたらしい。その顔に青がさっ、と走る。
「いやちょっ、待ちなさい!待って!お願いだから!」
「なぁに、着地の時に
「あ、それちょっとカッコいい……じゃなくて!アーチャー、着地任せた、はあくまでも型月の──」
「じゃあ、いくぜぇ!!」
う そ ぉ ぉ お お お ぉ ぉ ぉ ぉ お ぉ ぉ ぉ ぉ お ぉ っ ! ! ! ? 」
止める間もなく、夜に飛び込んでいった二人。……いや、夜に駆けたって方が正しいのかこれ?*6
いやまぁ、
……え?現実逃避止めろ?次はお前の番?
ははは。……おうちかえる!
「はい、帰りましょうせんぱい。その為にも、まずはご飯ですっ」
「違うー!なんか納得してるけど違うー!」
真剣な顔でこちらに頷きを返すマシュ……なのだけれど。
彼女は真面目なので、既にこっちで頑張ることを決めているけども。
……今の!私は!ほぼただの女の子なので!虚無っつっても目覚めてない扱いだからロックされてるので!だからその、ここから飛び降りるのは、ちょっ、やめ……ヤメロー!!*8
「それは私の台詞の様な気もしますが……ではっ!マシュ・キリエライト、いっきまーす!!」
き ゃ ぁ ぁ あ あ ぁ ぁ あ あ ぁ ぁ ぁ ぁ あ っ ! ! ! ? 」
「おお、ようやっと来たかお前さん達……いや、大丈夫か?その、色々と」
「よぞらは きれいでした」
「死゛ぬ゛っ、死゛ぬ゛がどっ、死゛ぬ゛がど思゛っだ……っ!!」
「大袈裟だなぁ
「あわわわ、すみませんすみませんせんぱい!」
塔の最上階からの紐なしバンジージャンプは、なんというか二度とやらねぇ、という気分しか湧いてきませんでしたとさ、まる。