なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
まぁ、まだ出会ってもないトラブルに胃を痛めていても仕方ない……ということで、乙事主のことは脇に置くことにした私たち。
そのまま場所の利用交渉をしたところ、あさひさんの好きなものをエミヤんが作る、という形で話は締結したのであった。
「ふむ、場所としてはまだまだ足りないわけなのだから、他の場所にも足を運ぶべきなのだが……」
「時間帯的にも丁度良いし、先にあさひさんのリクエストを済ませたら?」
「……それもそうだな」
で、本来ならばそのまま他の場所にも利用交渉をするために足を運ぶべきなのだけれど……。
まず前提として、ここにいるエミヤんは『逆憑依』である。
……なにを今さらと思うかもしれないが、これには一つ重要な意味が隠されている。そう、今の彼は
いやまぁ、正確に言うと英霊としてのスキルが失われている、となるわけなのだけれど。
もう少し詳細に説明すると、今のエミヤんには『人類史に刻まれた偉人・英雄達の影』であるという属性が失われているのである。
……いや、エミヤんの場合だと
以前、互助会の面々は自身を転生した存在である、と勘違いしていると述べたが──その理由の一つにもなっているのが、この『霊的属性の消失』なのだ。
具体的には、霊体化による物理干渉の無効化や、英霊として召喚される際に付与されるクラススキルの剥奪などが起きており、その代わり今の彼の体は歴とした人のそれになっている……みたいな?
いわば生身の人間になってしまったということであり、またそうして生身になってしまったため、スキルの幾つかが機能停止状態になっていると
……そのお陰で自身の能力低下を転生による不全、と捉える人が多かったわけだが……その辺りの話は今は関係ないので置いといて。
ここで重要なのは、今のエミヤんは
……そう、サーヴァントとして召喚されていた時と違い、今の彼には食事などの必要性が生じているのである。
現在の時刻はおおよそ正午。……ある程度は食事を摂らずとも動けるとはいえ、霊体とは違い補給なしに何時までも動き続けられるわけでもない。
そういうわけで、あさひさんからのリクエストに答える意味も加え、この場での調理活動が推奨されるのであった。
「なんというか、わりと不便というか大変というか……みたいな感じっすねー」
「不便と言う点では、そこまででもないよ。そもそもサーヴァントである時も、食事という形でないだけで魔力の補給は必要としていたわけだからな」
「でも、わざわざ立ち止まってご飯をー、って感じではないっすよね?」
「……まぁ、手間が増えたということは否定はしないさ。勿論、その手間が嫌なものか?……と問われれば、私はノーだと答えるがね」
やろうと思えば地脈からエネルギーを補給する、みたいなことも出来る龍種らしいあさひさんの発言に、エミヤんは小さく苦笑を浮かべていた。
……まぁ、食事って栄養補給だけじゃなくて娯楽の意味合いもあるわけだし、そこに文句を挟む意味もないということだろうか?
エミヤんの場合、自分が食べるより他人に食べさせる方が好きっぽいけど。
……あと、一応交渉の対価として食事の提供を求めたあさひさん側が、そういうことを言うのはどうかと思います。
「いやほら、だってアレっすよね?エミヤさんといえばその
「──待て、なにか凄まじいまでの勘違いをしていないかね君?」
「確かに。エミヤんと言えばその熟練のテクニックで、数々の女性を虜にしてきたというドン・ファン。……いちアイドルとしては警戒して当然か……っ!」*3
「二人とも、私で遊ぶのは止めないか!?」
いやだって、ねぇ?
エミヤんが女の敵なのは本当の話だし。精神的にも、肉体的にも。
……この話の難しいところは、彼的には「料理の腕のことを言い方を変えて如何わしく聞かせている」となるけど、こっち的にはそれもあるし
うん、エミヤん自身は頷かないだろうけど、彼が無自覚に女心を弄ぶタイプなのは間違いないわけだし。*5
まぁ、可哀想なのでご飯の話である、と合わせてあげるのだが。
……でもやっぱり色んな
マシュからの絶対零度の視線を浴びないためにも。
「…………」
「……?なんで私の方を無言で見つめて来るの二人とも?」
「いや……鏡は必要かな、と思ってね。ご所望ならすぐにでも用意するが?」
「なんで!?」
「いやー、それに関しては私もノーコメントっす」
──最終的に、何故か私が白い目で見られる羽目になりましたとさ。……なんでさ?!
