なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「それじゃあ……行くぞ!」<バーン
……というわけで、四人全員がスモックを着用し終えた結果、遂に私たちはキリアの元に旅立つ準備を終え、なんとなく並んでポーズを取ることになったのであった。
気分はスターダスト・クルセイダースである。……え?それだと何人か帰らぬ人になる?*1
冗談はそのくらいにして、早速郷に戻ってキリアに会いに行きたいところなのだけれど……。
「なんだその口ぶり、これ以上の問題は勘弁だぞ……」
「いや、ちょっと先走り過ぎてたからあれだけど……郷へ帰るのに、
「どうするって……そんなのスキマか公共の交通機関を使うしか……あ゛」
言い淀んだ私に対し、サウザーさんが勘弁してくれと声をあげる。
……うん、私としても勘弁したいというか勘弁してくれって感じなんだけど、ここで目を逸らすとそっちの方が大変なので敢えて口にするね?
そう、
……勢い余ってスモックに着替えてしまったが、現在私たちが居るのは出先である。
つまり、ここからなりきり郷に戻る必要がある、ということになるのだが……。
「あー……スキマを使うのであれば、その性質上どう足掻いても八雲のと顔を合わす必要がある、と?」
「そうそう。で、ほぼ確実に笑われるよね、この格好を見て」
まず、一息に向こうに戻るのであれば推奨されるのはスキマを利用すること、ということになるだろう。
……その場合、スキマの元締めであるゆかりんに連絡をする必要がある上に、基本的に向こうでの出口はゆかりん
いや、一応脱走者を送る時とかは出口が別の場所に設定されてる、ってこともあるんだけどね?
でも今回スキマ便を利用するのは、彼女の顔馴染みである私たち一行。……特に難しいことを考えることもなく、流れで出口がゆかりんの部屋になる、という可能性はとても高い。
無論、彼女がなにかしら別件で忙しい……とかでもあれば、例外的に別の場所が出口に選ばれることもあるだろうが……働いている人を労う役割も複合しているのがゆかりんなので、ここしばらくバリバリ働いていた私たちはまさにその労いの対象、ということになるだろう。
ってことは、最低限声を掛けるくらいはしてくるということになるわけで、必然的に彼女の前に私たちの
……まぁうん、最初はキョトンとするだろうけど、絶対に笑い出すよね、ゆかりん。
なんなら笑ってる途中にサウザーさんまで着てることに気付き、笑いが加速したあと急に真顔に戻って『なんで?』とか言い出しかねない。
そうなったら、サウザーさんのガラスの心は粉々に砕け散ってしまうこと請け合いだろう。*2
そこから彼の復帰に時間を取られ……ともなれば、相手側が色々と痺れを切らす可能性も否定できない。
つまり、現状スキマを使っての移動……というのは、結果的に時間を浪費する状況に繋がる可能性がとても高い、ということになってしまう。
「かといって、公共交通機関を使うのは憚られるのぅ」
「ごまかしバッジはあるとはいえ、それがごまかせるのはあくまでも『そのキャラクターである』という一部分。……大きい男女と小さな女子が揃ってスモックを着ている、という状況の珍妙さは補正の対象外……」
「外出た瞬間終わったわ、ということだな……」*3
何度か触れているように、ごまかしバッジのごまかし範囲はそこまで万能、というわけではない。
主に特級の違和感の元である『創作物のキャラクターであること』を認識させないようにすることを主眼としており、それ以外のあからさまにおかしなことについてはスルーなのだ。
これは、そもそも周囲にいる無差別の対象に認識阻害を差し込むというのが、労力的に結構大変なモノである……という点が大きいわけだが、それ以外にもそれらの負担を減らすために発生する嘘を意図的に減らしている、という部分も相応に大きかったり。
どういうことかと言うと……わかりやすいのは『バレにくい嘘の付き方』だろうか?
