なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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面倒なことに、向こうから迎えに来るのもNGである

 はてさて、これ以上のズルはダメ(要約)と言われれば素直に歩くしかないわけだが。

 ……うーん、相変わらず近付いているという実感がないので、気分が沈んでくる感じが拭えないぞぅ。

 特に問題なのが、この分だと走っても大して変わらないだろうなぁという部分か。

 

 

「……と、いうと?」

「『公』の部分で決めている以上、どういう形であれ短縮は不可能だろうってこと。言い換えると時間なりスタミナなり、定められた量を消費しないと終わらない……みたいな?」

 

 

 疲れたように問い掛けてくるサウザーさんに、私は例を上げながら答えを返す。

 

 先んじて『星の死海』においては肉体的な負担はない、と述べたことからわかるように『スタミナ』は実際には鍵ではないだろうが……例えばこの世界の中での歩いた時間とか、はたまた精神に掛かる負担の量だとか。

 そういったモノを独自の概念で観測し、それが規定値に達した場合に次の場所へ行けるようになる……という、いわゆるノルマ方式であると思われるわけだ。

 

 で、これの問題点はノルマは一つではないという部分。

 精神的な負担の意味ではもう結構なモノだと思われるが、経過した時間がノルマに含まれる場合走り回るだけ無駄、ということになりかねない。

 じゃあだらだら歩けばいいのか?……と言われるとそれも疑問である。

 例えば平均速度がノルマに含まれていたら、それこそいつまでも試練が終わらない……なんてことになってしまうかもしれない。

 

 

「それはそれでさっきの説明で言うところの『払いすぎ』になるから、試練が楽に……はならんのか、説明的に」

「向こうの払いが悪い、ってことになっちゃうからね」

 

 

 待遇に対しての文句が試練の停滞だと考えるなら、そりゃ試練も増やされるというもの。

 

 ……これが仕事なら、待遇に対しての文句というのは基本賃金についてのものになり、仕事を増やせだなんて意味合いには取られないのだろうけど。

 生憎、このパターンの場合私たちは()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 言い換えると進んで試練を受けている扱いになるので、その状況下で文句を言うというのは『試練が簡単すぎる』という扱いになるのだ。

 そりゃまぁ、試練が加算されるのが御褒美、みたいな扱いになるのも仕方ないというか。

 

 なので、現状の最適解はなにも文句を言わず、淡々と試練をこなすこと……なのだが、それにしたって既に結構な距離・時間を進んで来ているため、『終わりが見えない』というただ一点が他の面々の精神をガリガリ削っていることに変わりはなく。

 ……こうなってくると、この環境自体が普通の人には毒でしかないんだなぁ、としみじみ感じてしまう次第である。

 

 

「その言いぶりだと、お主にとっては今の状況は苦ではないと?」

「私だけじゃなくて、オルタにとってもそんなに苦ではないはずだよ?」

「なぬっ?!」

「黙秘!黙秘権を行使するわ!!」

 

 

 ……まぁうん、普段は意識しないようにしているものの、私も【星の欠片】の端くれではある以上、時間感覚に関してはわりとおかしい部分があるわけで。

 精神へのダメージを緩和する方法として有名なものは、心を透明にしてなにもかもをスルーする……みたいなモノがあるが、そういうのを特に意識せずに使えるだけの素養がある、と言えなくもないのである。……まぁ、原理的には普通のそれとはちょっと違うけど。

 

 で、これは同じく【星の欠片】の端くれであるオルタについても、近いことが言えてしまうわけで。

 確かにちょっと疲れてはいるものの、周囲のそれと比べると二段階も三段階も軽めであるために、密かに戦々恐々としている様子のオルタなのであったとさ。

 

 ……まぁうん、『こんなにも普通の人と認識の差があるとは思わなかった……!』とかネタに走っちゃいそうになるよね、わかるわかる。

 

 

「お主達のために走っているようなものなのに、お主達には大して苦ではないと……?」

「おおっとやぶへび。……そんな状況下でこの事実を告げるのはどうかと思うけど、これを告げないと多分先に進めないので心を鬼にして告げようと思いまーす」

「この状況で一体なにを言うつもりだ貴様は……」

 

 

 なお、その話を聞いたミラちゃんとサウザーさんは怒り心頭、という感じである。

 ……うん、巻き込んだのは私なのでその怒りについては受け止める所存だけど、その上で次の事実を語ると色々崩壊しそうだなぁ、とちょっと申し訳なく思う。

 いやまぁ、気付かなかった私が悪いってのも間違いないんだけど、その上で彼らにも責任の所在を乗せなきゃいけないのが心苦しいというか。

 

 そう口にしたことで、二人からは「責任?俺達に??なんで???」みたいな視線が飛んでくるが……うん、本当にゴメン、でもそう表現するしかねーんだわこれ。

 

 

「返答次第では貴様の首の骨を折るぞ……」

「折ってくれても構わんけど、その場合この試練一生終わらんよ?」

「は?」

「うん、改めてなんでこんなに長いんだろう今回の試練……って考えてたんだけど、多分二人が()()()()()()()()()()って認識してるからだと思うんだよね」

「は???」

 

 

 いやうん、一般的な感性ではそうなる、ってのはわからんでもないんだけどね?

