なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
その光景は、まだ見ぬ邪神の目からはどう写ったのだろう?
本来『逆憑依』では絶対に防ぎきれないはずの縮退砲を、例え並行世界の自分達の力を借りたとはいえども、完璧に抑えきって見せたマシュ。
目の前で行われたそれは衝撃的であり、故にこそ邪神の精神を揺さぶるに足るものとなっていたはず。
──そう、不遜な人の子が、傲慢にも神の御手をはね除けたのだと解釈できてしまうほどに。
であるならば、相手が取る次の行動も目に見えようと言うもの。
「……!!せんぱい、あれを!!」
「予想通り過ぎて思わず笑いが出るやーね!」
状況をいち早く察知したマシュの言葉とほぼ同時、目の前で起きた
──人の傲慢をその身に再度刻み付けられた邪神がまず行ったことは、傀儡とすべく機体内に確保していたシュウ・シラカワの
まさか邪神がそんなことをすると思っていなかったシュウさんは無防備にそれを受けたため、普段ならなんとでも対処できそうなところ空中で無様に固まってしまっている。
そのまま放置すれば地面に血塗れもんじゃ焼きが一つ完成……などということには、本来なりきり郷の持つ非殺傷効果により行き当たらないはずなのだが。*1
今現在、ハロウィンという特殊性に当てられて、なりきり郷そのものが擬人化しているという異常事態。……まともに稼働してくれるかは正直微妙なところである。
いや、そもそも非殺傷というのも命に関わらないというだけの話であって、実のところ殴られれば相応に痛いし刺されてもやっぱり痛いのだ。
となれば、普通に全身打ち付けて悶絶する羽目になる、というのは容易に想像できる。
なので、そういうのを避けるため──、
「はいキャッチ!目の前で意味不明な状況が起きた時みたいな顔してますけど、大丈夫です?」
「──いえ、まぁ、はい。ちょっと混乱している、ということになりますかね。まさかあの邪神がこのようなことをするとは……いえ、違いますね。
「うーん、流石はシラカワ博士。理解するスピードがこっちの予想より遥かに速い……」
受け止めたシュウさんの様子を見るに、解説いるかなーと思ったけどまったく必要なさそうである。
……とはいえ、自分の中で纏めたり
まず、シュウさんがあれほど驚いていたのは、彼の思う邪神、破壊神サーヴァ・ヴォルクルスの作中における彼への執着心を知るからこそ。
何度倒されようと、それが本体でないこともあり復活を遂げ、かつ隙を見せれば再度洗脳しようと目論む……。*2
シュウ・シラカワという存在の持つ能力を高く買っているからこその行動ではあるが、見ようによっては高位存在から狂愛を受けていると捉えてもそう間違いではあるまい。『破壊神に愛され過ぎて迂闊に隙を見せられない』*3みたいな?
ゆえに、ここまであっさりと放り出されたこと──このまま行けば悠々と傀儡にできたにも関わらず、それを為さずに投げ出されたことに疑念を抱いた、というわけである。
……だが、これに関しては少し考えれば答えは自ずと現れる。
そう、彼を操ろうとしていた存在はヴォルクルスそのものではなく、それとよく似たなにかである。
極論、彼に拘り続ける理由は特にないのだ。
とはいえ、それでも依り代などの面から傀儡はあった方が良いように思われるが……それは邪神の顕現がこの世界において『逆憑依』の類型として扱われる、という部分に問題がある。
分かりやすく言うと、彼を傀儡にしてこちらに顕現しようとすると、最終的に【継ぎ接ぎ】として処理されてしまうことになるのだ。
無論、その場合でも邪神がその力を奮うのに問題はないだろうが……中身の核を優先する法則に縛られることにもなるため、結果として
簡単に言えば、このまま顕現しようとした場合『サーヴァ・ヴォルクルス』としてこちらに現れるのではなく、『邪神に操られたシュウ・シラカワ』としての顕現になる、というか。
……あくまでもシュウさんにとっての設定面の追加分に過ぎなくなる、という感じだろうか?
