なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「有耶無耶になって良かった……」
あれから憤るマシュをなんとか納め、午後の授業も終えた私達。
……変な修正力にちょっと戦々恐々としつつ、一応ギーシュ戦を乗り越えられたことに密かに安堵のため息を吐く。
いや、戦ってないのに乗り越えたと言っていいのか、その辺りにはちょっと疑問がなくもないのだけれども。
まぁ、その辺りは一先ず隅に置いて。
お昼が終われば午後の授業。ここも特に引っかかるようなことはなく、スムーズに抜けて。
そのまま夕食→お風呂→就寝前の暫くの談話時間、と流れるように場面は過ぎていった。
「夜寝る前にこうして会話をする……というのも、意外と乙なモノね」
「ルイズ義姉さまは、そもそもお話好きな方じゃないですか」
「そりゃまぁ、キュルケと話してれば嫌が応にも……ってやつよ」
「あっ、ちょっとルイズ。責任の所在を私一人に押し付けるのやめなさいってばっ」
「…………」(もぐもぐもぐもぐ)
で、現在は私の部屋で三人娘達との、楽しいガールズトークの時間である。
使い魔組は使い魔組で別所で会話しているらしいので、今はマシュもサイトも居ない。
なので彼等のことをよく知らない、キュルケとタバサからの会話の内容は。
必然、使い魔になった人間二人についてのモノが多くなるわけで。
「いいわよね、サイト。顔付きと体付きがミスマッチなのはちょっと気になるけれど、それを差し置いてもあの逞しい胸板!なんというか私、ちょっとくらくらしちゃったわ」
「私はマシュの方が気になった。盾を使う戦闘術、とても興味深い。あと、イーヴァルディみたいでかっこいい」
「ん、んー?キュルケがそう来るのはわかってたけど、タバサもなの?」
「ま、マシュは私の騎士ですからね、タバサ姉さま!」
「ん、残念」
……キュルケがサイトに惹かれるのはまぁ、わからないでもない。
顔がサイトになっているとはいえ、あの体はナポレオン──可能性の体現者のものである。性格面は普通に紳士なのもあり、人気になりそうなのはよくわかる。
問題はタバサの方。
原作と違って復讐者でもなんでもない彼女は、どちらかと言えば中二病患者のような存在である。
北花壇騎士団そのものは確かに存在しているが、魔法なんて慮外のモノをなまじ使えてしまうせいで規模が膨れ上がっているだけで、根本的には彼女のごっこ遊びの為のものである。
……いやまぁ、ドラゴン退治とか吸血鬼退治とか、普通にやってるらしいのだけれども。実際、ここのタバサもシュヴァリエの称号そのものは、普通に持っているらしいし。
なんというか、中二病患者に特別な力とか持たせちゃいけないな、なんてことくらいしか思い浮かばない、自分の貧困な語彙力が恨めしい感じであった。
「と・に・か・く、次の虚無の曜日には街に出ましょう!」
「ん、なにか買いたいものでもあるの?」
「服よ服!もう暫くしたらフリッグの舞踏会でしょ、だったら今の内に新調しとかないと!」
「あー、そういえばそうだっけ」
そのまま、話はまた別のものに変遷していく。
今度はウルの月・フレイヤの週・ユルの曜日に行われるという、フリッグの舞踏会についての話題だった。
原作ではフーケの襲撃のあとに、戦いを終えたルイズとサイトが親睦を深める一巻の
北欧神話だとか三銃士だとかの逸話の入り交じった『ゼロの使い魔』世界*1であるが、始祖であるブリミルを一番に信仰しているわりには、女神や精霊のような存在も普通に明記されていたりする。
その内の一つが女神フリッグ──愛と結婚と豊穣を司る、北欧神話に登場する女神だ。
こちらの女神も司るモノに変わりはないのか、このフリッグの舞踏会でダンスを共にしたカップルは、将来共に結ばれる……なんて、伝説の樹みたいな逸話もあるのだとか。
一応、名目上は教師や生徒の枠を越えて親睦を深めるためのもの、らしいのだが……まぁ、形骸化して来てるというのは間違いでもないだろう。
ともあれ、そこでダンスを踊ったりする以上、己を着飾るというのは、ある種貴族の嗜みのようなものである。
ゆえに、恋に燃える熱き少女、キュルケの張り切り様はいつもの比ではない、ということなのであった。
……まぁ、ここのキュルケはちょくちょく他の男子に粉をかけたりしているけれど、その本命は既に決まっている節があるわけなのだが。
「……んー、でもあの人、着飾ったくらいじゃ靡かないんじゃない?もうちょっと考えて行動しないと……」
「なに言ってるのよ!だからこそもっと着飾るんじゃない!私の美貌から目を離すだなんて、そんな真似許さないわ!」
「……キュルケはいつも元気」
「キュルケ姉さまが色恋沙汰から離れるようなことがあれば、それがこの大地の終わりの時だと思います」
「もぅ、これだからお子様組はっ!というかキーア、私が心配なのは貴方なんだからねっ!?」
「え、何故いきなり私が矢面に?」
のほほんとタバサとお茶請けのお菓子を食べていたら、突然キュルケに名指しで注意されてしまう。……え、心配?私何かしたっけ?
