なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、コマンドーな人の無言の視線に晒されつつ、Xちゃんの帰りを待つこと数分。
……そろそろ彼から『見てこいキーア』*1とか言われるんじゃないか、と内心戦々恐々とし始めた頃、ようやく検問所?の中からXちゃんが戻ってくる。
「はい、皆さんお待たせしましたー。……おや、メイちゃん今日は非番なんです?」
「ちょっとぉ!?」
「うわっ、なんですか一体?」
……戻ってきたのはいいのだが、顔見知りにでも声を掛けるかのように例のムキムキマッチョマンに話し掛けるものだから、思わず詰め寄ってしまった。
いや、どう考えてもその人はトラブルの元ぉ!!
「んん?トラブルの元……?……ああ、そういえばこの星のジャパンと言う国ではメイちゃん人気者なんですっけ?」
「なんでどことなく世間知らずの外国人みたいなノリになってるねん」
「は、はい?」
ただ、Xちゃんはこちらの慌てぶりがよくわからないとでも言うかのように、普通に彼を手招きするのであった。
……ええとこれ、冗談で言ってるのかと思ったけどマジでやってたりする……?
「まぁ、コマンドーは確かに名作だけれど、それがイコール最近の人が見ているとは繋がらないからねぇ」*2
「Xちゃんもしかして、中の人私より遥かに若いの!?」
「え?ええと……どうなんでしょうね?」
そんな私の疑問に、横からことの成り行きを見守っていたライネスが声をあげる。
……確かに、元となる作品を見たことがないのなら、Xちゃんのこの反応もわからないでもない。
わからないでもないが……ええ?マジで?見たことないの?コマンドーを?
ううむ、なら仕方ない……のか?
いわゆる筋肉万能論にも通じる作品であるコマンドーは、作中の主人公、ジョン・メイトリックスが目の前に立ち塞がるモノを全て吹き飛ばしていく痛快アクションである。
ある意味では、往年のアメリカらしい作風であるとも言えるかも。
……そしてそれゆえ、彼に関わったものは皆大抵酷い目にあう、と。
その実態だけを見れば、娘のために頑張る元軍人のお父さんでしかないのだが……。
それでお出しされる映像が、見張り役をサイレントキルした上で寝ているように偽装し、キャビンアテンダントに『連れを起こさないでやってくれ。死ぬほど疲れてる』と声掛けした後離陸中の飛行機から飛び降りて逃走するだとか。
はたまた、尾行相手にバレた結果その人物が上司に連絡しようと入った電話ボックスを中の人ごと放り投げて阻止するだとか。
極めつけに重機で店内に突撃し、必要なモノを『
……まぁともかく、枚挙に暇がないのである。*3
いや、映像として見てる分には面白いんだけどね?
滅茶苦茶やるしシュールだし一々発言があれだし、で笑いどころ満載だし。
ただ、遠くから見ている分には笑える話でも、自身の近くでやられると途端に笑えなくなるというのはよくある話。
彼の行動はまさにそれであり、視界に入ったならば巻き込まれること請け合いというか。
唯一救いがあるとすれば、流石に敵対者以外に戦闘態勢を取ることはない……ということだろうか。
もし仮に彼のそれが無差別相手だった場合、目についたが最後『お前は最後に殺すと約束したな、あれは嘘だ』とかなんとか言われてお陀仏する光景が容易に想像できるというか。*4
……絵面は徹頭徹尾ギャグだが、やられている方は堪ったものではない。
「メイちゃんメイちゃん、言われてますよ?」
「……一割は事実だ。耳がいたい」
「しれっと九割軽減するの止めない?!」
なお、私の話を聞いたXちゃんが、横で仏頂面を崩さないままのメイトリックス氏に声を掛けていたが……当の本人はしれっとATフィールドなんて目じゃないレベルの軽減バリアを張っていたため、思わずツッコミを入れてしまうことになったのであった。*5
……とりあえず、普通に彼が人格者で良かったね、マジで。
「力を貸そう」
「いやその」
「力を貸そう」
「えっとそれは」
「力を貸そう」
「アッハイ、よろしくお願いします……」
筋肉の押し売りには勝てなかったよ……。
そんなわけで、何故か積極的に自分を売り込んできたメイトリックス氏を一向に加え、特撮系自治区についに足を踏み入れた私たちである。
