なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……いや、これヤバいわ。呪術の核心に触れた時並に興奮してきたかも」
「まぁ、元々視る能力を持ってる人は、余計にそうなりやすいんだよね。今まで視てきたものより、更に一段階以上深い部分を視れるようになった……とも言えるわけだから」
ほんのり興奮している様子の五条さんに、思わず苦笑いを返してしまう私である。
……【俯視】によって増える視界というのは、通常の視界系技能のそれとは方向性が違う。
要するに【星の欠片】としての性質──本来認識できない極小の世界を根拠とするモノであるため、大抵の場合全く違うその視界に魅せられてしまう可能性が非常に高いのだ。
遥か高みから見下ろすのではなく、地の底から天を見上げるような感覚……されどそれは自身を惨めにするものではなく、周囲にあるありとあらゆるものが輝いて見えるような、そんな感じの視界。
……世界って素晴らしい、とか素で叫びそうになるといえば、その
とはいえ、その感覚に酔いすぎるのは宜しくない。
それは【星の欠片】が全般的に持つ感覚──自身を薪にして世界をもっと素晴らしくしよう、という行き過ぎた奉仕精神を刺激するもの。
であるので、適当なタイミングで後頭部を小突いて正気を取り戻させる私である。
「……いやこっわ。これこっわ」
「直接【星の欠片】になった時に比べれば遥かに軽いから。あと、一度認識すればそれ以降は単なる増えた視野として扱えるから、遠慮なく使い潰しちゃって」
「……わーお」
それをその視界も望んでるし……と声を掛ければ、五条さんは微妙に引いたような笑みを浮かべていたのだった。
……ともあれ、全員に【俯視】を教えることに成功した以上、やるべきことは一つである。
「よーし、そろそろ行くか……『隆起の柱』」
「あ、そういえばそのための事前準備だったんだっけ」
「……話の腰を折るの止めない?」
ようやっと話の終わりが見えてきたのに、それを遅延させるようなこと言うの止めない……?
ぽん、と手を打ちながら元々の目的を今思い出したような声をあげるゆかりんに、思わず脱力する私であった。
「さてはて、さっき(※六話以上前)にも言ったように、『隆起の柱』は精神に関するモノ。……それより前の『想起の柱』が肉体を、『励起の柱』が魂についての試練を下すものであるように、『隆起の柱』は精神に関しての試練を下すものってことになるわけだけど……」
はてさて、気を取り直して対『隆起の柱』についてだけど。
この試練が試す──もとい攻撃してくるのは精神について。
本来、通常の世界観においては精神より魂の方が位階が高い……ということもあり、いまいち脅威度の分かりにくい試練だと思う。
とはいえそれも、いわゆる『ISHI』の力*1とかの話をすれば、なんとなく危険性も見えてくるというもの。
「意思の力?」
「『ISHI』ね、ローマ字表記の方*2。カルナさんだとか光の奴隷達の『まだだ』とか、そういう『精神によって物理法則を無視し始める』類いのやつ」
「あー、ああいう……」
原則的に魂の方が格が上……のはずなのだが、その辺りの道理を蹴っ飛ばすような存在がたまに現れることも事実。
それらの実例が、いわゆる『ISHI』の力を持つもの達。
彼らはその強靭な意思力により、今ある世界の理をねじ曲げるに至った異常者である。
──そして、『隆起の柱』はそういう『ISHI』こそ打ち砕くもの、とも言えるだろう。
「と、言うと?」
「精神をなによりも尊きものとして置く【星の欠片】において、『
言うなれば、擦りすぎて飽きられた展開とでもいうか。
いやまぁ、【星の欠片】的には水戸黄門とかのようなお約束、何度見ても嬉しい展開なのだけれど……それが他者にとっても同一かと言われれば別の話。
つまりなにが言いたいかと言うと──『隆起の柱』の試練においては、精神力の強さは全て平坦化されるということだ。
「平坦化……?」
「個人の力として認められない、ともいえるかも。貴方が『
