なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・初っぱなからクライマックスです

「いやはや、出発前からトラブル続きでやになるね。……あ、もしかしてもう既に試練は始まっている……?」

「止めなさいよそういう怖いこと言うのは!?」

 

 

 まだ私納得してないんだからねぇ?

 ……と涙目で叫ぶゆかりんを宥めつつ、一度後ろを振り返る。

 今回同行できない面々は私たちの旅立ちを見送るとのことで、こちらの背に心配そうな視線を注いできていた。

 そんな状況で『試練は既に始まっている』とか言ったら余計に心配させるでしょ、と怒るゆかりんである。……うむ、確かに。

 

 

「確かにじゃないのよ確かに、じゃ」

「いででで」

 

 

 反省しなさいよ、とでも言いたげにこちらの耳たぶを引っ張るゆかりんに辟易しつつ、改めて見送り組に向き直る私たち。

 

 

「んじゃまぁ、いってきます。お土産はないのでそのつもりで」

「そんなことはどうでもいいので、無事に戻ってきてくださいね」

「あ、はい」

 

 

 まるで戦地に旅立つ人を見送るかのような暗ーい雰囲気に、思わずジョークを一つ飛ばしてしまったが……あ、はい。BBちゃんしかまともに反応してくれねーでやんの。

 ……散々『月の君』様や『星の死海』の詳細を語って怖がらせたお前が悪い?

 でも説明しなかったら説明しなかったで、あとからあれこれ言われるじゃないですか……。

 

 

「それは当たり前です。せんぱいは色々と秘密主義めいたところがありますので」

「単に黒歴史を開帳したくないだけなんだけどなぁ……」

 

 

 そうぼやきをこぼせば、マシュからこちらを咎めるような言葉が放たれ、周囲もそれに同調するように頷き始めたのだった。

 

 ……【星の欠片】関連の案件って漏れなく私の黒歴史と重なるから、口を開くのが思わず重くなってしまうってだけなんだけどなぁ。

 あとはまぁ、重なるってだけで完全なイコールでもないから、私の中での認識と実際の事象が違った場合を想定して、あんまり明言しないようにしてる……みたいな部分もなくはない。

 それと……()()()()パターンに関しては、()()()()()()()()()()()とされている可能性もなくはない、かな?

 

 とはいえその辺りも確実ではなく、言葉にすることで余計なトラブルを引き込む恐れもあるので心の中で呟くだけに留めておくけど。

 

 話を戻して、黒歴史云々という言葉を聞いた面々は少しだけ気の毒そうな顔をしたあと、「それでも、やっぱり事前に伝えないのはよくない」と口を揃えて言い出したのだった。

 ……やっぱり試練始まってない?私だけ先行体験みたいなあれで。

 

 

 

 

 

 

「それで?私は今回初参加だから、その『星の死海』とやらへの行き方なんてわからないのだけど……どうやって行くの?」

「それに関してなんだけど……キリア(母さん)に頼もうかと」

「ふぅん?」

 

 

 はてさて、万が一にも居残り組が付いてこないように……と、先ほどのゆかりんルームとは別室にやってきた私たち。

 ここから『月の君』様名義の『星の死海』に渡り、彼女との謁見を済ませなければいけないのだけれど……そこでゆかりんが発したのが、先ほどの疑問である。

 

 確かに、特定の場所に向かうことを目的としているにも関わらず、郷の外に出るでもなくさっきの場所からちょっと離れただけ……というのは、ここからどうやって目的地に向かうのかという面も含めて理解ないし想像し辛い……みたいな彼女の主張もわからないでもない。

 

 とはいえ、これに関しては単純な話。

 そもそも『星の死海』とは現実に結び付いた座標を持つものではない。

 ……【星の欠片】の中でも一部の存在だけが持つ心象風景──精神世界であり、そこにたどり着くために必要なのはどちらかといえばその当人との繋がりの方なのである。

 

 

「繋がり?」

「物理的なものじゃなくて精神的なもの……と言っていいのかは謎だけど、まぁとにかく繋がりを辿って行くってのは間違ってないよ」

 

 

 微妙に言い淀んだ私に、ゆかりんが不思議そうな顔をしているが……この辺りは【星の欠片】ってなんじゃらほい?……ってことを思い出せばなんとなく理解できるんじゃないかなーと。

 ……そう、数多のモノ達より小さなモノであるそれらは、その性質ゆえに()()()()()()()モノでもある。

 言い換えると、()()()()()()()()()()()()とも言えてしまうのだ。極論、『有る』モノにならその全てに含まれているわけなのだし。*1

 

 ただ、だからと言って好き勝手に『星の死海』に向かえるか?……と言われるとそれは別の話。

 何度か説明した通り、現実というテスクチャが強い環境において、原則【星の欠片】は表に出てくることはない。

 それはつまり、通常の世界において【星の欠片】との繋がりというものも存在しない、ということでもある。

 

 微小世界という『観測ができないので定まらない世界』を由来にしている以上、それを無いと断言することはできないが、同時にあると確信することもできない……。

 それゆえ、通常時においては現実という法則が優先され、『無いとした方が都合がよい』みたいな感じで処理されてしまうわけなのだ。

 

 なので、その状態から【星の欠片】にアクセスしようとする場合、なにかしらのきっかけとなるものが必要となる。

 

