なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
さて、一夜明けた燈矢君の居住区でエミヤん謹製の朝食を食べたのち、手を振る彼に別れを告げそこをあとにした私たちは、それからもなりきり郷内の各所を歩き回り……。
「で、許可を取り終わったから二人を連れてここまで戻ってきたってわけ」
「なるほど?」
現在こうして、ゆかりんルームのソファーに背を沈めていたのであった。
いやもう、大変だったのなんの……。
一番大変だったのが何処か、と言われるとちょっと迷うけど……やはり、ワンフロア全部海という異常環境だったあそこだろうか?
「……ワンフロア海?そんなところあったかしら……」
「ああ、ジャンヌ・アクアちゃんの居住区だね」
「なにやってるのあの子!?」
そう告げれば、首を捻りながら「そんなことしそうな人なんていたっけ?」と溢したゆかりんである。
……まぁうん、あさひさんや燈矢君みたいなタイプで、そういうことをしそうな人というのは居ないだろう、今のところは。
どっこい、最近加わった面子にはそういうことする人がいる……というわけで、下手人はジャンヌ・アクアである。*1
基本的にはオルタと一緒に行動している彼女だが、自分の部屋……部屋?も欲しいと述べたため、ゆかりんにその申請をしていたのが大体一月前。
で、その時ゆかりんは出された書類をあんまりよく読んで無かったんだけど……居住希望範囲がワンフロアだったんだよねー。
あの時のゆかりんは他にも色々と案件を抱えていたため、書類に関しても流し読みしていた……ってわけ。
いやまぁ、仕方のない話ではあるんだけどね?
普通フロア一つを借りたい、なんて言ってくる人なんて早々いないし。
……早々いないだけで一部にはいる、というのもポイントだろうか。
それゆえに、許可が降りたことに対してジェレミアさんも疑問を覚えたりしなかったんだろうし。
「……ああ、既に上司が確認を取っていることに加え、そもそも『水着のジャンヌ・ダルク』相手であれば、一つ分のフロアを与えて暴走を抑える……みたいな方針を打ち出してもおかしくないと判断した、ということか……」
「惜しむべくは、その上司ろくに内容読んでないんで確認は取れてないんですよ……ってところかな……」
「随分と杜撰な話だな……」
ワンフロアを借りたいなんて話は普通は弾かれるか、もしくは相手を見て検討するというのが普通。
例えば銀ちゃんがワンフロア借りたい、なんてことを言い出したとしても、まず書類の時点で弾かれてしまうことだろう。
これから従業員が増えすぎたりでもしたらあり得なくもないかもしれないが、少なくとも現状の彼がフロア丸ごと借りることは不可能、と見ておいた方がいい。
……逆に言うとフロアごと貸し出した方がいい、と判断されれば借りられるということ。
あさひさんなんかはまさにその一例であり、ミラルーツが市街地で暴れない、という利を得られるのならフロア一つくらいなら安いもの、と判断されるというわけである。
いやまぁ、厳密に言うとあさひさんのパターンはこの話に例えとして出すのはあれなんだけどね?
それから、そもそもワンフロア分の価値がそこまで高くない、というのもポイントだろう。
空間操作技術の未熟な頃ならいざ知らず、現状のなりきり郷はほぼスペース無限みたいなもの。
例えば本来の上条君みたいに、そういう技術を無効化して次元の狭間に消えてしまいそう……という話ならともかく、そういうことじゃないのなら厳しく貸す・貸さないを管理する必要もないのである。
……じゃあなんで銀ちゃんは借りれないのかって?単純にワンフロアも要らんでしょ貴方、って部分も多いかな……。
ともあれ、理由があるのなら貸すし、そこまで逼迫していないのならワンフロアも要らないでしょ、となるのが普通のパターン。
それを前提とすると、確かにジャンヌ・アクアの場合は考慮の必要がある、ということになるのがわかるだろう。
流石に本家本元の
それが単なる欲求で済んでいる内はいいが、もし仮に衝動レベルにまで発展してしまった場合、下手をするとなりきり郷全土を海に沈めたい、などと言い出す可能性は零ではない。
ならば、適度に欲求を発散する場としてワンフロアごと貸し出す……というのは寧ろ対処として適切ですらある。
ゆえに、ジェレミアさんがその辺りを
……そう、誤認。
ジャンヌ・アクアをよく知る人ならわかることだが、彼女の海への欲求は下手をすれば邪リィ*2のそれと同程度。
