なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、なにが悲しくて暴走ネオ・グランゾンなんて厄物と戦う羽目になったのか。
その辺りを語るため、時間を少し巻き戻すことにしよう。
「……ええと、ここは?」
「訓練場の類いだね。思いっきり暴れても大丈夫なように、一フロア丸々戦闘に耐えられるような設計になっているとかなんとか」
熔地庵を離れた私たちが向かったのは、巨大な訓練場。
二次元のキャラクターといえば戦ってなんぼ……というわけではないが、戦闘に全く関わらないキャラというのも稀である。
そのため、腕前やらなにやらが鈍らないように体を動かす場所として設計されたのが、ここを含む訓練場の類いというわけだ。
ここは殊更に大きいが、主に破壊力が高過ぎる存在達が全力を出すことを想定した場所、ということになるらしい。
「まぁ、ここに関しては滅多に使われることはないようだがね。なにせこの広さだ、これを十二分に活かして動き回るとなれば、それこそ超人─ドラゴンボールのキャラクターのような身体能力が必要となる。それも『逆憑依』のそれではなく、本来の原作、そのままの彼らの身体能力が……ね?」
「……うん、これもうフロア一つ分の広さって言っても過言じゃないよね?」
「室内のはずなのに地平線が見えますね……」
そもそも居住区などは結構な広さを持っているが、それでも一つのフロアは大抵一つの市くらいの大きさだ。
それも、大きな市ではなく小さな市、広さにすると六十平方キロメートルくらい、というか。
一つのフロアが大体正四角形のような形であると仮定すると、その一辺の長さは八キロほど、ということになる。
人間の背の高さくらいの位置から地平線を見る場合、その距離はおよそ五キロほど。
そのため、先ほどのマシュの言葉はおかしい、といえことなる。普通の生活でも、地平線らしきものは見えるはずだからだ。
──と、なればここで答えとして浮かぶのは一つ。
普段よりも高い位置──本来なら
……あとはまぁ、先ほどのライネスの例えからなんとなくわかるだろう。
この場所は、ドラゴンボールにおける『精神と時の部屋』を模した訓練場である、ということが。
そう、室内に一つの惑星が浮かんでいるような状態になっているのだ、この場所は。
……空間操作技術の極み、とでも言うべきだろうか。
「流石に時間の流れまでは弄ってないようだけどね。……でもまぁ、室内の訓練場にここまでの広さを与えるほどの技術力、というのは凄いと思うよ」
「実際、ここは訓練場というより珍しい場所としての観光地的な利用の方が多いみたいですね」
「まぁ、単に訓練したいだけならここまで広い必要ないしねぇ……」
辛うじて、距離減衰を確かめるのにループ構造になっているこの場所が適している、みたいな感じというか。
……観光地としての利用の方が多い、というマシュの言葉からわかるように、この場所は『精神と時の部屋』の再現としての完成度が結構高い。
流石に完全密閉などはできないらしいが、ドラゴンボールのキャラクター達が思いっきり暴れ回っても問題のなさそうな広さや、惑星を模した空間・真っ白な景色など、知っている人ならば「あーこれこれ」となる要素が詰め込まれているというか。
……正直ここまでする必要があるのか、といった感じだが、後々必要になる可能性を踏まえて製作に踏み切ったとかなんとか。
まぁ、今のところこの空間が必要になるような『逆憑依』はほとんど現れていない、ということになるようだが。
基本的には宝の持ち腐れ、というわけだ。
「まぁ、かめはめ波だの元気玉だのワールド・デストロイヤーだの、世界を破壊するような規模の技を想定した場所だからねぇ」
「そんな火力出せる人何人いるんだってね。……あー、一応
一回『全人類の緋想天』で相殺してたことあったし。
……いやまぁ、あの時は私が補助した上で、チャージもかなり過剰にやった結果だけども。
まぁともかく、レベル5組でも無理がある……特にマシュみたいな攻撃面はそうでもないタイプとかならば、ここまでの広さがなくても十二分に訓練ができるのは間違いないだろう。
言ってしまえば無駄な広さ。そのため、訓練場として使われるのは極々稀、ということになっているのだそうな。
……稀、ということはたまにはそっちの目的で使われている、ってことになるわけだけども。
「まぁ、まったく該当者がいないってわけでもないだろうからね。かくいう君も、仮に全力を出すのならこれくらいの広さが必要だろう?」
「……いやあのねライネス?私達【星の欠片】は寧ろ狭いところで訓練する方が向いてるわけでね?仮にここまでの広さが必要となると、【星の欠片】で無理矢理なにかを再現する時、くらいしかなくて……」
「ほう、なるほどなるほど。その口ぶりからすると、やはり私の予想は当たっていましたか」
「……げ」
そんな私の言葉を聞いて、意味深な視線を送ってくるライネス。
……大方いつぞやかの運動会で見せたようなやつの話をしているのだろうが、そもそも【星の欠片】が本領を発揮するのは観測できないほどの極小領域。
ああいう広域攻撃は無駄を極めた結果であり、やれるけど訓練になんて全然ならないもので……みたいなことを説明しようとしたところ、聞き覚えのある声が辺りに響いた。
この、落ち着きがあるけど妙に胡散臭くも感じる声は……。
「おや、胡散臭いとは侵害ですねぇ。まるで私の声が信用できない、と仰っているかのようだ」
「貴方は自分と同じ声のキャラの内何割が敵なのか、ってことをよくよく思い返した方がいいと思うわよ?」
「ふむ?……そうですね、一割くらいでしょうか?」
「思いっきり盛ったわね今」
幾らなんでも一割はないわよ一割は。多分最低でも三割は行くわよ貴方、味方や主役も多いけども。
……ってなわけで、私たちの前に現れたのはシュウ・シラカワ博士。
この世界ではかなりのエンジョイ勢とも言える、琥珀さんと同じ研究開発などに携わる賢者の一人である。
「どうも皆さん、揃って見学かなにかですか?」
「見学?」
「おっとご存知なかったようで。先ほどから話している内容的に、てっきりそのためにここにいらしたのかと思っていたのですが」
「ええと……?」
そんな賢者()の一人であるシュウさんは、こちらにニコニコとした笑顔を向けて来ている。
……なんだか不穏なことを言っているが、横に視線を向けるとライネスがそっぽを向いていた。……ふむ?
