なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「──花火大会?」
「そ。今年は夏らしいことをちゃんとやろう、ってことになってねー」
場所はいつものゆかりんルーム。
クーラーの効いたその部屋でゴロゴロしていた私は、ゆかりんが会話の種にと投げてきた言葉に、その身を起こして聞き返していたのだった。
──花火。そのルーツは、一説によれば古代中国の狼煙にあるという。
煙が何故花火の起源?……と思うかもしれないが、花火を『観客に見せるもの』と捉えると、なんとなくその理由が見えてくるかもしれない。
「遠方への伝達手段として見た場合、ってことよね」
「そういうことだねぇ。狼煙から祝砲、祝砲から花火……みたいな発展の仕方というか」
狼煙は遠方に情報を伝える手段の一つであり、火薬が発明されてから生まれた祝砲などもまた、連絡手段の一つである。
直接的には、ヨーロッパにおいて祝砲が改良されていった結果が花火に当たるのだろうが、それが『見せる』ことを主目的としたモノである……ということに注目した場合、起源となるのは狼煙の方……ということになるようだ。*1
話を戻して、花火大会について。
なりきり郷における夏、というのは外のそれとそう変わらない。
……変わらないが、一つだけ明確な差異が存在する。それが、ここは
「直接のお偉いさんじゃないけど、上の方から『屋内で花火をするのはちょっと……』みたいな小言が入っててねー。あんまり大規模なのは今まで出来てなかったのよ」
「まぁ……普通に考えて体育館で打ち上げ花火なんてするか?……って話だからねぇ」
「うちの中身は青天井だけどね」
そう、なりきり郷で花火をするというのは、極論建物の中で花火をすると言っているのと大差ないのである。
そりゃまぁ、お偉い様の中には難色を示す人もいるだろうなぁ、というか?
実際のところは、建物の中と言ってもそこに青空とかが広がっているわけなのだが。……冷静に考えると『なに言ってるんだこいつ』案件だなこれ?
まぁともかく。
そうして一部のグループから難色を示されていたがために、今までなりきり郷内では大掛かりな花火大会を開催することは出来ていなかったのだが。
今回、そのグループからの理解を引き出すことに成功し、晴れて花火大会を開催することができるようになったのだという。
そのため、ゆかりんはその草案を私に聞かせていた、ということになるのであった。
「……でも、あんまり大掛かりな花火大会だと、十月の記念祭と色々被らない?」
「そこに関してはほら、向こうは住人達もあれこれ用意するけど、こっちは
「……ん?外部の人?業者でも入れるの?」
だが、それを聞いた私には一つ疑問が。
今までなりきり郷で大掛かりな花火大会──夏祭りがなかったのは、その二ヶ月ほどあとに私たちの大半が故郷とする、例のスレの創立記念祭がこちらでも開催されるから……みたいな面もあったのではないか。
そしてそれが正解であるのならば、八月の段階で張り切りすぎると十月が辛いのではないか?……と。
ただ、ゆかりんは私の疑問を想定していたのか、そうではないのだと声を返してくる。
それによれば、今回の夏祭りは外部の人に委託するとのこと。
……確かに、十月の記念祭はその性質上、ここにいる住人達が店やイベントをそれぞれ運営する……という、いわゆる文化祭形式のそれである。
ゆえに、夏祭りは住人達はあくまでもお客様として参加する……というのは、それぞれの祭りの違いを生み出す上でとてもいい区別点であることは間違いないだろうが……。
ええと……外部の人って、どこに頼む気なので?
