なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
──次の日。
どうやってご飯を食べて、寮まで戻ってベッドに潜ったのか、その辺りが全く記憶にないのだが。
なんとなく恐ろしい目にあった、という気分だけは残っているため、微妙に目覚めの悪い朝であった。
「はいせんぱい、お水を持ってきましたよ」
「ああはい、ありがとうございますマシュ……」
そもそもが低血圧気味なのもあって、足取りが覚束ないままふらふらと歩き回られると、見てて危なっかしい。……みたいな理由から、マシュからの介護が常態化していた私。
それはここ『ハルケギニア』在住のキーア・ビジューちゃんであったとしても、さほど変わりがない話なようで。
桶に張って貰った冷たい水で顔を洗い、それでも抜けきらない眠気と格闘しつつ、制服に袖を通して。
長い桃色の髪をマシュに梳かして貰いつつ、今日の予定をぼんやりと思い出していく。
……ええと、とりあえず朝はまた食堂に向かって、普通に朝御飯を食べるでしょ?
それが終わったら普通に授業をこなして、それからそれから……。
「ええと──お昼に香水の瓶が落ちて、君のことは求めてない……んでしたっけ?」*1
「せんぱい、それは恐らく他の記憶と混ざっていらっしゃるのではないかと……」
「……んん、どうにも朝はダメです……」
んー、頭が回らない。
……まぁ、体を動かしていれば、その内エンジンも掛かるでしょ。みたいな感じに適当に頷き、マシュからの了承を得て鏡台の前から立つ私。
ん、身嗜みは問題なし、と。
鏡の前で服装をもう一度確認した後、マシュからマントを受け取って羽織り、彼女が部屋の扉を開けるのを待つ私。
ここでのマシュは騎士様を
……それゆえに自然とランスロット卿に似通ってしまうらしく、そこがちょっとだけ複雑なようであった。
まぁ、フランス紳士がちょっと気障っぽいのは、そういうモノだから仕方なし。
その内マシュさまー、とか言われてそうなのは気にならないでもないけど、暫くここから帰る目処もないのでまぁ、多少はね?……みたいな感じである。
「あら、お早うキーア。昨日はよく眠れた?」
「お早うございます、キュルケ姉さん……その質問には寝不足だ、とお答えします……」
「貴方、いつも朝は眠そうだった気がするのだけれど……?」
つまりはいつも通りなのよね?という彼女の言葉に、寝惚け眼のまま頷く私。
部屋の外にはキュルケが居て、自身の使い魔であるサラマンダーのフレイムと戯れて……戯れて……?
……ああ、なるほど。
そういえば、
キュルケが触れ合っているサラマンダーに視線を向ける。……サラマンダーとは、大雑把に日本語に訳すと
「この子、どこのサラマンダーなのかしらね?普通のサラマンダーよりもどことなく可愛らしいけど。……ロバ・アル・カリイエ辺りから来たのかしら?」
「ああ、はい。多分そうなんじゃないでしょうか。以前カトレア母さまに見せて頂いた本に、似たような姿のサラマンダーが載っていたような気がしますので」
「……興味深い。その本、頼めば貸して貰える?」
「わっ、……ちょっとタバサ、驚かさないでよ」
……
キュルケに撫でられ気持ち良さそうに目を細めながらも、絶対にこっちを見ようとしないかの
彼女のペットでいられる生活を崩したくない……とか考えているのだろうか?まぁ、なりきり組だって確認できれば、こっちとしては特に言うこともないのだけれども。
あとで他の生徒達の使い魔も、一応確認してみるべきかな?
こっちの世界のサラマンダーが
その結果としてトリステインの研究機関である、
……なんて思いつつ、適当に彼への疑念を逸らしてあげる優しい優しい私なのであった。
まぁ、そうしてごまかしの為に適当なことを述べたら、突然現れたタバサにずずい、っと詰め寄られるはめになったわけなのだけれども。
……あー、うん。
ポケモン図鑑をイメージしてたので、貸すのは無理としか言いようがない。現物なんて存在しないし。ロトムも居ないだろうし。*3
なので、本の虫な彼女には悪いけれども諦めて貰うことにしよう、と口を開こうとしたところで。
「きゅいきゅい!」
「ぐふっ!?」
何故か妖精みたいなサイズにまで小さくなった、彼女の使い魔──シルフィードの鳴き声が聞こえて、少なくないダメージを受けるはめになってしまったのだった。
……いや、その。
なんでこの子、こんなに縮んでるの?
人になれるってのは聞いたことあるけど、小さくはなれたんだっけ?……仮に小さくなれるのなら、人型にならずに小さくなってれば良かったって場面が多いだろうって?じゃあこれは……。
「きゅいきゅい」*4
「もう、シルフィ。勝手に出歩いちゃダメ」
「きゅいー?」*5
……うむ、うむ。……なるほど?
