なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
『それでー、花火だっけー?いいよーやっちゃってー』
「そ、そうか。それはありがたい。……終わってから考えてみると、見付けるまでが勝負だったのだな……」
はてさて、目的のヒードランもとい荼毘さん?……あ、燈矢の方がいい?さいですか。
……ともあれ、燈矢君を発見できた以上、やるべきことはただ一つ。そう、花火大会の交渉である。
当初、その話し合いは難航するかと思われたのだが……今こうして、比較的あっさりと完了してしまった。
なんなら、他の交渉が難しいだろうエリアへの紹介状?的なモノまで貰ってしまったし。
……いや、全身火だるま状態の燈矢君が正座して机に向き合い、やけに達筆な筆捌きで紹介状を書いてくれる……という状況そのものは、いわゆる『シリアスな笑い』なのかなこれ?……みたいな感じに、私たちの思考を容易く機能不全に叩き落としたわけなのだけれども。
でもまぁ、状況的にこちらに好都合な方に事が運んでいる、ということは間違いない。
ゆえに私たちは、意気揚々とこのフロアをあとにしようとして──、
「ああそうだ、時間的にももう遅いし、泊まっていったら?」
「……いつの間にか移動禁止時間になってる?!」
燈矢君の言葉に、出発するタイミングを逃したことを察したのであった。
……意外と……長く話し込んでたんやなって……(白目)
「まぁなんにもないところだけど、ゆっくりしていってよー」
「おじゃましまーす……」
はてさて、図らずも燈矢君の住まいにお邪魔することになった私たちだけれど。
実のところ、内心ではわりと戦々恐々としていたのだった。
何故かと言えば、彼の本質が問題。……うん、暴走ヒードランだよね。っていうかそもそもほのおタイプのポケモンだよね。
これのなにが問題かと言うと、ずばり体温感覚が普通の人とは全然違う、というところになる。
……要するに、普通の人には耐えられないような熱さでも、彼らにとっては平常運転であるという可能性がある、ということだ。
一応、ここにいる三人はただの人間ではない。
……ないが、だからと言って過酷な環境に身を置き続けたいかと言われればノーである。
なので、できればこういうお誘いを受ける前にこのフロアを去りたかったところなのだが……まぁうん、なってしまったからには仕方ない。
仕方ないので覚悟を決めて、心頭滅却の心意気を発揮しようとしていたわけなのだけれど……。
「……あれ、暑くない?」
『その台詞からすると、僕の居住区だから高温だと思ってたってことかなー?』
「え、あ、いやその」
案内された彼の居住区──
いや驚いた、普通に空調が効いてるくらいの温度なんだもの。
一部の女性は肌寒い……と感じてもおかしくない*1その気温に、思わず漏れた言葉が聞かれていたことに思わず慌てる私だったが……それを聞いた燈矢君はといえば、さして気にした様子もなく笑っていたのだった。
……いや、今の姿はヒードランの方なんだけどね、暴走状態の。
まぁ見た目が暴走状態ってだけで、サイズは普通のヒードランのそれだし、なんなら凄まじく理性的・暴走による負担も無さそうなんだけど。
でも、それだとそれで疑問が出てくる。
これだけ涼しいと、彼にとっては極寒に近い状態になっているのではないか、ということだ。
図鑑説明だかで『自分の身体が溶けてしまうほどの体温』と記されているヒードランだが、だからといって身体を冷やしてもいいというわけではないだろう。
流石にマグマッグだのマグカルゴだのの一部のポケモンに比べればマシだろうが*2、それでもほのおポケモンならば下手に体温を下げるべきではない……というのは当たり前の話に近いのだろうし。
ちょっと違うけど、尻尾の火が消えると死ぬとされているヒトカゲみたいなもの、というか?*3
そんな私の内心の疑問が顔に出ていたのか、燈矢君はその炎の身体の口に当たる部分をにやり、と笑みの形に曲げる。
『大丈夫、だってここの気温は僕にとっても適温だからねー』
「……んん?いやでも、普通にクーラー効いてるような……」
「いや待ちたまえキーア。内装をよく確認してみろ」
「んん?内装を確認?ええと……」
そうして漏れ出た言葉は、こちらの予想外のもの。
……私がちょっと肌寒いかも、と思うような気温が適温?