一応、なりきり郷は政府直下の秘密組織?的な扱いであり、一般層に施設を解放したりはしていない。
まれに来る外の人も政府の息の掛かった者であり、ここでの出来事をキチンと黙秘できる人物に限られている。
……まだ小さなご子息にまでその話がキチンと伝わっている辺り、なんというかスゲーなー、くらいの感想しか出てこないわけだが……。
ともかく。
このなりきり郷に入ることのできる外部の人、というのはとても限られている。
その限られた中から、更に花火師やら屋台運営ができる人やらを選別する……となると、更に人数が少なくなってもおかしくないだろう。
正直なところ、無理難題以外の何物でもないような気がするのだが……そんな私の懸念に対し、ゆかりんは一瞬呆けたような顔をしたあと苦笑を浮かべたのだった。
「ああうん、確かに『外部の人』って言ったら普通はそういう反応になるわよね」
「……その言い方だと、私の考え方は間違ってるってこと?」
「部分的にね。……よーく考えてご覧なさい?所属的にはうちの外になり、かつその上である程度の組織力を持ち、かつここに入っても問題のない組織。──貴方の記憶の中に該当するモノがあるでしょ?」
「……あ」
そうして返ってきた言葉に、私は得心したようにぽんと手を打つ。
確かに、
──そう、『新秩序互助会』。
今回の夏祭りの運営は、彼らの手腕に掛かっているということになるのであった。
「そういうわけでな。リーダーであるモモンガは現在手の離せない用事に捕まっているため、私が代わりに出向いたというわけなんだ」
「なるほどねぇ……」
そんなわけで、ゆかりんとの会話からそう間を置かずにやってきたエミヤんを連れ、なりきり郷内を歩く私である。
一応、エミヤんは前回の創立記念祭などにも参加しているため、なりきり郷内の構造については知っている方の人物なのだが……今回は夏祭り、規模としては記念祭のそれに匹敵するモノを予定しているとのことで、詳しい立地の確認が必要となり、その案内を私が買ってでた形になるのであった。
まぁ、ゆかりんはまだ仕事があるみたいだったし、それに私が同行した方が行く先々で一々説明する手間が省けるだろう、みたいな意味合いも含んでいるのだが。……なんやかんやで有名人だからね、私。
「しかし、既にわかった気でいたつもりだったが……こちらの設備は本当に充実しているな。向こうも移設は完了したとはいえ、方向性的には軍隊などのそれのままだからな……」
「寮生活に近いってことでしょ?元々娯楽設備も精々酒保*2みたいなモノしかなくて、あとは共有スペースに設置されてる大型テレビしかなかったわけだし」
そうして街を歩く中、エミヤんが興味深そうに周囲を見渡している。
……無理もない、元々『互助会』はこちらのようにのほほんとしている組織ではなかった。
流石に構成員同士での激突などはなかったようだが、それでも日々彼等が求めるのは自身の向上・ただその一点。
自分が転生者だと思っている者が多かったため、その実力を取り戻すということ以外に視点が向けられなかったのである。
そのため、施設としての機能も軍隊のそれに近くなり、結果そこにある物もそれに準拠したモノになってしまった……と。
今でこそ基地を移転したため多少マシにはなっているものの、やることがトレーニングジムでのトレーニングか、酒保に置かれた数少ない甘味や飲み物に舌鼓を打つ・もしくは共用スペースに置かれている大型テレビでヘビロテされている『マジカル聖裁キリアちゃん』を見るしかない……くらいしかなかったらしいし。
……いや、個人的にはその中に紛れ込む『キリアちゃん』にツッコミを入れたいところなんだけどね?
まぁ、色々考えた結果住民の情操教育?にヨシとされた、みたいな話は聞いているため、これ以上のツッコミは止めておくけど。*3
ともあれ、『互助会』側の設備がお世辞にも良いものではなかった、ということは確かな話。
それゆえ、改めて施設内を歩き回る中で、エミヤんがあちこちに興味を持つのもまた仕方のない話、ということになるのであった。
「そう言われると私がおのぼりさんのようであれだが……いや、間違いではないな。実際、向こうと比べるのならばこちらの設備は月とすっぽん、というやつになるわけなのだから」
「まぁねぇ。こっちと違って、本当に地下にスペース取って作ってるところだから、場所が足りないってのはどこまでも付きまとう問題なわけだし」
私の言葉に、一瞬エミヤんが微妙な顔をしていたが……言葉にする前にそれが正しい認識である、と納得したようで頷くだけに留めていた。
……スペースの有効活用云々に関しては、この夏祭りが成功すればこっちとの提携が更に強化され、空間拡張技術の提供も確約されたりするかも知れないので、とりあえず頑張ってねと言っておく私である。
「まぁ、そこに関しては全力でやるさ。……そういうわけだから、花火を飛ばした際に一番映える場所を教えて貰いたいのだが、マスター?」
「マスターって呼ぶの止めてって言ってるじゃん……とりあえず、候補地を幾つか紹介するってことでいいかな?」
こちらを揶揄うようにマスターと呼ぶエミヤんに少し辟易しつつ、私は彼を連れ添って候補地となる場所へと歩き始めたのであった……。