なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
『あいたたた……いや酷いじゃないか。私ってば、まだ姿を見せたばかりのはずなんだけどねぇ?』
「夢魔を見たら爆☆殺するのは、魔法使いの礼儀だと聞きました」
『なんだいその物騒な礼儀!?僕だけを殺す
「かもしれませんね」
抗議の声を適当に受け流しつつ、改めて現れた生き物に視線を向ける。
妖精サイズ……というか、実際に妖精の羽根が生えた姿で姫様のフードから出てきたのは夢魔……もとい、花の魔術師マーリン。
無論、その姿は『fgo』でのそれ──男性体のマーリンの姿であった。……女性体の方だったら、迷わず消し飛ばすつもりだったので、実はその辺り結構穏便な対応だったりするのだった。*2
え?出会い頭に爆発させてる時点で、穏便もなにもないだろうって?……いや、だってねぇ?
(その節はどうも、って言っとけばいいのかな?)
(おおっと黙秘させて貰うよ。ここはまだ、
周囲には伝えぬように、こっそりと相手に念を飛ばせば。
帰ってくるのは胡散臭い、けれどこちらの意図をしっかりと認識した台詞。
……やっぱり、時々こっちに干渉してきていたマーリンと、ここにいる彼は同一……もしくは知識を共有している存在らしい。
わざわざ姫様を誘導して自身の姿を私に見せたのも、それをこちらに確信させるためのものだと思ってまず間違いないだろう。
まぁ、なにをしたくてそんなことをしているのか、まではちょっとわからないのだが。
ともあれ、現状で一番状況を把握しているだろう人物の登場である。聞くべきことはさくさく聞いていかなければ。
「……姫様への助言者は貴方、ということで宜しいのですね?」
『ああ、そう取って貰って構わないよ。──私は花の妖精マーリン。彼女の使い魔であり、世界の幸福を願うしがない妖精さ』
「……たぶん今、世の中の花の妖精全てを敵に回しましたね貴方、その発言で」
『はっはっはっ。……マシュ君。彼女、私に対して厳しすぎやしないかい?なにかしたかな私?』
「え?……え、ええと。その、マーリンさんが……その、簡単に信用できるようなお方ではないから、ではないでしょうか?」
『わぁお、マシュ君までわりと冷たい!これは世間の厳しさを、改めて実感しちゃうなぁ!』
「もう、マーリン。今日はそんなお喋りのために、ここに来たわけではないのでしょう?」
『おおっと、ごめんよ
……今思いっきり
いやまぁ、確かに見た目はリリィだし、そう間違いでもないのだろうけども。
もうちょっと体面を取り繕うとか、そういうのはないのだろうか?……取り繕ってたらマーリンらしくない?そりゃそうだ。*3
ともあれ、椅子に座り直して会話の体勢を整える向こうと、それに合わせるように体面に座る私(と、背後に控えるマシュ)。
……なんか、一国の姫様への対応として不遜じゃないこの構図?実はこのあと手打ちにされたりしない?大丈夫?……と、ちょっと心配になる私。
「……?……ああ、大丈夫ですよキーア。この場は非公式なもの、不敬がどうのとか、難しいことは一切ありませんから」
「あ、はい。それはどうもありがとうございます」
そんな不安が顔に出ていたのか、姫様に苦笑と共に声を掛けられる。
……今更なにを不安がるのか、と言う話ではあるのだが。
よくよく考えたら、姫様の使い魔に思いっきり無礼を働いているのが、今の私のやったことである。
目の前に現れたのがマーリンだったので、つい反射的に手が出てしまったけれど、そもそも彼が彼女の使い魔であるというのなら、それはつまり王家への敵対心有り……ということにも取られかねないわけで。
……うん、そりゃまぁ後悔も浮かんでくるというか、ね?
それもこれもマーリンが突然出てくるのが悪い、仮に打ち首とかになったら死ぬ気で奴も道連れにする、と密かに決心しつつ、姿勢を正して話の続きを待つ。
『……なんだかとてつもなく嫌な予感がしたけど、それはまた後で。さて、ミス・フォンティーヌが一番気になるのは、私達が何故ここに来たのか、ということだろう』
「はい、明日の品評会まで待つことをせず、わざわざお忍びの体裁を取ってまで、私の元にお見えになった理由。それが、今一つ理解できないのです」
マーリンからの問い掛けに、小さく頷く私。
品評会の終わりに、ちょっと時間を作ればそれで終わるはずの話でしかない、王女のルイズへの訪問。
……姫様がリリィと化してたり、相談する相手が私に移動していたりと、原作との差異は幾つかあるものの。
本質的に姫様が『アンリエッタ』であることが変わらないのであれば、それらの差異は一応無視できるものではある。
……あるがゆえに、理由が見えてこない。
本来の
ゲルマニアの皇帝との政略結婚を、ご破談にしかねない爆弾。それの処理を含む、複雑な?乙女心の末の訪問が、原作での彼女の動機なのである。
……いやまぁ、そのせいで姫様が地味にヘイトを受けている気がするので、あまり笑い事でもないのだけれど。
ともあれ、二巻の主要イベントであるアルビオン行きは、後のハルケギニアの戦乱の導火線となりうる、わりと厄介な話……の、はずなのだ。
ところが、姫様は『アルビオンに行く必要はない』と言う。
そこから察するに、恋文だのなんだのというものはないのだろう。……使い魔がマーリンな辺り、この姫様が恋とか知らない可能性もあるのでさもありなん。
が、そうなると、今度は彼女がここにいる意味がわからなくなる。
……ここに来る理由であるはずの恋文が存在しないというのなら、彼女がわざわざここにくる必要性がないのだ。
「ああ、そこまで難しい話でもないんですよ?」
「ええっと、どういうことでしょうか?」
と、そこで思考が中断される。姫様からの声掛けが挟まったからだ。……口には出していないはずなのに、やけにタイミングがいいのは──恐らく自称花の妖精の入れ知恵、だろうか?