 

「きっかけ、ねぇ?」

「これに関しては私もそうだからね。この名前・この姿の存在は【星の欠片】を扱える、という設定を『逆憑依』──そういうキャラのなりきりをしていた、ってことで補強してるわけだから」

「……なるほど。じゃあキリアさん達の場合は?」

「彼女達が生じた時の話はまた別として……少なくともこの世界に彼ら彼女らが現れることができるようになったのは、私という先遣隊が現れたからってのは間違いないと思うよ」

 

 

 それが私の場合は『キーアというキャラのなりきりをしていた』という部分と、それが『逆憑依』の種になったという部分。

 ……『無いと証明できない』ものを『あるかもしれない』ものとしての解釈に少し押し込めた、とでもいうか。

 ほぼ確実に零だったものをもしかしたら零じゃないかも?……という認識に変えたというか。

 ともかく、目覚めるはずの無い摂理を目覚めさせるきっかけとなったのは間違いあるまい。

 

 そしてその仮定が更なる火種となり、他の【星の欠片】の到来を許容する空気を作り上げた……と。

 そういう意味で言うと超絶戦犯な私なのだが、その辺りを口にするとほぼ確実にマシュとかに泣かれるので頭の中だけに留めておく私である。

 

 ……ともかく、【星の欠片】自体の顕現にも結構面倒なやり取りが含まれているわけなのだから、更にそこから一歩進んだ場所──無いもの(星の欠片)の心の中に飛び込む、ともなれば難易度が激上がりすることは容易に想像できると思われる。

 

 

「まぁ、確かに。虚数よりも実体の無いものに飛び込め、って言ってるようなものなんでしょ、それ?」

「そうだね。【星の欠片】的な見方をすると、虚数はかなり()()()モノになるから」

 

 

 まぁ、【星の欠片】解釈としての虚数と現実における虚数は微妙に別物であり、【星の欠片】側の虚数は普通に最弱(さいきょう)方面の一角になるわけだが。

 ……と、キリアの方を見ながら半笑いを浮かべる私である。

 

 

「……なぁに?言いたいことがあるのなら聞くけど?」

「いえ別に。お母様は凄いなーと思っただけでしてよ?」

「その似非お嬢様言葉は止めた方がいいと思うけど?」

 

 

 ははは、と笑い合いつつ話を戻す。(なんか怖がってる周囲はスルー)

 今回の目的は『月の君』様の居城・心の中の世界である『星の死海』への渡航ということになるわけだが。

 予め招かれているとはいえ、それ自体が繋がりにはならない。……っていうか、その程度で繋がり扱いされるなら『星女神』様が彼女を見失うわけがないというか。

 

 

「あー……(つい)というかパートナーというか……ともかく、そういう深い関係なのよね、その二人って」

「そ。そんな深い関係の二人より、たまたまお家に招かれた赤の他人の方が繋がりが強い……なんてことはあり得ないというかあり得ちゃいけないよね?」

(無言で頷く一同)

 

 

 そう、本来の『月の君』様と『星女神』様は二人で一つ。

 互いが欠けては立ち行かぬ、比翼連理の存在。

 ……ならば、そんな切っても切り離せぬような間柄の二人より、赤の他人の方が繋がりが強い……なんてことはあり得ないだろう。

 いやまぁ、この論法だと『じゃあ誰もたどり着けなくね?』ってなるので()はある、ということになるわけだけども。

 ……と、その『穴』に当たる人物(キリア)に視線を向ける私である。

 

 

「……違うわよ、『星女神』様も複雑そうな顔をしてらっしゃったけど違うわよ。どっちかと言うと『星女神』様に探してくるように頼まれたうえ、『月の君』様からも『じゃあ返答を頼むよ』って感じに体のいいメッセンジャー(伝書鳩)扱いされてるだけってのが真相だからね」

「はーい」

 

 

 ……うーん、死にそうな顔をしている。

 あれだ、喧嘩ではないんだけどちょっと険悪な空気になった恋人達の間に挟まれてる友人……みたいな感じというか。

 糸電話における糸相当なのが今のキリアの立ち位置であり、ゆえにそこを指して嫉妬とかされても困る……みたいな。

 

 まぁともかく、地味に胃痛に悩まされるような状態にあるのが今の彼女、ということになるわけで。

 ……なんというかこう、御愁傷様です。

 

 そんなわけで、隠れた恋人が直接ではなく彼女を介して自分に連絡して来ている……みたいな状態になっている『星女神』様と、そうして微妙な嫉妬オーラを浴びてたじたじになっているキリア。

 それから、そんな二人を眺めて恐らくけらけら笑ってる『月の君』様……という、踏み込みたくねーって感じの場所が私たちの戦場です()

 

 

「ふふ、怖いか?私はとても怖い

ふふっ、私も怖い

 

 

 自分のことで手一杯なのに、痴話喧嘩まで挟むの止めてくんねーかなー。

 なんてことを思う私たち一同なのでした。

 

 

*1
概念的な『有る』なので、極論『なにもない』も『なにもないという状態がある』と判定される。それゆえ、『そもそもそこに至るすべての仮定/過程が認知されていない』モノでない限り、【星の欠片】が含まれていないものはない、ということになる

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