そんな馬鹿な……と言葉を続けようとして、なにかに気付いたエミヤんが部屋の中をよく確認するように促してくる。
いや、部屋の中をよく確認しろって言っても、別に何の変哲もない普通の部屋と言うか……
一瞬の違和感に再度部屋の中を見渡し、それがなにに対するモノであったのかを悟る私。
それと同じタイミングでダンテさんもこの部屋の違和感に気付いたのか、私より先んじてその答えを告げたのだった。
「……なるほど、こんな場所にあるにしては
『そう、ここは特注品なんだよ』
私たちは先ほど、火山の火口付近にあった入り口へと招かれていた。
そうして進んだ先にあったのがこの部屋だったわけだが、それもそれでおかしいのである。
どこがおかしいのかと言えば、火口の付近である以上どこもかしこも暑いはずなのに、という部分。
言い方を変えれば、例え地下だろうと普通の家具は燃える可能性が高い、ということになるか。
特に、地面や壁に触れている部分が良くない。
本来地面というのはそこまで熱伝導率が高い方ではないが、それでも火口付近なら話は別。
常に加熱され続けているようなものだから、その熱が冷める暇がないのである。
それゆえ、普通の家具をそんな場所に置いておくとその内発火してしまうのである。……これが一つ目。
そして二つ目、こっちの方が重要なのだが──超高温区域だと空調はまともに動かない、という部分。
一般的なエアコンは室外機という、室内の熱を外に逃がすための機械が付属している。
エアコンは基本的にその内部にある冷媒と呼ばれるモノを使い、室内の熱を奪って外に出す……という方式で動いているのだ。
そのため、外気温が幾ら高くても(効率は落ちるだろうけど)問題ないように思える。……思えるが、それは思えるだけ。
よく機械類に熱はダメ、と言うが……それは室外機に関しても同じこと。
一般的な室外機は五十度ほどの外気に耐えると言うが、それはあくまでも
最近の日本の夏が暑くなりすぎたからこそ基準が上がったわけで、それよりも昔──今より遥かに涼しい時期を基準にした室外機は
……今四十三度って、って思ったでしょ?
そう、昔なら四十度越えなんて早々あり得る話ではなかった。けど最近はそれを越えるような気温を記録する場所も増えてきた。
そうなるとどうなるのか?室外機が壊れてエアコンが機能しなくなるのである。
なお、日本より遥かに暑い場所では、更に耐熱性の高い室外機を備えたエアコンが使われている……という話を前提において。
では、溶岩地帯でまともに動かせるエアコンは作れるだろうか?……答えは『出来なくはないだろうが、恐らく費用やらなにやらが跳ね上がる』。
そもそもの話、絶えず溶岩が吹き出しているような場所に人は居を構えない。
いつそれらの溶岩に飲み込まれてしまうか定かではないからだ。
そうでなくともモノによっては自然発火するような環境、絶えずその近くで暮らそう……という気持ちにはならないはず。
ゆえに、その極限環境下で動くような機械というのは、需要が限られるため割高となる。
必要なモノですらそうなるのだから、エアコンのような空調類なんて余計のこと需要が細くなるだろう。
細い需要だからコストが上がり、コストが上がるので値段も上がる。……まさに悪循環である。
そして、その話が間違っていないことを示すかのように、燈矢君の居住区内にはエアコンの影も形も存在していなかった。
いや、仮に存在したとしても、そもそも室外機を置く場所がないだろう。
私たちが彼の家に滞在することになったのも、元を正せば『この時間帯、溶岩の入れ換えという名の地獄が顕現するから』というところが大きいわけだし。
……分かりやすく言うと、安全地帯である集落や燈矢君の居住区のような一部の例外を除き、全部溶岩に飲み込まれてしまうということである。
そりゃまぁ、外に出てる室外機なんて一撃というか。
つまり、この場所はそもそも冷房を使うのに向いていない。
それなのにこの場所が涼しいということは、なにか別の手段で私たちに涼しいと感じさせているということになるわけで。
で、その手段も決して単純なものではないはず。炎の身体を持つ彼が快適、と告げる以上は単純に空気を冷やしているとは考え辛く──、
『君は色々と考えるのが好きなんだねぇ』
「え?……あ、ごめんなさい」
……などと考えていたことが全部口に出ていたらしい。
にへらっとした笑みを浮かべる燈矢君に、思わず恥ずかしくなってくる私だが……ここまで考えたのだから、一応答えは明記しておこう。
そう、ここには恐らく『個人個人が快適だと感じるようにするなにか』が設置されている。
……ドラえもんの『テキオー灯』のようなモノが使われている、という感じか。
それゆえ、特別な設備を必要としないまま、本来生活環境の被らない相手同士が同じ場所に滞在できている……ということになるのだと思われた。
……つまり、また琥珀さん案件だよ!あの人本当に手広いな!?
もっと褒め称えてくれていいんですよー、と嘯く彼女の姿を幻視しつつ、私たちは部屋の案内をする燈矢君の背を追うのだった……。