なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「これ以上詳細に語ると本当に危ないから、あくまできらりんの【俯視】はファンシーなんだ、っていう体で進めるけど……これはつまり、本来全くファンシーじゃないものに関してもファンシーに視える、という意味合いでもあるんだよね」
「本来ファンシーじゃないものを……?」
いまいち危機感が見られないが、とはいえあんまり危機感を持たれても、そこから同化する可能性がある以上は子細に説明しすぎるのもよくない……。
ということで、とりあえずその辺りの説明は置いておき、【俯視】そのものの利便性について触れることに。
視え方を増やすという前説明の通り、【俯視】は物の視え方が増える技能であるが、これだけだとそれよる利便性──付加される価値効果がまったくわからない。
どころか、本題部分を語る前にデメリットについてばかり触れていたため、寧ろ覚えたくないモノのように思えてくる始末。
では何故、先にデメリットから語ったのか。
それは、デメリットを知っていたとしても覚えたくなるような、そんな利点がこの技能に隠されているからに他ならない。
そのうちの一つというのが、先ほども少し触れていた『本来触れられないものに触れられるようになる』という部分。
……とはいえ言葉の上だとわかり辛いので、ここは実践である。
「ってわけできらりん」
「にょわ?なにかなキーアちゃん?」
「さっきの猫がいいかな。ちょっと連れてきて貰える?」
「んー?よくわかんないけど……いいよ☆」
そういうわけで、きらりんに連れてきて貰ったのは先ほど彼女の視界において焚き火と同一視されていた物体、もとい猫。
……実際に近くで見たことにより、先ほどの焚き火が意味するモノをなんとなく察した者もいるみたいだが、そこを突き詰め過ぎるとそれこそ同化するのでほどほどに、と注意だけして猫に視線を戻す。
──その猫は、特に【顕象】でも『逆憑依』でもない、普通の野良猫であった。
……なんで『星の死海』の中に野良猫が?と疑問に思うものもいるかもしれないが、これに関しては『星女神』様と同じく『月の君』様も【偽界包括】を使うから、というのが、答えとなる。
言ってしまえば、今ここにいるのは本当にただの野良猫でしかない……ということだ。
そして、特別な背景を持たない野良猫である以上、
「問題?なにか問題があるのかい?」
「まぁ、単純に見ただけじゃわかんないようなもの、だけどね。……で、きらりんはこの子の問題、わかる?」
「んー……」
私の予測はともかく、他の面々はこの猫が抱える問題……というものに心当たりがない様子。
……いや、正確にはなんとなくこうじゃないか?……という懸念はあるものの、あくまで懸念。
言い換えると『絶対にそうだ』と確証が取れるものではなく、それゆえにあてずっぽうにしかならないということになる。
それこそ動物医でもいれば、なんとなくでもその問題とやらの足掛かりを掴むことはできるかもしれないが……生憎この面々の中に医者はいない。
……つまり、存外に大人しいこの猫は、『存外に大人しい猫』としか認識できないわけだ。
それを踏まえた上で、きらりんに改めて確認を取る。
単純に見るのではなく【俯視】を使って視るように、と言外に示しつつ。
その言葉を受け、きらりんが私の抱えた猫をしげしげと眺め初めておよそ一分後。
ある一点に視線を向けた彼女は、一瞬「
「……えっとぉ、もしかしてこれ、かなぁ?」
「なるほど。じゃあさらにもう一つ。
「……やってみゆ」
「えっ、ちょっ!?」
その視線に頷いて、私は更なる指示を与える。
それを受けたきらりんは暫し躊躇ったが、意を決したようにきっ、と猫に視線を向け直し。
私の手の内から猫を受け取った彼女は、目を凝らしながら自身の右手を
隣から漏れた驚愕と衝撃交じりのゆかりんの言葉を聞き流しつつ、きらりんはゆっくりと手を進めていく。
最初はおっかなびっくり──猫を傷付けないように慎重に進めていたきらりんだが、途中でなにかに気付いたような顔をしたあとは、最早なにを気にするでもなく手を猫の体内に沈めていった。
