なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……わたしはからすです」
「なにがどうなってるのこれ……?」
「魂の同一性の部分に踏み込んだ結果、自己の証明があやふやになった……ということだとは思うが、それが何故こうなるのかは門外漢なわしらにはわからんのぅ……」
はてさて、『励起の柱』を踏破した私とオルタだが。
……うん、暫くの間の記憶がないんだよね、マジで。
どうやらいち早く復帰したのは私の方だが、まだ心ここにあらずな感じのオルタはというと、何故か鳥みたいなポーズをして虚ろな目でなにごとかをぼやいている……という、色々と正気を疑う状態に陥っていたのだった。
ついでに言うと、他のみんなの発言によればさっきまでの私も似たようなものだったのだとか。
「具体的にはワニだったわね。『わたしはわにです』ってぼやきながらゴロゴロ転がってたわ」
「絵面はわりと笑えるけど、それ多分実態の上では全然笑えないやつよね?」
ゆかりんの説明的に、その時の私も今のオルタのように舌っ足らずな言葉を溢しながら転がっていたのだろうが……それがワニの真似、もとい自身をワニだと思っての行動だったとすれば、途端に笑えない話となる。
……いやだって、ねぇ?ワニが横方向に転がるっていうと、あからさまに
「……そう考えると物騒ね。というかもしかして、今のオルタちゃんも絵面はあれだけど実態は物騒とかそういう……?」
「いや、これに関しては多分なんにもないよ。本当にカラスだと自分を勘違いしてるだけ」
「な、なぁんだ。心配して損し……いややっぱそれはそれでおかしいわね???」
「まぁ……はい」
データ的にいうと、ヘッダ*2の部分がぶっ壊れたので他のものに誤認されてるような感じというか?
……一般的に個人を証明するものとしては最高峰となるのが魂であり、それの同一性に疑問が発生するとなれば意味不明な状態になるのは寧ろ当たり前のこと。
その辺りを考慮すると、恐らくこれは『励起』の後遺症ということになるのだろう。
「後遺症、ねぇ……?」
「たまに『励起』が全く苦にならないって人もいるけど……基本的にはなにかしら交渉なり不具合が出たりするのが普通の話。……その辺りのリカバリーができるかどうか、みたいなところも見られていると思った方がいいでしょうね」
「へー……」
魂に関する干渉方法を学ぶ、みたいな一面もあるのが『励起』なので、必然的にそこに不良が発生した時にそれを解消できるようになっておくべき……みたいは部分もあるというか?
わかりやすいところだと……自分という存在に別の存在が転生して来た結果、それがいなくなったあとも魂のラベルがその人物のままになってしまった……みたいたパターンの解消、とか?
……うん、わかる人にはわかると思うが、『月姫』のシエル先輩に起こったあれそれを例えに使った形である。
「シエルというと……カレー好きのシスター、だったっけ?」
「ある意味型月という作品の存亡に近い場所にいる人だね」
「存亡?」
ほら、『そんな死徒いねぇよ』とか。*3
……メタい話はともかく、作中におけるシエル先輩はとある存在に関わったことで、間接的に不死の身体を手に入れることとなったのだが。
その理由というのが『自分という存在の魂のラベルが別の存在のモノに書き変わったから』、ということになるのだ。
いやまぁ、正確には魂という個を識別する絶対的なシステムにエラーを起こしたため、世界の側が『おかしいでしょ』と干渉してくるようになった……みたいな感じなのだけれども。
「同じ魂の
「その説明だと双方に影響が出そうだから訂正すると、正確にはシエル先輩の方はコピー、ないし類似品みたいなものであって本体相当の方が無事だからこっちも無事、みたいな影響かな」
なので、作中において本体側に分類される存在が討ち滅ぼされた時には、彼女もその不死性を失うことになったわけだが。
……まぁ、その辺りは話し始めると長いのでこの程度にしておくとして。
例えば、『励起』を正しく習得した【星の欠片】であるならば、本体側の討滅を待たずとも、シエル先輩の魂のラベルを元に戻すことが可能なわけである。
まぁ、魂に触れそれをどうにかできるようになるというものなのだから、寧ろできない方がおかしいのだが。
「同じように真人の無為転変擬きとか、はたまた烙印みたいに魂の内から湧く力を行使するだとか……そういう、魂に関わるあれこれを息をするように行えるようになってれば、『励起』の試練を終えたと胸を張ってもいい……みたいなところがあるんだよね」
「……なんというか、そもそもの時点で大概よね【星の欠片】って」
こちらの説明を聞き、はぁとため息を吐くゆかりん。
確かに、説明だけ聞いていると『なんだこのチート!?』となる感じだが……お忘れではないだろうか、【星の欠片】って極めるの凄まじく難しいのだ、ということを。
「人の生涯ではなく
「その罰ゲームをやり通した結果得られるもの、ってこと?」
「遊び人から賢者に転職……みたいなののもっとエグいバージョンになるのかな?」*4
「……なんだかスケールが一気にダウンしたわね」
三つの要素を捨てる、というややこしい話をせずとも、基本的に【星の欠片】は小さいもの──その小ささを極めた結果として、あらゆるものに自身を見いだすまでに至ったもの。
裏を返すと、
価値がないものをそのままにせず、どうにかして価値を見出だそうとした結果……とも言えるかもしれないが、どっちにしろその道が険しく・かつ苦しくて辛いものであることは間違いない。
なんの因果か、私は先に
そういう意味では恵まれているとも言えるが、同時に『なんだこの罰ゲームみたいな流れ?!』となるのも仕方ないというか。
……まぁ、その辺りのややこしさを踏まえ、ある程度は手加減されているとも感じているわけだけども、それでもなお『やだなー』という気分は抜けないのであった。
「わがまま……と切って捨てるのは簡単だけど」
「それなら代わってくれ、と言われても文句は言えないよってね。……別に私、なりたくてこうなったわけでもないしね」
「…………」
……うん、思いの外暗い話になってしまったので、いい加減この話題は打ちきりである。
オルタが復帰するまでの時間繋ぎ程度の気持ちで話題に出したはいいが、結局話が終わってもまだ戻ってない辺りなんとも言えない感じだが……いや待て、これあれだな?
「……ちぇすとっ」
「あいたっ!?わ、私はなにを?さっきまでの仲間に囲まれながらクルミを突っついてたはずじゃ?」
「いや、どういう幻覚よそれ……」
確かに私は自力で戻ったが、それをオルタにまで強要するのは違うのでは?……と遅蒔きに気付いた私は、とことことオルタの背後に近付いてチョップ。
脳天への衝撃によって気を取り直した彼女は、暫く前後不覚で周囲を見渡していたが……こちらに視線を向けたのち、ふにゃりと相貌を崩して泣き始めたのだった。
いわく、『死ぬかと思った』。
……うん、それについてはそりゃそうでしょ、としか言えない私である。そういうもんだしね、『励起の柱』って。
なお、周囲からの視線がなんだか厳しい気がするのは──多分、今の今まで解決策に気付かなかった私を責めているから、だろう。
いや、仕方ないじゃんさっきも言ったけど私『できた』って因果ありきでここにいるから、そうじゃない人との感覚の差異がどんくらいかわからないんだもの。
……『励起』を終えた人間がさっさとそれを使って起こしてやればいい、という文字にすればそれだけのことに気付くのにも、色々整理してからじゃないと難しかったんだもの。
「……で?」
「反省代わりに暫く正座してます……」
そんな言い訳は全て封殺され、私は大人しく反省することになったのでしたとさ。
微妙に幼児退行してるオルタに膝枕をしつつ。……これ、次までに戻ってるかなぁ……?