なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「契約を結ぶ前に、まず自己紹介を。私はデルフリンガー=メザーランス。気軽にエクスカリバー、と呼ぶことを許可しないこともありません」
うわ久々の【
それくらい、目の前の少女はできればお近付きになりたくない系統の少女だった。
予想としてはデルフリンガー*1と、レヴェリー=メザーランス*2と、エクスカリバー*3の【複合憑依】だろう。
……全部が混ざってしまっているようにも見えるので、『
というか、武器繋がりでなんでもかんでも混ぜ込むのやめない……?
エクスカリバーが混ざってるというのは、先の台詞からの予想だけど。*4……
「では、私と契約するにあたって、注意して頂きたいことを幾つか。まず私は五千年を生きる貴重な生き証人です、それゆえに相応の態度を求めます。まずは私を敬い・尊敬し・へりくだり・常に気を使って頂き──」
「い、いやちょっと待て。契約もなにも、こっちはまだ何も……」
「
「お、おう……」
「……えっと、武器屋のおじさま、彼女は?」
「インテリジェンス・ソードっつー触れ込みで仕入れたはいいんだが、突然輝いて娘っ子になっちまってな……見目は良いんだが、あの性格だろう?うちとしても商売上がったりなんでどうにかして手放したいんだが、『使い手』以外のモノになる気はありません、と来たもんだ。都合の良い時だけ剣のふりしやがるし、都合の良い時だけ娘っ子のふりをしやがるってもんで、どうにもならねぇんだ」
「……あー、なんとなくわかった。無理やり売ろうとすると女の子形態で人身売買を匂わせたりとかするのね、こいつ」
「む、無茶苦茶です……」
性格の基礎が
その上でデルフのボケっぽいところまで混じっているので、最早見た目がレンちゃんであること以外の良点が、まったくわからないレベルである。
更には自身の見た目を利用しての恐喝までしてくるとか、地雷以外のなんだというのだろう、この子。
まぁ、これをどうするかは使い手であるサイト君に委ねられ……あれ?
小さく首を傾げた私に、ルイズがどうしたのと声を掛けてくるが……うむ。
「……いえ、よく考えたら契約は有耶無耶になっていますから、ここにガンダールヴは居ないんじゃ……?」
「あ」
「む?」
「というか、本来ならばマシュがガンダールヴになるのでは……?」
「……あー、どうなんだろこの場合は……?」
よくよく考えたら、この世界での虚無の担い手は私ことキーア・ビジューちゃんである。
すなわち、原作のようにサイトにガンダールヴのルーンが刻まれるのか、はたまた虚無の担い手の使い魔としてマシュにガンダールヴが刻まれるのか、微妙に不明なのである。
なので、熱心に『私と過ごすための千の決まりごと』をサイトに教えていたレンちゃんもといデルフちゃんは、先走り過ぎて空回りしていたことになるわけで……。
「……やる気が削がれました。戻りますので適当にどうぞ」
「露骨にテンション下がった!?」
「折角私を振るうに足る『使い手』が現れたと思ったのですが、まさかそもそも『使い手』がこの地に降臨していなかっただなんて。……現れるまでただの剣でいますので、どうぞご自由に」
「え、ええ……?」
デルフちゃん、まさかのふて寝である。
単なる剣の姿に戻った彼女は、そのままサイトの腕の中に収まってしまった。
話す気はありません、とばかりに無言になった彼女に、思わず店主と顔を見合わせる私達。
「……え、えっと。おいくらかしら、これ」
「へぇ、もうそのまま持ってってくださっていいでさ……」
「ああうん、ごめんなさい。とりあえず500エキューほどお支払い致しますわミスタ……」
「そ、そんなに貰っちまったらこっちが恐縮しまさぁ!?」