言い方を変えると『周囲が海だと楽しいなー』くらいの軽いモノなのである。
なので、本来なら一部屋丸々水浸し、くらいでも十分満足できてしまうのだ。
その時の彼女は申請の仕方をよく知らず、とりあえず借りられる中での最大値を申請しただけであり、言い換えると「多分これは無理だって弾かれますよね」くらいの気持ちだったのだが……結果はご覧の通り。
で、彼女は彼女で「折角借りられたのですから、自分のできる最大限を試しましょう!」とばかりに張り切り、結果としてワンフロア丸々常夏の海、みたいな場所ができあがったのだった。
……うん、できあがった、だけで済んでれば良かったんだけどねぇ……。
「なにその不穏な言葉は……これ以上なにかあるって言うの……?」
「いやー、ははは。──その海で
「……もうやだーっ!!」
「あはははは」
まぁ、うん。
突然ちいかわになったゆかりんは置いておくとして。
私の言っている内容がよく分からないだろう二人──ダンテさんとエミヤんにもわかるように、改めて説明し直す私である。
まず件の『アカリちゃん』と言うのは、水の惑星・アクアを舞台とした癒し系漫画『AQUA』『ARIA』シリーズの主人公……と起源を一にすると思われる、ハルケギニアにて水先案内人をやっている平民の少女のこと。
中に核となる人がいる、という訳ではなさそうなので恐らく区分的には【顕象】になるのだろうが……ともかく、本来彼女はこちらの世界にやって来ることはまずあり得ないタイプの人物である。
なにせ、彼女の扱いはハルケギニアに暮らす一般人、というもの。
見た目的に主人公そのものであるとはいえ、その姿に纏わる運命とは無関係であるはずの人物なのである。
言い方を変えると、ハルケギニアの水の都・王都トリスタニアの外に出ないまま一生を過ごすはずの人……みたいな?*3
さて、それを前提とした上で、さっきの私の発言を思い返してみよう。
……うん、ジャンヌ・アクアの居住区で彼女らしき人を見掛けた、って言ったよね私。
「あ」
「……もう察したみたいだけど続けるね。確かにまあ、水無灯里といえば不思議なことに縁のある人物だけど。アカリちゃんの方は扱い的には他人の空似、つまり彼女自身にそういう不思議なことに関わる余地は、本来ほとんどないってこと。……そんな人物がこっちに居るということは……」
「彼女がなにかをしたのではなく、
「せいかーい」
そう、今しがたエミヤんの言った通り。
アカリちゃん自身に原因がないのなら、必然的に今回の一件の原因はこちら側──ジャンヌ・アクアの作った海にある、ということになる。
すなわち、なにかよく分からないことが起きてしまった結果、ジャンヌ・アクアの海はハルケギニアのそれと繋がってしまった……ということになるのであった。
いやまぁ、私としてもわりと意味不明なんだけどね?
ハルケギニアへの移動手段は、以前の事件の際にあれこれと手を加えた結果、私の部屋にあるクローゼットの奥にある世界扉に限定されているはずだったのだから。
そりゃもう、この話を聞いた時には思わず目が飛び出るかと思ったっての。
なお、発見されたアカリちゃんはというと、自身に向かって手を振るジャンヌ・アクアに手を振り返したあと、そのまま来たところを戻って水平線の向こうに消えていった、とのこと。
後日向こうのルイズに確認したところ、こっちに現れたアカリちゃんはそっちのアカリちゃんで間違いない、との発言が返ってきた(本人に聞いて確認したらしい)が……ゆかりんに伝えるとまたお腹痛いと言い出しそうだったため、一先ず保留にしていたのだった。
……保留にした結果伝えるの忘れてる?はてなんのことやら。
「もっと早くに言いなさいよー!!」
「はっはっはっ、いいのかなそんなこと言って。その時のゆかりん、別の案件が重なって死にかけてたけど」
「……え、ってことはあの時?……あー、確かにちょっと無理だったかも。そんなの聞いたらキャパオーバーでぶっ倒れてたかも」
「でしょー?」
なお、その辺りの話を聞いたゆかりんが、案の定プリプリと怒り始めたけど……この事件が発生した当時、ゆかりんは別の案件に胃を痛めていたため、この話まで聞かせていたら恐らくぶっ倒れてたよ?
……と返せば、あーと呻きながらこちらの行動に一定の理解を示してくれたのでした。
無論、『そのあとの報告を忘れてたのはギルティです』って言われて逃げられなかったんだけどね。うーん理不尽。