なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……なるほど、そのようなことが」
「可能性としては幾らでも語れるからね。──それで?手伝ってくれる?」
「ええ、私がしたこと……という部分については些か語弊がありますが、ともあれ
「ん、ありがと」
というわけで、シュウさんに協力を取り付けることに成功したわけだけど。
……うん、セーフ!
この流れだと私が彼を利用しようとしている──
いやまぁ、なんか意味深に笑ってらっしゃるので、こっちがなにかミスったら即座に処断される可能性はゼロじゃないのだが。
でもまぁ良かった、どこぞのハイブリッド・ヒューマンみたいなことにならなくて……。*1
などと、内心胸を撫で下ろす私である。
「おや、私としてはそのように行動して下さる方が面白かったのですが」
「よりにもよって面白いって言ったよこの人?!」
まぁ、彼的には喧嘩を売る理由が減った、とか恐ろしいことを口にするきっかけになってたりするのだが。
……口調からでは冗談かどうか判別できないのが恐ろしいところである。
ともかく、彼との交渉の成功を以て、全ての準備は整った。
あとは、マシュという最強の盾が機能している間に、
「では、お手並みを拝見させて頂きますよ、虚無の姫君。貴方のその手が、なにを掴むのか──」
「はいはい、とくと
とかく楽しげに語るシュウさんを前に、私は再び偽界を開く準備を始めたのだった──。
──作品の展開、というものには時々突拍子もないものが現れる時がある。
子供向けの玩具であったLBX──『ダンボール戦機』が、美少女系ゲームである『装甲娘』に派生したように。
はたまた、本来アダルトゲームであった『対魔忍』が、なにを血迷ったのか子供も遊べるRPG、『対魔忍GOGO!』なるゲームを生み出すことになったり。
ファンタジー世界や殺伐とした世界に住まう人々が、現代で普通の学生をやっていることになったり。
はたまた、聖なる杯を求めて相争う間柄のキャラクター達が、なんの因果か料理を作ってただ語らうだけの話を展開したり。
元のジャンルとはまったく違うものとして、生み出されるスピンオフ作品達。
これらは基本、元の販路以外の新たな市場を開拓するための冒険、ということになるわけだが……それが冒険である以上、成功する確率はそう多くはない。
かの有名な航海者、クリストファー・コロンブス氏も、航海そのものには成功すれどそれ以外の部分については成功しきったとは到底言えないように、新たな世界に漕ぎ出すというのはそれだけ失敗が多く付くもの。
ましてや、彼のように一度成功してもその後に続かない、ということもありえる。……人が安定を求めるのも、ある種仕方のない話ではあるのだろう。
──とはいえ、それらの成功・失敗の話は今回あまり関係はない。
なにせ彼女の持つ特殊な世界、【
そこには
……突拍子もない設定。
あり得ないだろうと笑われるような概念。
それらが成功する確率が幾ら低かろうと、それが想念として現れたのであれば──想像できてしまったのであれば、それは確かにその裡にある。
ならば、それを世界に知らしめることも容易いもの。
なにせ彼女は現実を侵すもの、現実に成り代わるもの。
見よ、荒唐無稽なるその世界は、今や数多を奮わす万雷の如く──。
「……ナンダ、ソレハ」
それに気付いたヴォルクルスが述べたのは、そんな感じの唖然とした言葉であった。
ヴォルクルス、と便宜上呼ばれている彼だが、その実事ここに至るまで『ヴォルクルス』としては完全に顕現できているとは言えない状態であった。
それは何故かと言われれば、彼が【兆し】であるがゆえ。
そこから先に進むために、周囲の環境を完全に崩壊させた後──すなわち、なりきり郷と呼ばれる施設の完全破壊を前提に定めていたがため。
本来それは制御を奪ったネオ・グランゾンの力により容易く果たされるはずであったが──現状が語るように、その前提は果たされていない。