「徹頭徹尾嘘で塗り固めた話よりも、ところどころ本当のことを交えた作り話の方が疑われにくい……というやつじゃのぅ」
「バッジの場合『創作物のキャラクターであること』以外はありのままをそのまま出力させる……ってことを、術式的な縛りに盛り込んでいるってわけだね」
全てが嘘で固められたものというのは、言ってしまえば疑いを持つためのフックを無数に持っている、というのに近い。
無論、火のない所に煙は立たず……なんて話は嘘だと断じて疑う人もいるけれど、一般的には『疑う』という行為をするためには、そのためのきっかけが必要となるのが普通だろう。
で、そのきっかけというのが嘘の匂い、もしくは感触……みたいなことになるわけだ。
なので、その取っ掛かりが無数にあるような状態では、人は物事を疑わざるを得なくなる。
……まぁ、無数の嘘でまみれさせることで、逆に疑う気を無くさせる……みたいな手法もあるけれど、そういうのは応用が効き辛く汎用的な技術に落とし込むのは無理があるだろう。
ゆえに、嘘を隠し通すのに有用かつ誰にでも簡単に真似できる……となると、本当のことの中にほんの少しの嘘を混ぜる、という形になるのだ。
ごまかしバッジも、機能的にはその考え方に準拠していると言える。
術式の構成に『付く嘘は自分が創作物ではないと偽ることにのみ絞る』と設定することで、全体の強度及び嘘の看破を防ぐための楔にしている……という感じか。
ともあれ、その性質上寧ろごまかしバッジは他のことをごまかせないのではなく、
なので、『創作物がリアルに動いている』という違和感に匹敵するような違和感が発生している場合、それによって視線を集めてしまうというパターンには対応できない。
……というか、無理にそれに対応しようとすると前提である『一つの嘘のために他の嘘は繕わない』という話に抵触し、結果として主目的の隠蔽が機能しなくなる……なんて話に派生しかねないのだ。
これをどうにかしたいのなら、術式を拡張させるか・もしくは新規のシステムを作るしかないのだけれど……。
「術式の拡張は無理だね。これに関しては今の状態で成立するように調整されているから、ここから新たな対象を付け加えるのはそれこそ神域の天才でも不可能でしょ」
「そう言われると少し挑んでみたくもなるが……まぁやるにしても、時間のない今ではなく余裕のあるどこか別のタイミングで、ということになるのぅ」
「……つまり、今すぐどうこうすることは完璧に不可能、だと?」
「そういうこったねー」
まず、術式の拡張は無理だろう。
ごまかしバッジはそのシステムに、様々な隠蔽技術からのフィードバックを受けているが……その成立過程の際、一つの結論が出されている。
それは、隠蔽対象を増やしすぎると成立しなくなる、という当たり前の結論。
完璧な隠蔽は寧ろ『そこにないという違和感を発生させる』ために、そこから嘘を見破られる危険性を伴う……というものだ。
これはまぁ、以前にも話したことのある『結界』関連の話を思い出せば、なんとなく理解できるだろう。
周囲からその範囲内を完全に隠蔽できた場合、そこには『認識できないなにか』が発生してしまう。
意識を逸らすようなタイプなら、特定位置に近付くと別の方向に行きたくなるとか、はたまたなんとなく近寄り辛くなるとか……。
ともかく、そんな感じで『ありえないこと』が発生する。
その『ありえないこと』自体を認知させないようにすることもできるが……それが完全に・完璧に起動するかはまた別問題。
何故ならば、こういう結界は
一部でも例外があるのならば、そこから芋づる式に違和感が掘り起こされる可能性は決してゼロではない。
そういう意味で、絶対に認知されないもの……というのは難しいのだ。
「で、新規システムも無理かな。……簡単なのは石ころぼうし*4とかの技術を流用することだろうけど、あれは場合によってはとんでもない大事故に繋がりかねないから研究禁止筆頭だし」
「……まぁ、誰にも気付かれずに朽ちていく、などという可能性がある以上は、なぁ?」
一応、話によっては石ころぼうしを被った者同士は認識できる、みたいな抜け道はあるけれど……逆に言えば、自力でどうにかできない状態に陥ると発見は絶望的、ということでもあるわけで。
……というか、仮に研究できても能力として過剰の域なのでアレだろうなー、みたいな?
逆を言うと、現在のごまかしバッジ以上の性能は過剰である、ということでもある。
目的は達している以上、それより上を目指すのは費用的にも必要性的にも技術的にもわりに合わない、というわけだ。
……長々語ったけど、つまりなにが言いたいのかについて述べると──。
「公共機関を使うのは実質不可能、もしくは周囲からの好奇の視線を我慢する必要がある、ってことだね」
「……どっちも嫌なんだが」
一人に大笑いされるか、はたまた大勢にくすくすと笑われるか。
その二つに一つしか私たちに与えられた選択肢はない、という残酷()な事実なのであった。
うーん、これはひどい。