ともあれ、理由を話してくれるというのなら願ったり叶ったりである。あれこれ難しく考えるのは、今日みたいに色々あったあとだと辛い。
そんな内心は表に出さず、姫様の言葉に耳を傾けて、
「貴方には、私と一緒にガリアまで行って頂きたいのです」
「……はい?」
出てきた言葉に、思わず呆けた声を上げるのだった。
「お姫様と一緒に小旅行、なんてちょっとドキドキしちゃうわね……」
「私も姫。ホントはとても偉い」
「……貴方、自分で人形だって言ってなかった?」
「騎士人形・タバサは世を忍ぶ仮の姿。その実態はガリアの姫君・シャルロット・エレーヌ・オルレアン。世に名高き『ガリアの双子王』の片割れ、賢弟シャルルの愛娘。いえい」
「私、時々タバサのことがよくわからなくなるわ……」
わちゃわちゃと会話する三人娘達を眺めつつ、考え事をする私。
──以前、風の噂に聞いた『ガリアの双子王』。*4
その時は適当に聞き流していたのだけれど、よくよく考えたらあの二人って双子だったっけ?ガリアって双子は不吉、みたいな言い伝えがなかったっけ?……ということに後から気付き、大いに慌てた次第である。『ジョゼフさんとシャルルさん、仲が良いのかな』くらいの、ふわっとしたことくらいしか考えていなかったあの時の私を殴ってやりたい……。
どう考えてもおかしいやんけ!双子になってるとか、根幹部分から変わっとるわ!
いやあの二人の関係が変わってても、大隆起そのものは起こるはずだから、問題の何もかもが解決されている、ってわけではないのだろうけども!
でも多分レコンキスタは存在しないよね、そりゃ姫様が恋文云々言い出すはずもないよね!
みたいなことを、姫様からの言葉によって気付いた私は、暫く部屋の中で転げ回っていたのだった。それが、昨日の夜の話。
一夜明けた次の日の朝、私とマシュ、それから三人娘とその使い魔達は、日の登りきらぬうちから学院の籠着き場で竜籠を待っている最中である。
行き先は無論、姫様の言っていた通りにガリア、しかもその王都リュティスの王城グラン・トロワ。……まさかの双子王直々のご指名、だったらしく。
「そういうことで、実際は私の方が付き添い、みたいなものなのです」
と朗らかに笑う姫君に、呆気に取られるはめになったのだった。
……わざわざ王族を通しての面会の要請なので、まさか断るわけにもいかず。
お友達も連れていっていいみたいですよ、という姫様の言葉に、外で盗み聞きしていたキュルケが部屋に突撃してきて「貴方を一人で行かせたら絶対無茶苦茶するわ!」と言われ。
彼女と一緒に居たタバサが「里帰り。ついてく」と参加を表明し、最後に逃げようとしていたルイズが「勿論ルイズさんも手伝ってくださいますよね?」という姫様の言葉に退路を断たれ、「……はぁい」と頷いた結果、今の状況に陥っている。
なお、この場に居ないギーシュ君だが、そもそも聞き耳を立てていなかった上に、あとで一緒に来るかと聞いたところ「滅相もない、僕には荷が重い話だ」とすげなく断られてしまった。
一応アルビオン行きの代替イベントのはずなのに、彼が来ないというのはちょっと不思議な感じである。まぁ、代わりに姫様が同行者となっているのだが。
そんなわけで、今回は優雅な小旅行、みたいな感じになるようで。
それなりの荷物が入った鞄を携え、駅とでも言うべき場所で
……傍らのマシュが最近板についてきた騎士ムーブのままなのが、ちょっと不満ではあるものの。
概ね気を抜いていられる状況、というものがこっちに来てからはわりと久しぶりなのもあり、実はちょっと楽しくなってきている私である。……どうせ向こうに着いたらあれこれ忙しくなるのだろうから、今のうちに楽しんどこうと、ちょっと自棄になっているとも言う。
いやね、どうにも向こうでは、燦然たるメンバーが揃うことが決まっているらしくてね?
内心でぼやきながら、姫様から渡された先方からの手紙……それに付随していた、参加者名簿に改めて視線を巡らせる。
……聖エイジス32世だとか、ビダーシャルだとか。
名前を聞いただけで頭痛が酷くなるような、そんな豪華メンバー()が名を連ねているのを確認して、私は深々とため息を吐き出すのでした。