なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「ふーん……珍しくこっちに顔を見せたわねって思ってたら、そんな愉快なことになってたなんてねー」
「そうそう、お仕事忙しくて大変ってやつなのですよ。……ってわけではい、アンケート用紙とこっちの用事」
「……なるほど、これが噂の……」
はてさて、居住区に着いてからは他二人とは別行動である。
こっちの人からすれば初対面となるダンテさんを一人にするのは色々とアレ、ということで向こうにはエミヤんを同行させ、こっちは数時間ぶりの一人旅……みたいな?
そんなわけで、真っ先に向かったのが顔見知り──アスナさんの部屋であった。
以前と変わらず綺麗に整頓されたその部屋の中で久方ぶりの再会を祝ったのち、そのままお仕事の話に移行したら微妙に呆れたような顔をされたが……ちゃうねん、別に私がワーカーホリックだとかそういう話ではないねん。
だから生暖かい眼差しを向けてくるのは止めて……なんて話しながら、アンケート用紙と一つの玉を渡したわけである。
で、今しがた彼女に渡した野球ボールサイズの玉こそ、今回私たちが用意した秘密兵器──名付けて『プライベート花火』なのであった。
「……何処となく、ドラちゃんの道具みたいな名前だね」
「まぁ、イメージ元は実際それだからね。……なお、この名前で検索すると言葉の意味そのままのものが引っ掛かるんで、商標とかは取れないです」
「寧ろ取ろうとしてたの……?」
いやしてないから、そんな微妙な顔しないで頂戴な。
……みたいな中身のない会話を行いつつ、詳しい説明をしていく私である。
この『プライベート花火』、作りとしては先述した通り【虚無】を利用した簡易的願望器……みたいなモノとなっている。
対象の想像した花火を再現する方向に
いわゆる『ブレイン・マシン・インターフェース』*1の一種とも言え、これを応用すれば様々なオーバーテクノロジーが実現できることだろう。
……まぁ、今のところ私かキリアにしか作れないので、量産性が限られているのが問題なのだが。
あと、わざわざ最初から機能を『花火を作る』という方向性に絞って作っているため、他のモノに使う場合は製法を変える必要性があるので応用性に難があったり。
「なんでそんな面倒なことを?」
「
「あー……」
なお、なんでそんな面倒臭い方式になっているかというと……分かりやすいのは去年のハロウィンにて登場した『流れ星の指輪』のレプリカ・『シューティングスター・オルタ』の話だろうか?
あれはエミヤん以下数名が総力をあげ、ハロウィンの優秀賞として作り出した景品だったわけだが……その方式は、モモンガさんのところの魔法の一つ『
で、件の『星に願いを』という魔法は、本来ゲーム内で定められた選択肢から一つを叶える……というランダム性のあるモノだったのだが、転移に際して『願いを叶える魔法』として変質していた。
言い方を変えると一種の願望器になった、ということになるわけだが……それを根幹部分に用いて作られた件の指輪は、その魔法に外部から制限を加えて
なんなら魔法使用のための魔力も内蔵分に限定して制限を強めに強めていたりしたわけだが……それでも、それの利用によって想定されるパターンにはなりきり郷の滅亡が含まれていたし、事実なんか滅んだっぽい記憶もある。
あの時は、外部から誰かの干渉があり、その滅び自体は虚数事項として処理されたみたいだが……今回の場合、そちらより質が悪い。
もし仮に、最初から機能を一つに絞られた状態で作られた【虚無】でなかった場合、そして件の指輪と同じく外部からの干渉で機能を制限していた場合。
──ほぼ確実に、世界が滅んでいただろう。
「……そんなに?」
「そもそもの話、【星の欠片】自体が願望器だからね。しかも細胞より遥かに小さいにも関わらず、その存在があやふやな部分に起因するから
まず【星の欠片】そのものが願望器である、ということでワンアウト。