「いいんです、手間賃みたいなものだと思ってくださいな」
「へぇ、そいつはどうも……」
お互いになんとも言えない空気に包まれたまま、私達はデルフを手に入れるのであった。……なんだろねこれ。
「デルフリンガーのイベントも終わったし、次はフーケの話、のはずなんだけど……」
正直、現状で起こるのだろうか、フーケの襲撃。
いやまぁ、起こらないのなら起こらないで、別に問題はないのだけれども。
あのあと欲しいものを手に入れた他二人と合流して、マシュやサイトの服に、私とルイズのドレスも仕立てて貰って。
またのお越しを、なんて言うアカリちゃんに手を振って、再びシルフィードに乗って学院に戻った私達。
その後は特に騒動らしき騒動が起きることもなく、平穏な日々を過ごしていたのだが。
あまりにもなにも起こらないものだから、あっという間に週の終わりを迎えてしまっていたのである。
……ゼロの使い魔って、わりと作中時間が経過するタイプの作品だから、最近の作品の『とにかく一日に何もかも突っ込むタイプ』の作品群に慣れた身だと、なんというか逆に気後れする感じさえあって。
「……こんなに平和でいいんだろうか」
「せんぱい、
「おおっと」
マシュに呆れたような声を掛けられて、思わず呻く私。
……働き詰め、なんてことはないはずだけれども。なんというか、こうもスローだとあくびしか出ないというか……。
まぁ、平和なのは良いこと、なんだけども。
「ふむ、ではそんなお主に、一つ良いことを教えてあげるとしよう」
「どぅはぁっ!?びびびびっくりしたぁっ、ダンブルドア先生、いきなり使い魔寄越すのやめて下さいよ……」
「ほっほっ、ちょっとしたお茶目心という奴じゃよ」
なんて、ちょっと気を緩めたのが悪かったのか。
突然に耳元から聞こえた声に、途端に警戒度MAX・臨戦態勢になる私。……いや、突然ダンブルドア先生の声が聞こえたらこうなるよね?
などと自身に言い訳をしつつ、枕元に視線を向ければ、そこには彼の使い魔である
……ずっと小鳥の姿なのは、なにか意味があるのだろうか?などと思いつつ、背筋を正して椅子に座る私とマシュ。
その使い魔の向こうに居るのであろうダンブルドア先生は、私達の様子を見てくすりと笑みを溢したあと、とあるお知らせを私達に告げるのだった。
さて、今日は私達がこっちに来てから二回目の虚無の曜日……を、過ぎた次の日。
まぁ要するに、フリッグの舞踏会当日の夕方である。
……え?フーケはどうしたって?
いや勿論来ましたよ、来たし撃退もしましたよ。……抜き打ちの訓練扱いでな!
「貴族の子女は、突発的な事態に弱いからの。毎年この時期になるとミス・ロングビルに頼んで、昔取った杵柄を再び披露して貰っておるのじゃよ」
「……オールド・オスマンは底意地が悪い」
「ほっほっ。施政者に取って底意地が悪いは、褒め言葉みたいなものじゃよ」
なにも知らされていなかったため、慌てふためくはめになったタバサ含む三人娘達。
サイトはまぁ、途中で色々気付いたみたいだけれども。
そのことを後から指摘されたルイズは、恥ずかしさのあまり床を転げ回っていた。
なお、巷に未だ残る義賊フーケの噂は意図的に流されているものであり、時折女王からの秘密裏の依頼によって、悪徳役人の私財を掻っ払うために暗躍していたりするのだ……と言うことを、ダンブルドア先生から事前に聞いていた私とマシュは、言うなれば生徒側の協力者として奮闘していたのであった。
「その、私に話さず行動させると、ところ構わず爆発させかねないから、とのことでして。……別に、姉さま達を故意に貶めようとしたわけではないのです。本当ですよ?」
「あーもう、キーアのことを疑ったりなんてしないわよもー!」
「キュルケ姉さま……!」
(……あ、これは絶対故意だわ)
(故意、間違いない)
(こ、
(マシュ、貴方……?)
