なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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全体の一割でエタる?これ無理では?

「……アルビオン行きって二巻なんだ!?」

「ほわっ!?せせせせんぱいどういたしましたか!?」

 

 

 脳裏に描いた記憶を紙に書いて確かめながら、気付いてしまった事実に思わず困惑する私と、寝ていたところを起こされて、慌てたように駆け寄ってくるマシュ。

 ……あ、ごめん。起こす気はなかったんだよ?ただほら、さ?

 

 

「……なんとなーく五巻とか、もっと言えば十巻くらいの内容だと勝手に勘違いしてたから、アルビオンに姫様の恋文取りに行くのって二巻の話だったんだなー、ってびっくりしてたというか……」*1

「なるほど、『ゼロの使い魔』二次創作におけるつまづきポイント、というわけですね」

 

 

 ふむふむと頷くマシュに、こちらも小さく頷き返して、改めて今後の行動予定を認めていた紙に視線を向ける。

 ……そもそもの話、一巻の収録内容が濃ゆいのである、『ゼロの使い魔』は。

 

 なにせサイトの召喚に始まり、ルイズの二つ名である『ゼロ』についての解説である『錬金』の失敗、ガンダールヴの異常性の説明にあたるギーシュとの決闘。

 王都であるトリスタニアへの遠出に、武器屋でのデルフリンガーとの邂逅、地球からの遺物である『破壊の杖』とそれを狙うフーケ、そして戦闘終わりのフリッグの舞踏会でのダンス。*2

 

 ……ともすれば、それら一つ一つで話が作れるレベルの要点ばかりなのである。

 そりゃ一巻分にあたる内容を書ききった時点で、筆が止まる……端的に言うと満足してしまう、というのも納得なわけだ。

 それらを越えたとしても、次に待つのはルイズの婚約者であるワルドとのあれこれやら、戦火渦巻くアルビオンへの侵入やらである、休まる時間がない。

 

 それにしても、こうして改めて原作のタイムテーブルを確認してみると、物語上の休めるタイミングまでが(作中経過時間的に)長い、ということに気付く。

 展開が進んで夏休み付近になれば、ある程度は暇が出来てマシになるのだろうけど……。

 そこまで行ってしまうと、今度は本格的に戦争の気配が近付いて来てしまうため、忙しい状況に逆戻りしてしまうわけである。

 

 

「ふぅむ、私達がいつまでここにいるのか?……みたいなところが、気にならなくもないけれども……」

「ええと、予想ではアルビオン行きに相当する行事が終われば、私達も元の世界に戻るのだろう……ということでしたでしょうか?」

 

 

 羊皮紙を筆で小突きながら、天井を見上げてため息を吐く。

 

 ダンブルドア先生とあれこれと話した結果、恐らく原作で言うところのアルビオン行き(一回目)が終われば、私達はこの不思議なハルケギニアより解放されるだろう、という見通しが立っている。

 原作に近しい位置にいる、ルイズなどの人物達がどうなるのかはまだ不明だが、少なくとも私とマシュに関しては、()()が終われば元に戻っておしまい……というのが現状の予想だ。

 まぁ、あくまでも予想なので、実際はアルビオン行きが終わっても元に戻らない、という可能性もあるのだが、それはそれ。

 

 なので、一先ずはアルビオン行きを目標に、日々を過ごしていたわけなのである。

 けどいや……二巻なのか。

 そこまでやって、まだ二巻の内容なのか。

 

 

「本当に、そんな初期も初期に帰っていいのだろうか……?」

 

 

 思わず呟く私に、傍らのマシュは困ったような笑みを浮かべるだけだった──。

 

 

 

 

 

 

 まぁ、こうして部屋の中でうだうだしていても仕方ない。

 とりあえずは、目の前の出来事を一つ一つこなしていこうと思う。……と、言うわけで。

 

 

「直近のイベントは使い魔品評会、だったっけ」

「な、なるほど。マシュ・キリエライト、仮にも円卓の騎士の席を預かるものとして、精一杯頑張ります!」

 

 

 確か次は、自身の召喚した使い魔を学院の皆に披露する会があったはずなので、それについての対応を練るのがいいだろう。

 ……円卓の騎士としてって、なにを頑張るつもりなのだろうこの後輩。盾での演舞でもするの?