風韻竜の巣の方に
昨日、ダンブルドア先生の話を聞いていた時も思っていたけれど。
大枠として『ゼロの使い魔』の世界を基盤にしているだけで、実際は二次創作世界の流用だろここ?……みたいな気がしないでもないのだが……まぁ、なるようになる、かな?
なんて遠い目をしつつ、ルイズが部屋から出てくるまで待つ私達なのであった。
魔法の授業そのものは、滞りなく。
原作ではサイトがルイズの
ここでの二人の関係性が違い過ぎるため、そんなイベントは欠片も発生しなかった。
……原作ルイズに相当する位置の私にしても、
──え?ちょっと前に
いやね、錬金云々の話って媒体によって前後するみたいでね?*6
……懲りもせずにミセス・シュヴルーズから実践を勧められたので、丁寧にお断りしたのですよ。
まぁ、そんなわけで。今はみんな大好き昼食の時間。
朝と同じく食堂に集まり、昼食を思い思いに摂っているわけである。
……普通の『ゼロの使い魔』の二次創作なら、ここでギーシュ君が香水を落として、それを拾った
「ギーシュさま、あーん♡」
「あ、ちょっと!抜け駆け禁止っ!ほ、ほらギーシュ!口を開けなさい口をっ!!」
「はははははレディ達。……ちょっと加減して貰えないだろうか……?」
「……なにあれ」
「あれは百愛のギーシュ。とある紳士達との出会いにより『女性には優しく紳士であれ』の誓いをより強く心に打ち立て、かくあるべしと過ごすことにより、二人の淑女からの寵愛を勝ち得た男。時々『僕は哀しい……』とハープを引く姿が見られたりする」*7
「え、えっと……解説ありがとうタバサ……」
一つのテーブルの上で、両サイドから美少女達にあーんをされている少年……無論、ギーシュ君とモンモランシー、それからケティちゃんである。
……モンモランシーだけ呼び捨てな理由?いや、彼女に『ちゃん』を付けて呼ぶの、なんか変な感じしない?
まぁとにかく。いっつもボコられ役なギーシュ君だが、ここでは
──なるほど、たまにいる両手に花パターンのギーシュ君ね、なるほどなるほど。……ハーレムかよ、爆ぜればいいのに。
視線がじとっとするのを感じつつ、ふと視線を横に向けると。
「ほわぁっ!!?ままままマシュの顔こわっ!!?」
「ふふふせんぱい?彼からは穀潰し卿の香りがします。早急に反省を促すべきではないかと」
「落ち着いてマシュ!!彼普通の人だから!修正したら死ぬから!」
……黒い笑みって表現、人によっては頭を抱えて転げ回りそうだよねー、なんて現実逃避もそこそこに、暴れそうになった彼女を連れて一先ず外へ。
危ない危ない。世界の修正力とでも言うのか、危うくギーシュ君との決闘が変な方向から発生するところだった。
争わなくていいのなら、そのままでいいのだ。変に戦う必要性ナッシング!
「……アンタ達、なにやってるの?」
「あ、いえルイズ。ちょっと外の空気を吸いにですね?……そういうルイズはどうしたんです?サイトさん、一緒じゃないみたいですけど」
「ああ、あれ」
「?」
そんな感じにマシュを落ち着かせていると、私達と同じように外に出てきたルイズと目があった。
何故かサイトと一緒じゃなかったので、そこを尋ねると彼女は親指で食堂内を指し示した。……中に残っている、ということだろうか?
落ち着いてきたマシュと顔を見合わせ、ひょっこりと中を覗き込む。
「師匠と呼ばせてくださいっ!!」
「はっはっはっ、面白い少年だなお前さん。いいだろう、俺は可能性を体現する男。同じフランス紳士の魂を持つ男の頼みとあっちゃあ、断る理由を持たんわな」
「あ、ありがとうございます!」
「……え、なにあれ」
「
「ああ、
中で行われていたのは、サイトの前で片膝を付き、皇帝に信を誓うかのように跪くギーシュ君と、それを赦すサイト……もといナポレオンという、罷り間違えば外交問題になりそうなものだった。
……ああ、まぁ確かに。史実の彼がどうだったかはいざ知らず、つい最近地雷踏むような口説きまでやってたっけ、ナポレオン……。
フランス紳士の基本が
……ところで。
収まっていたマシュの癇癪が爆ぜそうなのだけれども、これはもう諦めるべきかな?
「サイトさん、決闘です──っ!!」
「なぜだっ!?」
突撃していったマシュに、小さくため息をついて。
混乱した場を納めるべく、ルイズと共に食堂内に戻る私なのであった。