「ラ イ ネ ス ?」
「いや、捜索も行き詰まっていただろう?ここらで一つ気分転換でも……と思ってね?」
「気分転換でシュウさんの実験を見学しようとするのは最早狂気の沙汰なんだが??」
「い、一回くらいはこの目で見てこの耳で聞いてみたかったんだよぅ……」
どうやら、まんまとライネスに嵌められたらしい。
……いやまぁ、そんな深刻な話というわけでもないけど、目的を隠してこちらを誘導していたことは間違いないので処罰対象、というか?
っていうか、もし私が最初から彼がここに来るって知ってたら、まず間違いなく付いてこなかっただろうから黙ってた、ってのが如実にわかるのがもうね?
……なので、ライネスは頬引っ張りの刑である。
……え?なんでシュウさんがいたら来なかったのかって?
そりゃ勿論、私がこの人苦手だからですよ。前出てきた時も言ってなかったっけ?
「ふふふ、つれませんねぇ。貴方相手ならば私も早々加減をせずに済む。研究の進捗も幾分速まると思うのですが」
「貴方側の利益しかないでしょうがそれ……」
「おや、それほどの力を持ちながらそれを振るうことに少なからず喜びがないと?」
「ないわよ前も言ったけど。……まぁ、今は前の時とは意味合いが違うけど」
「ほう?」
そう、この人私のことを体のいいサンドバッグかなにかと勘違いしているのである。
寧ろ、「私の作るものなど未熟も未熟。ゆえに貴方に評価して頂きたいのですが?」とかなんとか言い出す始末。
……いやまぁ、確かに最初の方ならばその言い分もある程度納得はできたのだ。
当初のグランゾンはジムもかくや、という低出力の弱々ロボットだったし、機能のほとんども再現できてなかったし。
ただ、そうだったのは本当に初期の初期だけで、そもそも二回目の実験の時点で防御面はほとんど完成していたというか。
……グランゾンのバリアは「歪曲フィールド」。
すなわち空間の操作に関わるモノであるため、既存の異界技術の応用がすんなり進んだ結果らしいが。
ともあれ、初回の気分で壊さない程度に殴り掛かったら、寧ろこっちが腕を痛める結果となったのは記憶に新しい。
その後も模擬戦を頼まれる度にグランゾンの完成度は上がっていき、現象最後にその勇姿を見たタイミングとなる去年のハロウィンにおいては、試作縮退砲……もとい『ブラックホール・ディスラプター』の試作にまで漕ぎ着けており、その進化速度に思わず恐れおののいたモノである。
……え?二年でその程度なのかって?
いやいや、ジムがガンダムを悠々越えたと考えたら、この飛躍っぷりはおかしいとしか言いようがないからね?
まぁ、それをなし得るだけの知能をシュウさんが持っている・ないし発揮した結果なわけだから、一番恐れるべきは彼ということになるのだけれども。
「いえいえ、私などまだまだですよ。今日も
「なるほどマハーカーラねぇ……マハーカーラ!?」
「おおっと」
今聞き捨てならない単語が聞こえたんだけど!?
……マハーカーラというのは、本来仏教の神様の名前である。
ヒンドゥー教のシヴァ神に対抗するため生み出された、文字通りその権威・神威を簒奪するための写し身……というと怒られそうだが、それはともかく。*1
それを元ネタに持つのが、グランゾンのネットワークシステムであるマハーカーラ。
破壊神・ヴォルクルスの力を引き出すためのシステムであり、同時にそこからかの神を打ち倒さんとする彼の野望を示すモノでもあるのだが……これの一番の特徴はこれだろう。
「まさか、今日のテストって……」
「その通り。ネオ・グランゾンへの変身試験と言うわけです。お分かり頂けましたか?」
「oh……」
グランゾンよりなおヤバい、ネオ・グランゾンへの変身のために必要なもの。
にこやかに語るシュウさんを前に、私は思わず白目を剥いていたのだった……。