 と、ちょっと困惑しつつ、張り切るマシュを伴って寮の外へ。

 

 使い魔との交流を名目として、生徒達がさまざまな生き物達と戯れる姿がそこかしこに見える。

 それらの人の塊のうちの一つに、いつもの三人娘とギーシュ組・それから何故か居るギトー先生を見付けて、とりあえずその集団に近付くことにする私達。

 

 

「いいかね諸君。風が最強とされる理由、それはまさしくスクウェア・スペルが一つ『偏在(ユビキタス)』にこそある。己を複製し、一人で一軍にも勝る戦力を得る秘中の秘。……まぁ、かの【烈風カリン】殿の薫陶を受けたミス・ルイズには、些か聞き飽きた話かも知れないがね」

「いいえ、ミスタ・ギトー。師であるカリンより厳しく躾られてきた我が身ではありますが、風の秘中の秘に手を掛けるほどの練度が得られていたかといえば、それは否というもの。……口惜しい話ですが、この身は未だトライアングルのきざはしに、足の先を掛けたばかりの半端者。先達たるミスタ・ギトーからのご指導は、風をよく知りその先に進むための確かな導となると、私は確信を得ているのですわ」

「……ルイズも大概トリステインの貴族よねぇ」

「同じ風のメイジとして鼻が高い」

「……私には貴方のカッコいい、の基準がわからないわ、タバサ」

 

 

 ……えーと、なんだろこれ。

 ギトー先生が本来どんな先生なのか、私はよく知らないけれども。

 なんというか、陰鬱で卑屈、プライドが高くて生徒からは人気がない……みたいな、そういう感じの人だったはずだ。

 

 それがどうだろう、ここにいる彼はなんだか雰囲気の近いとある(スネイプ)先生と、似ているようでまったく違う感じの空気を纏っている。余裕があるというか、大人っぽいというか、そんな感じだ。

 そしてそれに合わせて話をするルイズもルイズ、というか……そもそもなんなんだ、この大仰すぎる会話は?

 

 

「ふぅむ、複数のお嬢さん方の満足のさせ方、ときたか。そいつはお前さんが頑張る以外の選択肢はないわけだが……そういうことじゃないんだろう?」

「ああ、悔しいことに僕はまだまだ未熟者だ。その辺り、貴方の方が詳しいとお見受けするよ。……あとその、複数の女性方云々は誤解でだね?」

「ははっ、じゃあその期待に応えるとするか!」

「いや、聞いてほしいなそこが一番重要なんだよ!?」

 

 

 で、それとは反対側では、ギーシュ君がサイトに恋愛方面のアドバイスを受けている。

 ……いやまぁ、サイトと言いつつほぼナポレオンな彼なので、そうして教えを請うのはわからないでもないのだけれど……。

 原作では寧ろギーシュ君の方が恋愛関係は上手な感じだった気がするので、どうにも違和感が拭えない。

 

 いや、そもそもさ?

 

 

「……今は使い魔との交流の時間、なのではないのですか?」

「あ、遅かったわねキーア。こっちは見ての通り、ギトー先生に風についての講義を受けていたところよ、幸いにもタバサと私、二人の風のメイジが生徒として居たことだし、ね」

「ミスタ・ギトーは『偏在』を使えるスクウェア・メイジと聞く。その話はとても有意義」

「……と、説き伏せられてしまったのだよ、ミス・フォンティーヌ」

 

 

 周囲の生徒達は、品評会に向けて使い魔とのコミュニケーションを取っているにも関わらず、なんで君らは普通に授業を……ギーシュ君に至ってはそもそも授業でもなんでもない、個人的な恋愛講義を受けているのか?

 そんな困惑から漏れた声に、彼等はしれっと答えてくる。

 ……いやまぁ、ルイズもタバサも、使い魔との交流は進んでる方だとは思うけどもさぁ?