言うなれば、突出することがなくなる……ということになるか。
精神がもたらす他者との違いすら平坦に均し、ありとあらゆる違いを均一のモノに落とす。
……その中ですら輝くものを見せよ、という主旨のモノとなるわけだが、その実それを果たせるものはほぼいない。
輝こうとすれば全てが輝く。それは言うなれば、己の目指す最果てが常に隣にあるようなもの。
願わずとも叶い、願えば叶う最高の世界とでも言うべきか。
……逃れることの
それが、この試練を表す一番の言葉ということになるのだろう。
「良い意味での『無限月読』みたいな感じ?夢物語としてではなく、実際に周囲が自身の理想になっていく感覚というか。【星の欠片】の技能を自分本意に使えば余裕でできることだからこそ、それゆえに自身の望みを捨てることができなくなっていく……というか」
何度も言うように、柱の試練が求めるのは自己の死。
肉体的な死、魂的な死、精神的な死。
それらの死を、己の意思で果たしてこそのもの。
そしてそれらは、嫌々捨てるのではなく喜んで捨ててこそ。
あらゆる全てを与えられてもなお、それを捨て去ることができる存在であることを望む、というものなのである。
──ある意味では、紅世の王達を受け入れるために自身の
そういう意味で、光の奴隷というあり方は【星の欠片】とは近しく、しかして遠い。
彼らは遥か高みに──ともすれば近付く全てを焼き尽くす輝きに惹かれて駆け上がるが、【星の欠片】はその反対。
光すら届かぬ無明の地に自身を沈めながら、されど天に輝く光を尊げに見上げ続ける──誰もがその場所に届くようにと願い続けるもの。
それゆえ、光の奴隷達の象徴的な力である『ISHI』の力というのは、【星の欠片】となる上では相性が非常に悪い──どこかで捨てなければならないもの、ということになるのである。
「捨てないのならそもそもここに来るんじゃない、みたいな?……平坦化されたあと、
まぁ、これはあくまで試練だからこそ抜けられるというだけの話であり、仮に攻撃として『隆起の柱』──【星鏡心樹】を使った場合、彼らは急速に
「お、老いる?」
「結局のところ、土壇場の覚醒と言っても成長の一種であることは変わらないからね。言ってしまえばそれは、
成長と老化は裏表、と言うべきか。
終わらない命は人の生ではなく、神や化け物のもの。
それゆえになによりも人を尊ぶ【星の欠片】にとっては無価値なもの。
まぁ、人の成長は一代で終わるものではなく、何代も積み重ねてこそのものである……と認識しているからこそ、という面もなくはないが。
……ともかく、【星の欠片】において老いとは決して罰ではなく、寧ろ報奨。
永遠に生き続けるのは停滞の証、ある意味では罰ゲームのようなモノなので、苦しいだけだから止めなさいとばかりに剥奪して行くのである。
……まぁ、この辺りは一般的な終わりである『死』を繰り返して有名無実化している【星の欠片】だからこその感覚、ということになるのかもしれないが。
決して
「とにかく、精神の老い──それも
「老兵は死なず、ただ去るのみ……みたいな?」*3
「端的に言うと、ね」
悲嘆や怒り、悲しみを積み重ねて老いたのならともかく、『隆起』によって与えられる精神の老いとは充足を積み重ねた、『己の人生は良いものだった』と確信する類いのもの。
それすら振り払ってなお生にすがり付くのは、最早光の奴隷ですらない。……ゆえに、彼らにとってこれは実質的な
実際、これによって得られる最期というのはその人の理想の完成形となっているだろうし。
まぁ、それに巻き込まれた他の一般人にとっては堪ったものではないだろうが。
それもまぁ、【星の欠片】が一人の存在を王として押し上げた結果……ということで。
「……やっぱり傍迷惑の権化では?」
「だから対策しよう、って話なんでしょ?」
主役でもなんでもない人からすれば、主役の行動に巻き込まれるのも、主役として召し上げられるのも共に迷惑……みたいな?
今更なことをぼやくゆかりんにそう返しつつ、私は一つため息を吐くのであった。