なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……い、せんぱいっ!」
「はっ!!?」
「よかった、無事だったのですね……!」
「……まま、おっぱいほしい」
「無事じゃない!?」
「……はっ!?す、すまない。ただちょっと母乳が欲しくて……」*1
はてさて、語るも思い出すも恐ろしい赤ちゃんタイムからしばし。
気を失っていた私は、任務から戻ってきたらしいマシュに抱え起こされていた。
朦朧とする頭で周囲を見渡せば、そこにあの時見た光景はもうなかった。
……無かったのだが、なんというかこう精神に直接揺さぶりを掛けてくる記憶があるような気ががががが。
「しっかりして下さいせんぱい!」
「ぶへぇっ!?……いやうん、別にこれくらいじゃなんともないけどさ、マシュは自分のパンチが平成ライダーくらいは普通にあるってことを自覚するべきだと思うよ……」
「え?あっ、すすすすすみませんせんぱい!?」
そうして若干発狂してる私にマシュからの
流石に
「はて、気を取り直して……みんな大丈夫?」
「おっかさん、だっこー」
「きらりもー」
「みらはねみらはねー、ままごとー」
「思ったより大丈夫じゃねぇなこれ」
ああうん、まさに死屍累々というか……。
思う存分子供として可愛がられたんだろうなぁ、というのがよく分かる他のみんなの様子に、思わず白目を剥いてしまう私である。
……当の
「その辺りはなんとも……私が戻った時には、すでに皆さん今の状態でしたので……」
「ええと……見苦しいモノ見せてごめんね?」
「見苦しいだなんてそんな!……その、せんぱいがそういうのがお好きなのでしたら、私もその……」
「こんな見苦しいところを見せ続けるわけにはいかないね!ほらみんなさっさと目を覚ます!」
「ぐへぇっ!?」
「痛いっ☆」
「にゅわっ!?」
なお、試しに尋ねてみたところ、マシュはキリアの姿を見ていないとのこと。
……それ以外の話については触れるとヤベーイ感じしかしないので、サクッとスルーしてみんなに
後ろで残念そうな顔をしてるマシュがいる?そんなの無視だ無視!
そんなわけで、上から順にサウザーさん・きらりん・ミラちゃんの頭を順に
頭部への突然の衝撃に、三人は目を白黒とさせていたが……しばらくして、先ほどまでの自分達の痴態に気付き、天を仰いだり頬に手を当て顔を真っ赤にしたりなどしていたのだった。
「……詳しいことを思い出そうとすると頭痛がする……」
「現実を直視したくない、ってことだろうね。安心して、みんな同じだから」
「いやな仲間意識じゃのぅ……」
というかね、いつの間にか着ていたはずのスモックがいつもの服に戻ってる、って辺りが飛んでる記憶を想像することすら躊躇わせるというか。
……うん、
そんなわけなので、この話についてはこれにておしまい、封印処理である。
ではこれからどうするのか、ということになるのだけれど……。
「……うーん、どっちだろうこれ」
「どっちとは?」
「私らが正気に戻るまでに戻ってきてない、っていうのが単にタイミングを見計らっているのか、はたまた『星女神』様への聞き取りが難航しているのかがわからない……みたいな感じ?」
「なる……ほど?」
さっきの赤ちゃんタイムが私たちの記憶から飛んでいる……というのは、単にその記憶が私たちにとって忌まわしいものであるから……というのも多分にあるだろうが。
それ以上に、前述していた通りその時間が
あれだ、ソードアート・オンラインの『アンダーワールド』編において、そこで暮らした二百年分の記憶をデリートしたキリト君達みたいなもの……というか。*3
一説によれば、人間の脳の容量は一ペタバイト以上あるらしいのだが……それでも、人はモノを忘れていくのが基本である。
それは、脳の構造が一般的な記録媒体とは違っているため。
ニューロン間の接続・シナプスの強度の調整によってもたらされるそれは、限界というものが非常に判別し辛いのだ。
基本的な記録媒体は、その媒体の特定の場所に情報を書き込む、という手法を取るため、どこそこには既にデータがある……と直感的にわかりやすいのだが。
脳の場合は適宜『適応的忘却』という、過去のデータを今のデータと照らし合わせて更新したり、はたまた不要なデータを忘れる、といった行動を自然に行っている。*4
そしてこれは、人間であれば基本的に働いているモノであるがゆえ、純粋に記憶だけを詰め込んだ時に、どれくらい入るのかが分かり辛いのだ。
例えば、記録媒体に『一』という文字を無数に記憶させる場合。
機械の場合、記憶するものに手を加えずそのまま記憶させるので、データの中には『一』という文字がびっしりと詰まるが。
脳の場合、不要なものは最初から纏めてしまうので、『一×無数』みたいに一行にも満たないデータに纏められてしまう……みたいな。
機械に同じ事をさせようとすると、『同じものは纏める』という命令を別にしておく必要がある。
そういう意味で、同列に語るのが難しいのだ。
さて、人の記憶に話を戻すと。
創作などにたまに登場する完全記憶能力者──英語で『
……いやまぁ、なんでも覚えているせいで今と過去との区別か付かないとか、嫌なことも忘れられないので精神を病みやすいとか、別方向の不利益はあるらしいのだけれど。*5
ともあれ、すべての物事を記憶していたとしても、それで脳の容量がパンクすることはないのだという。
……記憶の整理の仕方が上手いのか、はたまた脳が増える記憶に合わせてニューロンを増やしているのかは定かではないが……ともかく、人間の脳において、容量が足りなくなるから忘却する……というのは微妙に間違いである、ということになるだろう。
ならば何故、人は忘却するのか。
答えは完全記憶能力者のデメリットでも語った『それを覚えていることで不利益を被るため』というのが正解なのだろう。
悪い記憶が残りやすいのは、その記憶から警戒心を持つことができるため。
起きた出来事が危険なモノであるならば、その危険から逃れられるように備えるためだろう。
また、同じように悪い記憶を忘れてしまうのは、それによって行動が狭まってしまうことを避けるため。
警戒するのは悪いことではないが、その警戒が基本的に無用の長物であるのならば、それを覚え続けていることは自身を萎縮させる結果に繋がりかねない。
良い記憶に関しても似たようなもの。
危険に備える、という目的からすれば『危険から逃れられた』というような記憶は不要なものであるし、また『良いものを手に入れた』というような記憶であれば、再度良いものを手に入れられる可能性からその場所を記憶しておく、ということに繋がりやすい。
個人によって、どちらの記憶を優先するのかには差があるだろうが……なんにせよ、その個にとって重要でないもの・邪魔になるものは忘れられる、というのが正解なのだろう。
「……つまり、せんぱい方は先ほどまでの記憶を忘れたいほどに恥じている、ということですね?」
「間違ってないけど……身も蓋もなく解説するのどうかと思うよ私……」
「え?……あっ、いいいえそんなつもりはなくてですね!?」
ふふふ、折角小難しいこと言って煙に巻こうとしたのに、マシュにサクッと要約されちゃったぜ。
引きたいし媚びたいし省みたい……(背後で聞こえた「おいっ!?」というサウザーさんのツッコミはスルー)