──ここまで来れば、周囲もなにかがおかしいことに気が付いていく。
そう、沈み込んでいるきらりんの手の長さと、猫の体の大きさが全く釣り合ってないのである。
本来なら貫通して反対側に出ているはずのそれが、肘を通り越して二の腕に至るまでが沈み込んでもなお見えてこない……というように。
そして、ずぶずぶと右腕を沈めていたきらりんは、ようやく目的のモノにたどり着いたようでその顔を輝かせ、ずるりという音がしそうな勢いでそれを引き抜いた。
──引き抜いた右手には、なにやらファンシーな謎の物体が一つ。
それがなんなのかを周囲が認識する前に、きらりんはそれを右手の握力で粉砕。
それと同時、先ほどまで大人しかった彼女の腕の中の猫は、なにかに気付いたように左右に首を振ると、自身を捕まえている人間に対して迷惑そうに『にゃあ』と鳴いたのだった。
「んふふふー。いい食べっぷりだにぃー☆」
「確かに、さっきまでの様子が嘘のようじゃのぅ」
私が用意したキャットフードを前に、件の猫はまるで今までなにも食べてなかったのだ、と言わんばかりの様子で餌を口に運び続けている。*1
そんな猫の姿をしゃがんで見ている二人は、元気そうなその動きに思わず頬を緩めていたが……。
その輪に入っていない内の一人、ゆかりんは不気味なモノを見るような目でその様子を窺っていたのだった。
「……ねぇキーアちゃん」
「なぁに?」
「……【
「あー、
「……な、なるほど」
そのまま、ゆかりんがこちらに疑問を投げ掛けてくるが……あーうん、中途半端に知識があるから勘違いしたみたいだ。
なのでその勘違いを正しつつ、さっききらりんがなにをしたのか、ということを間接的に解説する。
それを受けたゆかりんはというと、勘違いで恐れを抱いていたことに恥じるように縮こまっていたのだった。
「勝手にそっちだけで納得されても困るんだけど?」
「おおっと五条さん。でも貴方ならなんとなくどういうことだったのか、ってのはわかるんじゃない?」
「あー、まぁなんとなくは。……それこそ、最初の方に例えに出されてたのが正解に近い、ってことくらいは、ね?」
そんな私たちのやり取りを見て、他の面々も近付いてくる。
お腹いっぱいご飯を食べて満足したのか、きらりんの腕の中にすっぽりおさまっている猫の姿を見つつ、やっぱり【俯視】も大概だよなぁ、としみじみ。
……それでは種明かし。
先ほどきらりんがやったことは、【俯視】によって視えたモノへの干渉。
「治療……治療か。あれを治療というのは、ちょっと躊躇われるけど……」
「そう?最近の世の中──特に異世界転生、ステータス表示について触れられるようになった今なら、なんとなく理解できるような気がするけど」
自分の体の中を知ることは難しい、という話を聞いたことはないだろうか?
特に、沈黙の臓器と呼ばれる肝臓の状態。
人間が生きる上でともすれば心臓より重要かもしれないにも関わらず、そこに発生した問題が自覚症状として現れることはほとんどなく、仮に現れても最早手の施しようのない末期症状であることが大半……という、人になにも知らせてくれない臓器。*4
もし仮に、この臓器の病気の兆候を早期に発見できたなら、人の死亡確率は格段に下がるだろう。
だが、それをするには微かな前兆を掴むか、もしくは直接臓器の状態を見るしかない。
将来医療用ナノマシンの実用が現実化すればなんとかなるかもしれないが……それまでは勘や些細な兆候を見抜くしかない。
そんな沈黙の臓器も、もし『ステータス』という能力が現実にあれば、あっさりとその問題を突き止めることができるだろう。
なにせ『ステータス』には全てが映る。自身のスペックだけではなく、一体なにを原因としてダメージを受けているのか……といった、本来自身では気付くことのできない部分まで。
「そう、【俯視】の効果の一つは、まさにこの『ステータス』と同じ。本来なら見えるはずのないものを視えるようにする、特殊な視覚。隠されたものを暴き正すための能力、ってわけだね」
それこそが、【俯視】の持つ能力の一つ。
物理的な視覚ではなく魂由来の視覚であるがために、本来なら遮られてしまうものを透かし見ることができる、というものなのであった。