 でもこう、なんというか……ねぇ?

 

 

「でも、キーアと私の交流も進んでいるでしょう?」

「う、マシュの笑みが眩しいです……っ」

 

 

 そんな思いを込めてマシュに視線を向けたのだが、当の彼女はこっちでの役割である、爽やか騎士の笑みでこちらに首肯を返すのみ。

 ……爽やか過ぎてキャラが違うが、これもこの世界ゆえの特異事項、慣れようとは思うものの、たまに眩しくて眼が……っ!

 

 理想の騎士ムーブがぴったり嵌まるのは、それはそれですごいと思うんだけど。

 それを向けられるのが私だと言うのが、なんとも言えない気分を助長するわけなのですよ。

 

 

「そっ、それで、ギーシュさん達は一体なにを?」

(逃げたわ)

(逃げましたね)

(……意気地無し)

 

 

 なので、そういう気分をごまかすために、もう一方の集まりであるギーシュ組に話を振る。

 

 こっちは正確にはギーシュとモンモランシー、ケティとサイトの集まり、かと思っていたのだけど。……あれ、前回は顔を見なかった少女が、一人分多く紛れている。

 

 

「あ、すみません。ご挨拶が遅れました、メイドのシエスタと申します。ギーシュ様やサイト様には、とてもよくして頂いております」

「彼女はここのメイドの一人でね。ちょっと飲み物とかを頼んでいるうちに仲良くなったんだ」

「もう、ギーシュ様ったら。私は貴方の忠実なメイドでございます、もっと粗雑に扱っていただいても構いませんのに」

「いやいや、女性にそんなことはできないよ。ははは……」

 

 

 ……なるほど、見慣れないメイドの少女の方は、この間……というか、今まで一切現れて居なかったメインキャラの一人、メイドのシエスタだったようだ。

 なんか、眼に見えてわかるくらい、ギーシュにご執心っぽいのがちょっとよくわからないのだけれど。……いや、なにがあったし。

 

 

「ギーシュ様には、私が他の貴族様に手込めにされそうになっていたところを、助けて頂いたご恩があるのです。モンモランシー様とケティ様にも、その時に顔を覚えて頂きました」

「いや、すっごい尾ひれがついてるからね?僕そこまで大それたことしてないからね?」

「またまた、ギーシュたら謙遜しちゃって」

「さすがですギーシュ様、驕らず昂らずにいらっしゃるその姿は、私達の誇りです」

(……なるほど、ハーレム主人公ギーシュ……)

 

 

 一を聞けば百を答える勢いで、ギーシュにハートを飛ばしまくる少女達。……なんというか、モテモテですね。

 

 まぁ、ここは貴族社会だし、妾くらいなら普通に許容されるだろう。

 ほんのり勘違い系とかの雰囲気が漂っているギーシュ君だけど、こっちとしては周囲が楽しそうならまぁ、いいんじゃないか?……としか言いようがない。

 

 ……え?なげやり?

 だってねぇ、ギーシュ君がモテモテだからといって、別に私になにか影響があるわけでもないし。

 私までヒロイン候補だったりしたらアレだけど、今のところギーシュ君の物語は別軸のようだし。

 

 そんな感じにちょっと引いた位置から、仲睦まじげなギーシュ君回りの少女達を見る私。

 中心のギーシュ君がたじたじなのは面白いと思います。

 

 

「で、私は基本的に巻き込まれ、みたいな感じよ」

「混ざるならミスタ・ギトーの講義と言っていた」

「ギーシュの方に混じるのもねぇ」

 

 

 馬に蹴られるのはイヤよ、とぼやくキュルケに、確かにと頷く私なのであった。

 

 

 

*1
参考までに、五巻は夏季休暇付近のお話、十巻はハーフエルフのティファニアが出てきたあとくらいのお話。そもそも二次創作のティファニアって最後まで出ないか、逆に最初から出てるかのイメージしかないのだけれどどうだろう?

*2
ここまでやって作中では二週間ほど経過


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