「しかし……まさかこんなことになるとはな」
「はっはっはっ。まぁ食前のいい運動と解釈すればいいんじゃないかなー」
はてさて、ちょっとした会話劇のあと。
私たちはあさひさんの居住区として使われている陸地の中でも端の端の方にある、とある草原へと足を運んでいた。
なりきり郷においてスペースの問題は払拭されている、というのは何度も述べていることだが、それがどれほどのモノなのか?……というのはいまいち理解し辛いと思う。
天井が無く青空が見えると言っても、それは果たしてどこまで続いているのか?……だとか。
はたまた、地平線が見えるほどの広さだが、壁のようなものはあるのだろうか……とか。
それらの答えは『フロアによる』となるのだが、その中でもあさひさんの居住区は特別広いものだと言えた。
扱いの区分的には主神級なのだから当然と言えば当然なのだが、それにしたってなんというかこう……規格外?と言いたくなるというか。
勿体ぶるのもあれなので口にしてしまうけど、あさひさんに与えられたフロアの広さは、なんと
……そう、星一つ分。私たちが移動していた湖付近の立地は全体の一割にすら満たず、その周囲には海や別の大陸などなど、実際の地表上のそれと同じものが用意されているのである。
「……いや、広すぎでは?」
「初期メンバーの頃に
「君以外の面々もわりとアレなんじゃないか?ここの住民は」
「んー、否定はできないなー」
勘違いしないで欲しいのは、こんなに広いのはあさひさんの居住区として使われているこのフロアだけであり、かつこのフロアは
なりきり郷の創設初期、ストッパーとなる人間もほとんどいない時に深夜テンションで「やれるだけやってみよう」となった結果生まれた、ある意味では黒歴史であるそれを流用した形なのだ。
なので、ここ以外のフロアに星一つ分の広さはない。
広くても精々大陸一つ分くらいの大きさなのだ。……それはそれでおかしい?まぁそういうところなので、ここ。
やりすぎでは?……みたいな顔をしつつ、どこか羨ましげに声を発するエミヤんに苦笑しつつ、改めて私たちが足を運んだ場所に意識を戻す。
確かに、彼女にこのフロアが与えられたのは様々な偶然から。
……だがしかし、そこに必然性が無かったのかと言われればそれはノーとなるだろう。
先ほども少し触れたが、あさひさんの本来の姿であるミラルーツは、ある種の主神のような存在である。
それが意味するのは、
普通の『逆憑依』ならばそんなことは起こりえないし、また再現度の高い『逆憑依』でも早々起こることではない。
……今のあさひさんならばともかく、創設初期の彼女は再現度的にはかなり低い存在であった。
何度も言うように、ある程度の強さを原作で持っている存在は、その再現度が低くても他者と比べた場合の力量が高くなる可能性がある。
それがなにを意味するのかと言うと、自身の意思によらず周囲に影響を与えてしまう可能性がある、ということになるだろう。
自身の力を制御する、というのにもある程度の力量が必要となる。
大きすぎるエネルギーをいきなり抱え込んでしまい、それを発散するしかできない……なんて話も創作ではたまに聞く話だろう。
それと同じことが、程度の低い『逆憑依』にも起こりうるのだ。
本来の自身の力量を再現しきれないため、自分の力を制御しきれず。
その上で、再現度の性質からパワー自体は他の面々とは比較にならないほどに高い……みたいな。
わかりやすく説明すると、当時のあさひさんは周囲の環境を改変してしまうほどのエネルギーを抱えながら、それを制御する術を持たなかった……と。
それゆえ、星一つ分の広さを持つこのフロアは、ある意味で格好の
彼女が自分の力の制御を覚えるまで、その影響を外に漏らさずにいるための。
……長くなったが、結局なにが言いたかったのかと言うと。
「……しかし、まさか
「扱いとしては【鏡像】とかに準じるみたいだけど……それでもまさかハンターの真似事することになるとはねー」
──突然のハンター編、開幕のお知らせというわけなのであった。
まさかトリコツールを使うタイミングが来るとは思わなかったよ!!よ!!!