……いやまぁ、自治区とか大層なことを言ったけど、別にそこまで外と変化があるわけでも……。
「素晴らしい背景演出は素晴らしい爆発から!……というわけで、今回は火薬多めで行きますよ!大丈夫大丈夫、流石に私の爆裂呪文ほどではないですから!まぁでも本番では撃っちゃうんですけどね!爆裂呪文!!」
「ベグヴィンヴァオンドゥルバグヴァヅガズクダナァ」*6
「……すいませんせんぱい。ちょっとお話してきますね?」
「え、あ、はい」
……などと言った矢先、周囲に響き渡る少女の声。
……それから数秒後、なにやら叫び声やら打撃音やら聞こえてきた気がするが気のせいである。『ホワァマシュサン!?ナンデマシュサンガココニ!?キョウハオヤスミノハズ……』とか、『ギョワー!!?スミマセンスミマセンオサエマスバクハツヨクハオサエマス!デスカラソレハヤメテー!!?』とか、なんか悲鳴のようなものが聞こえたなんて事実はありません。……ないったら。
「……ふぅ。お待たせしましたせんぱい。先方は快く聞き入れて下さいましたので、もう耳障りな発言をお耳に入れることもないかと存じます!」
「……アッ,ハイ.アリガトウゴザイマス……」
数分後、笑顔を張り付けたマシュが戻ってきたが……頬になにやら赤い液体が飛び散っていたような気がするが恐らく気のせいである。
仮に本当にそうだったとしても、『なりきり郷』内では命のやり取りはできないので大丈夫なはず。
なのでこちらの視線に気付いて頬を拭ったマシュは、あくまでほっぺにお米とかが付いてたので照れながらそれを取っただけであり、実在の人間の進退とは全くもって関係ございません。
「……ほう、中々骨のあるやつがいるみたいだなX」
「あはは……マシュさんは時々鬼神みたいになりますからね。怒らせない方が無難というやつなのですよ」
なお、そんなマシュの様子を感心したように腕組みで眺めている人もいたりしたが……うん、流石にマシュがそっちの人になったら私泣くからね、みっともなくぐっちゃぐちゃに。
……とまぁ、進入当初こそトラブルがあったものの、そこからはトラブルらしきトラブルが発生する気配はない。
まぁ、そもそもここにいる特撮系の人たちというのは、そのほとんどが敵役ではなく主役サイドの人たち。
必然周囲に迷惑を掛けるような行動は自粛するタイプの集まりであるため、トラブルなんて起きるはずもないという話になるわけなのだが。
「ふむ、主役らしく正道を歩んでいる……ということかな?」
「まぁ、ほとんどのパターンではって話であって、本当に特撮系の人たちがみんなトラブルを起こさないってわけでもないんだけど。なにせどこぞの世界の破壊者とかも普通にいるらしいし」
「それはまた……なんとも物騒ですね」
ただまぁ、実のところその辺りの話が百パーセント確実なこと、というわけでもないのも事実なのだが。
理由はライネスに告げたように、主役と言っても善人ばかりではないという点。
某世界の破壊者は若干微妙だが……
まぁ、基本的に特撮は子供達のものであるという感覚もあってか、そういう分かりやすく善人ではない主役、というのは少ないわけで。
そのお陰で私たちも変な被害に巻き込まれることなく進めている……という事実もあり、微妙に複雑な気分だったりもするのだが。
ともあれ、現状トラブルらしきトラブルに遭遇することもなく、目的地へと向けて邁進できているというのも事実。
ここはこのまま何事もなす目的地に到達し、そのままシン・ユニバースロボを倒すなり仲間にするなりして終わらせよう、と気を緩めていたわけなのだけど……。
「……おや?貴方は……」
「ゲェーッ!?実写版私ぃ!?」
「え、あ、え!?実写版のせんぱい?!なんですかそれ!?」
そうは問屋が卸さないというか、はたまたトラブルが向こうからやってくるのが正常な動作というか。
……ともかく、私たちが足を止めざるを得ない、異常事態が目の前に広がることになる。
それは、最近行われたメディアミックス。
それこそが、実写版『聖裁キリア』。──そして、それを元にしたと思われる新たな『逆憑依』、実写キリアちゃんなのであった。
……うん、ツッコミ切れないぞこれ!?