それゆえ、その存在は不完全な存在──邪神としても【鏡像】としても、共に不安定なものと変じていた。
ゆえに、その存在を繋ぎ止めるため『不完全な姿で何度も顕現していた』というヴォルクルスの性質を利用した、というわけである。
……簡単に述べたが、本来それは容易く果たせるものではない。
様々な条件が重なった結果、ある種の偶然的にそれが行えるようになったというだけの話。
だからこそ、彼は早急にこの施設の破壊を推し進めなければならないのだが──目障りな盾兵が健在である限り、それは難しいように思われた。
とはいえ、それも相手が健在ならばの話。
目の前の盾兵は奮戦してはいるものの、徐々にその勢いを減じさせている。
こちらが無尽蔵に近い攻撃を行えるのに対し、所詮相手はただの人の子。
持久戦ともなれば、この天秤は容易く傾くことは容易に想像できた。
──だからこそ、何故盾兵がその無謀な戦いを続けていたのかを考慮するべきだったのだが。
不完全な顕現であるからこそここにある邪神にとって、目の前の目障りな相手を滅ぼす以外の選択肢は存在しえなかった。
「──そういう意味では、私は貴方に同情している、とも言えるのかも知れません。殲滅されるべくして生まれ落ちた貴方が、それ以外のことを思考に乗せる余裕などと言うものが生まれ落ちる余地はなかった、ということになるのですから」
その姿を改めて見て、男──シュウ・シラカワは憐憫の念を抱く。
確かに、この存在は自身の自由を侵そうとしたが……その実、その行為自体が必要に迫られて──
──無論、だからといって手を抜くようなことをしないのが、彼が彼たる所以であるわけだが。
そうして
その様子は安定しきっており、あらゆる変化を感じさせない。……不気味な沈黙、と言い換えても問題ないものであった。
「ソレハナンダト聞イテイルッ!!!」
「ははは、自身を脅かすものともなれば、気にもなりますか」
「ナニィ……!?」
「──動力などにオカルトめいたモノを利用してこそいますが、実際に起こすのは物理学……現実に基づいた理論によって発生する事象を攻撃に転用している、というのがネオ・グランゾンであることはご存知ですね?」
そこから漂う不穏な空気に、邪神は思わず声を荒げるが──対するシュウは余裕の態度を崩さない。
いや、よく見ればそもそもシュウの姿もどこかおかしい。
いつもの白衣の上に、なにやら鎧や甲冑のようなものを所々装備しているその姿は、見る人が見れば『聖闘士』などを想起させるもの。
──人によっては、それこそ『装甲娘』のようなモノを想起するかもしれない。
「そして現在、この近辺において現実感は薄れている。……そうさせるモノがあるからこその話ではありますが、ゆえにこそこの場所で全力を出そうと思えば、それに対応した別種のモノを用意する必要に迫られる、というわけです」
それがこの姿、ということですね。
そう笑う彼の姿に、邪神は警戒を崩さない。
先の盾兵の如く、今のこの男が脅威であることを感じ取ったからだ。
──無論、それを感じ取ったからと言って、彼に対処ができるかは別の話なのだが。
「とはいえ、それほど余裕があるわけでもありません。──終わらせると致しましょう」
「ヌ、ヌォ、オオオオオオオオオッ!!!」
右手に浮かぶ黒球を、そのまま自身の目の前に差し出すように移動させる。
そこから漂う脅威の香りに、邪神は形振り構わず縮退砲を撃ち放つが、
「無駄ですよ。……エネルギーを高めねば微細な世界は見えない、でしたか。そこを捉えられるほどのエネルギーを、
それらのなにもかもを呑み込むかの如く、黒球から放たれた極太の光線。
それはまるで、互いの配役が反転したかのように──シュウこそが邪神の立場に立っているかのような錯覚を引き起こし。*2
それを自覚しきらないまま、邪神は断末魔さえあげられないままに消滅したのだった。