(ち、ちちち違います!駄洒落とか、そういうわけではないのです!信じてください!)
……外野達が念話で好き勝手言ってるような気がするが、まあ問題なし。
なにはともあれ訓練も終わり、今日はもうダンスして終了、である。……フーケ戦がカットってどうなんだろ。
「まぁ、細かいことは言いっこなしじゃ。さぁ、もうすぐ舞踏会の開始時間じゃ。着替えに戻りなさい」
退出を促すダンブルドア先生の言葉に、他の皆がぞろぞろと外に出ていく。
それを見送って、そのままソファーに座り直す私。
「ふむ、まだ何かあるかの?」
「惚けないで下さい。……なんですかアレ、なんであれがここにあるんですか?」
「ふむ、あれと言うと──
「変にカッコよく言わないで下さい、あれどう考えても『
のほほんとした様子のダンブルドア先生に、思わず詰め寄る私。
……そうなのである。原作において破壊の杖と呼ばれた『M72ロケットランチャー』は、こちらの世界ではなんの因果か、銀魂のあの卑猥砲になっていたのである。
ご丁寧にも、手持ちサイズへと小型化されて、だ。
そのせいで、『
……フーケに扮していたミス・ロングビルが、笑いのツボに嵌まってしまって暫く再起不能になっていたあたり、とにかく絵面が酷かった。本人は至って真面目にやっていたので、余計に。
「まぁ、難しいことはなにもないぞい。あれも流れ着いたモノ、というだけじゃしの」
「……この世界、わりと真面目にもうダメなのでは?」
「うまく回ってはおるしの。問題はなかろう」
こちらの言葉にダンブルドア先生はほっほっ、と笑うばかり。
……いやまぁ、平和なのはいいけども。……ホントに平和なのかこの世界……?
「ああもう、結局心配した通りになってる!」
「あらキュルケ。心配ってなんのこと?」
ダンスを申し込んでくる幾人かを適当にあしらって、ひたすら料理を平らげるタバサの横で、グラス片手にホールを眺めていた私。
そこに、キュルケが血相を変えて近付いて来たものだから、何事かと尋ねてみたのだけれど。
彼女はホールの中心を指差して、「あの子達のことよあの子達の!」と声をあげた。
ホールの中心では可愛らしく着飾ったキーアと、凛々しい騎士のような出で立ちとなったマシュが、危なげなくダンスを踊っている。
……タンバリンとか用意しなくてもいいのかしら*6、なんてちょっとずれたことを思いつつグラスを傾けていると、そんな私の様子がお気に召さなかったのか、キュルケがこちらの肩を掴んで前後に揺らしてくる。
「なぁによもーキュルケ、なにか問題でもあるの?」
「お・お・あ・り・よ!大有り!女の子同士とか、許されるわけないじゃない!」
「んん?……あー、そういえばそうね」
……生活水準はそうでもないけど、結婚観とかはまだ中世に近いのがここだったっけ。
最近は同性での結婚もわりと見掛けるようになってきていたし、なにが問題なのかと思っていたけれど……ふむ。
「まぁ、いいんじゃない?使い魔と仲がいいのは良いことよ」
「……いやいいの?ホントに?問題まみれだったりしない?」
「大丈夫大丈夫。あの二人、そういうのじゃないだろうし」
「はぁ?」
困惑するキュルケを置いて、離れた位置に居たサイトに視線を送る。
彼はすぐさまそれに気付いて、こちらに駆け寄ってきた。
「お一ついかがかな、
「喜んでお受け致しますわ、
背後からの「あ、ちょっとルイズー!?」という声を無視して、そのままホールの中心へ。
「
「……!?な、なに?おばけ?」
背後で行われるやりとりをBGMに、私達は踊る。
──二つの月は変わりなく。
夜は賑やかに、ふけていくのでした。