「なにって、ま」
「おおっとキュルケ姉さま危ない、『念力』っ」
「しゅばっ!!?」
余計なことを口にしたため、縫い合わせる代わりに爆発させる私。
……失敗魔法に関しては加減を覚えたので、あくまで目の前で光が爆ぜたくらいだとは思うが、それでも直前に言おうとしていたことを忘れて、目をぱちくりさせるキュルケ。
「え、なに?今なにがあったの?」
「姉さまの顔に蜂が近付いていましたので、早急に退治させて頂きました。危なかったですね?」
「え、ええ。ありが、とう……?」
「キーアは時々怖い……」
「笑顔でささっとやらかすものね。おお怖い怖い」
……そこ二人、うるさい。
「トリスタニアまでは馬で二時間・歩いて二日、みたいな話を聞いたことがありますが……」
人間の徒歩の時速はおおよそ3キロほど。
丸一日歩き詰めというわけでもないだろうし、
馬が駆ける最高速度が六十から七十ほどだというので、全速力で駆け抜けられるのならもうちょっと早くなるのかもしれない。
……まぁ、馬車がそんな速度で走るわけにもいかないので、できるかも?くらいに思っていた方がいいのかもしれないが。
そもそも現代の道と違って舗装されているわけでもないので、一日に進める距離はもっと少ないだろう。なのでまぁ、魔法学院から王都までというのは、その掛かる時間よりも遥かに近い位置にある、とも言えるのかもしれない。
「まぁ、あくまでそれは地上を走った時の話。
「頑張った、褒めて?」
「いや、頑張ったのはシルフィードの方でしょう?」
「シルフィは、私の使い魔。使い魔の功績は、主人の功績。何も問題はない」
「きゅいきゅいー!?」*2
わいのわいのと騒ぐ三人娘達を尻目に、私とマシュは目の前の都に視線を向けている。
王都、トリスタニア。
ハルケギニア大陸の西方に位置する小国。
歴史ある国ではあるが、伝統や
はず、なのだが。
「……なんで、ネオ・ヴェネツィア*3みたいなことになってるの?」
「どこかで水の都、みたいな名前で呼ばれていたことがあるから、でしょうか?」
「それ、他の街の話じゃなかったっけ?」*4
「……そもそも二次創作混じりのこの世界のことです、真面目に考察するのも、ちょっと無理があるのではないでしょうか?」
まぁ、なんということでしょう。*5
王都トリスタニアは、溢れんばかりの清き水を多量に湛えた、水上都市のような見た目に生まれ変わっていたのです。
……生まれ変わったというか、元からそうだったというか。
何にせよ。白い石作りの建物と、それらを繋ぐように張り巡らされた水路という見た目は、どこぞの火星に存在するという、ネオ・ヴェネツィアを思い起こさせる美しい街だったわけで。
……いや、どうなっとるんですかいこの世界。
「水のメイジを多く輩出するトリステインで、王都が水の都と化すのは半ば必然じゃない?」
「そうかな……そうかも」*6
「せんぱい!?しっかりしてください!」
ルイズの言葉に思わずチョビ化しつつ、気を取り直して各々の目的地に向かうため、一旦別行動をする私達。
キュルケは、当初の予定通り新しいドレスを新調するために服屋に。
タバサは、新しい本を欲しがっていたため本屋へ。
で、私とマシュ・ルイズとサイトはと言うと……。
「あ、あの水水肉はおすすめですよ。とろけるような柔らかいお肉がとってもジューシーなんです」*7
「へぇ、なるほどなぁ。……
「はひ、そうなりますね。私達も、言ってみれば東方からの技術流入によってこの仕事に就いてる……みたいな感じですし」
表の広い水路から裏の細かい水路へと進路を変えたゴンドラ船に、ゆらりゆらりと揺られている最中であった。
……どこかで見たことあるようなこの少女は、この国の職の一つ『
らしいというのは、周囲の状況的にホントに
……っていうか、さっきの水水肉もそうだけど、色々混じり過ぎでしょこの街……。
「アカリさんは、ここでは長いんですか?」
「えへへ、実は私もタルブから出てきたばかりでして。最近やっとお客さんを乗せてもいいよ、って許可が降りたところなんです」
どうみても水無灯里*9にしか見えない彼女はアカリといい、家名とかは持ち合わせていない、普通の平民なのだという。
ゴンドラを漕ぐことを仕事とする『水先案内人』は、平民達にとっては憧れの職業。
それもトップのプリマ・ウンディーネともなれば、貴族達からも重宝される花形となる──みたいな感じなのだそうで。
こうしてみると、平民と貴族の間の軋轢というのもほとんど存在しないのではないか、みたいな感想が浮かんでくる私なのであった。
なお、トリスタニアがこんなことになっているのは、数百年前に東方ロバ・アル・カリイエからやって来たというとある人物が、様々な文化をこの国にもたらしたから、らしい。
……どう考えてもなにかある感じだが、それがオリ主的なアレなものなのか、はたまたなりきり組が過去に居たのか、正直判別はつかない。
ともあれ、ゆらりゆらりと揺られながら、チクトンネ街をゆったりと進む私達。
そうして目的地にたどり着いた私達は、アカリちゃんに暫く外で待っていて貰うように言い置いて、店の中に進んでいく。
向かった先は、武器屋。
サイトの相棒となる一振り、魔剣デルフリンガーとの出会いの場所。
その場所で出会ったのは───。
「──問います。あなたが私の、
「お、おいこらデルフ!毎度毎度商売の邪魔をするんじゃねぇ!」
「……ええ……?」
なんだか様子のおかしい、青く長い髪の少女だったのでした。