制限を受けている──
その次に【星の欠片】そのものの性質──
私やキリアが直接操ってるならともかく、そういうものからの接続を意図的に切り離して作る*3のがお約束であるため、こっちの制御が効かないのは寧ろ想定通り。
……ということは、自由になったら代わりに【星の欠片】の欲求に従って動く可能性が高いってことになるわけで、そうなると使用者を『王』にしたてあげようとする可能性大なわけである。
そして三つ目、エネルギー源そのものが【星の欠片】である、という時点でスリーアウト。チェンジどころか退場である。
要するに【星の欠片】である時点でエネルギー切れは一切望めないわけなのだから、一度起動してしまうと目的を果たす以外に停止する理由も止める手段もほぼないのである。
いやまぁ、そういう稼働状態でも本体である私たちが触れれば止まるだろうけど、逆に言うと止めるためには絶対に私たちが現場に向かわなければならない、ということにもなるわけで。
……面倒なことに、分身を差し向けても止まらないのが目に見えている*4ため、今回みたいに多数の人間にモノを渡す場合、物量的にどうしようもなくなるのが目に見えているのである。
そういうわけなので、端から機能が一つしか無いもの──幹細胞ではなくそれぞれに分化した細胞として作らなければならない、ということになるのだ。
で、滅亡を回避するにはこの方式を採用するしかないけど、そうすると今度は生産性に難が出てくる……みたいな?
他のモノに応用する場合、その都度それぞれの用途に見合った【虚無】を作る必要があるし、それらを分身に作らせることもできないので単純に手が取られ過ぎる……という感じか。
まぁ、私たちのそれは科学の行き着く先でもあるので、何処かの遠い未来では上手く利用している可能性もあるのだが、それに関しては今のところ何時やってくるかもわからない未来……ってことで考慮に値しない、ということになるわけで。
そんな感じのことを語れば、アスナさんは『花火一つに大袈裟な話が付いてくるんだね』と苦笑を一つ浮かべていたのだった。
「──まぁ、そんな感じにみんなと話して、見てみたい花火を想像して貰ったってわけ」
「なるほど……その東奔西走の成果が、こうして私達が今見上げている光景、ということなのですね」
「そうだねー」
はてさて、そんな感じにアスナさん達以下互助会の面々に話をして、彼らの望む花火を作って貰ったのが数日前のこと。
仕事を終えた私はこの花火の打ち上げ方をエミヤんに伝えたあと、以降は向こうの仕事に一切口出しせずになりきり郷で果報を寝て待ってたわけなのだが……。
浴衣を着用し街に繰り出した私たちは、その夜空を覆う満天の花火達に、思わず見惚れていたのだった。
……いやもう、これが凄いのなんの。
なんとなく誰が想像したのか分かる花火達は、その本質が願望器である【虚無】によって出来上がったモノであることも手伝い、普通の花火ならまず実現不可能な絵面を次々と夜空に焼き付けている。
特に、打ち上がった花火達の色が混ざり合って別の絵を作り上げた時など、我がことながら『そんなのあり?!』と叫んだものだ。
まぁ、内容に関してはノーコメントだが。
なんでって?アスナさんからキリトちゃんへの惚気みたいな内容だったからだよ!
三つも四つも花火を作りたい、というものだから『随分と熱心だなー』なんて呑気に思っていた当時の私を叱りたい気分である。……ともすれば十八禁だぞあの絵面……。
とはいえ、そんな感じに凄いものが空に打ち上がっている、ということは間違いない。
このノリなら、来年の花火大会も虚無花火を続行する、みたいなことになりそうだと半ば確信してしまうようなそれは、絶えず眼下の人々を照らし──、
「──来年も、何事もなくこの花火を見られるといいですね、せんぱい」
「……そうだねぇ」
思わず夏の終わりを名残惜しみながら、私とマシュはずっとその花火達を見上げていたのだった──。