 でもほら、これって試練だからさ。ついでにであろうとも実際に試練を課されているのは個人なんだわ。

 

 ……ここまで走ってこないと気が付けなかったのは、苦しそうな人物とそうでない人物の()()が別れていたから。

 そう、【星の欠片】であるかそうでないかで精神に掛かる負担が違うように見えたため、その可能性に思い至らなかったからというところが大きい。

 実際、こちらの負担が大きいなら試練が増える……という原理には沿っているように思えたのも一因だろう。

 私たちにとっては然程苦がないので()()()()()()()()()()()()()()()、逆にそうでない面々には苦が大きい──不満が多いので試練が増える、みたいな。

 

 ……トレーニングは大抵最初の内は苦痛が大きいが、繰り返す内に身体が作られていき最初よりも負担の大きいものでも然程苦ではなくなる……みたいな話が近いのだろうか?

 ともかく、彼らか苦しいのは『星の死海』で過ごすには適さない状態だからであり、それゆえそれが早く慣れるように……みたいな親切?が試練を増やす動機になる、みたいな。

 

 まぁ、本来ここに来るパターン──偶然に落ちてくる場合、必死でこの環境に慣れなければその先に待つのは自身の意味分解であるため、多少のスパルタは優しさのうち……みたいな認識もあったわけだが。

 ……言い換えると『そのままだと死ぬので死ぬ気で慣れろ』みたいな?

 

 それらの情報があったからこそ、現状がその話から微妙に()()()()()、ということに気が付かなかったわけである。

 あくまでもずれているだけで、それらの要素もしっかり存在していたのも理由の一つだろう。

 

 ……これ以上は言い訳の積み重ねにしかならなさそうなので、結論を一つ。

 全てはこの場にいるもう一人──()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「はい?」

「私は『星女神』様はギブアップするのを待っている、みたいなことを言ったけど──これは『()』の部分の話。諦めた方が話が早いですよね、そんな苦労はしない方がいいですよね──っていう、人に寄り添った優しさの部分の話。それに対して『公』の部分はさっきから言ってるように、厳しさの担当。この環境において、真っ当な存在は生き辛いどころか過酷の一言。そこで必死に生きようとしているモノには、そのための強さを与えられるように更に試練を課す……のだけど、その厳しさの中の優しさに気が付けなければ、単なるDVみたいなものでしかない。──そして、この環境下ではそのDVを否定したままでは先になんて進められない。ここまでは大丈夫でも、その先に進むのならそのDVに耐えられないモノに先はないからね」

 

 

 軍隊の訓練なんかがわかりやすいだろうか。

 あれは現代人の感性からしてみればブラック以上のブラックだが、そもそも軍人が放り込まれる場所はその訓練よりなおもブラックな世界である。

 そしてその環境では泣き言も甘えも許されず、そんなことを述べた奴から死んでいく──つまりそれへの備えとなる事前の訓練は、例えどれほどキツいモノであろうと『必要なこと』でしかない……みたいな?

 

 今回の試練についても似たようなもの。

 連れてこられなければ必要はなかった、という点においては私の責であり、そこを責められるのは仕方がないものの。

 ここから引き返すには()()()()()()()()()()()より他ない。──つまり、嫌だと言っても進むしかない状況。

 

 そんな環境で否と叫ぶことに、一体なんの意味があるのか。

 一先ず元の平穏な世界に戻るために、この過酷な世界を踏破する意思を見せなければならないのではないか?

 ……大袈裟に言ってしまうと、そういう感じの状況に陥っていたわけである。

 

 そして実は──きらりんはただ一人、この場においてこの環境に適応していたのだった。

 

 

「激流を制するは清水……だにぃ☆」

「つ、()()()()()、だと……!?」

「いや待て!?前に休んだ時には疲れてただろうお主も!?」

「うん、ちょっとねー☆でもでもぉ、そのあと考え方を変えたら楽になったのー☆」

「「…………」」

 

 

 大口をあんぐりと開ける二人に対し、さっきまで疲労を隠せない様子だったはずのきらりんは、至って元気そうに微笑んで見せている。

 

 ……うん、今まで語ったことは決して間違いではない。

 ノルマがあったり、それが付き添いとして他の面々を連れてきたことで増えていたり、そういう部分の考察は間違ってはいない。

 だがしかし、一つだけ間違っていたことがあった。【星の欠片】だろうとそうでなかろうと、ノルマに差はなかった。

 それが増えた理由は、人数が多いからなんていう理由ではなかった、というだけの話。

 

 

「……うん、二人が走るの楽しめばもうちょっと早く終わってたんじゃないかなって……」

「「……嘘だっ!?」」

 

 

 苦しくないトレーニングは既にその人の血肉になっている、と言えばわかりやすいだろうか?

 苦しいトレーニングは更に上へと飛躍するためのもの。つまり試練でありそうして苦しそうにしているだけ追加で試練が増える、みたいな。

 そしてそれは別に悪意ではなく、『とても熱心な方ですね』くらいの善意……というとあれだが、より高みを目指す求道者みたいな認識になっている……という感じだろうか。

 

 あえて悪い言い方をするなら、いつまでも走っている二人がいるので、他のみんなも併せて走らされ続けている……ということになり。

 そう考えてしまうと、二人に責任がないとは言えなくなってしまう……という、なんとも酷いことになるのであった。

 

 ……いやまぁ、システム面が変な噛み合い方した結果だから、一般的に考えると二人は全然悪くないんだけどね?

 途中でなにを思ったか『ナギッ』し始めたきらりんがこういうのに適正があった、ってだけで。

 

 なおその後、二人に『ふりでいいから鍛練たのしーみたいに振る舞ってみて』と言いながら走ってみたところ、数分も経たない内になんだか本当に楽しそうに走り始めた二人がいたこと、およびそのまま『星女神』様の館についたことをお伝えしておきます。

 ……今までの苦労はなんだったんだろうね、って口に出すと宜しくないので思うだけにしておきます。

 

 

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