まぁ、邪神の影響力的には後天的な【複合憑依】になる、という方が近いとは思うのだが……どちらにしろ、本来の彼らのような『隙あらばその自由を奪おうとする』ような関係にはなり得まい。
どこまで行ってもシュウ・シラカワの
その辺りの話を最初に理解していたため、シュウさんはわりと楽観的に構えていたというわけである。
こちらの自由を縛ろうとした結果、それが寧ろ相手自身を縛ることとなるのだから、彼からしてみればお笑い草・復讐しようとせずとも復讐が成立する一種のギャグのようなものだった……みたいな感じ?
……だが現在、邪神は彼を捨てた。
それはつまり、このまま進むと彼の思い通りに──なにもせずとも単なる追加アイテム扱いされることを知覚したからだろう。
とはいえ、単に彼を手離しただけでは問題が残る、というのも事実。
まがりなりにも神であるヴォルクルスは、こちら側に依り代がない限りは現世に現れることができない。
ではどうするのか、ということになるのだが──これもまた、『逆憑依』の利用がポイントとなっていた。そう、【顕象】ないし【鏡像】である。
本来【兆し】は核となる存在なくば『逆憑依』足り得ないが、しかしそのまま自身の定める気質とでも言うべきものを貪欲に集め続けることで、その気質自体を核として運用できる。
その結果生まれるのが【顕象】や【鏡像】と呼ばれる存在達だ。
そしてこれは神の依り代として見た場合、自身の定め統べるものをそのまま集め続けるだけで自身を降臨させられる、というある種の自己顕現機能を持つ、と考えることもできるのである。
以前織田信長と相対した時、あり得ないほどに強力な存在に変貌していたが……あれもまた、『逆憑依』ではなく【鏡像】であったからこそ。
自分という存在に纏わる要素を貪欲に集め続けることで、実質際限なく自身を再現できる、というわけだったのだ。
分かりやすく言うと、そこにあるだけで勝手にレベルアップし続ける存在……とでもいうか。
その辺りの話は今までも何度かしたことがあるが、その成長に限度がないからこそ【鏡像】は危険であり、排除すべき存在として扱われるわけである。
……限度のない成長は、しかしてこの世界においては認められず、やがてはエネルギーの塊となって
まぁ、そうなるまでエネルギーを溜め込む前に、誰かに見付かって処理されるのが関の山なので、基本的にはあり得ない仮定なのだが……ともかく。
そこら辺の話を置いて改めて考えると、なるほど傀儡を用意せずとも自身を顕現させうる【鏡像】というシステムは、邪神にとって渡りに船だと言えるだろう。
なんの制約もなく、制限もなく己が力を振るうことができる依り代を得られるとなれば、そのまま傀儡にしようとした時寧ろ自身が付属物となりかねない今のやり方は、寧ろ悪手以外の何物でもない。
ゆえに、かの邪神はメインプランを捨ててサブプランにあっさり切り替えた。
傲岸不遜にして愚かな人間達にその身のほどを教えるため、自身を自身の力で以て降臨させる方向性に舵を切った。
──見よ、破滅の蒼き魔神が変貌していく様を。
命なき鋼の巨人はそのまま神の依り代となり果て、その姿を生物めいたモノへと変化させていく。
ネオ・グランゾンとサーヴァ・ヴォルクルスが融合したかのような、異様なりし機体。
翼広げた女性のようにも見えるそれは、しかして生け贄にされた誰かを模しているかのようにも見え。
……とかく悪趣味である、ということに代わりはあるまい。
「さしずめ、アヴァターラ・ヴォルクルスと言ったところですか」
「破壊神の化身、ねぇ。化身らしく、本体よりは弱ければいいんだけど」
その威容を見上げ、忌々しげに口を開くシュウさん。
自身の愛機であるネオ・グランゾンが見るも無惨な姿に改変されたわけだから、その怒りもむべなるかな。
……とはいえ、ヴォルクルスそのものではなくネオ・グランゾンをベースに変化した、というその姿に少々不吉なものを感じるのも事実。
その懸念は間違っていないと誇示するかの如く、邪神の胸にて輝くのは漆黒の光球。
『我ガ力ノ前ニ、消エ失セルガヨイ、人間』
「──第二戦開幕の合図、って感じかな?」
これ、一応中ボスとかその辺りの話のはずなんだけどなぁ。
そんなことを思いながら、まるでグラビトロンカノン(Ver,OG)の如く周囲に浮かべられた縮退砲の種達と相対する私たちなのであった。